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13 迷宮へ。

洞窟を抜けると、平原に出た。

何の特徴もない、普通の平原だ。

地平線の先まで平原が続いている。

ここは地図でいうと、アイゼンガルド王国の南端だ。

このまま2、3日東に行けば、海沿いの街、迷宮都市アルトロックに到着する。


「んー……」


『遠見』を飛ばしながら俺は思案する。


「あちこちに魔物が居るな……。見晴らしがいいし、避けて通るのは難しそうだ」

「そうですか……」


顔をしかめ、クレインがそう言う。


「ヘリムが言っていた通り、間引きが上手くいってないみたいだな。さっきのカブトムシレベルは……居ないけど、ちょっと弱いくらいの魔物ならうようよしてるぞ」

「はあ……。ひとまずアルトロックに着いたら自動人形オートマタ部隊の編成からですね、クレイン様」

「そうだね……。街道がまともに使えないんじゃ、物流も滞る」

「どっからこんなにうようよ魔物が湧いてくるんだ? ヘイムガルドにはこんなに平原に魔物なんていなかったぞ」

「イングランデ山脈からです。あの山は魔力が豊富で、魔物が生まれやすい環境なんですよ」

「なるほどな」

「まぁ、ですから他の国もおいそれと山越えなどできず。自然の城壁のようなものになっているんです」

「海側まで山が続いてるもんな。魔人領からも攻めずらいってことか」

「えぇ。ですから、外敵は入ってこれず……しかし、魔物被害が絶えないのも、我が国の特徴でもあります」


そういって、クレインがやれやれと首を振った。


「大変そうだな……。まぁ、間引きの手伝いって言ったらなんだけど、アルトロックに到着するまでであった魔物は倒していくか」

「助かります……」


そう言って、俺たちは一直線にアルトロックの方面に歩き出した。



――――――



「500メートル先。魔物の群れ……10匹くらいか。大して強くないな。このまま殲滅して突っ切るぞ」

「了解です!」


平原を駆ける。

この日、これで戦闘は5度目。

それぞれが大した強さじゃない。一瞬で勝負が決まる。


「――っふ」


短く息を吐いて、魔物の群れに突っ込む。

トラをデカくしたような白い魔物が目を剥き、突然の襲撃に戦闘態勢を取れないでいる。


先頭の一番デカいトラの頭を、勢いのついた跳び蹴りで蹴りつぶし、死体を踏みつけて跳び上がる。

上空から手刀を振り下ろして、2匹目のトラの首を撥ねた。

膝をつき、ぐるりと体を回しながら水面蹴り。

3、4匹目のトラの足を、同時に8本全てへし折る。

その隙に後ろから放たれたドワーフたちの銃弾が、その二匹のトラの頭をザクロの様に弾けさせた。


(いい威力だな……)


関心しながら、飛び掛かってきた5匹目の腹に貫手を放つ。

柔らかい肉を貫き、命を奪う感触。――いまだにこの感覚には慣れない。


回し蹴りを放ち、背後から飛び掛かろうとしていた6匹目の頭蓋を砕いた。

敵わない、と判断したのか、魔物達が逃げに入る。

逃がしてもいいが……一応間引きの手伝いするって言ったしな。


(殲滅するか……)


決め、地を蹴る。

逃げ出した魔物に一瞬で追いすがり、背後からの膝蹴りを、7匹目の背中に叩きつける。

地面を滑り、絶命する魔物。踏みつけ跳んで、8匹目にかかと落とし。

9、10匹目をそれぞれ肘撃ちと裏拳で仕留めて――


「ふぅ」


――魔物の群れの殲滅を完了した。


「お疲れ様です、レイジ殿……いや、相変わらず凄まじい」

「お兄ちゃんつよいつよいー!」


クレインたちが追い付いた。

殺戮の様子をぐるりと見まわして、そう言う。


「もうちょっとスマートに戦いたいけどね……俺も……」


返り血を拭いながらそう言う。

戦うと返り血やなんやらでどろどろに汚れるのも何とかしたいところだ……。



――――――


そんなこんなで魔物を斃しながら3日。

俺たちはアルトロックに到着した。


「ぉおお……これがアルトロックか……」


目の前に広がるのは、もくもくと煙を吐き出す煙突の群れ。

懐かしい科学の香りが、鋭敏になった俺の鼻を刺した。


「んぐぐ……臭いのじゃ……」

「くさいなのー!」

「ははは、確かにな。慣れてないとこの匂いはきついな」


アリスとミリィが鼻をつまんでごちる。


「石油や石炭があるのか?」


クレインを振り返って訊く。


「ん、ご存じなのですか? そうです。我々ドワーフは、魔石だけを燃料とせず、自然から採取できる燃料を使っているんです。……我々の国に、探求者シーカーはそれほどの数が居ないので」

「あぁ……人口少ないって言ってたもんな。自動人形オートマタを使って採掘とかしないのか?」

「採掘は自動人形オートマタが概ねやりますが、魔物狩りとなると、複雑な命令が必要なので……それほどの数を用意できないんです」

「なるほどなぁ……」


この国もそれなりの事情を抱えているらしかった。

しかし、この世界でも石油や石炭が取れるのか……。


油田掘り当てたら億万長者になれないかな……。

あ、いや、魔石がある以上燃料としての石油や石炭にそれほどの価値はないか……。


そんなことを考えながら、俺は工業都市といった風体の街に、脚を踏み入れた。


――――――


「まさしく工業の街って感じだなぁ」


辺りをぐるりと見渡して、俺は呟く。


「凄いなのー……」


ミリィもきょろきょろと、物珍しそうに辺りを見回していた。

工場のようなものが隙間なく立ち並び、それぞれ煙突から煙を吐き出している。

カンカンと何かを叩く音が絶えず響き、聞こえる喧噪も心なしか騒がしい。


「随分近代的……というか。俺の知ってる世界のちょっと昔に近いな」

「ふん? そうなのじゃ?」

「あぁ……化学製品の匂いもなんとなく懐かしいな」

「この匂いが懐かしいとは……」

「お兄ちゃんの住んでたところも臭かったなの?」

「いや、まぁ、そうだな。二人からしたら俺の住んでたところも臭いのかもなあ」

「最悪じゃな……」


いやいや、と首を振って、顔をしかめるアリス。


「それでは、迷宮探索拠点に向かいましょう。すぐそこなので」


クレインに先導され、歩き始める。

工場地帯を抜けると、ザインに似たような雰囲気の街が広がっていた。

テントや天幕、雑多に並べられた木箱や樽。

迷宮探索の拠点、といった感じだ。


「クレイン様! 王子!」

「あぁ。皆、ご苦労様」


クレインに気が付いたドワーフたちが走り寄ってくる。

その後ろに、無機質で無骨な、人間大の機械が身じろぎもせずにざっと並んでいた。

その手には、ドワーフたちが持っている銃よりも一回りほど大きい銃が握られている。


(あれが自動人形オートマタか……)


目は二つ、腕も足も二本。

骨格標本に銀の肉を付け足したような見た目の機械だ。

正直言って不気味だ。


「随分と到着が早かったですね……もうすこしかかるものかと……」


軽装のドワーフが、クレインに話しかける。

彼もまた小学校高学年くらいの少年の様な見た目だ。


「あぁ。この人たちが、護衛してくれたからね」

「……その、そちらの方々は」

「聖人レイジ殿と、その祖、賢王・アリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルト様だよ」

「聖人に賢王!?」


驚き、ざわめくドワーフたち。


「この方々が、父の捜索を請け負ってくれた」

「そんな!? では外部の人間に捜索をさせると仰るのですか!?」

「あぁ。その通りだ。彼等なら迷宮探索も容易だし……それに、父もきっと見つけてくれる」


ざわざわと動揺が広がる。

まあ……そういう反応になるわな……。


「これは私が国王代理として正式に依頼したものだ。意義のあるものは正式に申し立てると良い」


そうクレインが言うと、ざわめきはさらに広がった。

しかし、徐々に落ち着いてゆく。


「わかり、ました。クレイン様が仰られるなら」


そして、そういう結論に落ち着いたらしい。

意義を申し立てるものは居ないようだ。


「うん。ありがとう」


にこり、とクレインが微笑んで、そう頷いた。


「では、レイジ殿」


俺に向き直るクレイン。


「迷宮にご案内します」

「あぁ、頼む」


そう言って、俺たちは、迷宮に向け出発した。

やっとこさ迷宮探索にこぎつけました。

この章、ずいぶんと長くなってしまいそうです……。

気長にお付き合いいただけると助かります。


明日も20時に一話更新になります。

気に入っていただけましたら、評価やブックマークよろしくお願いいたします。

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