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09 川のほとりで

洞窟の中に足を踏み入れた俺達。


「おぉお……」


中の風景に、俺は再び感嘆の声を漏らした。

洞窟の壁面に、滝を通した日光がスクリーンのように反射して、蒼く幻想的な光を放っていた。


「すごいなこれ……」

「―――?」

「すごいな! これ!」

「――だね!」

「うーん!?」

「きれい! だね!」


ざぁざぁと下の川に流れ込む滝の音が洞窟内に反響して、大声でないと会話も成り立たない。

手で進行方向を指し示して、ミリィとアリスが頷くのを確認しながら、濡れて滑る床に気を付けつつ階段を下ってゆく。


ずる、とミリィが滑った。

慌てて抱き留める。


「気をつけろよ! すっごい滑る!」

「あぶぶ、危ないなの!」

「転げ落ちたら大怪我じゃすまないぞ! 大分この階段長い!」

「き、気を付けるなの!」

「いや、こうする!」


両脇の下に手を入れて、ぐい、とミリィを持ち上げる。

そのまま俺の首をまたがせて……。


肩車の完成だ。

洞窟の天井は大分高い。肩車でも十分に歩けるだろう。


「わあ! 高いなのー!」


頭上からきゃっきゃとミリィの嬉しそうな声が聞こえる。


「―――――!」

「なんだって!?」


アリスが何事かを叫んでくる。


「わ! し! も!」

「定員は一人だ!」

「――――!」


何を言われたかはわからないが恐らく罵倒だろう。

……ていうか、アリスは俺より身体能力高いんだから要らないだろう。


ミリィを肩車したまま、階段を降りてゆく。

幅も奥行きも広く、階段というよりは大きな段差が何段も続いているイメージだ。

くねくねと蛇行しながら下に下に伸びてゆく階段を、一段一段下って行った。


「おにいちゃーん!」

「んー!?」

「なにか見えるなのー!」


壁の向こう。

隙間から見える滝の、さらに向こうを指さしてミリィが言う。


「何が見える!?」

「わからないけどー!」


ミリィが指さす方向を見て、『遠見』を放つ。


――大きな魔力反応が1つと、それに追い立てられるように移動する魔力反応が3つ。


滝の下、渓谷に流れる川の両サイドを続いていく通路をこちら側に移動しているようだ。


「魔物だ! 多分誰かが追われてる!」


滝が邪魔で、よく見えないが……子供、か?


「やばそうだ! ミリィ、息を止めろ! 目瞑って!」


肩車をやめて、抱きかかえるようにしてミリィを抱く。

体と腕で、体全体を覆った。


「え!? え!?」

「アリス! 跳ぶぞ!」

「このお人よし!」


階段を踏みしめて、壁の隙間、滝に向かって走る。

血を蹴って――


――滝に飛び込んだ。


「!?!?!?!?」


肩と背中に物凄い圧力を感じる。

遥か上空から流れ込む滝が直接体にぶち当たって、そこらじゅうを怪我する――が、俺の体にそんなことは関係ない。


ざばぁっ! と滝を抜け、眼下に広がる川を見た。

脚に魔力を込めて、空を蹴る。位置を調節して……。


「な、なんだ!? 何か降ってくるぞ!?」

「落石か!? あ、いや……」

「人!?」


そのまま、子供を追いかけていた亀のような魔物の背に、叩きつけるようなストンピングをぶちかました。

自由落下の加速度と、魔力を込めた俺の足が、魔物の甲羅をぶち破って、そのまま肉体を破壊せしめる。


ゴガン! と凡そ生物の放つ音とは思えない音を立てて、断末魔を上げる暇もなく、魔物が木っ端微塵に吹き飛んだ。


「よいしょお!」


そのまま地面を蹴って宙返り。

3回転して、華麗な着地を決めた。


「ひっ……」


そんな俺を見て、詰まった悲鳴を上げる子供たち。

……しまった、鮮烈すぎる登場だったか……。


アリスも俺の横に、すた、と優雅に着地する。


「きゅぅー……」


ミリィは俺の腕の中で目を回していた。


「すまん、驚かせるつもりはなかったんだ。大丈夫か?」

「え、えぇ……っと……」


絶句している少年に爽やかスマイルを向ける。

年のころは12歳というところか。

何かを肩に担いで、革の胸当てのようなものをつけている。

残りの2人も大体同じような背格好だ。


「その……あなたは?」


一番前を走っていた少年が、恐る恐るといった感じで、手を挙げながら俺に尋ねた。


「あ、あぁ。えっと、俺はキリバレイジ。アイゼンガルドに用事があってここまで来たんだけど、なんか君たちが危なそうだったんで……つい、跳んできたんだけど……ごめん、大きなお世話だったか?」

「い、いえ、助かりました……。ありがとうございます。……でも、その、なんで……? いや、どうやって……? いやいや、目的……?」


ぶつぶつと独り言を言いながら少年が後ろの二人を振り返る。

お手上げだ、といった風に、後ろの二人は肩を竦めた。


「えぇと、助けて頂いてありがとうございます。私はアイゼンガルドで……そうですね、今は兵士をしております、クレインと申します」

「……ダイモン」

「ヘリムです」

「兵士? 君たちが? 確かに人口は少ないって聞いたけど……そんなに切羽詰まってんのかアイゼンガルド……」

「いや、レイジ。こやつらはこどもじゃないのじゃ」


横合いからアリスに突っ込まれる。


「え?」

「ドワーフ族じゃ。彼らは皆このような見た目をしておる」

「……あ、え、あぁ!」


俺はドワーフと言えば髭もじゃのおっさん的なイメージを持っていたが、どうやらファンタズマゴリアのドワーフはそうではないらしい。

つまり……。


「私たちは、成人です。……そうですね。人間族の方から見れば私たちは子供の用に見えますよね……」

「ぉおう……これは失礼を……」


頭を下げる。


「クレイン、そいつは人間だぞ。人間がこのアイゼンガルドの土地を踏んだ。つまりはそういうことだろう」

「ダイモン、彼は僕たちを助けてくれたんだよ。はなから疑ってかかるのはよくない」

「そうですかね……? 油断させて、ということもありますよ」

「ヘリムまで……。すみません、危ないところを助けて頂いたのに二人が……」

「あ、あぁ……いや、うん。そうだよな。そういう反応が普通だよな。……とりあえず、俺は三人に危害を加えるつもりはないよ。……信じてもらえるかどうかわからないけど」

「私は信じますよ。レイジ殿」

「クレイン!」

「……はぁ。ダイモン、諦めよう。クレイン様はこういう方だ」

「本当にお前はお人よしというか……なんて言ったか? 『ヘイワ』だったか?」


ぴくり、と反応するアリス。そして俺。


「えっと、今、なんて言った?」

「……こいつがことあるごとに口にする言葉だよ『ヘイワ』『ヘイワ』と」


まさか、と思い、クレインを注視する。



クレイン・アイゼン

Lv39 ドワーフ

【重火器】Lv1

【魔法】Lv1

   【土魔法】Lv1

   【火魔法】Lv0

   【根源魔法】Lv0

【機械】Lv2


「……クレイン、だったっけ」

「はい?」

「貴方には、他の人に理解できない、『平和』の意味が理解できる。そして、才能レベルに、判別のつかない才能がひとつある」

「え、えぇ……そうです……けど」

「……俺にも、同じ才能があるんだ。そして俺がこの国に来た目的……ドワーフ族全体に『平和』を取り戻すこと……そのために、俺はアイゼンガルドに来たんだ」

「……ドワーフ族に、平和を……?」


何を言っているんだこいつ、みたいな目で見られる。


「えぇと……説明するには大分長い話になるんだけど……」


いいか? と目で尋ねると、クレインが大きくうなずいた。


「もちろん。私もとても興味のあるお話です。よければ、聞かせてください」

「分かった。えぇと、そうだな……何から話そうかな……」


そうして、俺はクレインにこの世界に来てからのことを語り聞かせ始めた。

お気づきでしょうが、クレインはこの国の王子です。

各国の主要人物と鉢合わせることに定評のあるレイジです。


明日も同じ時刻に1話投稿です! 気に入っていただけましたら、評価やブックマークいただけると大変喜びます!


それでは、またあした!

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