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34 迷宮探索Ⅺ

 ――人の迷宮第八十(?)層――


 目を開けると、そこは闘技場のような場所だった。

 円形のステージが中心に、観客席のようなものがそれをぐるりと囲っている。


 当然というか、観客は一人もいない。


 空には太陽が輝いている。

 久々の日光に、目がくらんだ。


「……闘えって言われているような場所だな」

「そうね……」


 きっと"そこ"から出てくるのだろう。

 俺たちの正面には、入場門のようなものが設えられている。

 鉄の柵に隔てられたその向こうには――


「オーガ、だな」

「そうね。……まぁ、サイズが尋常じゃないけど」


 柵の向こうでおとなしくその扉が上がるのを待っている巨大なオーガが鎮座していた。


 ガチャン、と柵がゆっくりと上がる。


「どうする?柵ごと吹き飛ばす?」


 既にレイリィは、地面を足先で叩き、杖を出現させていた。


「いや、ここは俺がやる。……レイリィたちは下がっていてくれ」


 ガチンと両手の籠手ガントレットをかち合わせる。


「ん、そう。まぁ……助かるわ。"アレ"、あまり使いすぎると死ぬの」

「死ぬの!?」


 けろりと言って、レイリィがミリィを伴って舞台から降りる。


「そりゃそうなのじゃ。肉体に内包する魔力が完全に0になったら生物は死ぬのじゃ」

「撃つ度に死ぬかもしれないリスクあるのかよ……」


 俺たちを信じてくれたから見せたのだとか恥ずかしいこと考えちゃってたよ。

 撃ったら死ぬ可能性ある『スキル』とか撃ちたくないに決まってる。

 ほっ、と短い掛け声を上げて、アリスも舞台から飛び降りる。


「わしも見てるのじゃ。がんばるのじゃレイジー」

「お、おう……」


 なんとなく複雑な気分だが、俺は気を取り直して、上がりきった鉄柵をみる。

 のっそり、とオーガが進み出る。

 そういう風にコントロールされているのか、舞台の下にいる3人には目もくれず、一直線に俺に向かってズンズンと歩いてきた。


(でかい……)


 今まで迷宮で見て来たどの個体よりもでかい。

 3倍、ほどはあるだろうか。ミノタウロスよりもでかい。

 そして――


 ――グゥオオオオオオ!!――


 吼えるオーガ。

 腰に下げた蛮刀を引き抜き、叩きつけるようにして振るう。


「ッ!」


 地面を転がって躱す。

 鉄の塊が舞台を砕き、礫が飛び散った。

 食らったらぺしゃんこだろう。

 即座にに立ち上がって、オーガの足元に駆ける。

 勢いをつけて、跳び蹴りをかます。


「なっ!?」


 ひょい、と足を上げて俺の飛び蹴りを躱すオーガ。

 思ったより素早い。総身に知恵が回りかね、ってわけではないようだ。

 からぶった勢いですっころぶが、ごろごろと受け身をとって立ち上がる。

 考えを改めて、構えをとり、オーガを見つめる。

 見てみると、存外理知的な瞳が、俺を見つめ返してきていた。


「ふぅ――……」


 気合を入れ直す。

 デカいだけの敵だとは思わないほうがいい。


 雰囲気の違いを察したのか、オーガも構えをとる。

 剣道でいう正眼の構え。


 戦闘において質量とはすなわち力だ。

 腕でも足でも、単に重くて大きいものは強い。

 そして相対的に速い。

 俺の何倍もある巨体を見つめ、どう攻めるか考える。


 魔力を全身に通す。


「――……」


 ぴくり、とオーガの腕が動いた――瞬間、疾駆する。


「――ッッ!」


 踏み込んだ瞬間、地面にクレーターが出来る。

 一瞬後、俺はその場にいない。

 ――が、オーガの視線は、雷のように駆ける俺をしっかりと追いかけていた。


 刀が振るわれる。

 正眼の構えから唐竹割。

 威力も技術も籠った、凄まじい一撃。

 真っ直ぐに向かう俺の脳天をたたき割るに十分足るその一撃を、走り抜ける速度だけで躱す。

 無理やり足を振り上げて、オーガの右手首をり落とした。

 魔力を込めた足刀。

 オーガの瞳が驚きに見開かれる。

 そのままバク中の要領で跳び上がった。

 追いすがってくる、片手で振るわれた蛮刀を空気を蹴りつけることで跳んで躱し、体を捻って遠心力をつける。


「――はァッッ!」


 俺の胴の何倍あるか――太い首を一息で足刀で、撥ね飛ばした。

 着地、残心。


 ズズン、とオーガの巨体が舞台に沈むのを横目で確認して、残心を解いた。


「……ふぅ」


 オーガの体が光になって天に昇ってゆく。


「お疲れ様」

「お兄ちゃんかっこよかったの!」

「なかなかじゃったの」


 皆が舞台に上がってくる。


「一瞬だったわね」

「ん、あぁ……。巨体との戦いも慣れて来たかもしれない。頭を狙うのが一番だな」

「まぁ一対一でレイジに勝てるものはそうそうおらんのじゃ」


 うんうん、と腕を組んでアリスが頷く。

 結構評価されてるらしい。


「正直あんなでかいのとステゴロで肉弾戦とかしたくないけどな……」


 あの蛮刀とか籠手で受けたら腕ごと持ってかれそうだし……。

 オーガが斃れた辺りを見る。


 オーガの装備の上に白い球がふわふわと浮いていた。


「どうやら敵はアイツだけみたいだな。……いこう。あと2回だ」


 球に触れた。



 ――人の迷宮第八十一(?)層――


 そうして、俺たちは暗く狭い通路に帰ってくる。

 やれやれ、と息を吐いて、その場に座り込んだ。


「ふぅ……」

「ん、疲れたのじゃ?」


 ミリィがさくさくと野営の準備を始め、レイリィがそれを手伝おうとして失敗して拗ねて隅に座り込んだ。


「……ん、そうだな。一瞬の応酬でも、神経を使った」

「えてして強者同士の戦いとはそういうものなのじゃ。一瞬で勝負が決まるし、その一瞬に全てを使うのじゃ」


 魔力も、精神力も。

 そう言って、アリスが俺の隣に座り込んだ。


「ん、どうした?影に戻らないのか?」

「たまにはいいじゃろ。……おぬしの影の中窮屈なのじゃ」

「前も言ってたな……。ていうかそれならずっと外に居たらいいじゃないか」

「ん……まぁ、そうじゃな」


 曖昧に返事をして、アリスがこてん、と俺の肩に頭を預ける。


「……どうした?」


 ドギマギしてしまう。

 ……暫く風呂にも入っていないのにどうしてアリスはこんなにいい匂いがするのだろうか。


「……ど、どうした……」


 だんまりなままのアリスに、さらにドギマギしてしまう。

 黙られると困る。


「……以前、レイジは姉がおると言っておったのじゃ」


 ややあって、アリスが口を開く。

 その言葉は俺にとって、意外なものだった。


「ん……言ったか?」


 言ったかもしれないし、言ってないかもしれない。


「言っていたのじゃ」

「そうか。ん、まぁ姉は居る……っていうか、いた、だな」

「ん……」


 そう言って先を促すアリス。


「……3年前かな。行方不明になったよ」

「……行方不明?」

「うん。学校の帰りにな。突然だった」


 当時を思い返す。

 慌てふためく両親に、心が付いていかなかった俺。

 どうしたらいいのか、何をしたらいいのかわからないままに過ぎていく時間。

 3年経ってやっと俺たちも姉のことを受け入れられたくらいの時期に……。


「俺も、向こうではそういう扱いになってるのかも、な」


 俺は、この世界に来てしまった。


「……そうかも、しれぬな」

「……ま、なったものは仕方ない。姉のことも、俺のこともな。両親には……そりゃ、悪いことをしたとは思うけど。……そうだな。全部終わったら……帰れないにしても、メッセージくらいは送りたいな。こっちで元気にやってるよ、って」


 そんな方法があるのであれば、だが。


「……どんな姉だったのじゃ?」

「んー……そうだな」


 よく言えば天真爛漫……悪く言えばただのバカ……だった気がする。

 良くも悪くも明るい姉だった。

 あと、俺の作るオムレツが好きだった。


「……はは」

「? なんじゃ?」

「いや、どことなく、いや、見た目とかはまったくなんだが」


 姉は典型的な日本人の見た目をしていたし、体系なんかも年相応――失踪当時は17歳――だったと思うから、なんでそんな風に思うのかはわからないが。


「……どことなく、アリスに似てるかも、しれないな」

「――……そうか」

「ん」

「……姉の、名前は?」

「姉ちゃんの名前?カエデだよ。キリバ カエデ」

「――――……そう、か」


 ぴくり、とアリスの体が動いた。

 俺の方からは頭の上しか見えないから、アリスがどんな表情をしているのかはわからない、が。


「どうした……?」


 なんでか、アリスが、すごく悲しい顔をしてるんじゃないか、そう思ったのは、なぜだろう。


「ん、なんでもないのじゃ」


 そう言ってアリスが立ち上がる。

 その表情は、いつもの彼女の表情だった。



――――――



 ――人の迷宮第八十九(?)層――


 あれから一日時間をおいて、俺たちは再び迷宮を進んだ。

 階段を9つ降りて、到達したのは89層。

 目の前には例によって、光球が浮かんでいる。

 これに触れれば次は90層だ。


 最奥が、近い。


「――行こう」


 球に触れ、俺たちは90層の試練に向かう。

いつも拝読ありがとうございます。

今日は2話投稿でした。


明日も20時から1話投稿の予定です。


気に入っていただけましたら、ブックマーク、評価など、よろしくお願いいたします。

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