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07 吸血鬼城のお茶会2


 ――さて、と一度姿勢を正してレイリィに向き直る。


「なぁレイリィ……でいいのか?」

「あ、あぁ、そうね。名乗るのが遅れたわ。レイリィ……って、魂魄情報ステータス見たなら別に偽名名乗る必要はないわね。レイシア・ジゼル・ヘイムガルドよ」


 よろしく、とこちらに手を差し出す。

 さっき見た魂魄情報ステータス的に聖属性は持っていなさそうだ。

 安心して握手に応える。


「俺はレイジだ。レイリィって呼んだらいいか?」

「え、ええ。……驚かないのね」

「ん? 何がだ?」

「そこのむすめがヘイムガルドの王女ってことにじゃろ」

「……えぇ!? 王女様なの!?」

「だから! 魂魄情報ステータス見たならわかるでしょ!?」

「ごめん、わからなかった。そういえば名前にヘイムガルドってついてるな」


 まだ国名とか全然覚えてないから気づかなかった。


「ま、まぁいいけど……よろしく、レイジ」

「あぁ、よろしく。……それで、レイリィ。平和の意味が分かるのなら……その、なにか違和感を感じなかったか?ここに来るように命令された時」

「……ええ、そうね。正直滅茶苦茶よね。つつく必要のない藪をつつくなんて。それも、絶対に蛇が出るってわかってて」


 ――蛇ってレベルじゃなかったけど。と小声でつぶやいて、ちら、とアリスを見るレイリィ。


「……まさか、アレックスが負けるなんて、思ってもみなかったけど」


 まぁ、レベル252だからな。


「ふん、むしろその程度の力でよくわしにちょっかい出そうなんて思ったの。レイジが止めなければ今頃二人ともその辺の獣の餌になってるのじゃ」

「ぶ、物騒なこと言わないでよね……」

「話を戻していいか?」

「えぇ」

「……で、レイリィはさ」

「なにかしら?」

「平和について、どう思う?」

「どう思う……って?」

「いや、だから、その、できるなら、この世界が平和になってほしいって、そう思うか?」

「もちろん。……と、いうより"異常"よ。常に争いが絶えないなんて。それも、理由も意味もなく」


 ねえ? とアレックスに顔を向けるレイリィ。


「ははは……ごめん、僕にはよくわからないから……」


 苦笑いをするアレックス。


「何度も話して聞かせてもこんな感じ。だれもかれも、ね」


 肩を竦めるレイリィ。


「まるで、そこに疑問を覚えないように"強制"でもされているみたい」


 ――そう。アリスだけなら、まぁ変わり者だな、程度で済んだ話だが。

 他の人間も――いや、他の種族も、か?――、そんな感じなんだったら


(何かの意思が、働いてる……?)


 だとしたら、きっとなにか原因があるのだ。


(とりあえず、レイリィにこれ以上話を聞いてもわかることはなさそうだ)


「……レイリィ。俺が女神の加護を受けている、ってことはわかってるよな?」

「えぇ。体内にとんでもない聖力が渦巻いてるもの。それこそアレックスと遜色ないくらい」

「その女神に加護を貰うときに俺は、この世界を平和にしろっていう使命を……」


(使命……? いや、使命、で合ってるはずだ。だけど、なんだこの違和感は)


 そもそも、なんで俺はそんな使命をなんの違和感もなく受け入れてる……?


 俺にそんな大層な使命を全うする理由が――


――キィィィィン……――


「ッ!?」


 唐突な耳鳴りと頭痛。

 思考が乱れる。


「レイジ?」


 ふ、と気が付くと、アリスが俺の顔をのぞき込んでいた。

 軽く開いた口から、鋭い牙が覗いている。


「……ぁ?」

「どうしたのじゃ?」

「え、あ、いや、なんでもない。えぇっと、どこまで話したっけ……」

「女神の加護を受けた時の話……だけど、大丈夫? 顔色悪いわよ?」


 レイリィも心配そうにこちらを覗き込む。


「いや、本当に大丈夫だ。えっと、そうだな。女神の加護を貰った時、この世界を平和にしろっていう使命を受けたんだ」

「この世界を平和に、ね……」


 顎に手を当て、俯くレイリィ。


「……どうやって?」


 そして、俺に尋ねてくる。


「具体的には何も。ただ、女神は『この世界に存在する迷宮をすべて踏破しろ』ってさ。そしたら分かるって」

「迷宮を踏破!?」


 驚くレイリィ。


「それはまた……」


 苦笑いを浮かべるアレックス。


「……」


 す、と目を細めるアリス。

 三者三様に反応を示す。


「え? なんかあれだった?」

「世界に存在する"7つ"の迷宮。3000年前から存在するそうだけど……探究者シーカーや各国の冒険者が躍起になって潜っているけど、一つたりとも踏破されたって記録はないんだよ」

「……つまり?」

「かなりの難易度、だね」


 そう言って苦笑いするアレックス。


「ちなみにアレックス達なら踏破できる……?」

「無理ね」

「難しいかな」


 ……Lv252と魔法Lv3★でも無理……?


「もちろん、地上の魔物とはくらべものにならないほど迷宮内の魔物が強いってこともあるんだけど、ある程度潜るとどうしても開かない扉があって、そこから先に進めないのよ」

「壊そうとしたこともあったんだけど、無理だったって話だよ」

「私の最大の魔法でも無理だったわね」


 えぇ……。

 人類最強でも無理なの……?


「……そうか」


 だからといって、諦める、って選択肢は……きっとないんだろうなぁ……。

 頭上を見上げる。


『だめですよー! ふぁいとー! いっぱーつ!』


 という能天気な声が聞こえて来た気がする。


「……いや、そうじゃの。……レイジなら、できるかもしれぬの」

「え?」


 黙って話を聞いていたアリスがぽつりとそう言葉を漏らす。


「なんでだ? 俺魔法とか使えないぞ」

「レイジは聖人じゃからの。……開かぬ扉に関してなら、レイジが聖人であるというだけで解決するのじゃ」


俺にだけ聞こえる音量でアリスが言う。


「そうなの?」

「その扉は『聖人の門』というものでの。聖人の役割を受けた人間なら開くことが出来る」

「まじか。じゃあ俺なら迷宮を踏破できる、ってことか?」

「まぁ、そこまで行ければ、じゃが」

「……それはごもっとも。……ていうか、なんでアリスはそんなこと知ってるんだ?」

「言ったじゃろ、わしは物知りなのじゃ」

「だてに長生きしてないってこと?」

「レディに向かってなんてこと言うのじゃ!? 大体わしはまだ400歳ほどじゃ!」

「いや、それ滅茶滅茶長生きだから」

「のじゃー!!」


 ぽこぽこと俺の肩を叩くのじゃロリ吸血鬼。


「それじゃあ、とりあえず潜ってみる価値はある、か」

「まぁ、国がレイジが迷宮に潜ることを許せば、じゃがな」

「……もしかして許可とか要る系?」

「厳しい審査があるじゃろうな。各国の資源の採掘場じゃし」

「……そうだった」


 金山や油田にほいほい人を入れるかって話だ。


「ヘイムガルド王国に関してなら、その問題はクリアできるんじゃないかな。ね? レイリィ」

「……まぁ、そうね。私が許可を出せば迷宮に潜るくらいなら」


 あ、そうか、レィリィは王女様なんだった。


「僕たちはレイジに命を救われた。その程度の協力なら、すべきだと僕は考える」


 アレックスが朗らかに俺に笑いかける。


「そうね。平和のためになるのなら。……うん、わかったわ。私が私の権限を持って、ヘイムガルドの迷宮への進入を許すよう取り計らうわ」


 そう言って、レイリィもにこりと俺に笑いかけた。


「……ありがとう、二人とも」


 これで、ヘイムガルドの迷宮に関しては潜ることは許されそうだ。


 ……踏破できるかは別として。


「ふむ……。それならばさっそくすることがあるのじゃ」

「ん? なんだ?」

「――修行じゃ」

「……なんで修行?」

「今のまま潜っても『聖人の門』にすらたどり着けず死ぬだけなのじゃ?」


 ――まぁ吸血鬼じゃからしなぬけど。とアリスは続けて。


「じゃから、わしがレイジを鍛えてやるのじゃ!」


 ――そう言って、なぜかとても嬉しそうにアリスが笑った。

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