表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/149

12 洞窟を抜けて

「――っと、来たぞ、セシリア」


深夜。

魔力を投げつけられて呼び出された地点。

着地してセシリアを呼ぶ。


軽く寝に入っていたから、少し目がしょぼしょぼする。


「よるに、すみ、ません。なか、なか。タイミングがなく、て」

「いや、大丈夫だ。……わざわざ呼び出すくらいの何かがあったってことだろ?」


そもそも彼女は俺達から隠れてついてこないといけないはずだ。

その彼女が俺を呼び出した。

つまり、なにかがあったってことだ。


「はい。一応、お耳に、入れておこう、かと。……昨日の朝、リィン皇国と、ガイゼンシルトが、開戦しました」

「……え?」

森人族エルフと獣人族が、戦争を、始めました」

「……リィン皇国ってエルフの国だったのか……」

「?」

「……えぇっと、それは……この世界でいう戦争ってことだよな?」

「はい」


こくり、と頷くセシリア。


「つまり……殺し合いの為の殺し合いか。……大陸の西でそれが始まった、と」

「そう、です」

「そう……か」


いずれはその2つの国の迷宮も踏破し、平和を取り戻さなければならないが……。


「今、俺に出来ることは……ない、か」

「そう、です、ね」

「分かった。情報として、頭に入れておく。……それだけか?」

「はい。それだけ、です」

「そっか。じゃあ戻るな」

「はい」


地を蹴り、セシリアがどこかへ消える。

俺も同じく、キャンプに戻った。


「……ん、なんじゃった?」

「あぁ、アリス、起きてたのか」

「お主が居ない間わしが見張りをせねばならぬじゃろ」

「それもそうだ……」

「で、なんの用で呼ばれたのじゃ?」

「あぁ……リィン皇国とガイゼンシルトが、戦争を始めたらしい」

「ふむ……。そうか」


それだけ言って、アリスが立ち上がる。

そう、それだけだ。

この世界での戦争それはその程度のものだ。

だから、それだけだ。


「レイジ、お主に出来ることはなにもないのじゃ。気に病む必要はない」


そのはずなのに、アリスは一度だけ振り返りそう言って、ミリィの寝ているテントに入っていった。


「……そう、だよな。ん。さんきゅ、アリス」


姿の見えなくなったアリスにそう呟いて、俺は焚火の火を、木の枝でつつく。


(そう、だよな。俺がもっと早く……なんて思っても仕方ないことだもんな)


アリスの気遣いに感謝して、俺は毛布を肩から被る。


空を見上げる。

そろそろ夜明けだ。

紅い月は、山脈の影に隠れて見えなかった。



――――――



翌朝。

キャンプの後始末を終え、俺たちは再び洞窟に向かって歩き始める。


「ここからアルトロック? までどのくらいなんだ?」

「洞窟を抜ければ割と近いので、2、3日で到着しますね」


俺の質問にクレインが答える。


「割と近いんだな」

「そうですね。首都からはひと月ほどかかるのですが」

「なるほど。俺たちは首都を経由する予定だったから、ずいぶんな短縮になったんだな」

「おい、クレイン。見えて来たぞ」

「そうだね、ダイモン」


言われ、クレインがこちらに向けていた顔を、進行方向に向ける。

視線の先には、俺たちが通っていた洞窟とはまた別の洞窟の入り口が、暗闇にぽっかりと口を開けていた。

俺とアリス、ミリィが先頭になって、その後ろをドワーフたちがついてくる形だ。

……はるか後方にセシリアもいるが。


洞窟に入る。

滝の裏側からは離れた位置にあるからか、濡れてはおらずずいぶんと歩きやすかった。

下り道でもない。

奥に、そして左に、右に、石畳の道がくねくねと続いている。

ここから枝分かれして、山脈の向こう側、アイゼンガルドの各地に繋がっているのだろう。


「この分かれ道は左側ですね」

「了解、と」


クレインに指示をされ、言われた通りの道を進む。

起伏もなく、ひたすらに真っ直ぐだ。


かつ、かつ、と俺たちの歩く音が洞窟の中に響く。


「ひゃぁあっ!?」


と、ミリィが突然叫び声をあげた。


「どうした!? 敵か!? 『遠見』には何も――!」


振り返り、構えを取る。

魔力を全身に満たす。

魔力風が吹き荒れ、石畳を破砕し、石礫が舞う。


「み、み……」

「み――!?」

「水が落ちてきて首に当たったなの……」

「……はい」


構えを解いた。


「……れ、レイジ、どの……」


魔力風に充てられ、ドワーフたちが尻もちをついていた。



――――――



洞窟に入って2日。

ここまで特に魔物などには出会っていない。

魔物がこの通路に侵入することもあるらしいのだが、ここはアイゼンガルドの連絡通路のようなものだ。

時折パトロールして、間引きをするらしい。


「そろそろ出口です」

「お、もうか。……ん」


言われて『遠見』を放つ。


「……出口って、ここから2キロくらい先か?」

「え? えぇ……そうですが……」

「……レイジ」

「ん、何か居るな。魔物だ」

「魔物!?」


ドワーフたちが一斉に、肩に担いでいた何かを下ろす。

そして、革袋から黒光りする鉄の筒のようなものを取り出す。

――銃だ。


「銃だ」


見たまま銃だった。

しかも、ファンタジー的なヤツではない。

しっかりとアサルトライフルだ。

地球でのそれとは少し細部が違うが、それでも、一目でアサルトライフルと分かる形状をしている。

違いといえば、マガジンがあるであろう部分がそっくり何もないことくらいだろうか。


「す、ごいな、それ」


そして、はっきりとわかる。

少なくない魔力が銃そのものに宿っている。


「『装填ローディング』」


3人が口をそろえて、何かつぶやいた。

ガチャリ、と銃から音が鳴る。


戦闘の準備が整ったのだろう。

銃を構え、3人がこちらに頷く。

頷きを返し『遠見』を放つ。

――近づいてきている。


「こっちに来てる。あと800、700……早いな」


姿はまだ見えないが、結構大きな魔力反応だ。


「先行する」


言って、魔力を脚に籠める。

石畳を蹴りつけて、前に飛び出した。


「――お」


魔物と接敵する。

どデカいカブトムシのような魔物だ。

黒々とした甲殻で全身を覆い、がちゃがちゃと喧しく6本の足が動いている。

少しキモイ。

角をこちらに向け、真っ直ぐに突進してくる。


「レイジ殿! 援護します! 射線から離れてください!」


背後からクレインが叫ぶ。

体を傾ける。

彼らの直線状から体を退かした。


「『発射てぇ』!」


ガガガガガガガ!! と凄まじい音が背後から鳴り響き、俺のすぐ横を魔力の籠った弾丸が抜けて行く。

発火炎マズルフラッシュが弾け、洞窟の中を明るく照らし出す。

俺の動体視力でも追えぬほどの速度。

――多分、地球の弾丸よりもよっぽど早い。


が。

甲虫のような魔物の甲殻に全て弾かれる。


ギギギギギ!!! と弾丸が甲殻に弾かれる音が響き、火花が散る。


「まるで効果ないぞ!?」

「通常弾じゃダメですね! 魔法弾を――」

「いや、俺が行く!」


地を蹴って低く飛び、壁を蹴る。

三角跳びを決めて、魔物に一気に肉薄する。

そのまま、脚で地面を擦りながら魔物の横に滑り込み、横腹を下から蹴り上げた。


――ギィ!?――


甲殻にヒビが入り、魔物がその巨体を浮き上がらせた。

体を捻って一回転。遠心力をつけ、ひねりを加えた右腕をその腹に突き立てる。

――あまりの硬さに拳の骨が粉砕する、が、瞬時に再生する。


(しまった……籠手ガントレットつけてなかった……!)


肘まで腕が突き刺さる。

激痛をこらえながら、腕を引いて、魔物の()()を引きずり出した。


けたたまし断末魔を上げ、魔物が息絶える。

横倒しになって、動かなくなった。


「……ふぅ」


腕を振って、手にこびりついた血やなんやらを振り払った。


「随分硬い魔物だったな……」

「レイジ殿!」


遅れて来たドワーフ3人が、倒れ伏した魔物と俺を交互にみやる。


「ん、終わったぞ」

「……そんな……ぎ、ギガントビートルを……素手で……」


信じられないものを見る目で俺を見るダイモン。


「ん、そういう魔物なのか」

「レイジ殿……す、凄まじいですね」


追いついたクレインも顔が引きつっている。


「なんだそんなバケモノを見るような目で見ないでくれよ……」

「いえ、十分バケモノですよ……」


ひどいこと言われた。


「角とか素材になりそうだな。とっとくか」

「え、えぇ、そうですね。防具や武器の素材になりますよ。甲殻も」

「甲殻はなんかとるの大変そうだからいいや……」

「おいおい! 全部しっかり採取したら金貨100枚は下らないぞ!?」

「面倒だし……採りたいなら採ってもいいぞ?」


そういいながら、角に手をかけて、渾身の力で根元からへし折る。


「よし。とれた」

「さ、採取も素手で……」


ヘリムにもドン引きされた。


「その……レイジ殿はいつもそのような戦い方を……?」


恐る恐るといった感じでクレインが尋ねる。


「まぁ、そうだな。俺が戦闘に使える才能って【格闘】だけだし……」

「な、なるほど……」


さらにドン引きが深くなった気がする。

そんなにひかないでくれよ……さすがにちょっと傷つく……。


「しかし、なんでこんなところにそんなに強い魔物が居たんだ? 洞窟の出口のすぐそばだろ」

「そうですね……王が行方不明になり、この通りクレインもその捜索のために王都を出ているので……。王都での魔物の間引きの指示や……そのほかの政務も大分滞っているんです……」

「国として大丈夫かよアイゼンガルド……」

「返す言葉もありません……」


そういって、ヘリムがため息をついた。


「よし、ほら、アリス『収納空間ポケット』に入れといてくれ」

「うむ」


俺から身長より長い角を受け取り、アリスが『収納空間ポケット』にそれを放り込んだ。


「前々から思ってたけど、それって許容量どのくらいなんだ?」

「ん……? わからぬ。おそらく無限じゃ」

「凄いなそれ……」

「あまりものが多くなってくると探すのが大変になるのじゃ」

「中どうなってるの……?」

「ん? 入ってみるのじゃ?」

「入れるの!?」

「うむ」

「……いや、やめとく。なんか怖いし」


異空間に進んで入りたいとは思わない。


「よし、行くか」


振り返り皆にそう言って、俺は魔物の死骸を乗り越えて先に進んだ。

昨日時間を間違えて途中で投稿してしまいました……。

お恥ずかしいミスです……忘れてください……。


お詫びに今日は二話更新になります。

次は1時間後に。


明日から迷宮探索に入ります。


気に入っていただけましたら評価やブックマーク、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ