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35 迷宮で待つ者

 

 ――人の迷宮第九十(?)層――


 いい加減転送魔法の感覚にも慣れた。

 脚を地につけ、目を開く。


「……あれ?」

「ん、通路、ね」

「さっきと同じなの」


 俺たちが立っていた場所は、球に触れる前の通路と同じ場所だった。

 ……厳密には同じではないが、またどこぞに飛ばされてボス戦だろうと身構えていたから、肩透かしを食らったような気分だ。


「……何かの罠、かしら?」

「いや、今更そんなことするか……?」


 散々今まで強い敵をぶつけて来たんだ。

 今更小手先の罠なんかでせめてくるだろうか。


「とりあえず、先に進もう。何かあるかもしれない」

「そうね。警戒は怠らないように」

「了解なのー!」


 はーい、と手を挙げるミリィ。

 元気な声が狭い通路に反響した。


 ――人の迷宮第九十一(?)層――


 ひとつ、階段を降りた。

 その間罠も、魔物もない。

 だが――。


「これ、何かしら……」


 壁にたいまつを近づけて、レイリィが何かを見つけて声を上げる。


「ん……?」


 俺も顔を近づけてみる。


『ボスが居なくて肩透かし食らった?ここにある素材では今までのボスを創り出すので精いっぱいだったんだ。こっからボスは居ないよ。もう少し下にご褒美があるから、それをぜひ持って帰ってね』


 と、日本語で壁に直接書かれていた。


「…………日本語だ」

「あなたの故郷の言葉? なんて書いてあるの?」

「……もう障害はない、って書いてある」

「……そう……」


 レイリィと二人、ため息を吐く。

 だったら90層を最下層にしろって話だ。

 どっと疲れた。


 ――人の迷宮第九十五(?)層――


 階段を降りると、通路も何もない白い部屋に出た。

 中心に台座があり、そこに


「剣、か?」


 手前に石碑のようなものが鎮座しており、日本語でメッセージが書いてある。


 聖剣・エクスカリバー

『聖剣といえばコレだよね。もちろん聖銀ミスリル製で、ビームもでるよ。役に立ててね』


「おふざけだな、おい……」


 聖剣の柄を握り、引き抜く――――


「これ、は……!」


 目の前にかざし、刀身を見る。

 薄く白銀に輝き、大きな魔力がそこに宿っているのを感じた。


 聖剣から、凄まじい熱を感じる――!!


 ――――ジュウウウウウウウ!!


「ああぁっつい!!!」


 地面に叩きつけた。


 持てなかった。

 案の定というかなんというか、俺の手が焼け爛れる。


「よりによって聖剣!!!」


 持てすらしない!! バカ!!

 このくだりもういいよ!!

 何回俺の手は焼け爛れればいいんだ!!


「ぐぬぬ……。レイリィ、コレあげる……」


 ぴ、と床に叩きつけた聖剣を指さし、レイリィに言う。


「え、えぇ……うん、まぁ、すごい魔力が宿ってるのは分かるし、その、くれるのなら貰うけれど……」


 吸血鬼の体も案外不便ね……。

 言いながら聖剣エクスカリバーを拾い上げる。


「……凄いわね、これ。アレックスの剣よりいいモノかも……」

「そうなの?」

「えぇ。どうやって聖銀ミスリルにこんな魔力を……? いえ、でも造ったのが聖人だっていうのなら……」


 ぶつぶつと呟きながら聖剣エクスカリバーを検分するレイリィ。

 そんなに凄いのか。

 どれだけ凄くても俺からしたら手が焼け爛れるだけの剣だし、なんなら剣の才能はないからただの棒まである。


「まぁ、役に立つならいいよ……アレックスにでも渡してやってくれ……」

「えぇ、そうするわ。わたしも剣は使えないし」


 そう言って布で刀身を巻いて、バックパックの上部の固定した。

 とてもがっかりした。

 ちょっとワクワクしたのは否めないのだ。


 ――人の迷宮第九十八(?)層――


 最奥が目前に近づいてきた。

 聖剣があった部屋からこっち、ただの白い部屋が続いている。

 階段を降りる、白い部屋、階段を降りる、の繰り返しだ。


 迷宮というていすらかなぐり捨てて、どちらかといえばリノリウムの床や、コンクリートの壁に近い材質だ。

 どこか学校を思い出す。

 どこが、あるいは何が発光しているのだろうか、部屋は明るい。


 九十九層への階段を下る。


 そして――



 ――人の迷宮第九十九層――



 ――ソレは、そこにいた。


 広く、白い部屋。

 円形の部屋の対岸、階段の前に、階段を護るようにして。

 白い影だ。

 白いが、それは影だった。

 形容しようのない何かを感じて、二人を腕で制す。


「まて」

「うん?」

「どうしたの?」


 きょとん、と二人が俺を見る。


「なにか、いる」

「え? どこ?」

「???」


 首をかしげるミリィと『遠見』を使って索敵をするレイリィ。

 だが。


「なにもいないよー?」

「ん、わたしの『遠見』にも反応はないわよ?」

「アリス」

『なんじゃ?』

「何か感じるか?」

『そうじゃの……何かしらの気配……は、感じるのじゃ。でも姿は見えぬし、わしの『遠見』にも反応はないの』

「……そうか。……つまり、俺にしか見えないってわけだな」


 影が立ち上がった。

 それは白い騎士だった。

 リビングアーマー……ではないだろう。

 そんなものではない。

 魔力でも聖力でもない、けれどなにかしらの強い力を感じる。


『――よく来たね、聖人』


 そのとき、俺の脳内に、子供とも、大人とも、男とも、女ともとれる、あいまいな声が響く。

 アリスのそれではない。


「ぐ、ゥッ!?」


 直後に、激しい頭痛。

 頭を押さえ、片膝をつく。


(これ、は――)


根源たましい魔法』という単語を聞いた時に感じた頭痛と同種のものだ。

 脳が情報でやられている……。


「レイジ!?」

「お兄ちゃん!?」

『どうしたのじゃ!?』


 三人が、突然うずくまった俺に心配そうな声を上げる。


「だい、じょうぶ、だ……」


 立ち上がる。

 頭痛は引いていた。


『――まだ、認識してそれほどの時間が経っていないんだな』


 声が響く。

 そしてこの声は……。


(俺にしか聞こえていない、か……)


『――左様。貴殿の持つ才能でしか我らを認識出来ぬ故』


「……そう、か」

「レイジ!? ちょっと、だれと話してるの!?」

「お兄ちゃん、おかしくなっちゃったなの?」

『……レイジ、なにかおる、のじゃな?』

「あぁ、正面、20m先くらいに、白い騎士が、居る。……見える」


『――なァに、そんなに身構えんなよ。直ぐにどうこうしようってワケじゃねぇやな』


 きっと先ほどから話しかけてきてるのはあの目の前の騎士だ。

 口調が、聞こえる声が、ころころと変わる。

 同時に何人もの人間の声が頭に響いてくるようだ。混乱する。


「白い騎士なんて見えないわよ!?」

「お兄ちゃん……?」

「どうやら、俺にしか見えないらしい。声も、俺にしか聞こえないみたいだ。……大丈夫。問答無用で襲いかかってくるってワケじゃないみたいだ」


 すこし話してみる、と心配する二人を背後に下がらせて、俺は白い騎士と対話を試みる。


『――そうね。理解してもらえたようで何よりよ。私達は、あなたのような力を持つ人が訪れるのを、ここでずっと待っていたの』


「――『根源たましい魔法』」


『――そう。儂らと同じ力。そなたのソレは……ちと規格外、じゃがのぅ』


「待っていた、って言ったか? ……あんた、一体何なんだ?」


『――僕たちは人族の魂の集積体。輪廻の輪から自ら離れて、僕たちは今ここにいる』


「魂の、集積体……? なん、だそれ……。輪廻の輪……?」


 意味が分からない。

 頭痛がぶり返す。

 噛み殺して問う。


『――生物の魂は天に昇る。天に昇らずに地上に残った者たちの魂が寄り集まって出来たのが我々。根源の魔法の才を持つ者だけが、理から外れる』


「ッ……ぐ……つま、り……『根源たましい魔法』の才能を持つ、人族が死んだあと、天に昇らずに地上に残った結果、があんた……達、なのか?」


 頭痛がひどい。


『――そういうこったなァ。そして、俺達ぁ、待ってたんだよ』


「何を……」


『――魂の呪縛を解き放てる者。人族われわれ根源たましいに触れ。その情報を書き換えることのできる者』


「俺の、『根源たましい魔法』の才能、のこと、か……」


『――然り。聖人おまえの到着を、待っていた』


「なん、のために……」


『――――平和』


 簡潔な返答。

 だが、それだけで十分に伝わってきた。

 嘘も誤魔化しもない。

 本当に、ただ、それだけのために、彼らはここで待っていたのだ。

 それが、何故だか理解出来た。


「――……あぁ……」


 頷きを返す。

 わかった、と。



『――じゃあ、試そう』

『――では、試そう』

『――試しを』

『――試練、ね』

『――さァ』

『――見せてくれ』

『――教えてくれ』

『――お前の』

『――キミの』

『――あなたの』


『――平和への想いを』



 腰から光り輝く剣を引き抜く、白い騎士。

 すらり、と音もなく騎士が剣を構える。

 正眼の構え。

 淀みも、隙も無い。

 美しいとさえ感じるその立ち姿。

 フルプレートの兜のその奥、表情はうかがい知れない。



 ――解る。

 あの騎士は俺を殺せる。

 吸血鬼の肉体なんて関係ない。

 斬られれば死ぬ。

 魂ごと、俺は死ぬ。


 ――ああ、解る。

 彼らは、何よりも平和を渇望している。

 切ないまでの切望を感じる。


 ――解るのだ。

 何故だかはわからないけれど、解るのだ。

 彼らは、俺に証明して欲しいんだ。

 俺に平和それを託す価値があるのかどうか。


 すぅ、と息を吸う。

 頭痛はいつの間にか引いている。


「――……分かった」


「ちょ、レイジ!?」

「お兄ちゃん、どうしたの?」


「二人とも、見ていてくれ。アリスも」

『うむ』


 アリスが、俺の影から抜け出して、背後に歩いてゆく。


「勝つのじゃ、レイジ」

「――あぁ」


『――好き哉』


「ふぅ――……」


 構えをとる。

 いつもの構え。

 半身になる。

 右手を前に、脚を開いて、左手は胸の前。

 拳は作らない。軽く握り、重心は腹の下。


『――我らは、人族の集合知』

「……吸血鬼、アリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルトが眷属、キリバレイジ」


 名乗る。


『――いざ』

「――……勝負!」


 俺と騎士が、同時に地を蹴った。

明日も同じ時間に投稿です。

1章もあと数話です。最後まで、お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。


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