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01 ファンタズマゴリアあれこれ

説明回その1です。

 アリスの城に招待され――ものすごく広くてでかくて豪華な城だった――、一週間経った。

 その間、俺はアリスにファンタズマゴリアについてのアレコレを――


「レイジー! ご飯ご飯ご飯なのじゃーー!! おなかすいたのじゃーー!!」


 ――全く聞けていなかった!!!


「今作るよ!どうせ昨日も夜中遅くまで起きてたんだろ!だから俺の飯の時間に起きられないんだろ!」


 しかし――


「だってわし吸血鬼じゃもーん。夜行性じゃもーーーん! それよりごはんなのじゃ! レイジのごはん最高なのじゃー!」


 ――餌付けには成功していた!!

 

 この一週間、アリスと暮らしてわかったことが幾つかある。


 1つ、こののじゃロリ吸血鬼は。


「むふー!やっぱりレイジの作るオムレツが最高なのじゃー!」


 見た目――人間年齢で14歳程度だ――通りこどもっぽいこと。


 2つ、こののじゃロリ吸血鬼は。


「自分で作れよ、いい加減」


「人間の料理はわからんのじゃ。普段はその辺の獣肉しか食べてないのじゃ」


 生活能力皆無なこと。


 3つ、こののじゃロリ吸血鬼は。


「レイジー!明日もオムレツがいいのじゃー!」


 オムレツが好物なこと。


 この3つだ。

 この3つしか分かっていない。

 

「……いや、何やってんだ俺」


 この一週間、アリスの世話と城内の清掃にかまけて――凄まじい荒れっぷりだった――、この世界のことや自分自身のことを調べる機会を一切持てなかった。


「今日こそアリスの蔵書とやらを調べなければ……」


 城内の清掃の最中、蔵書が仕舞われているであろう図書室のようなところも見かけたし、とりあえずそこに行ってみよう。


「アリス。今日は俺は図書室に籠るから」


「うん? おぉ、図書室にある蔵書は全部好きに読んでいいのじゃー」

「ありがたい。じゃあそういうわけで」


 そういって食堂――例にもれず無駄に広い――の扉に手をかけた瞬間


「待つのじゃ、レイジ」


 真面目な声色でアリスに引き留められた。


「ん?なんだ?」


「夜ごはんもオムレツがいいのじゃ!」


 ……無視して食堂を後にした。



――――――



「さて、何から調べるか……」


 天井まで届かんほどの本棚にギッシリと詰まっている本の群れを前に、俺は途方に暮れていた。

 あまりにも本の量が多すぎる。どこから手を付けていいやらわからない。


(なにはともあれ、この世界がどんな世界なのか。その辺りか……)


 と、なると。


(地理書、歴史書……そこから)


 本棚の端から該当しそうなタイトルの本を探し始める。


「ファンタズマゴリア……歴史……。ん……? そういえば……」


 本のタイトルを検分しながら気づいたことがある。


(文字が読める。明らかに日本語じゃないのに)


 思えば、言葉も普通に通じていた。


(まぁ不自由しないし、理由や意味をとやかく調べる必要もないか……)


ふ と沸いた疑問を黙殺して、俺は本の検分に戻る。


 ――20分後。

 何冊か参考になりそうな本を見つけ、どさりとテーブルにおろす。


「地理書から行くか。ちらっとアリスに話は聞いたけど……」


 確か、ここはイングランデだかなんだか。

 そもそもイングランデという土地がどの辺りにあるのかわからん。


「これは、地図、か……」


 ばさりと本の間に挟まれていた紙を広げる。

 思った通り、これはこの世界の地図らしい。

 地図には三つの大きな大陸が描かれている。

 中央の大陸に『イングランデ』

 小さな海を挟んで左に『ノアグランデ』

 大海を挟んで右に『ロウグランデ』

 イングランデの南側、そこに『絶海』

 絶海の中央辺りに小さな島、そこには『龍域』と書かれいている。

 そして、各大陸にそれぞれ国名のようなものも書かれていた。


「イングランデに3つ……」


 中央大陸の大部分を占める大きな国、そこに『ヘイムガルド王国』

 そこから山脈を挟んで東、海岸線から南に沿うように『アイゼンガルド』

 ヘイムガルドに隣接するようにして西『リィン皇国』

 この3つが、今俺のいるイングランデ大陸に存在する国家らしい。


「リィン……皇国……?」


 なんかすごく聞いたことのある名前が……。

 あの駄女神の名前もリィン……。

 

「悪夢だ……」


 頭を振って、俺は最悪の想定を振り払う。


「きっと他人だろう。あれを崇拝とか頭がどうかしてる」


 うんうんと頷いて俺は地図に向き直った。


「次はノアグランデか」


 ノアグランデには1つの国家しかないらしい。


「そもそもノアグランデがそこまで広い大陸じゃないのか……」


 そこには『ガイゼンシルト』と記されている。

 その中に幾つか小さい国名が書かれているが、ほぼ全域をガイゼンシルトという国が占めている。

 面積だけで言えば、中央大陸のヘイムガルドと同じくらいの大きさだ。


「最後にロウグランデ……ってここは」


 そこには、ただ一つの文字がポツンと書かれていた。


 『魔人領』と。


 まぁ、つまりはそういうことなんだろう。

 セオリー的に、魔人領とそのほかの国家が敵対してる。大体そんなところだろう。

「ん……?これなんだ?」


 地図に再びざっと目を通していると、気になる記載があった。

「迷宮……?」


 各国に一つずつ、『迷宮』という記載がある。


(ようは、異世界モノにありがちなダンジョンってやつ、か?)


 財宝とかボスとか居るのかな……。

 冒険心を擽られてしまった。

 潜ってみたい。とても。


 大体、世界を救えとか言われたけど何したらいいのかわからないし、冒険者的な何かになってもいいかもしれない。


「ま、いまはとりあえず情報収集、と」


 地理関係の本を閉じ、歴史書に手を伸ばす――と


「レイジー!」


 バタンッッ!とドアが開け放たれ、アリスが図書室に入ってきた。


「なんだ?」

「ごはんの時間じゃ!」


 そういわれてみれば、少し腹が減った気がする。

 窓の外を見ると、紅い月が木々の間にちらりと見えた。


「結構な時間本を読んでたんだな。今用意するよ」


「うむうむ! オムレツがいいのじゃ!」


「さっき食べただろ。別の何か作るからちょっとまってろ」


「別のでもいいのじゃ! レイジのごはんはなんでも美味いのじゃ! 血は不味いけど!」


「一言要らんぞ……。それにそれ俺のせいじゃないし……」


 はぁ、とため息をついて、俺は食堂に併設されている厨房へと向かうのだった。

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