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08 ロックガルドの大滝

中央大陸を縦断するようにそびえ並ぶ山脈。

その名も、イングランデ山脈。


「まんまだ」


まんまだった。


「?」


ミリィが俺の呟きに小首をかしげる。


「いや、なんでもない。……しっかし」


ぐる、と首を巡らせる。

まったく終わりが見えない。

地平線の果てまで続く山、山、山。

大きな壁が目の前にどこまでもそびえたっているようにしか見えない。

高さも……どのくらいあるんだ……。


「はぁー……すっごい大自然だな。これ、山越えなんてできるのか?」

「出来るわけないじゃろ……」


何言ってんだこいつ、みたいな目で見られた。


「えぇ……。アイゼンガルドってこの向こうなんだろ? どうやって行くんだ?」

「ガルド川という川があっての……ほれ、来る途中でも見たじゃろ。あの川と山脈の交差点にロックガルド大渓谷という場所があるのじゃ。そこを抜けて行く」

「なるほどなあ……」

「ここから南に2、3日行けば、渓谷が見えてくるのじゃ。なかなか風光明媚な場所なのじゃ」

「おぉ、そりゃ楽しみだな」


俄然ワクワクする。

大河川と大山脈の交差点か……。

どんなところなんだろう。


「じゃから、暫く山脈沿いに南下するのじゃ」

「了解。……今日はもう暗いし、移動は明日からにするか」

「ん、そうじゃな」

「わーい、野営の準備するね!」


ミリィが、よいしょ、よいしょ、と俺の背負っているバカでかいバックパックを下ろそうとする。


「おぉ、待て待て、今おろすから」


因みに滅茶苦茶重い。

多分ミリィには持てないだろう重量である。


背中からバックパックを下ろすと、ドスン、と音がした。


「さて、じゃあ俺は薪でも集めてくるか。ちょうどよさそうな森もあるしな」

「お願いなの!」

「アリスはミリィを見てやってくれ。魔物とか出るかもだしな」


そう言いながら、一定間隔で放っていた『遠見』の範囲を広げる。

レベルが上がってから、探知できる範囲が1キロメートルほど増えた。

現在は半径3キロほどの範囲を『遠見』で網羅できる。


特に危険な反応は返ってきていないが、ミリィをひとりには出来ない。


「いってらっしゃいなの!」

「ん、早く戻ってくるのじゃ。ご飯なのじゃ」


頭の上でぶんぶんと手を振るミリィと、ひらひらと小さく手を振るアリスに手をあげて、俺は森に分け入った。


「さて……と」


出来るだけ乾いた枝を選んで拾いながら、ひとり呟く。


「ずっとついてきてるよな? 多分だけど……セシリアか?」


言うと、はぁ、とほんの小さなため息が聞こえた。


「やっぱり、気づかれて、ました、か」


そして、葉の擦れる音すらたてずセシリアが木の上から飛び降りて来た。

相変わらず感情の読めないぼーっとした表情だ。

野暮ったいマントを羽織り、黒いマフラーで口元を隠している。


「まぁ……ザインから気付いてたけど。どこまでついてくるのかなって。そろそろアイゼンガルド領だろ?」

「指示では、ずっと、ついていくように、と」

「ずっと……? え? 迷宮でもってことか?」

「はい」


こくり、と頷くセシリア。


「まじかよ……。大丈夫なのか、それ。国交的に」

「大丈夫では、ない、ですが、本気で、隠れた、わたしに気付けるのは、レイジ殿と、アリシア殿、くらいなので」

「気づかずに国に入れるってか……いや、優秀過ぎるだろ。暗殺し放題だ……」

「もしか、したら、アイゼンガルドにも、同じ、くらい、探知が出来る、人が、いるかも、ですが」


少なくとも今までは見つかったことが無い。とセシリアが続ける。

いや……今まで何回も不法入国したことあるってことかよ……。


「恐るべしヘイムガルドの隠密……」


いや、セシリアが凄すぎるだけなのか……?

ぼぉーっとした表情は、何を考えているのか読めない。

が、恐らくはレイリィの指示なのだろう。俺たちに危害を加えたりはしてこないだろうと判断した。


「せっかくなら……一緒に来るか? ずっと隠れ続けるのもしんどくないか?」

「慣れて、ます。だいじょう……ぶい」


ピースサインを寄越すセシリア。


「……そう」


立てられた二本の指を手で掴んで、そっと内側に折り曲げる。

グーの状態の手をこちらに突き出しながら、「?」とセシリアが首を傾げた。


「まぁ、そういうならいいけど……」

「一緒に、いると、入国の、時などに、ご迷惑、おかけしますので。こちらで、なんとか、します」


手を引いて、セシリアが言った。

そして、ほいほいと木を投げてよこす。


「薪、です。どうぞ」

「……どうも」

「では」


ひゅ、と跳び上がると木々の影に消えるセシリア。

試しに『遠見』を飛ばして探知すると、既に結構な距離を俺から置いていた。


「うーん。変わった子」


そう言って、俺は薪を拾い上げ、二人の元に戻った。


「ただいま」

「おかえりー」


俺から薪を受け取ったミリィが、せっせと焚火を拵える。

手際がいい。

慣れたものだった。


「じゃあ俺はテントでも立てるかな」


俺はその場から少し離れた場所にテントを設営する。

ぱちぱちと火種の弾ける音が聞こえてくる。


「ミリアルド、今日はなんなのじゃ?」

「うーん、昨日お兄ちゃんが仕留めたお肉がまだあるから、それとー。干し肉を入れたスープとー」

「肉! うむうむ。肉は最高なのじゃ!」

「お姉ちゃんお肉好きだねー」

「うむ。肉が嫌いなやつなどおらんのじゃ」

「そうだねー」


話しながらも、ミリィの手は止まらない。

フライパンを焚火にかけて、油を垂らすと、香草と一緒に肉を焼き始める。

じゅうじゅうと肉の焼ける素晴らしい音が辺りに響き始める。

俺はそんな音を背中に、テントの設営を黙々と進めた。


「出来たのー!」

「お、今日も美味そうだな」

「食べるのじゃ!」

「いただきまーす」

「めしあがれー」


肉をむさぼり、スープを飲んで、パンを食べる。


「うーまーいーのーじゃー! おかわり!」

「お肉は一人ひとつなの。これでもうおしまいなの」

「なんじゃと!?」

「もう食ったのかよ……」

「レイジ! はやく何か狩ってくるのじゃ!」

「……明日な」

「むうぅ……」


俺も干し肉ばっかりは飽きるし、狩れる動物が居るなら飼っておきたい。

血抜きとかもミリィがやってくれるし。


食事を終え、俺とアリスが交代で見張りをし、その日は休んだ。



俺たちは、山脈に沿いに歩みを進める。

時折麓の森で動物を狩り、その日の食料にする。

川を見つければ魚をとるし、アリスは野草にも詳しいため、迷宮探索の時と違って、食事は割とバリエーション豊富だった。

干し肉オンリーじゃなくてよかった。



そうして3日後、俺たちの進路が、大きな川にぶち当たった。


「おぉお……」


思わず、感嘆の息を漏らす。

素晴らしい光景だった。

川幅はどのくらいあるのか。

先が見えぬほどの広い川が、山の切れ目に流れ込んでいる。

平地側のほうが渓谷そのものよりも高い位置にあるため、覗き込めば美しい滝が見えた。

高い山々に挟まれた渓谷の隙間から日が差し込み、水面にキラキラと反射している。


川の左右には地面に沿って、石造りの道が延々と続いており、ところどころにやはり石造りの橋が架かっている。


俺たちの居る場所から渓谷には、山を掘りぬいた洞窟のようなものから降りられるらしい。

ちょうど滝の裏を抜けて行くようなイメージだ。

地球にあれば観光客でごった返すような美しい景色も、しかし、国境付近にあるからか、人の姿は見えなかった。


「これは、すごいな……」

「きれいなの……」


俺とミリィがぽかんと口を開け、滝と、その奥を覗き込んだ。


「ふふ、そうじゃろ。ここはなかなかの景色じゃろー?」


なぜかアリスが自慢げに薄い胸を張ってふふん、と得意満面だ。


「いや、なんでアリスがそんなに得意そうなのかは知らないけどさ……」

「なんじゃー! いいじゃろ別にー!」

「いいけどさ……」


ひょい、と洞窟を覗き込むと、整備された石畳が、階段状に下に向かっていた。


「ここから行くんだな……って、ここも凄いな」


ところどころ開いた隙間から大滝が裏側から見える。

それもまた、凄まじい光景だった。


ざぁざぁという音が洞窟の中で反響し、声を張らなければ会話も難しいほどだ。


「こういうのわくわくするなあ」

「ね! はやくいこ、お兄ちゃん!」

「おう、そうだな!」

「ふふふ、二人はこどもじゃのぅ……」


何が楽しいのか、アリスが目を細めた。


そうして、俺たちは洞窟へと足を踏み入れた。

同時にそれは、俺たちがヘイムガルド王国を抜け、ついに、アイゼンガルドに足を踏み入れたということを意味していた。

風景描写は本当に難しいですね。

頭で思い浮かべている風景が上手く伝わればいいんですが……。


明日も20時に一話更新になります。

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