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30 迷宮探索Ⅷ

 向かってくる敵の悉くを叩き潰し、蹴り砕き、どれほど経ったか。

 いくら今までのゴブリンとは違うとはいえ、俺とアリスは不死身。

 懐まで踏み込まれ、隊列を崩されたゴブリン達は、先ほどまでのような組織だった連携をとれず、ひたすら愚直に武器を繰り出すしかない。

 いくら攻撃をしようが斃れず、ひたすらに暴力を振りまく俺達二人を前に、ゴブリン達は徐々にその数を減らしてゆく。

 弓兵は既に壊滅。

 盾隊も隊列を組めない以上動きの遅いまとに過ぎない。


 気づけばゴブリン達は100匹ほどに数を減じていた。


 俺は返り血にまみれ、矢や槍がそこら中に刺さったまま戦っているが、アリスは返り血の一滴すら浴びていない。

 迷宮では弱いとはなんだったのか。


 アリスの紅い槍が閃く。


 喉を突かれたゴブリンが絶命し、薙ぎ払うようにして振り払われた槍で首を撥ねられたゴブリンが、やはり絶命した。

 自分の背丈よりも長い槍をまるで手足のように操るアリス。

 繰り出される攻撃を踊るようなステップで躱し、お返しとばかりに繰り出す攻撃はすべてが必殺。

 突き、薙ぎ、叩きつけて死体の山を築き上げる。


 恐るべきはその身体能力。

 アリスからは魔力を使っている様子を微塵も感じない。

 つまり、すべてを持ち前の身体能力だけで行っているのだ。


 深紅の残光を描き、槍が振るわれる。

 アリスを狙い、四方から同時に突き出されたゴブリン達の槍をただの一振りで同時に打ち払う。

 距離を詰めてがら空きになったゴブリンの胴に回し蹴りを叩き込む。

 吹き飛び、折り重なって倒れ込むゴブリン。


「いい連携なのじゃ、レイジ」

「いや、アリス強すぎだから。魔法使えなくても十分強いじゃないか」

「そりゃそうじゃ。その辺の生き物とは格が違うのじゃ」


 倒れたゴブリンにとどめを刺しながらアリスが楽しそうに笑う。

 そして頬に飛び散った返り血を舌でペロリと舐めとると、


「それ、道を作ってやるのじゃ。レイジが奥のアレを倒すのじゃ」


 どこか間延びした口調でそう言って、落ちている盾を足先で蹴り上げ――


「どっせーい!」


 槍をフルスイングして盾を撃ち出した。


「何その力わざッ!?」


 撃ち出された盾はギロチンのようにゴブリン達の首を撥ね飛ばしながら、真っ直ぐにゴブリンキングに向かって飛んでゆく。

 ゴブリンキングは腰の剣を引き抜くと――


「うそだろおい……」


 盾を真っ二つに切り裂いた。


「それ、行くのじゃレイジ」

「えぇ、アレ凄い強そうなんだけど……」

「大丈夫なのじゃ。勝てる勝てる」


 何を根拠に……。

 割れた隊列をゴブリン達が埋めようと動き始める。

 せっかく作ってくれた道だ、仕方ない……。


「くっそー! 負けそうだったら助けてくれよ!?」


 泣き言を言いながら地を蹴って走り出す。

 横合いから突きこまれる槍を足場にして跳び、一気にゴブリンキングに肉薄する。

 頭上から手刀を振り下ろす。

 ガチンッ! と籠手ガントレットと掲げられた剣が噛み合い、金属のぶつかる音が響いた。

 振り払われる力を利用して後ろに跳び、着地と同時に地を蹴って空いた胴に貫手を突き出す。

 半身になって躱し、遠心力を乗せた剣閃を俺の首に伸ばすゴブリンキング。

 腕を上げて籠手ガントレットで防ぎ、ぐるりと体を回転させて肘撃ちを叩き込む、が


「浅い……!」


 体制が不安定だったせいか、俺の肘撃ちは相手の胸当てを砕くにとどまった。

 剣を構え直し、上段からの唐竹割り。

 凄まじい速度で剣が迫る。

 手首に掌底を当て、逸らしながら体を半身にして躱す、が、くるりと手首が返りそのまま横薙ぎに俺の胴を断たんとする。


「くっ!」


 バックステップを踏んで躱す。

 浅く腹が切り裂かれて鋭い痛みが走る。

 追撃の突きが、顔面を狙って放たれた。

 脚を引いて体を強引に回し回避。その勢いのまま、顔面を狙った回し蹴り。

 腕で防がれる。相手の防具ごと腕を砕いた。骨が砕ける感触が足に伝わる。

 だが、ゴブリンキングはひるまず、逆手に持ち替えた剣で俺の首を狙う。

 躱しきれない。

 一歩踏み込んで肩で受ける。半ばまで刃が届き鮮血が散る。


「ぐぅぅッ!ぁあッ!」


 痛みを吼えることで誤魔化し、もう一歩踏み込む。

 背中全体をぶつけ、地面を踏みしめ魔力を流す。

 壊れかけていた胸当てが砕け散った。

 たたらを踏むゴブリンキング。


 追撃のチャンス。


 即座に踏み込んで、顔面に技術も何もないストレートパンチを叩き込む。

 兜が砕け散り、ギョロついた瞳と、緑色の肌を露出させるゴブリンキング。

 左腕を振り上げる。顎を狙ったアッパーカットだ。

 スウェーで躱される。開いた胴を狙うように掬い上げるような一閃が迫る。


「ふッ!」


 それを、脇を閉じ、肘と脇腹で挟み取る。

 驚きに目を見開くゴブリンキング。

 右足を一歩踏み込んで、捻りを加えた掌底をがら空きの横っ腹に叩き込む。

 魔力を纏わせた渾身の一撃、だが。


「!?」


 ゴブリンキングは咄嗟に剣を手放し、後ろに跳ぶことで衝撃を殺し、必殺の筈の一撃に耐えた。

 口から血が噴き出し、ガクリと膝をつくゴブリンキング。

 一撃必殺とはいかなかったが、恐らく致命傷、だが。


 ――ガァアッッ!――


 吼えながら地を蹴り、振りかぶった爪で襲い掛かってくる。


「ぐっ!?」


 油断した。

 躱しきれず、右肩から左脇にかけて、ざっくりと爪で引き裂かれた。

 脚を振り上げて、膝を胴体に叩き込み、流れるように背中に肘撃ち。

 膝と肘で胴体を挟むような恰好だ。

 同時に上下から流し込んだ魔力が行き場をなくし、ゴブリンキングの体内で爆ぜた。


 ――ガ、ハ……――


 と、最後に大きく咳き込んで血を吐くと、ゴブリンキングは息絶えた。


「……」


 どさり、とゴブリンキングの死体が地面に落ち……。


「な、んで……」


 サラサラと光の粒子になり、天に昇ってゆく。


 ――ギィイ!!!――


 それを唖然と見送るゴブリン達。

 しばしの沈黙が流る。


 混乱の中、俺は残心を解き、構えをとる。

 とにかく、今は残りのゴブリンを……。

 そう思っていると、ゴブリンたちが各々の武器を構え――



 ――ギィイイイイイ!!――



 一斉に叫び、自分たちに突き刺した。


「なっ!?」


 自害!? なんで!?

 次々と自害してゆくゴブリン達。


「王が負けたからの。王を戴く魔物の群れは王が死ぬと後を追うようにして自害するのじゃ」

「……そういう、もの、なのか?」

「そうじゃ」

「……そうか。……アリス、ゴブリンキングの死骸が……」

「ん?」


 辺りを見回す。

 自害したゴブリン達の死骸は天に消えずそのまま残っている。

 ゴブリンキングが斃れた場所を見る、と装備品だけが残り、その死骸はきれいさっぱり消えている。


「こっちの……人間、みたいに消えたぞ」

「前にも言ったのじゃ。魂に集積した情報が多ければ魂は天に昇るのじゃ。それは魔物だろうが人間だろうが変わらん」


 槍を『収納空間ポケット』に仕舞うアリス。


「ゴブリンキングは知性がある魔物じゃ。当然魂に集積された情報はその辺の魔物の比ではない。……知性がある生き物を殺すことに抵抗があるのじゃ?」

「……いや。こうするしかなかったことは分かるし……あいつも、死力を尽くして戦った結果なんだ。そこにどうこうは、ないよ」


 ……そう。あの最後の一撃。

 自分が死ぬとわかっていて、それでもなお、折れずに立ち向かってきたゴブリンキングに俺は何かを感じたのだ。


 それが何なのかは、言葉に出来そうになかった。


「レイリィ、ミリィ、終わったぞー」

土障壁ストーンウォール』が解除され、障壁が土くれに戻る。


 周囲には夥しい数の矢が転がっている。


「はぁー……よかった。ゴブリンキング、倒せたのね」

「あぁ。かなり強かった」

「……矢、抜いたら?」

「お兄ちゃん痛くないなの……?」

「お? おぉ……!? 痛いぞ……」


 体のいたるところに矢が刺さったままだった。

 緊張感で痛みを忘れていたが、それに気づくと急に痛みがぶり返してきた。

 突き刺さっている矢を引き抜く。

 即座に肉体の治癒が始まり、傷が塞がった。


「凄いわね。吸血鬼って……」


 うへぇ、と痛そうに顔を歪めてレイリィが言う。


「すぐ治っちゃうなの」


 ぺたぺたと傷のあった部分を触りながらミリィ。


「たとえ真っ二つになってても死なんのじゃ」

「あんまり真っ二つとかにはなりたくないけどな……」

「私もあまり見たくはないわね……」

「ねぇねぇお兄ちゃん」


 と、その時ミリィが声を上げた。


「うん? どうした?」

「さっきの光があるなの」


 と、ミリィが指さした先には、草原ここに飛ばされた時に触れたものと同じような光の球がふわふわと浮かんでいた。


「……どうやら、ゴブリンキングを倒したから先に進めってことみたいだな」

「そうみたいね」

「だから言ったのじゃ」


 そう言いながらよいしょ、と俺の影に潜り込むアリス。


『疲れたから寝るのじゃー』


(はいはい)


 と、心の中で返事をして。


「さて、行くか」


 そう言って俺は浮遊する光の球に指先で触れた。

明日も同じ時間に1話更新の予定です。


そろそろ迷宮探索も佳境です。

同時に一章も終わりが見えてきました。


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