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15 冒険の才能

 ミリィを連れて、領事館に向かう。

 俺が勝手に決めてしまったことだが彼女ミリィが同行することは、レイリィに報告しなければならないだろう。


『ごはんはー!?』


 アリスが俺の影から喚き散らすが無視する。


『ごーはーんー! なーのーじゃー!』


 ……無視する。


「ところでセシリア」

「なん、ですか」


 後ろを無言でついてくるセシリアに声をかける。


「どうしてミリィが魔族だって気づいた?」


 誰にでもわかるような人間との違いがあるのであれば、街を連れて歩くのも危険だ。

 なにか、魔族であることを隠す手段を考えねばならない。


「……大丈夫、です。普通の、人には、わかりません。私たち、のパーティメンバー、ならわかる、かも」


 俺の懸念を察したのか、先回りした返答が返ってくる。


「そっか。それならいいんだ。こうして普通に連れて歩いてても平気ってことだよな?」

「?」


 俺を見上げてミリィが首をかしげる。


「へいき、です」

「そっか。よかったなミリィ」


 頭に手を置き、くしゃくしゃと髪の毛をかき混ぜた。


「わわわ……」

『なーんかその娘に甘いの、お主」

「え? そうか?」


 ……そんなことはないと思うけど。

 あぁ、そういえば……。


「あ、いや、多分……」

「どうしたの?」


 見上げてくるミリィと視線が合う。


 なんとなく、日本じっかで飼ってた犬に似てるんだ。


「ぷっ……なるほど」


 思わず吹き出してしまった。


『何が面白いんじゃ?』

「いや、なんでもない」


 元気にしてるかな、ジョン。


 ――――――


 領事館に着いた。

 扉をノックする。

 少しの間をおいてメイドさんが扉を開けてくれた。


「夜分遅くにすみません。レイリィ……いや、レイシア王女はいらっしゃいますか?」

「面会のご予約はございますか?」


 あ、アポ……。

 そうだよね、とらなきゃだよね……。

 王女様だもんね……。


「すこし、お待ち、ください」


 俺の脇を抜けてすすす、とセシリアが領事館に入っていく。

 あ、君は顔パスなのね。そりゃそうか。

 メイドさんが礼をして奥に下がる。


 少しそのまま待つと、セシリアが戻って来た。


「なかで、お待ち、です」


 そう言って迎え入れてくれる。とても便利なニンジャだ……。


 昨日と同じ部屋に通された。

 中ではレイリィが――昨日と同じハーフアップの髪型に、昨日とは違うがまた豪奢なドレス姿だ――書類を片手に、なにがしかの作業をしているところだった。


「すまない。忙しかったか?」

「大丈夫よ。昨日の今日ってことは、何か緊急の要件でしょう?」


 書類に目を落としたままレイリィが問う。


「あ、あぁ。レイリィには報告しないとと思って」

「……ん、報告?」


 そう言って、顔を上げるレイリィ。

 俺の隣にいるミリィに視線が止まると、眉をひそめた。


「……魔族?」


 一瞬で気付かれた。


「あぁ。行き倒れているところを拾った」

「ひろっ……はぁ……。それで? 引き渡しに来たってワケじゃないんでしょ?」


 ため息をつかれた。

 ついでにジト目も貰う。

 露骨に呆れられている。


「あぁ。この子はミリィ。……ミリアルド・ファランティス」

「ファランティス!? 魔王の名前じゃない!」

「どうやら魔王の娘らしい」


 レイリィは今度こそ頭を抱えた


「はぁー……引き渡す……つもりはないのよね……」 


 ジト目とため息が深くなった。


「うん。旅に連れていこうと思ってる」

「連れていってどうするの?」

「魔人領に帰す」

「はぁ……」


 わかったわ、と小さく呟いて書類に再び目を落とすレイリィ。


「え? それだけ?」

「言っても無駄でしょうし、あなたとブラッドシュタインフェルトに実力行使されたら止める術がないから」

「なるほど」


 なるほど。

 別に暴れたりはしないけど。


「そういうわけだ。さあミリィ、挨拶して」


 俺の影に隠れるようにしていたミリィの背中をそっと押して、前に出す。


「ミリィなの……よろしくなの」


 ペコリ、とお辞儀をするミリィ。


「レイリィよ。よろしく」


 一応、レィリィも挨拶を返してくれた。

 これで一安心、かな。


 ――――――


 レイリィに報告を済ませ、俺たちは宿に戻った。

 食事は適当に買ったもので済ませた。

 アリスは不満たらたらだったが、明日オムレツを作る約束をしたらおとなしくなった。


 さて、と。


「ミリィ」


 ベッドに座り、あしをぷらぷらしているミリィに声をかける。


「なあに?」

「ミリィはマッピングとかしたことあるか?」


 ミリィには冒険の才能がある。

 しかもLv2だ。達人級。


「まっぴんぐ? ってなんなの?」

「えぇっと、そうだな。……今日街を歩いたろ? そのルートと周りの景色を絵に起こせるか?」

「お兄ちゃんにご飯を貰う前までの道は覚えてないけど、貰った後の道なら覚えてるし、絵にもできるの」


 ご飯の問題……?


「ちょっとやってみてもらえるか?」


 紙と羽ペンを渡す。


「わかったなの」


 膝の上に紙を載せ、さらさらと何かを描き始めるミリィ。


「ここの道がー、このくらいでー……ここがー……」


 じっとミリィの手元を見つめる。

 物凄い勢いで物凄い精度の地図が完成していく。


「おぉ……」


 凄いぞ冒険Lv2……。


「はい、出来たなの」


 そういって手渡された地図を見ると、とんでもない出来だった。

 通ったルートと、そこから見える景色、そして移動にかかった大体の時間が記さている。


「なにこれすごい……」


 距離から何から完璧なんじゃないだろうか。

 こんなことまで出来るのか。


「うん? ミリィすごいなの?」

「いや、すごいぞこれ……。地図を描いたことあるのか?」

「初めてなの」


 それでこれなのか……。


「よし、決めた」

「?」

「ミリィ。俺たちの迷宮探索についてきてくれないか?」

「いいよー」

「……えっと、迷宮だぞ? 迷宮知ってる?」

「知ってるなの」

「危ないぞ?」

「知ってるなの」

「……いいのか?」

「いいよー」


 軽かった。


「ミリィにはマッピング……さっきみたいに迷宮の地図を作ってほしいんだ。あと、罠の解除」

「罠の解除?」

「出来るか?」

「見ればわかるなの」


 とんでもない才能だった。

 経験値とか要らないの? やってみたら出来ちゃう系なの?


「えっと、それじゃあお願いしてもいいか?」

「わかったなの」

「いや、お願いした俺が言うのもあれだけど、そんなに軽くオッケーしちゃっていいのか?」

「うーん。お兄ちゃんには助けてもらったなの。だからミリィに出来ることならなんでもするなの。それに、そういうこと含めてついていくって決めたなの。危ないことも承知のうえなの」

「……そっか」


 思っていたより何倍も俺たちについてくる決断をした時のミリィは、深く物事を考えていたようだ。


「ミリィに危険が及ばないように、絶対に俺が守るよ。安心して後ろをついてきて欲しい」


 それならば、俺も俺に出来ることをしよう。

 この子に危険が及ばないように、盾になろう。


 幸い……


「俺は不死身、だしな」

「?」


 不思議そうに首をかしげるミリィ。


「いや、何でもない。今日はもう休んで、明日はレイリィに報告に行こう」

「わかったなの!」

『明日はオムレツ作る約束もあるのじゃ! 忘れるでないぞ!!』


 影からアリスが喚いた。


 ―――――――


 翌日。

『オムレツー!』というアリスの喚き声に起こされた俺は、朝食にオムレツを作ってやり、アリスとミリィを連れて宿を出た。


「セシリア、いるか?」

「はい、ここに」


 忍者と城主ごっこをしたかっただけなのに、ほんとにいた。

 君、どこで寝てるの? 屋根裏とか?


「すまないけど、ちょっと頼まれごとしてくれるか?」

「無理難題、で、なければ」

「魔物の素材を換金してほしいんだ。一気に換金するとあまりよくないってアレックスに言われてさ、セシリアなら大丈夫かなって」

「なるほど。承りました」

「えっと、じゃあ、アリス幾つか見繕ってくれ」

『じゃから、わしは便利道具じゃないのじゃ!』

「オムレツ食べたろ」

『のじゃー!』


 ほいほいと影から魔物の素材が飛び出てくる。

 キャッチしてセシリアに渡す。


「このくらいでいいか……? どのくらいになりそう?」

「おそらく、100ゴールド、いかない、くらいです」

「お父さんの年収ッッ!!」


 金には困らなさそうだった。

 セシリアに換金は任せ、俺たちは領事館に向かう。


『なんで金を作るのじゃ?』

「いや、ミリィに装備を整えてやらないと。俺たちと違ってミリィは不死身じゃないからな」


 せめて防具だけでも整えないと。

 ミリィは盾の才能も持っているらしい。盾を持たせれば、それなりに安全に立ち回れるようになるんじゃないだろうか。

 盾と防具。それだけは揃えよう。


『あ、そうじゃ、装備と言えば――』

 ぽん、と影からアリスが現れる。

 何か黒い塊を両手に抱えて。


「ほれ」


 そう言って、俺にそれを手渡してくる。


「なんだこれ?」


 結構な重さだ。黒い金属のようなもので出来ている……なにこれ。


「レイジの武器じゃ」

「武器……?」

「ほれ、籠手ガントレットじゃ。お主が使える武器となるとそのくらいじゃろ」

「あぁ! 籠手ガントレット!」


 なるほど!

 腕に嵌めてみる。サイズがぴったりだ。

 肘から先を手の甲まで覆っており、随分と凶悪な形をしている。とげとげしい。


 ――――かっこいい!


 俺のチュウニマインドが疼いた。


「でもこれ、どうしたんだ?」

「作ったのじゃ」

「作った!?」

「影魔法で結ったのじゃ」


 影魔法ってそんなこと出来るの……?アリスが器用なだけ……?


「ほれ、手首の辺りを意識して魔力を通して拳を握りこんでみるのじゃ」

「えぇっと、こう?」


 言われた通りにやってみる――と

 ガシャン! と音を立てて手首から黒い刃が飛び出た。

 なにこのギミックかっこいい! でもなんの意味があるのこれ!


「どうじゃ? それならお主の才能でも使えるじゃろ?」

「凄い!! 凄い!! かっこいい! ありがとうアリス! こういうの好き!!」

「おぉう……滅茶苦茶無邪気に喜ぶのじゃ……わしもびっくりじゃ……」


 こほん、と咳払いするアリス。


「まあ、気に入ってもらえてなによりじゃ。不死身とはいえ、余計なダメージは受けないに越したことは無いしの……それに、武器が欲しかったのじゃろ?」

「アリスが凄い気を使ってくれてる……いったいどうしたんだ……」

「なんなのじゃ! せっかく作ってやったのに!」


 ぷりぷりと怒るアリス。

 頭をなでようと手を伸ばすと、ぴょん、とはねて俺の影に戻っていった。


『ばーかばーか!』


 随分と子供っぽい怒り方だった。


 そんなわけで、俺は、俺にも使える武器を手に入れたのだった。

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