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28 迷宮探索Ⅵ

 扉を抜け、俺たちは迷宮探索を再開する。


 背後を見ると、俺たちがくぐってきた扉が光の粒になり、消失していくところだった。

 扉のあった場所には魔力の輝きを放つ壁。それ以外には何もない。


「き、消えちゃったなの!?」

「……これ、帰り、どうするの?」

「いや、多分最下層まで行けば……大丈夫だと思う」


 ……だよな、優斗?


 ――人の迷宮第五十一層――


 これまでの迷宮とは打って変わり、そこは真っ直ぐに狭い通路が続く階層だった。

 周囲の壁なども特に資源になっているわけではないようだ。冷たい石畳が延々と続いている。


「随分雰囲気が変わったわね」


 こつこつと、俺たちの靴が石畳を叩く音だけが響く。

 道は、真っ直ぐ前にだけ続いている。


「まるで迷宮じゃないみたいだわ」

「いや、どっちかって言ったら、俺はこっちのほうが迷宮って感じがする」

「へぇ? そうなの?」


 先ほどから時折俺の様子をちらちらと伺ってくるレイリィ。

 ……まぁ、さっき俺が気絶している間、何があったのかを訊きたいのだろう。


「さて、と……んんっ!」


 『遠見』を放って、周囲に魔物の反応が無いことを確認し、俺は咳ばらいをする。


「さっき、あの小部屋で何があったか。それを3人に話そうと思う」

「えぇ。聞かせてもらうわ」


「まず……そうだな、俺のことから話さないと駄目だな」


 そして俺は語る。


 ――俺はな、この世界の人間じゃないんだ。

 異世界……で伝わるのかな。この世界とはちょっと違う世界から来た。

 俺の元居た世界に魔法は無いし、魔物もいない。もちろん吸血鬼もな。

 神様も、魔族も、女神も、魂の存在だってあやふやだ。

 その代わり、科学技術が進歩してた。

 こっちにも機械都市なんてものがあるんだから、機械の類はあるんだろうけど、多分ずっともっと進化した技術だ。

 まぁ……つまり、俺はそんな世界から来た。

 俺には両親と姉が一人いて……って、これは関係ないか。話をすすめよう。

 とにかく、だ。俺はそっちの世界……そうだな、日本っていう国なんだけど。そこで死んで……多分死んだんだけど。その辺りもあやふやだ。

 こっちの世界に転生させられた。女神の加護付でな。

 世界を救えって、そう言われてさ。

 目が覚めたら、シュタインフェルト城の森に立ってた。

 そこで狼みたいな獣に殺されかけたところを……アリスに救われた。血を分けて吸血鬼にすることで、アリスは俺の命を救った。

 ……ま、手違いだったみたいだけどな。


 ――えぇと、そこからは、勇者が城に攻めてきて……ってまぁ、レイリィも知っての通りだ。

 なんやかんやがあって、今この迷宮を探索してる。

 ……で、この迷宮を造ったのは、俺と同郷……つまり、俺と同じように異世界に転生してきた日本人だ。名前はユウト。聖人ユウト、ってわけだな。

 さっきあの部屋で……あの『聖人の門』をくぐった時、その聖人ユウトと対話した。


 ここまで話すと、思案げに俯いていたレイリィが顔を上げた。


「異世界……ね。随分と常識に疎い人だとは思っていたけれど……」

「ははは……。まぁそんな訳で俺はこの世界に来てまだ2ヶ月くらいしか経ってないわけで」

「まぁ、その辺りのことは分かったわ。……それで、聖人ユウトと対話したって言ってたけれど、あそこにその聖人が居たの?」

「いや、違う。……そうだな。思念体……?みたいなものなんだろうな。ただ、"この迷宮を造った時点の聖人ユウト"の思念体だ」

「……んん、よくわからないなの」

「俺にも原理はよくわからない。まあ、とにかく話が出来たってことだけ知っておいてもらえばいいと思う」

「ふむ」


 いつの間にか、アリスが影から出てきていたようだ。気づかなかった。

 顎に手を当てて思案するように目線を下げている。


「……その"聖人"は迷宮について何と言っていたのじゃ?」

「迷宮について? えぇっと、『無限物質エタニティマター』っていう何かを加工して造ったって言ってたぞ。なにやらヤバい物質らしい。無限に資源を生むとか」

「ふむ。……他には?」

「えぇっと、最奥には『情報端末コンソール』っていうものがあるって言ってたな」

「そうか……。あれは『情報端末コンソール』というのじゃな……。それについては他になんて言っていたのじゃ?」

「俺が持っている才能で、それにアクセスすれば……って、いやまて。今アリス『情報端末コンソール』のこと知っているような口ぶりじゃなかったか?」

「……わしは物知りじゃからの。それも、かなり」

「……聞かないほうがいいことか?」

「……いずれきっちり話すのじゃ。今はレイジの話のほうが重要なのじゃ。わしの話は……そうじゃな。大した話ではないのじゃ」

「そうか。分かった」


 疑問は尽きないが、ここではそれを飲み込む。

 アリスはいずれきっちり話すと言った。

 俺はその"いずれ"を待とう。


「えぇと、そうだな。まず、この世界の住人の魂には『平和』という概念に対してある種のロックがかかっている、らしい」

「ロック……?」

「そうだな。持ってはいるけど、認識できないようにされている、って考えればいいみたいだ」

「……?」


 ミリィは首を傾げっぱなしだ。話について来れていないらしい。


「つまり、誰か……いえ、何かが私たちの魂に干渉して『平和』の意味を分からなくしている、ってことね」

「そういうことだな。それがだれか、なにか、どういう意図があって、ということまでは分からない」

「なるほど、ね」


 得心がいったようにレイリィが頷く。


「それで、そのロックとやらを解除するために今私たちはここにいるってことね」

「え、あ、あぁ、その通りなんだけど、なんでわかった?」

「なんとなく今までの話の流れを聞いていればわかるわ。そのロックの解除に必要なのが、あの解読できない才能なのね?」

「あぁ……凄いな。その通りだ」


 レイリィの魂魄情報ステータスを呼び出す。


 レイシア・ジゼル・ヘイムガルド

 Lv78 人間


【魔法】Lv3★

 【火魔法】Lv3

 【水魔法】Lv3

 【風魔法】Lv3

 【土魔法】Lv3

 【闇魔法】Lv2

 【根源たましい魔法】Lv0


 やっぱり、見える。


「レイリィも同じ才能を持ってる。……【根源たましい魔法】っていうんだけ……」

「ッ!? ……いっ……!」


 言い終わるか言い終わらないか、レイリィが頭を押さえてしゃがみ込んだ。


「レイリィちゃん!?」


 ミリィがレイリィに駆け寄り、肩に触れた。


「ごめん。この才能の名前聞くと情報過多で脳になんかクるらしいんだ……」


 痛みには結構慣れたけど、さっき俺も初めてこの名前聞いた時結構痛かったからな……。


「……いえ……っ、大丈夫よ」


 頭を振ってレイリィが立ち上がる。

 少しふらついている。


「レイリィちゃん、お水なの」

「ん、ありがとう、ミリィ」


 ミリィが差し出した水筒を受け取り、一口水を飲むレイリィ。

 肩を支え、ふらつくレイリィが倒れないようする。


「レイジも、ありがとう……ふぅ……もう平気よ」

「大丈夫か? 少し休もう」

「いえ、進みながら聞くわ。もう何ともないから」

「そうか……? ……まあ、レイリィがそう言うなら」


 そう言って、再び歩き始める。


「それで、その……【根源たましい魔法】……って言うのはどういう才能なの?」


 恐る恐る言葉にし、頭痛が無いことを確認しながらレイリィ。


「いや、具体的には何もわからない。ただ、この才能を持っている人たちは、ある程度魂に対するロックをレジスト出来るみたいだ。……『平和』って言葉の意味が分かったレイリィみたいにな」

「……そういうこと」

「どういう魔法で、どういう作用をするのかはわからない。俺も認識できるようにはなったけど、使えって言われても使えないし」


 レイリィはどうだ? と目で尋ねる。

 少しの間目を瞑って、なにかをしようとしていたレイリィだが


「いえ、駄目ね。特に何もできそうにないわ」

 そう言って、首を振った。


「普通の魔法とは少し違うのじゃろな。わしもそんな名前の魔法はきいたことがないのじゃ」

「たましい魔法っていうくらいだ。魂の何かに関する魔法なんだろ。ユウトはアクセスがどうとか言ってた」

「魂に干渉……ね。それが本当に出来るんだったら……」


 とてつもない力よ――それこそ、世界を揺るがしかねないほどの。


 そう呟いて、レイリィは前を向く。


「話は分かったわ。とにかく、最奥を目指しましょ。後戻りもできないみたいだし」


 そう言って背後を見る。

 闇が、真っ直ぐと奥に続いている。


「あぁ。そうしよう」


 俺は前を向く。

 言葉少なに、俺たちは再び歩き出した。


 ――人の迷宮第五十二層――


 短い階段を下り、再び狭い通路が現れる。

 道は真っ直ぐで、闇は深い。


「なにも、ないわね」

「あぁ……」

「地図作る必要が無いなの」


 何もなかった。まっすぐに続く道。

 石の壁、石の道。

 俺たちはたいまつを片手に、ひたすら真っ直ぐに進む。


 ――人の迷宮第五十五層――


 55層、の筈だ。

 あれから2つ階段を下った。

 魔物は現れない。


「ここまで何もないと、実は迷ってるんじゃないかって不安になるな」

「えぇ、そうね……でも、道は真っ直ぐだし……『炎よ』――『炎爆フレイムボム』」


 どかん、と壁を爆破するレイリィ。

 大穴が開いて、すぐさま修復された。


「この向こう側に何かがあるわけでもないみたい」


 何度も試した。殴ったり蹴ったり爆破したり……。

 でもなにもない。

 真っ直ぐ続く道を進むしかない。


 ――人の迷宮第五十九層――


 変化は突然だった。


「っ!」


 ここは59層……の筈だ。

 真っ直ぐ続く通路の奥、そこに光が見える。

 レイリィが急に差した光に、まぶしそうに眼を細めた。


「なにか、あるな」

「えぇ……念のため、戦闘態勢を」

「了解」


 『遠見』を飛ばすが、反応はない。


「ミリィ、俺の後ろに」

「はいなの!」


 盾を構え、俺の後ろに下がるミリィ。


 それは通路の行き止まり、そこにふわふわと浮く光の球だった。

 地面から1mほどの場所を、30センチほどの光の球が浮いている。

 見回す。

 行き止まりだ。これの他には何もない。


「……触れ、ってことだろうな、きっと」


 指先が光に触れる。


 ――瞬間、通路がまばゆい光に包まれた。


「嘘っ!? これ、転送魔法……!」


 光に飲み込まれる俺達。

 直後、俺は平行感覚を失った。

本日は2話更新でした。


気に入っていただけたら評価やブックマーク、よろしくお願いいたします。


明日は諸事情により、1話しか更新できなさそうです…申し訳ありません…。

19時に投稿の予定です。よろしくお願いいたします

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