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03 出航

大変今更なことではありますが、今回より字下げと、会話文の間に一行改行を挟むことにしました。

今後はこの書式で統一していきます。

過去の投稿の分も、改稿していきます。


きっちり最初からやっておけと、そういう話です……。

一話から直すのだるいよ……。


そうそう、全く関係のないお話ですが、先日の投稿で100話投稿を達成しました。

記念投稿などは特に行いませんが……みんな、お祝いに感想とかくれても……いいのよ?


 アレックスとミリィと別れ、食品の買い出しに来た俺達。

 流石は港町というところか。売っている食料は海産物が多い。


「……これ、マグロか……?」


「私はマグロではありませんよ、マスター」


「そういう意味じゃない!!」


 いちいちシモの方に持っていこうとするガーネットに怒鳴り返して、目の前の魚を眺める。


「流石に鮮魚は買っても腐っちまうよな……『収納空間ポケット』って、中の時間が止まったりはしないんだよな?」


『そうじゃの。上級空間魔法の使い手なら、時間の停止魔法が使えると聞いたことはあるのじゃが、わしには出来ん。……おとなしく、保存の効く食料を買うのじゃ』


「また干し肉か……」


「魚の干物もありますよ、マスター」


「乾物なのは決定なんだよな……。昨日宿で食べた刺身は美味かったなぁ……」


 そう、なんとこの街では刺身を料理として提供していたのだ。

 流石に醤油やワサビはついてこなかったが、チリソースのような、酸味と辛味が同居した、不思議なソースで食べた。なかなかに美味だった。


「俺、こっちに来てから保存食ばっかりだな……。冷蔵庫とか開発出来ないもんか……」


『ふむ。れいぞーこ、とはなんなのじゃ?』


「中を冷やし続ける箱、かな? 中に食料を入れて腐敗を防ぐんだ。それがあればある程度鮮度を保ったまま食料を運べるだろ?」


『なるほど……? 水魔法の使い手なら、溶けぬ氷の箱か何か……似たようなものを作ることは出来るじゃろな』


「まじか!? あぁ……アナスタシアとかそれっぽい魔法使ってたっけ……彼女に頼んで……って、素直に俺の頼みを聞いてくれる気がしない……」


 冷徹な彼女の瞳を思い出し、身震いする。

 なんせ一度足をもぎ取られたのだ。なかなかに得難い経験であった。


『あれだけされて、その相手を恨まぬというのも、とんでもないお人よしというか……なんというか、じゃな』


「まぁ、仕方ない部分あるしな。アナスタシアもアナスタシアなりの理由が……理由……が……?」


 言いかけて、頭を抱える。

 彼女の理由は、とんでもなく個人的な理由だった気がする。


「……俺、もっと怒ってもいい……?」


『わしはそう思うのじゃ』


 ……アリスの言う通り、俺はとんでもないお人よしなのかもしれない。


「マスター、マスター。これ、買いましょう。是非に」


 自分のお人よしっぷりに頭を抱えていると、ガーネットが何かを手に寄ってきた。

 見ると、その手には昆布のような海藻がどっさりと抱えられていた。


「……? 海藻か? ダシでも取るのか?」


「いえ、この海藻は滑油剤の原材料です」


「もどしてこい!!」


「あん、マスターのいけず」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる商店の店主の方を指さして、ガーネットを追い払う。

 まったく準備がすすみやしない。


『む……レイジ! いい匂いがするのじゃ!』


「毎回思うんだけどさ、俺の影の中に居る時にも五感って感じられるのか?」


『ん? 言っておらなんだか? 五感はお主のモノと共有しておるのじゃ』


「さらっとトンデモなこと言った!? じゃあ影に居る時に、俺が怪我すると……」


『うむ。わしも痛いのじゃ』


 今更な事実が発覚した。

 じゃあ、腕を斬り飛ばされた時とか、それ以前にも大怪我たくさんしてるけど、その感覚がアリスにも伝わってるってことなのか……。


 今までしてきた大怪我を思い出して、アリスに申し訳ない気持ちになる。


『ふむ……そんなに気にすることはないのじゃ。なに、腕の一本や二本斬り飛ばされても、わしにとっては何のこともないのじゃ』


「いや……それでも痛いものは痛いだろ……俺も大概慣れたって言っても、痛いのはいやだ」


 これからはアリスにも気を使って、なるべく怪我しないようにしよう、とそう誓う俺なのだった。



――――――



 その後、二週間分の食料と、魔人領についた後のことも考え、大目に食料を買い、俺たちは商店街を後にした。

 アリスの『収納空間ポケット』に全てを収納し、アレックス達と別れた場所に戻る。


 時間は二人と別れてから大体3時間ほど。時間ぴったりだ。

 すでにアレックスとミリィは、待ち合わせ場所に立っていた。


「お、二人とも、もう来てたのか。すまん、待たせたか?」


「いや、僕達も今来たところだよ。待ってないから、大丈夫」


 にこりとほほ笑んで、アレックスが完璧な返答をくれる。

 その背中には、行きには持っていなかった、デカい荷物が背負われていた。


「おおう、ずいぶん買い込んだな。何買ったんだ?」


「大体が日用品だね。僕の装備品なんかも少し」


「装備品? 聖剣と聖鎧があるんじゃないのか?」


「はは。あれは僕個人のものじゃなくて、ヘイムガルド王国のものだよ。国を出ることを決めた時にちゃんと返したよ」


 アレックスに言われて、そういえば、と気付く。

 そういえば、いつも腰に差していた白銀の剣がそこにはない。

 その代わり、黒い鞘に納められた剣が腰にかかっていた。


「じゃあ、それがアレックスの新しい剣なのか」


「うん。聖剣ももちろんいいモノなんだけど……武器屋でひとめぼれしてしまってね。この剣も、なかなかの業物だよ」


 嬉しそうにアレックスが剣の柄をぽんぽんと叩きながら言う。

 ……なんというか、無邪気な笑顔だった。剣とか、好きなのだろうか。


 その俺たちの会話をにこにことミリィが聞いている。

 その表情に、暗いものは微塵もない。……なんとなく、二人の間で、上手く話しが出来たのだろうな、と察し、俺もほっと胸をなでおろす。


『……やっぱり、心配だったのじゃ』


(うるさいやい)


 言葉にはせず、心の中でアリスのため息に返事をした。

 ……ともあれ、これで出発の準備は完了した。


 俺たちはその足で、船が停泊している港に向かった。



――――――



「よし、これで出発出来るな。皆、忘れ物はないか?」


「大丈夫なの!」


「問題ありません」


「いつでも大丈夫だよ」


『おなかすいたのじゃー……』


「若干一名全く関係ないこと言ってたけど……ともかく、よし! じゃあ……」


 操舵室の舵に手をかけるアレックスに頷く。

 微笑み、頷きを返すアレックス。


「――出発だ! 目標、魔人領! よーそろー!」


 こうして、俺たちの航海が始まった、というわけだ。



――――――



 ――海上に居る。

 そんなわけで、いま俺たちは海上に居る。


 蒸気船は、なかなかの乗り心地だった。

 揺れも少なく、速度も上々。これを譲渡してくれたロックには頭が上がらない。

 

 アレックスの操舵には淀みが無く、天気も最高だ。

 俺達の航海は、出発して3日目の時点。今のところ、順中満帆と言ってよかった。


「しっかし、何もないなぁ……」


「何を当たり前のことを言っておるのじゃ……海の上に何があるわけもなかろ」


 長い髪を二つ結びにして、前に垂らし、デッキチェア(廃材から俺が作った)に横になって、ミリィの作ったジュースを飲みながら、アリスが言う。

 ここは海上。他に人間が居ないので、存在するだけで回りを威圧してしまうアリスも、外に出られるというわけだ。


「いやさ、海といえば中ボス戦だろ? デカいイカとか、タコとか。名伏し難いナニカとかさ」


「魔物と戦いたいということなのじゃ? 船の上におればそうそう魔物は襲ってこんのじゃ。……ふむ、まぁ、鳥の魔物なんかは寄ってくるかもわからぬが。……む、じゅーすが無くなってしまったのじゃ……」


「あ、お姉ちゃん、まだ飲む? 沢山あるなの。残しておいても腐っちゃうし……」


「のむのじゃ!」


「はーいなの! ちょっとまっててねー」


 アリスとおそろいの髪型にしたミリィ(両方とも、俺が髪型を整えた)が、果物を絞る準備を始める。

 レモンのような形をした果物と、リンゴのような果物を一緒くたにして、絞り機に放り込む。


「ガーネットちゃん、おねがいなのー」


「はい。お任せください。せいやー」


 気の抜けた掛け声をかけ、ガーネットが絞り機の取っ手を押し込む。

 軽く押し込んだようにしか見えないが、果物があっという間に潰され、果汁が絞り出された。

 それをミリィがコップに注ぎ、ハチミツを加えてかき混ぜる。

 ……なるほど、そう作ってるのか。


「どうぞなの!」


「うむ、苦しゅうないのじゃ」


 ミリィがコップを差し出して、横柄にそれを受け取るアリス。

 ……なんていうか、どっちが年長かわかったものじゃない。

 もう一杯ジュースを作って、アリスの隣のデッキチェアに、ちょこんとミリィが腰かけて、自分のコップを傾ける。


 ……平和だ。


「ちょっとアレックスの様子でも見てくるよ。ずっと操舵させてるしな」


「あ、じゃあお兄ちゃん。アレックスさんにも、ジュース持って行って欲しいなの」


「あぁ、そうだな。えっと……これと、これを入れて……」


 見よう見まねで俺も絞り機に果物を放り込んで絞ってみる。

 なるほど、なかなかに楽しい。

 作ったジュースを手に、操舵室へ向かった。


「おーう、お疲れさん。どんな具合だ?」


「あぁ、レイジ。順調だよ。このままいけば、予定通り後10日ほどで魔人領が見えてくるはずだよ」


 低いエンジン音が響く操舵室。背後にはボイラーのようなものが設置してあり、そこに燃料を入れて推力を得る仕組みだ。

 まさに蒸気船。燃料は石炭に似た鉱石だが、うっすらと魔力を感じるので、純粋な石炭ではないのだろう。

 石炭がどの程度の火力を得られるものなのか、俺は寡聞にして知らないが、この謎石はひとかけで大層よく燃える。……異世界由来の謎物質だと考えていいだろう。


「ほら、ミリィから差し入れだ」


「あぁ、ありがとう。ん……あぁ、さわやかでおいしいね」


「だろ。なかなかのもんだ。……そういえばアレックス」


「ん、なんだい?」


 舵に手を取られながらも、こちらに目線を向けてアレックス。

 

「ミリィと、ちゃんと話は出来たか?」


「――……あぁ。うん、ちゃんと、話せたよ。相変わらず、僕のことを許しはしない、と言われたけど……でも、旅の仲間としては受け入れるし……レイジのことをよろしくって」


「俺……?」


「あぁ。彼女は……ミリアルドは、自分がレイジの旅に同行出来るのが、魔人領で最後なんだと察していたよ。だから……そこから先は、アレックスさんがお兄ちゃんをよろしくって。……慕われているんだね」


「……そう、か。そうだな……。……そっか」


 考えていなかったわけじゃない。

 ミリィをヘイムガルドで拾って、旅に同行させた理由は、彼女を故郷に帰す為だ。

 つまり、彼女を故郷に帰せば……ミリィが俺たちの旅に同行する理由がなくなる。

 

 ……ここで、お別れになる。


 考えなかったわけではない。

 俺に良く懐いてくれている彼女と別れるのは……寂しくないといえば、嘘になる。

 でも……そうか、ミリィはそれも分かってて、受け入れて……。


「……それで、俺をよろしく、ってのも、どうなんだって気もするけどな。保護者かよって」


「ははは。レイジは確かにとても強いし、自立しているけれど……どこか放っておけないような魅力があるからね。彼女も、その魅力にほだされた一人、ってところかな」


「嬉しいような、情けないような、だな……」


「情けないなんてことはないよ。確かに、君は成そうと思えば、一人でなにもかもを終わらせることが出来るんだと思う。でも、こうやって、君の周りにたくさんの人が集まってくるのは、きっと、君がそれを選らばなかったからだ。そして、一人でなにもかもを成せる人間が、それを選ばないのは……また、強さだと、僕はそう思う」


「いや、前も言ったけど、それは買い被りだぞ。俺は……そんな大層な人間じゃない」


「そういう謙虚なところも、君の魅力だよ」


「……なに? 口説いてるの? 俺、そっちのケはないぞ?」


「ははは。申し訳ないけれど、僕にも男色のケはないよ」


「……アレックスって恋愛感情とかあるの?」


「もちろん、僕だって人間だし、男だよ。女性に懸想する気持ちくらいある」


「そういうの超越してそうなイメージがあるんだが……」


「ははは……たまに言われるけどね。そう言った感情を超越なんて……僕みたいな未熟者にはなかなか……」


「へぇー。じゃあさ、アレックスってどんな女の子がタイプなんだ?」


「……ぇえと……その」


 いきなり突っ込んだことを聞かれ、アレックスがこれ見よがしに狼狽する。

 この反応は……すでに特定の意中の存在が居るな……?


「ふふふ……今日はとことんその辺りの話をアレックスに聞こうかなぁ?」


「か、勘弁してほしいな……その、慣れてないし……」


「いーやぁ? 勘弁しないね。ほら、俺達、トモダチ、だろ?」


「あぁ……もう、レイジ……君は……はあ……。いいよ、その代わり、レイジにも話してもらうからね」


「いいとも。じゃあ、今日はとことん恋バナと行こうぜ」


「はは……そうだね、そんなのも、いいかもしれないね」


 困ったように笑って、しかし、アレックスの表情は、楽しそうなのだった。


 こうして、俺たちの航海は続いていく。

 波乱もなく、のんびりと。


 久々に、落ち着いて過ごせる、のんびりとした時間だった。

 本日はここまでになります!


明日は一日お休みをいただきまして、改稿作業を進めたいと思います……。


次回更新は25日21時です! 

いよいよ魔人領に上陸します!


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