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23 迷宮探索Ⅱ

 ――人の迷宮第十五層――


 迷宮探索1日目。

 あれから何度かオーガに遭遇した。

 徒党を組んでいることが珍しいらしく、あの後遭遇したオーガは1から2匹で迷宮を徘徊していた。

 魔法が効きずらいとの話だったので、都度俺が排除した。

 その度に血や臓物を浴びるのでレイリィの水魔法で洗い流されたが。


 15層まで来ると、レイリィが地図を確認して

「今日はここでキャンプにしましょ。大分進めたしね」


 と、その日の探索の終了を宣言した。

 ミリィが焚火を起こし、テントを張り、食事の支度を始める。

 野営関係はザイン迄の旅で、すっかりミリィの仕事になっていた。


「できたなのー!」


 干し肉を湯で戻し、買い込んだ野菜くずで作ったスープとパンを手渡してくれるミリィ。

 もそもそとパンをスープでふやかして口に入れ、干し肉と一緒に飲み込む。

 そんな食事にも割と慣れてきていた。

 レイリィはむぐむぐと干し肉を咥えながら地図とにらめっこしている。

 ミリィは鼻歌を歌いながらスープの鍋をかき回していた。


「今日はお兄ちゃんすごかったなの」

「うん?」

「びゅーんっていってばーんって魔物倒してたなの!」

「そうじゃろそうじゃろ。レイジは割と強いのじゃ」

「なぜおまえが自慢げ? ていうか干し肉とったろ。さりげなくそういうことするのやめてくれない?」

「いいじゃろ別にー!」


 むぐむぐと干し肉を頬張りながら俺の伸ばした手から逃げるアリス。

 取り返せなかった……。


「うん、お兄ちゃん強かったの!」


 嬉しそうにミリィが言う。


「まぁ、正直なところここまでとは思ってなかったわね……」


 地図から目を上げて、レイリィも同調した。


「そうか? あのくらいの魔物なら森にもいたぞ。なあ、アリス」

「んぐんぐ……んっ。そうじゃの。オーガベアとそう変わらん程度の強さなのじゃ」


 干し肉を飲み込んでアリス。


「いや、オーガベアは相当強い魔物だから……」

「そうなのか」

「レイジが異常なのは、敵の只中に恐れず飛び込んでいくところよ。安全マージンとかとらないんだもの。いくら不死身といっても、怖くはないの?」

「あー……いや、怖くはないな」


 散々修行イジメを受けた後だからな……。痛いのにも慣れたし、アリスに比べたら魔物の動きは遅すぎて攻撃が当たる気もしない。


「ふぅん……」

「でも、お兄ちゃんに怪我してほしくないなの……」


 そういってミリィが見上げてくる。ええ子やなあ……。


「あぁ、大丈夫だぞミリィ。ありがとな」


 ぽんぽんと頭をなでる。


「んっ」


 嬉しそうにミリィが目を細めた。

 ごつん、と肩にアリスの頭が当たる。


「……なんだ?」

「……なんでもないのじゃ」


 そのままぐりぐりと頭を肩に押し付けてくる。


「……えっと……」


 恐る恐るアリスの頭に手を伸ばしぽんぽん、と頭を撫でる。


「……んふー」


 どうやら正解だったらしい。

 満足そうに喉を鳴らして俺から体を離すアリス。


「ま、この階層の魔物ならレイジとむすめの敵じゃないのじゃ」


 前からそう言っておるじゃろ? とレイリィを見て、アリスは再び干し肉にかじりついた。

 どうでもいいけどそれも俺のだ。


「まぁ、助かったのも事実よ。レイジがあれだけ戦えるなら私も魔力を温存できるしね」

「移動速度が落ちるから出来るだけレイリィに遠くから処理して欲しいんだけどな」


 ミリィを抱えたままじゃ戦えないし。


「そうね。オーガとかリビングアーマーとか魔法に耐性のある敵以外は私が受け持つわ」

「なんだ、リビングアーマーって」

「生ける鎧、中身が空っぽの鎧の魔物よ。魔法が効きづらい、というか鎧の材質によっては全く効かないのもいるわ」

「そんなのがいるのか……。いや、それ殴って殺せるのか……?」

「鎧の中の魔石を壊すか奪うかすれば崩壊するわ」

「へぇ……そういうもんなのか」

「大体人間でいう心臓の辺りにあるから、覚えておいて。そろそろちらほら現れる筈よ」

「おう、わかった」

「それじゃあ私は寝るわね。6時間後、見張りを交代、いいかしら」

「ああ、大丈夫だ。ほら、ミリィもレイリィと一緒に寝な」

「はぁいなの」


 二人がいそいそとテントに入っていく。


「アリスはどうする?」

「ん、わしはお主と起きとるのじゃ。話相手も欲しいじゃろ?」

「はは、さんきゅ、助かる」

「ん」

「でも俺の干し肉とるのやめてな」

「いいじゃろ別に!」


 こうして、俺たちの迷宮探索1日目は終了した。


 ――人の迷宮第十六層――


 翌日、1つ階層を下り、十六層。

 現れる魔物の数が増えて来たのを感じる。

 大体がオーガかゴブリン。たまにそれ以外の魔物も見かけたが、数は少ない。

 そのどれもこれもが、俺とレイリィの敵じゃなかった。


「『炎よ』――『炎爆フレイムボム』」


 走りながらレイリィが腕を振るう。

 オーガ二匹の手前に居たゴブリン5体の頭が爆ぜる。

 それを尻目に俺が走り込む。


「ミリィ、舌噛むなよ!」

「はーい!」


 ぽーんとミリィを頭上に投げる。

 たかいたかいの要領だ。

 ミリィが滞空している間に2体のオーガにそれぞれ蹴りと掌底をくれると、戦闘は終わった。

 落ちて来たミリィをキャッチして、再び走りだす。


「次、正面200m! 多分オーガだ! 単体!」

「えぇ、見えたわ!……『炎よ、爆炎の主、猛り、滅ぼせ、顕現せよ』――『業火爆炎インフェルノブレイズ』」


 レイリィが腕を振るうと直後、オーガの上半身がとんでもない爆炎に包まれ、消失した。


 俺はオーガの残った下半身を足場に跳躍する。

 その隣を風のようにレイリィが駆けぬけ、俺に並走する。


「すごいな、今の、なんだ?」


 今まで見て来たレイリィのどの魔法よりも威力が高かった。

 魔法耐性高かったんじゃなかったっけ、あの魔物。


「五小節魔法……そうね、中級くらいの魔法かしら」

「ごしょうせつ……?」

「そうね……えぇっと、魔法の発動には詠唱が必要なのはわかる? あ、そこ右よ」

「はいよ」


 急制動、右折。


「で、えぇっと、そう。詠唱な。炎よ、とか言ってるやつだろ?」

「えぇ、そう。まあ無詠唱でも発動は出来るんだけれど、難しいのよ。威力落ちたりするし」

「へぇ」

「魔法の詠唱は単語――詠唱単語スペルワードと呼ばれているものでするのだけど、その単語が増えれば増えるほど、基本的には魔法の威力が上がるわ。さっきのは5つ詠唱単語スペルワードを重ねたから五小節魔法ね」

「なるほどな。因みに最大は?」

「そうね……私は15が最高ね」

「ちなみにアリスは?」

『わしは8なのじゃ』


 5であの威力なら、15とか重ねたらどうなっちゃうの……。


「そろそろ階段よ。……跳ぶのよね?」

「あぁ、そっちの方が早いし。ほら、行くぞ」

「もう慣れたわ……」


 ひょい、と担ぎ上げられて、諦め顔のレイリィ。なんか猫っぽい。


「ミリィも、行くぞ」

「はーいなの! だんだん楽しくなってきたの!」

「実は俺もなんだ」


 そう言って跳躍し、闇に身を躍らせた。


 ――人の迷宮第二十二層――


 迷宮探索3日目。

 魔物の数が増えてきたこともあり、俺たちの進行速度も大分遅くなってきた。


「そういえば探求者シーカーをみないな」

 今は走って移動せず、俺が前衛、レイリィが後衛、ミリィが中衛というフォーメーションで歩いて移動している。


「そうね。今の時期は国から採掘命令も出ていないし、潜るのは魔物の素材目的か、トレジャーハントが目的の探求者シーカーばかりだから、探索されつくしているこのルートでは出会わないと思うわ」

「あぁ、そうか。ここはそのまま最短で50層に向かっていくだけのルートなんだもんな」


 そうか、宝とかが目的なら探索されていないようなルートを探さないといけないもんな。

 ていうか、ずっと指示されながら走り続けだったからあまり気にしてなかったけど、とんでもなく広いよな、この迷宮。

 幅の広い分かれ道は無限かと思えるほどにあるし、細い路地のようなものまで含めたら一度迷ったら帰れないような気がする。


「50層以降もこんな感じだと、正直1ヶ月で踏破ってかなりきつい気がしてきたな……」

「大丈夫なの! ちゃんとミリィが地図をつくるの!」


 そういってむん、と握りこぶしを作って気合を入れるミリィ。


「あぁ、頼むな。因みにミリィ、今までのルートのマッピングって出来るのか?」

「うぅん……たぶんできるなの。する?」

「いや、大丈夫。……すごいな」


 自分で言うのもあれだが、かなりな速度で移動してた気がするんだけど、ちゃんと道を覚えてるのか……。


 ――人の迷宮第三十層――



 迷宮探索4日目。

 壁の材質がまた変わった。

 純度の高そうな鉄のような金属でこの辺りの階層は出来ているらしい。

 魔力の輝きはさらに深まり、たいまつや光源なしでも周りがはっきりと見える。


「リビングアーマー、正面に3よ。お供はゴブリン、12、だと思うわ。レイジ、リビングアーマーはお願い!」

「了解、と!」


 ひゅん、と俺の頬を掠める矢とすれ違う。

 背後でキンッ、と音が鳴る。


「ありがと、ミリィ」

「大丈夫なのー!」


 どうやら先ほどすれ違った矢は、ミリィが盾で弾いたようだ。


 リビングアーマーに肉薄する。

 この魔物は、その名の通り生きた鎧だった。

 フルフェイスの兜の奥に赤い光が目のように輝いている。

 鎧が手に持ったメイスを上段から叩きつけてくる。一歩踏み込んで背中を向けると、そのまま胴に叩きつけた。――鉄山靠と呼ばれる中国武術の技だ――魔力を浸透させることも忘れない。

 

バガンッ! と内側に浸透させた魔力が相手の魔石を叩き割る音を確認する。

 横合いから突き出された槍を脇で挟み、魔力を纏わせた掌底をがら空きになった胸に叩き込む。魔石が割れた音がした。


(魔力をしっかり通せば、ちゃんと内側の魔石まで打撃の威力が届く……なんていうか、本当に中国

 武術の気みたいだな。発頸、だっけ)


 そんなことを考えながら、肘撃ちを最後の一体に叩き込んだ。魔石がを破壊された甲冑たちが、サラサラと灰のように消えてゆくのを確認して、振り返る。

 わらわらといたゴブリン12体が頭を爆破されて息絶えていた。


「お疲れ様。ミリィもありがと。助かったわ」

「どういたしましてなのー!」


 先ほど矢を弾いた時のことだろう。しっかりと盾が役に立っているようで何よりだ。


「さて、進むか」

「えぇ。暫く真っ直ぐだから、走りましょうか。『風よ』――」

「ああ、ミリィ」

「んーっ!」


 両手を突き出してだっこー! のようなポーズをとるミリィ。

 抱え上げる。


『……』


 ちょくちょく影からプレッシャーを感じるんだよなぁ……。


 俺達の迷宮探索は、今のところ順調と言ってよかった。

最近ついさっき、この小説の下に評価するボタンがあることに気がつきました。



最近PVがどんどん上がっていて、作者のモチベーションはうなぎライジングです。

本当に励みになります。ありがとうございます。

感想や評価なども、日々のモチベーションに繋がります。どしどしお待ちしております。


それでは、また明日。

明日も19.20.21時の三回更新です。

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