31 理由
予約投稿を忘れてこの時間になってしまいました……なにやってるんだ俺……。
――人の迷宮第???層――
発光が収まり、俺の足にしっかりと地面の感触が伝わる。
「ん……なるほどな」
目の前の光景を見て呟く。
暗い通路に俺たちは立っていた。
――――――
「多分、ボスラッシュだ」
休憩がてら、俺たちは通路で焚火を囲んでいた。
飽きに飽きた干し肉を食らいながら俺が言う。
「ぼす、らっしゅ?」
こてり、と首をかしげてミリィが言う。
口にくわえられた干し肉がぷらん、と揺れた。
「んー……基準は分からないけど、強い魔物が10階層ごとに配置されてるんだと思う」
通路の先を見て言う。
いかにもなRPG的仕掛けだ。
日本人が考えそうなことである。
「と、いうことは、ここは61層ってことになるのかしら」
「多分、な」
59層で球触れ、草原に飛ばされ、草原で球に触れ、ここに飛ばされた、ということはそういうことになるのだろう。
「つまり、この真っ直ぐの通路が10層分は続くはずだ。50から59層までと同じで」
「なるほどね。まぁ下手にいろいろな仕掛けをされるよりも楽といえば楽だけど」
「いや、ゴブリンキングと同じような強さの敵があと4体は居るって考えると楽ではない気がするんだけど……」
正直不死身じゃなければ殺されてた気がする。
いや、アリスが何とかしたかもしれないけど。
「でも勝ったじゃない」
「お兄ちゃんとお姉ちゃん強かったの!」
うんうん、とミリィが頷く。
干し肉がぷらぷらと揺れる。はやく食べちゃいなさい、はしたない。
「いや、不死身じゃなかったらヤバかったぞ……。それに、ゴブリンキングの持っていた剣が聖銀製とかだったら死んでたし」
「聖銀?」
再度首をかしげるミリィ。
「ん、吸血鬼は聖銀が弱点なんだそうだ。……だよな、アリス?」
「ん、そうじゃな。吸血鬼を殺せるのはミスリルと、強い聖の力じゃ。あとは、同種の力じゃな」
干し肉を食いちぎってアリス。
咥えっぱなしもアレだが、そんな豪快に食べられるのもなんだかなあ……。
て、いうか……
「同種? 初耳だぞそれ」
「ん、いっておらなんだか。吸血鬼の魔力なら吸血鬼を害せるのじゃ。ま、吸血鬼はわしら二人しかおらんから、わしらが殺し合いでもせぬ限り関係のない話じゃが」
その場合、殺し合いじゃなくて俺が一方的にアリスに殺されるだけだと思う。
「だから、あの魔物達が聖銀で武装とかしてたら普通に殺されてたと思う」
結構危ないシーンもあったしな。
「当たらなければ問題ないのじゃ」
「そりゃアリスはそうでしょうけども……」
俺は全方位から突き出される槍を避けながら飛んでくる矢を叩き落すなんて芸当出来ないのだ。
何発かは食らってしまう。
「だからまぁ、聖銀とか聖力とかを持った魔物が出てこないのを祈るのみだ」
……あれ? 今、俺フラグ立てなかったか……?
――――――
夜――と言っていいはずだ。
暗い迷宮の通路、昼夜の感覚はないが、体は眠りを欲するし、体感時間的にも夜半だろう。
ミリィはテントの中ですやすやと眠っているし、アリスは俺の影に引っ込んだ。
今はレイリィと俺で何をするでもなく焚火の前でぼんやりと座っている。
「レイリィ、寝ててもいいぞ? この通路では魔物は出ないだろうし」
「ん、大丈夫よ。レイジこそ寝ても構わないわよ?」
「んー、俺も大丈夫……っていうか今日の戦いで神経が高ぶってるみたいだ。寝られる気がしない」
「そう」
パチパチと火種が弾ける音を聞きながら、ふと思ったことをレイリィに尋ねてみる。
「なぁ、レイリィ」
「なに?」
「レイリィはどうして俺に協力してくれるんだ?」
「ふふ、どうしたの、急に」
「いや……確かに今まで大した危険はなかった、かもしれないけど。迷宮に入る前には俺の実力なんて知らなかっただろうし、そもそもレイリィがこんなところまでついてくる必要はなかったんじゃないか? ……王女だし」
危ないだろう。単純に。
「それに、探索は一週間っていう申請を出してここに来てるんだろ? つまり……」
「ん、そうね。もう捜索隊が迷宮に入ってる頃でしょうね」
「……そこまでする理由……っていうか」
一国の王女が迷宮に入って行方不明、だ。大事だろう。
捜索する人たちも全く身の危険が無いってわけでもないだろう。
魔物に襲われて怪我や……もしかしたら、死ぬ人間もいるかもしれない。
「そこまでのリスクをおかして、俺を手伝う理由が知りたい」
「……そうね。アレックスも言っていたけど、命を救われたっていうのが理由のひとつ」
「いや、それは……あの時は、別にアリスも二人を殺すつもりはなかった……と思うぞ」
最初からそうするつもりなら、そう出来る。
アリスはそのくらい隔絶した強さを持っている。
勇者と比べても、多分その差は埋まらない。
「……そうね。わたしも今はそう思うわ」
くるくるとツインテールの毛先を指で遊ばせながらレイリィが言う。
「……まぁ、それは口実ね。単純に迷宮の最奥に興味があったのがひとつ。割と好奇心が強いのよ、わたし」
にへら、と緩い笑みを浮かべるレイリィ。
「ふたつめは、監視」
「監視……?」
「えぇ。あなた……いえ、どちらかといえばアリシアのね」
「ああ……」
なるほど、と思う。
でもそれなら、尚更。
「俺たちをここに入れなければ監視も必要ない……ことないか?」
「えぇ、そうね。……みっつめ。これが一番大きくて、わたしにとって一番大事な理由よ」
「ん」
「……あなたの作る平和が見たい」
「……え?」
「あなたは平和の為に迷宮に潜ると言った。それが使命だからと。……だから、それを信じようと思った。そして、あなたが作る平和の為にわたしが出来ることがこれだった。それだけよ」
そういってふい、とそっぽを向くレイリィ。
「……今まで」
「ん?」
「平和って言葉の意味が分かる人、わたしの周りに居なかったのよ。わたしが当たり前に持っている感覚が……つまり、平和を願う気持ちが、他の人たちにはない。……理解すらしてもらえない」
すこし拗ねたような口調でレイリィが言う。
ざ、とつま先で迷宮の床を蹴る。
「あの普段は温厚なアレックスですら、他種族を殺せ、なんていう命令を何の違和感もなく受け入れる。実行する。……なんの利が無くてもね」
異常よ、と口の中で呟いてレイリィが憎々しげにもう一度つま先で床を蹴った。
「レイジが言っていた、魂のロック。それが本当にあるのだとして、レイジがそれを何とか出来るっていうのなら、わたしは、わたしのすべてを以って、あなたの力になるわ。……そういうことよ」
「……つまり、レイリィは平和を願ってる、ってことなんだな」
「そうよ。無意味な争いなんて、なくなったほうがいいに決まってる。みんながそれをきちんと認識できるようになるのなら、それはいいことだわ」
「そっか……」
「……レイジは?」
「ん?」
「あなたはこの世界の人間じゃないんでしょう? 冷たい言い方だけれど、正直あなたには関係ない話じゃないの? それこそ……元の世界に帰る方法とか探したほうがあなたにとって有意義なんじゃないの?」
「……そうだな……」
元の世界に帰る、か。
こっちに来てから、それを全く考えたことが無かったことに気が付いた。
なぜだろう。
「自分でもわからないな。最初、どうして俺が平和の為に何かしようと思ったのか」
義務感、だった気がする。
死んで、女神に転生させるといわれて、異世界に放り出された。
だから、俺は世界を救わねばならないのだと。
浮かれていた、のかもしれない。
俺にしかない力で、俺にしか出来ないやり方で――。
特別だと言われた。その言葉を、疑いもせず、疑問すら持たず。どうして俺はこんなところに来たのか。
「でも……そうだな……正義感、かな」
「正義感?」
「うん」
闘争だけが目的の闘争を繰り返す世界。
そんなことは間違っている。
そんな、"間違い"を正したい。
それが、俺にしか出来ないことなら、俺がやる。
父を殺された少女が居る。
その力を闘争の為だけにしか使わない、人のいい少年が居る。
誰にも理解されず、けれど平和を願うレイリィが居る。
「まぁ、もしかしたら、俺の価値観の押し付けでしかないのかもしれないけどさ」
それでも救いたいと思う。
だからこれはきっと正義感だ。
もし、元の世界に帰れる方法があるんだとして、俺は俺のやりたいことをやってからでも、それを探すのは遅くないと思った。
「……ふふ。あなた、やっぱり『聖人様』なのね」
そういって、レイリィが笑う。
「そんな大したもんじゃないよ」
俺も苦笑いを返した。
――――――
翌朝。
……寝て起きたから朝だ。
迷宮は真っ暗だが。
「さぁ、行こう。ここからも真っ直ぐだから……まぁ、すぐ70層には着くだろうけど」
「えぇ。問題は70層の魔物ね」
『どうしても無理だったらわしが助けてやるのじゃ』
(心強いよ)
本当に。
準備を整えて、俺たちは出発した。
明日こそは20時に一話投稿です!!!!もう予約しました!!!今度は間違いない!!