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13 迷宮探索の準備

 

「ーーつまり、部外者をほいほい迷宮に入れるわけにいかないから、迷宮の視察って名目でレイリィとその護衛の数名で潜る。あくまで名目は視察だから、そんなに人数は連れていけない、と……」


 レイリィから聞かされた話を要約すると、そうなる。


「そういうことね。……ブラッドシュタインフェルトは今みたいに隠れていてくれればいいから、もう1人、だれか連れていくことになるわ。だから、実際には4人になるわね。」


 ちら、と俺の影に目を向けてレイリィがそう言った。


「あ、気づいてたのか」

「言ったでしょ? 私、魔力の探知が得意なの。まぁ、そこまで巧妙に隠れられると、よほど注意深く探知しないとわからないけれど」

「そうなのか……。周りに人いないみたいだし、出てきていいぞ、アリス」


 俺がそういうと、にゅ、と俺の影からアリスが這い出てきた。


「ふぅ。やっと出られたのじゃ。この街は人が多すぎてなかなか出られぬのじゃ」


 ぐいーっと猫のように伸びをして、アリスがあくびする。

 小さな口の中に吸血鬼のきばがちらりと見えた。


「んんっ!」


 アリスが現れた瞬間、体がびくっと跳ねたことを誤魔化すようにレイリィが咳払いした。


「別に威圧とかしてないのじゃ。そんなビビるでない。何もとって食ったりせんわ」


 アリスが横目でレイリィを見て言う。


「貴女の周り、魔力濃度が濃すぎるのよ……」


 ーー別にビビってないわ、とレイリィ。


「でも、実際どうなんだ、アリス。4人で迷宮って踏破できるものなのか?」


 迷宮とやらの深さも広さも分からないのだ。

 たった4人で攻略出来るものなのか。


「そうじゃのぉ……そこのむすめとレイジなら可能じゃろ。戦闘自体は特に問題ないと思うのじゃ」

「戦闘は……ね。ていうか、アリスは戦わないのか?」

「あぁ、そうじゃの。言い忘れておったが、わしは戦わん。……というか、わしは迷宮の中では魔力が制限されるのじゃ。だからロクに戦えん」


 え? なにそれ初耳。


「まてまてまて、初耳だぞ! なんで!?」

「乙女には色々あるのじゃ」


 誤魔化された。


「え。じゃあアリスは迷宮では役立たずってこと?」

「なんてこと言うのじゃ!? 魔力が制限されるだけなのじゃ! わしが本気出したら魔力なんて使わずとも1人で迷宮の魔物を全滅させるくらい余裕なのじゃー!?」


 ぷんすことアリスが怒る。


「いや、ごめんごめん、言ってみただけだ。……俺とレイリィだけでも戦闘は大丈夫なんだな?」


 ぽんぽんとアリスの頭を撫でてなだめる。 


「むううう!」


 アリスはまだむくれていたが


「……ふん。業腹じゃが、そこのむすめもそこそこ強いのじゃ。じゃから戦闘に関しては問題ないのじゃら。わしが保障するのじゃ」


 そう言って、お墨付きをくれた。


「と、なると他の問題があるわけだな。なんなんだ?」


 戦闘以外の問題。食料とか?

 ……いや、保存食ならアリスの収納空間ポケットで、いくらでも持ち運べる。


「マッピングと罠の解除、……よね?」


 レイリィがアリスに問う。


 あぁなるほど、と俺も頷いた。


「なのじゃ。その辺りの繊細な作業はわしには向かん。むすめもそうじゃろ」

「いい加減名前で呼んでほしいのだけど……まあそうね。アレックスならまだしも、私もそういうのは、ね」

「当然俺にも無理だ」

「胸を張ることじゃないと思うのじゃ……」

「いや、お前も結構自慢げに言ったぞ」

「そんなことないのじゃ!」


 むー、と3人で唸る。


「あ、そういえば、エノールで探求者組合シーカーズギルドに寄ったんだ。そこでそういう補佐をしてくれる人がいるって聞いたんだけど、そういうのを雇うってのはどうなんだ?」

「んー……ナシではないんだけれど、正直な話、探求者シーカー補佐の人たちって、柄の悪いというか……つまりね、私の立場やあなたのしようとしていることがバレたりすると、ちょっと都合が悪いかもしれないのよね」


 あぁ、なんとなくわかる。


「……つまり金で雇えるような相手はあまりよくないってこと、か」

「そうなるわね……。でも冒険の才能を持っている人でないと連れていく意味も薄いし……」


 冒険の才能……。

 そのとき、ピンと来た。


「そうだ。アレックスに頼んだらいいんじゃないのか? 確かあいつ、冒険の才能Lv2だったぞ」

「そうなのよね。実際私たちのパーティでその辺りを一手に引き受けてくれてたのはアレックスだったし……でも、彼は無理。今はエノールから動けないわ」

「まあ頼めるなら頼んでる、か」


 うーーん、と悩む。


「……そうね、ちょっとこっちで伝手を当たってみるわ。……ともかく、今日は休んで。宿は用意してあるから」

「あぁわかった、そうするよ。追加要員については、俺も組合ギルドで探してみることにするよ」

「その辺りは慎重にお願いね。それじゃあ、使用人に宿まで案内させるわ」

「ありがとう。……あ、そうだ。エノムに来たらちょっと装備とかを整えようと思ってたんだ。明日は一日買い物に行ってもいいか?」

「もちろん。こちらでも何か手伝えることがあったら何でも言って。できうる限りの便宜は図るわ」

「助かる。それじゃあ、また明後日辺りに一度顔を出すよ」

「わかったわ。私は領事館ここにいるから。それと、セシリアを付けておくわ。何か用事があったら彼女に伝えてくれればいいから」


 そうレイリィが言うや否や、部屋の外に人の気配を感じた。

 背後を振り返ると


「ん……ついて、います」


 扉が少しだけ開き、隙間からセシリアの眠たげな目が覗いていた。


「おぅ……ニンジャ……」


 思わず呟いてしまう俺だった。


 ――――――


 翌日。

 やたらと豪華な宿で一泊し、俺は装備品を見繕うため街に出てきていた。


「さて、装備、装備……」


 路地を歩きながら、ウキウキとショウウィンドウを眺める。

 刀剣、斧、槍や大楯、果てはハンマーまで。

 様々武器が並んでいる。……が。


「俺の才能ってステゴロなんだよな……武器、使えないんだよな……」

『何か武器を探しておるのじゃ?』

「いや、まぁ素手でも十分っていえば十分なんだけど」


 魔力伝達があれば威力は出るだろうし。


「防具なんかもあったほうがいいかなって思うんだけど」

『いらんじゃろ。不死身じゃし』

「いや、そう言われたら元も子もないんだけど……」


 でも武器とか防具ってかっこいいじゃん……。

 今の俺の見た目とか完全に村人Aじゃん……。


『なんじゃ、わしの縫った服に不満があるのじゃ?』


 ちょっと拗ねたような声色でアリスが言う。


「いや、そういうわけじゃないんだけどな」


 実際凄い着心地いいし。

【裁縫】Lv2とかありそうなくらいだ。


『ふむ……それならマジックアイテムはどうじゃ?』

「マジックアイテム?」

「魔法の、かかった、装備です。わたしの、ローブも、マジックアイテム、です。認識阻害。ぶい」


 す、と隣にセシリアが現れ、囁く。

 指を二本立ててVサインしている。無表情で。


「……アリスも君も、気配なく俺の背後に立つのやめてくれない? 驚くから」

「その、路地を、左に、いくと、マジックアイテムの、専門店が、あります。デザインもいいので、お気に入り」

「あぁ、そう、ありがとう……」


 俺の切なる願いは無視された。

 心臓に悪いよ君たち。

 まあ心臓とまっても死なないけど。

 ……死なないよね?


 ともかく、セシリアのオススメらしい店に行ってみよう。

 マジックアイテム……とても惹かれるし。


 ――――――


 魔法の品あれこれ、と書かれた看板の店に入る。

 ローブや外套、手袋、ビンに入った薬品等々、いかにもなものが陳列棚に並べられていた。


「おぉ……ファンタジー……」


 わくわくする。


「えーと、なになに……? 『聖魔法が籠められたローブ。魔を祓います』……」


 つけれるかおっかない!!


「こっちは……? 『聖魔法が籠められたグローブ。ドラゴンの鱗製。魔を祓います』」


 魔を祓いすぎい!!!


「こ、こっちは!? 『聖属性の魔法が籠められた……』」


 もういい!!

 ええい、他にないのか、なにか!

 聖魔法が篭められてなければなんでもいいよもう!


「用途は、どんなものが、いいですか」


 背後から声を掛けられる。

 いや、もう驚かないけどね。一緒に店に入ったし。


「そうだな……セシリアのつけてる感じのがいいな。認識阻害だっけ」


 便利そうだ。


「とても、高いけど、大丈夫、ですか」

「……ちなみにどのくらい?」

「金貨で、200枚、くらい?」

「とても手が出ない」

「レイリィ、に、お願い、します?」


 出してくれそうだけどそれは違う。なんか違う。


『……ん、それはどうじゃ?』

「どれだ?」

『そこの黒い外套じゃ。魔力伝導率が良い品じゃ。お主の魔力伝達はまだまだ未熟じゃからの。おそらく役に立つのじゃ』


 アリスの言う黒い外套を手に取る。

 ゆったりとした厚手の生地で、フードが付いている。

 サラサラとした手触りで、少しひんやりとしている。魔力を通すと、薄く鈍色に発光した。

 説明書きを読む。

『魔力伝達を助ける外套です。月の糸製』

 お値段金貨5枚。


「いいな。気に入った。これにするよ」


 防御力は上がらなさそうだが、アリスの言った通り俺に防御力は必要ない。

 この外套を買うことにした。


 ――――――


 店を出ると、日が傾いていた。

 結局俺が買ったのは外套のみ。

 まあ、武器も防具も、必要ないといえば必要ないのだけど。


(でも、やっぱりちょっとあこがれるよな……)


 俺の才能が剣とかならよかったのに……。


「これから、どう、しますか。宿に、帰りますか?」 

 手に袋を抱えたセシリアが尋ねる。

 いつの間にか何かを買っていたようだ。


「セシリアは何を買ったんだ?」

「おとめの、ひみつ」


 この子意外とお茶目だな。


「んー、そうだな。腹が減った。何か食べたい。セシリア、何か美味いものを出す店知ってるか?」

『わしもおなかすいたのじゃ!!』

「知って、います。わたしは、いがいと、グルメ。ついて、来てください」


 すすす、とスライド移動するセシリア。

 いや、どうやってるのそれ。

 慌ててセシリアについていこうと足を踏み出した――


 ――ぅぅ……。


 ――その時、ふと奥まった路地の奥から、うめき声のようなものが聞こえて立ち止まる。


「セシリア! 少し待ってくれ!」

「はい。待ちます」


 すーっ、とスライド移動で戻ってくるセシリア。

 だからそれどうやってるの……。


「なんか、あの奥で誰かが……」


 歩いて路地に入っていく。

 袋小路のようだ。薄汚れた裏路地の一番奥、夕日も届かぬそのくらい場所に、少女が倒れていた。


「っ! おい、大丈夫か!?」


 慌てて走り寄ろうとする、と、


「まって、ください」


 俺と少女の間に割り込むようにして、セシリアが俺に背を向け立ちふさがった。

 いつ抜いたのか、その両手には紅く輝く短剣が逆手に握られている。


「……どうしたんだ?」

「よく、見てください。そのひと、魔族、です」


 倒れ伏す少女を鋭い視線で見つめるセシリア。


「そこの、魔族。人間の、街に、いかな用で現れた?返答、次第によっては、斬る」

「ぅ、うぅ……」


 呻くばかりで返事をしない少女。

 体を丸め、両手で自分の体を抱きしめている。


「……まってくれセシリア。俺に任せてくれないか」

「駄目。危険です」

「大丈夫だ。あの子からは敵意も何も感じない」

「…………不審な、行動があったら、即座に、斬ります」


 たっぷり三十秒は間をおいて、セシリアが短剣を腰の鞘に納める。

 俺は少女に歩み寄って、しゃがむ。


「どうしたんだ? 何があった?」

「ぅ……う……?」


 苦し気な吐息を漏らして、うっすらと目を開け俺を見る少女。

 徐々にピントが合い、俺をみとめると。


「おなか……すいた、なの……」


 そう言ってまた目を閉じた。


「……魔族の、行き倒れ……?」


 ――厄介ごとの匂いがした。

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