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04 ようこそファンタズマゴリアへ。

 のじゃロリ吸血鬼が再び取り乱して、再度落ち着くまでに15分の時間を要した。


「落ち着いたか?」


「落ち着いたのじゃ……」

 

 いじいじと地面にのの字を書きながら、吸血鬼――アリシアがこちらを見上げる。

 初めて見たときはあれほど怖かった少女が、不思議と今は全く怖くない。

 俺も同じ存在に為ったからなのか、それともこの少女がよく見ると、人間年齢で14歳くらいにしか見えないことに気が付いたからか。


「とりあえず、俺とお前……」


「むっ! 祖に向かってお前とはなんなのじゃ! 我が名は――」


「アリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルト」


「なのじゃ! お、お主なら……と、特別にアリスと呼んでも構わんのじゃ、お主はわしの眷属だし、そ、それに、だ、旦那様になるわけじゃし……」


 もじもじとアリシア――アリスが上目遣いにこちらをちらちらとみてくる。

 残念なところはあるが、アリスは目を見張るような美少女だ。そんな仕草をされると……すこし、くるものがあった。


「旦那様になるかどうかはともかく、わかった。アリスな。ええと……俺の名前はレイジ。……よろしく」


「レイジ……。うん、わかったのじゃ。レイジ」


 何度かレイジ、レイジと呟くアリス。うん、と一つ頷いて、こちらを見るアリス。


「で、とりあえず、何なのじゃ?」


「教えてほしいことがたくさんある」


「構わぬぞ。なんでも聞くのじゃ。これは自慢じゃが、わしはもの凄く物知りじゃ!」

 

 自慢なのか。


「ありがとう。じゃあまずは……そうだな……ここは何処なんだ?」


「うん? レイジから見て異世界なのじゃろ?」


「いや、それはわかってる。えっと、そうじゃなくて、地球とか、日本とか、星の名前とか国の名前とか……」


「この世界のことか? ここはファンタズマゴリアと呼ばれておる世界じゃ。その世界の3つの大陸の一つ、中央大陸イングランデ……の北の果てにある、わしの城――シュタインフェルト城の周りの森じゃな。ニンゲン達は『常夜の森』とか呼んでたはずじゃ」


「ええっと……つまり、アリスのテリトリーの中……ってことか?」


「そうじゃの。結界が張ってあるから普通、人間が迷い込んだりしないのじゃ。じゃから珍しく人間の匂いがして出てきてみたらお主がおったのじゃ」


 いや……そんな場所に転生させるなよ……。吸血鬼の膝元とかヤバすぎるだろ。説明不足もそうだし、なんだかよく分からない加護のこともそうだし、あの女神、仕事があまりにもずさんすぎやしないか……?

 しかもさっきの獣を吹き飛ばした感じを見るとコイツかなり強いぞ……。


「ファンタズマゴリア、か。成程。現在地はわかった。それで、俺がこの世界に来る前、世界を救えって言われたんだ。何か心当たりはあるか?」


「世界を救え……? ふむ、特に心当たりはないの」


「ないのか……」


「そうじゃの。ついこの間まで人王と魔王がだいぶ大きな戦争をしておったみたいじゃが、どうやら勇者が魔王を討伐したみたいじゃしの。戦争もしばらくおきぬじゃろうし」


「……は? 戦争してたの? ていうか終わったの? 勇者が魔王倒したの?」


「みたいじゃの。わしはずっとここにおったから、よくは知らん」


 え? 世界救われてね? ていうか俺、勇者ポジじゃないの?

 い、いや、戦争だけが世界の危機じゃないだろうしな、とりあえずそこは置いておこう。


「そ、そうか……。えっと、じゃあ聖人? についてもう少し教えてほしい」


「聖人か。さっき伝えたことがわしの知ってるほぼすべてじゃの。何千年かに一人、神に聖力と役割を与えられてファンタズマゴリアにぽっと現れる人間のことじゃ。特に強いとか凄いとかは聞いたことないの」


「そうか……」


「ただ、ニンゲンの間の言い伝えでは『聖人は世界の理を作り替える』というものがあるそうじゃ」


「世界の理を作り替える……?」


「それが神に与えられた役割なんじゃろ。たぶん」


「えっと、その、さっきから言ってる役割っていうのはなんなんだ?」


「ん? 役割は役割じゃ。そこに在る理由じゃろ」


「んんん……?」


 要領を得ないな……。

 聖人についてはおいおい調べることにするか……。


「じゃあ次は吸血鬼について教えてくれ」


「吸血鬼について何を知りたいんじゃ?」


「えーっと……どのくらいすごい?」


「そりゃあかなりすごいのじゃ! 不死身じゃし!」


「うん」


「不死身じゃし!」


「それと?」


「……不死身じゃよ……?」


「……他には?」


「……不死身なんじゃ」


「……不死身なだけ?」


「……あと力が強い」


「腕力……」


「……すごく力が強い……のじゃ」


「特殊能力とかは……?」


「……力が強いし、不死身じゃ」


「それだけ……?」


「……そうじゃ」


「……そうか」


 ごめん。ちょっとがっかりしたのは否めない。ていうか、語彙力。

 女神の加護とやらが全然役に立たないことが分かった今、俺がこの世界でチート無双するには吸血鬼の力に頼るしかなかったんだが……。


「力が強いのか……」


「めちゃめちゃ強いのじゃ」


 ……魔法とか使いたかった。


「でもお主は半分吸血鬼で半分聖人じゃからの……正直わしにもお主がどんなことになるかわからんのじゃ」


「え、どういうことだ?」


「本来聖人とは魔なるモノとは対極にあるモノなのじゃ。なのに、お主の体の中では聖の魔力と魔の魔力がごっちゃになっておるのじゃ。今は安定しているみたいじゃが……」


「ちなみに、安定してないとどうなる……?」


「内側から弾ける?」


「死っ!?」


「不死身じゃし、弾けても多分死なないから安心するのじゃ」


 いや、あんまり弾けたくはないなぁ……。


「とにかく、お主の状態はよくわからぬ。経過観察が必要じゃと思う」


「そうか……。俺もこの世界のことをよく知らないといけないし、暫くアリスと一緒に行動したいんだけど、どうだ?」


「そうじゃの。その……お主はわしの、だ、旦那様! ……になるわけじゃし……?」


「旦那様はともかく」


「大事なことなのじゃ!!」


「ともかく」


「むぅ……」


 流されて少し頬を膨らませるアリス。

 ちょっとかわいい。


「わかったのじゃ。それならばわしの城に来るといいのじゃ。蔵書もあるし、知りたい事はそれで調べるのがよかろ」


「そうだな。そうさせてもらえると助かる」


「うむうむ! こっちなのじゃ!」


 たたた、と嬉しそうな足取りで俺を先導するアリス。

 ひらりひらりと赤いドレスのスカートが踊り、紅い月光と相まって、幻想的な美しさを醸し出している。


 そして何歩か進んだ先で、


「あ」

 

 と、アリスは何かを思い出したように立ち止まると。


「そうじゃ、レイジ」


 後ろ手に腕を組み、くるりとこちらを振り返った。


「――ようこそ、ファンタズマゴリアへ、なのじゃ」


 そしてにっこりと、今まで見たどんな表情よりも鮮やかに俺に笑いかけるのだった。

これにてプロローグは終わりです。

次回から一章のスタートです。大体40話前後の予定です。

初めての執筆で至らぬ点もありますが、ぜひよしなにお願いいたします。

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