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27 対話

 あなたは聖人ですか?


 YESなら→ENTER

 NOなら →LEAVE


「はは……」


 口から乾いた笑いが漏れる。

 何か月ぶりだ?

 見慣れた、あまりにも見慣れた言語にほんご


「つまり、そういうこと、か」


 転生したのか転移したのかはわからないが。


「この世界に来た日本人は俺だけじゃない、と……」


 つまりは、そういうことだ。


「に、しても……」


 再び文字を見る。


 あなたは聖人ですか?


 YESなら→ENTER

 NOなら →LEAVE


「くっだらねぇ……」


 下らないジョークだった。


「聖人と成人ね……」

「ちょ、ちょっと、読めるの!? この文字が!?」

「あぁ。……俺の故郷の文字だ」

「故郷……って。いいえ、それより。なんて書いてあるの?」

「貴方は聖人ですか? ってさ」

「……なるほどね」

「それで……ここに触れればいいんだろうな……」


『ENTER』と書かれた場所に指で触れる。

 一瞬、指先から魔力を吸われる感覚。すぐ収まり、扉全体が光り始める。

 ゴゴゴゴ……と重い音を立てて……


「そこが開くんかいッ!」


 大扉の右下に小さな扉が現れて、ぱかっと開いた。

 思わず突っ込んでしまった。全部は開かないのかよ……。


「……開いた、わね」

「想像したのとちょっと違う開き方だけどな……」


 開いた扉に向かって歩く俺達。

 扉の奥はまばゆい光が差しており、奥が全く見えない。


「いきなり変なところに飛ばされたりしないよな……」

「少なくとも、地面は続いているみたいね」

「まっしろなのー!」

「まぁ……行くか」

「そうね」


 そう言って、扉の中に一歩踏み込む。


 ――光が、俺の体を包み込んだ。



――――――



 ――やぁ。


 ――あ……?


 ――通じる? 日本語。扉の文字が読めたならわかるはずだけど。……あ、でも解読された可能性もあるのか。……この世界って日本人以外の聖人いるのかな。


 ――いや、大丈夫だ。通じてる。俺も日本人だ。


 ――あぁ! 良かった! 一応何重にもセーフティは付けたんだけど、万が一があるしね。なんて言ったって異世界だし。


 ――じゃあ、お前が?


 ――うん。僕がこの迷宮を造った。えっと、どう伝わってるんだろうな。名前は優斗。稲田優斗いなだゆうと


 ――聖人様って伝わってるぞ。名前までは伝わってない。


 ――そうなんだ。どのくらい経ってるんだろう?


 ――正確には分からないけど、多分数千年だ。


 ――あちゃー、そんなに経ってるんだ。で、ユーは何しに異世界へ?


 ――世界平和、だとさ。


 ――へぇ、そこは同じなんだね。僕もそれで呼ばれたクチなんだよね。


 ――世界を平和には、出来なかったってことか?


 ――ま、見ての通りだよね。それでも僕が来た頃よりはよくなってるはずだよ。そのために迷宮を造ったんだし。


 ――こんなもの、どうやって造ったんだ? よっぽどチートな能力貰ったのか?


 ――んー、いや。もともと僕が持ってた力らしいけどね。【創造魔法】って言うんだけど。どんなものでも加工できるって魔法なんだよね。僕のユニーク魔法みたい。ほかに持ってる人見たことないし。


 ――はは。そりゃ十分チートだよ。俺なんて【格闘】だぞ。


 ――あらら。それは大変そうだ。……で、その魔法で造ったのがこの迷宮ってわけ。まぁ、材料に関してはこの世界の物質しか使ってないんだけど。


 ――つまり、優斗……のチートでこの、無限に資源が湧いてくる迷宮を造ったってわけじゃないってことか?


 ――そう。無限に資源が湧いてくるのは僕の力じゃない。もともとこの世界にあった物質……僕は「無限物質エタニティマター」って呼んでるけど。それの恩恵だよ。僕はそれを迷宮って形に加工しただけに過ぎない。


 ――なんだ、その物質。意味が分からないぞ。


 ――"今の僕"にもわからないよ。君と話してる僕は"この迷宮を造った時点の僕"でしかないから。


 ――どういうことだ?


 ――なんていうのかな……。相互コミュニケーション可能なテープレコーダーみたいなものだと思ってくれたらいいんじゃないかな。


 ――つまり、生身のお前と話してるってワケじゃないんだな。


 ――何千年も経ってるんでしょ? 生きてるわけないじゃない。


 ――それもそうだ。……それで、どうして迷宮なんてものを造ったんだ?


 ――世界を平和にしろって言われたからさ、資源が無限にあれば戦争しなくなるかなって。分かりやすいでしょ? ここを掘れば儲かりますって。


 ――なるほどな。道理だ。


 ――無駄だったけどね。この後僕は……えぇと、今はなんて呼ばれてるのか知らないけど、ドワーフ族の住んでる土地に行ってもう一つ迷宮を造る予定だから。"その時点の僕"ならもう少し何か知ってるかもしれない。


 ――つまり、迷宮を攻略しろってことだな。


 ――そうなるね。あ、あと、もう一つ分かってることがある。


 ――ん?


 ――君も気づいてると思うけどさ。この世界の人たちには「平和」って概念が存在しないみたいなんだよね。


 ――あぁ、なんとなく気づいてる。


 ――うん。それ、ロックがかかってるからなんだよね。


 ――ロック? どういうことだ?


 ――正確に言えば、この世界の人たちの魂にも「平和」って概念はちゃんと存在してるんだ。でも、忘れさせられてる。ま、明らかに誰かの仕業だよね。


 ――あぁ……なるほど。そのロックは解除出来なかったのか?


 ――僕には出来なかった。【創造魔法】のほかに、僕には――【根源魔法】っていう才能もあるんだけど……。


 ――ッ!? ぐぅッッッ!?


 ――え? どうしたの?


 ――い、や、なんか、頭痛、が……!


 ――あぁ……君にもあるんだね【根源魔法】の才能。まだ認識してなかったんだ。だから情報で脳がやられてる。


 ――……ッ……はあぁ……すまない、大丈夫だ。落ち着いた。


 ――ごめん。えぇと、そう。魂のロックの話だった。この世界でも何人か【根元魔法】の才能を持ってる人たちを見かけたんだけど、その人達はある程度そのロックをレジスト出来るみたいだ。平和の意味がわかる人はみんなこの才能を持ってる。


 ――でも、ロックは解除できなかった。


 ――うん。そう。魂にアクセスまでは出来たんだけどね。解除までは出来なかった。僕の【根源魔法】の才能はLv2なんだけど、それじゃあ足りないみたいだ。


 ――つまり、それ以上なら。


 ――ロックを解除出来るかもしれない。


 ――どうしたらいい?


 ――迷宮の最奥……ここなら100層。そこに『情報端末コンソール』が設置してある。それにアクセスしたら解除できるはずだよ。この国の人……というか、人間種のロックに関してはね。


 ――種族ごとにロックがかかってるっていうことか?


 ――んー、ていうか、アクセスできるのが種族単位って感じ。それ以上は無理だった。だから、各種族ごとに1つずつ『情報端末コンソール』を設置する予定。


 ――なるほど……だからリィンは迷宮を全部踏破しろって言ったのか。


 ――リィン? 女神リィンのこと?


 ――知ってるのか?


 ――知ってるも何も、僕を転生させた本人だよ。へぇ、君も彼女に転生させられたんだね。


 ――説明不足の駄女神だけどな……。


 ――うん?僕の時は随分あれこれ世話焼いて貰ったけどな……。


 ――マジかよ。俺の時は怠慢してるってことか?


 ――さぁ? わからないけど……。ま、とにかく君に【根源魔法】の才能が僕以上にあるのなら、多分ロックは解除出来る。


 ――わかった。とりあえずその『情報端末コンソール』とやらに行けばいいんだな。


 ――うん。それも『無限物質エタニティマター』から造った……ていうか、それそのものだから、迷宮の最奥に隠してある。


 ――やるべきことが随分わかりやすくなった。ありがとう。


 ――いやいや。同郷のよしみさ。それとさ。


 ――なんだ?


 ――君の動機モチベーションは何なの?


 ――……え?


 ――いきなり知らない世界に放り出されてさ。「世界を救え」って言われたわけでしょ?そんでこんなところまで迷宮潜ってきてさ。どういう動機モチベーションでそこまでするのかなって。


 ――それ、は……。


 ――?


 ――いや、確かに、どうしてだ?なんで俺はこんな必死になって言われただけのことをやってるんだ?


 ――まぁ、僕の場合は異世界転生で浮かれてここまでやってきたんだけどさ。君はそういう感じじゃないみたいだし。


 ――確かに、浮かれてた気持ちはある、けど……。考えたことが無かった。


 ――……多分、だけど。


 ――なんだ?


 ――その感情も、何かのロックがかかってる結果、だと思う。


 ――つまり、何かに感情を操作されてるってこと、か?


 ――うん。実をいうと、何かの強制力みたいなものを感じてるんだ。僕もね。ま、僕は深く考えない性格してるからさ、それでもいいかーってなってるんだけど。


 ――はは……。いや、でも、まぁ、今は世界平和の為、動いてもいいかなとは思ってるよ。


 ――そう。でも忘れないで。その感情は誰かに植え付けられたものかもしれない。


 ――……神様、とかか?


 ――まぁ、この世界には神様いるみたいだしね。そうかもしれない。


 ――居るんだな、神様。


 ――まあ、会ったことないけどさ。……それじゃあ、そろそろ君、目を覚ますみたいだし。


 ――え?あぁ、そうか、俺気絶してるのか……。


 ――うん。聖力だけに作用するように細工してある光だから、君に仲間がいるなら、そっちは大丈夫だけどね。


 ――よかった。迷宮のど真ん中でパーティ全員気絶は具合悪いからな。


 ――はは。大丈夫。この階層には魔物は居ないよ。それじゃあ……魔物を設置した僕が言うのもなんだけど、最奥まで気を付けて。


 ――いや、ほんと「お前が言うな」だぞ、それ。


 ――ごめんごめん。……でも、異世界転生だよ?そのくらいの冒険がなくちゃ。


 ――いい性格してんな。


 ――ははは。じゃ"次の迷宮の僕"によろしく。次はドワーフ族の土地ね。


 ――あぁ。ありがとう。


 ――いやいや。……それじゃ、いい旅を。


――――――


「――イジ!」

「――いちゃんっ!」

「レイジ!」

「お兄ちゃんっ!」


 ……意識が浮上する。

 レイリィとミリィが呼ぶ声がする。


「……ん……」


 目を開ける。

 小部屋のようなところに寝転がっているらしい。

 机と本と、椅子と、そして、扉。それだけの部屋だ。


「レイジ! 大丈夫!?」


 レイリィの顔が近い。

 心配そうに瞳が揺れている。


「……あぁ。大丈夫だ」


 頭を振って体を起こす。

 自分の内側に意識を向ける。


 魂魄情報ステータスが表示された。


 キリバ レイジ

 Lv01 吸血鬼 聖人

【魔法】Lv0

 【根源たましい魔法】Lv3★★★

【聖人】Lv3★★★

【格闘】Lv2



「はは……よかったな、優斗。才能に溢れてるみたいだぞ、俺」

「レイジ?」

「いや……なんでもない」


 心配するレイリィにそう言って立ち上がる。


「いろいろと分かったよ。……いこう。移動しながら説明するよ」

「え、えぇ」

「お兄ちゃん大丈夫?」

「あぁ、大丈夫だ」


 ぽん、とミリィの頭を撫でた。


 そして、小部屋にあるたった一つの扉に手を掛け、開く。


 再び迷宮探索に戻るために。

 迷宮の最奥で、人族に『平和』を取り戻すために。

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