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06 吸血鬼城のお茶会

本日からは2話刻みの投稿です。

重要な回や、長すぎる回は分割で3、4話投稿するかもしれません。


「改めて、命を助けてもらってありがとう。……僕はアレックス。一応、勇者って呼ばれてる」


 気絶している少女――レイリィを、一先ず空いている寝室に運び、俺とアレックス、アリスは食堂でテーブルを共にしていた。

 アリスは、俺の淹れたお茶をちびちびと飲みながら、冷めた目でアレックスを眺めている。


「いや、助けたっていうか……」


 多分、最初からアリスは、アレックスを殺そうなんて思っていなかったんじゃないか……と、そう思う。

 だから、俺がアレックスを助けたっていうのは正しくない気がする。


 そう思いながらアリスに視線を送る。

 視線がかち合った。


「なんじゃ?」

「いや、なんでもないよ。……俺の名前はレイジ。一応このアリスの眷属ってことになる」

「旦那様じゃ」

「眷属……」

「旦那様」

「けんぞ」

「旦那様なのじゃ」

「……眷属だ」

「……むぅ」


 アリスが頬を膨らませて、ジト目をよこした。

 何と言われても俺は眷属で通すぞ。


「……はは、あんなに恐ろしい吸血鬼も、君の前だと大分雰囲気が変わるんだね」


 朗らかな笑みを浮かべるアレックス。

 イケメンだ。金髪青眼、正統派のイケメンだ。


「ふん、わしも掟じゃから渋々なのじゃ。そりゃあ確かにレイジが作るオムレツはおいしいし、城の掃除はしてくれるし、洋服もいつの間にかきれいにたたまれてクローゼットに入っておるし、レイジが居てくれて助かってることはちょこーーっとくらいはあるのは確かじゃし? わし個人としても掟関係なくレイジを憎からず思ってるのも本当じゃが、でも掟だから旦那様にするってだけなのじゃからな! わかっておるのかレイジ!」

「はいはい、わかったわかった」


「……ぷっ……くくっ、ははっ、はははは!」


 俺たちのやりとりを聞いていたアレックスが堪えきれないとばかりに笑い出す。


「ご、ごめん……! くっ、くくくっ……はぁー……うん、レイジ、君はすごいね」

「何がそんなにウケたのかわからないけど、俺の何がすごいって?」

「"あの"ブラッドシュタインフェルトの吸血鬼がこんなにも……いや、よそう。きっとレイジの人柄なんだろうね。僕も助けてもらったし……そうだね、君はどこか、人を惹きつける魅力を持っているような気がするよ」


 そう言って、アレックスはティーカップに口をつけ


「お茶を淹れるのも上手だしね」


 そう言って俺にウィンクをくれた。

 

 きゅん……やだ……イケメン……。


いや、ではなく。


「えっと、それでだ、アレックス。幾つか聞きたいことがあるんだが……」

「なんだい?僕に答えられることならなんでも聞いてくれ」

「あ、あぁ。えっと、じゃあ……まずは、アレックスとあの女の子がここに来た理由」

「うん。まぁそうなるだろうね。もちろん、さっき僕が言ったことが全てさ。人王、アラスター・ジゼル・ヘイムガルド陛下の命で、吸血鬼、アリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルトを討伐しに来た」

「失敗じゃがの」

「ははは……思っていた何倍も強かったよ。陛下には『魔王なんぞ足元にも及ばぬくらい強いから気をつけよ』って言われてたんだけどね。どうも、僕にも慢心があったみたいだ」

「いやいや、俺もめちゃめちゃ驚いたから。アリスってあんなに強いのな……」

「正直、世界中見回してもブラッドシュタインフェルトに勝てる存在なんてそうは居ないだろうね」

「え、そうなの?アリスって世界最強レベルなの?」

「もちろんじゃ」


 むふん、と胸を張ってドヤ顔するアリス。


「はは……。プレッシャーだけでレイリィが気絶するくらいだからね。僕たちだって一応、人間族では世界最強、なんて呼ばれてるんだけどね……」


 苦笑いを浮かべてアレックスがティーカップを傾ける。

 茶で唇を湿らせ、アレックスが真面目な表情を作る。


「まぁ、ブラッドシュタインフェルトの強さは置いておいて、当然レイジが聞きたいのはなぜ僕たちに討伐命令がくだったのか、ってところだよね」

「あぁ、そうだそうだ。それが聞きたい。言っとくが、アリスはずっとここに引きこもってて、特に外に迷惑とかかけてないと思うぞ。プロニートだぞ」

「ぷろにーとがどういう意味かわらかんが、悪口ってことだけはわかるのじゃ」

「……すまないけど、ブラッドシュタインフェルト討伐の理由。僕たちにもわらかないんだ。ただ、王の勅命だ。僕たちは従うしかない」

「どうせわしが危険だから程度の理由じゃろ」

「はは、もちろん、さっきの戦闘能力を経験した僕からしたら、十分納得できる理由だけどね、それも」


 理由がわからない、か。

 アリスは……きっと俺と出会う前もこの城から出たりはしていなかったんだろう。

 アリスは俺と出会ったとき、言っていた。『二十年ぶりのニンゲン』と。

 少なくとも二十年は人間と接触してなかったってことだ。


 だったらなぜ今更――


(――なんて、魔王が討伐されたからだろうな……)


 理由もなく闘争が続く、歪んだこの世界。

 一つの闘争が終わったから、次の闘争を始めるため。きっと理由なんてその程度のことなんだろう。


「どうしたんだい? レイジ。考え込んで。なにか気になることでもあるかい?」

「いや、なんでもないよ」


 何より異常なのは、そんな異常な命令に対して何の違和感も覚えることなくそれを実行に移す、この勇者と、レイリィという少女だろう。


 ――いや、アリスも、か。彼らの行動に、特に違和感を覚えているわけではなさそうだ。つまり、俺だけが……


 ――その時、バタン! とドアが開け放たれ、気絶していた少女レイリィが食堂に飛び込んできた。


「アレックス! 無事!?」

「レイリィ? 目が覚めたのかい? よかった」

「ひっ!? 吸血鬼っ!?」


 アレックスが無事であることに安堵した表情を見せたレイリィだったが、アリスが傍にいることに気が付くと、その表情が凍り付いた。


「あ、アレックス!! は、はやくはれなて!!」


 ろれつが回っていない。


「あぁ、大丈夫だよレイリィ。ブラッドシュタインフェルトも僕も、もう戦闘の意思はないから」

「せ、戦闘の意思がない……?」


 本当? と言いたいようにアリスに戦々恐々とした視線を向けるレイリィ。


「そうじゃの。わしの旦那様に止められたからの。もう戦わんし殺さん」


 肩を竦めて、アリスが答える。心底どうでもよさそうに。


「旦那様……?」


 その時、やっと俺の存在に気が付いたかのように、レイリィが俺を見た。


「……?」


 そして、首をかしげて俺をじっと見つめる。


「貴方……? ごめんなさい。少し"視て"いいかしら」

「ん? どういうことだ?」


 意味が分からず聞き返す。


「中身を見てよいか、ということじゃろ。ほれ、わしも"視た"じゃろ」


 ――あぁ。理解できた。魔力的な何かを見るあれか。

 と、いうことは。


「あぁ、構わないぞ」

「じゃあ、ちょっと失礼するわ」


 親指を人差し指で円を作り、片目に当てるレイリィ。

 片目を瞑ってじぃぃっと俺の目の奥を見つめる。


 やっぱりそのポーズするのね。


 三人目、ということはこれこの世界のデフォな気がしてきたぞ。


「……ん……魔力が、変に混ざってる……? なんでこんな状態で調和が……? え、うそ? これ魔力じゃなくて、もしかして聖力……? ってことは……」


 じぃいっと俺の目を見つめながら、ぶつぶつと独り言を呟くレイリィ。

 どうでもいいが、顔が近い。

 大きな瞳が、驚きに揺れている。


「あなた……って、もしかして、女神の加護を受けている……?」

「……あぁ、よくわかったな」

「えぇ、私、魔力には敏感なの。……でも、よく魔の力と聖の力が上手い事バランス取れてるわね……普通爆ぜる筈なんだけど……」


 え、やっぱり爆ぜるの……?


「でも、存在としては吸血鬼として安定してる……うん。大体わかったわ」


 うん、と頷いてレイリィが俺の目を覗くのをやめた。


「驚いたな。僕もレイジの魔力にはちょっと違和感を感じてはいたけど、女神の加護を授かっているなんて」

「まぁ、いろいろあってな……」

「何がどういろいろあったら女神の加護を受けて産まれながら吸血鬼になんてなるのよ……」


 なにがどうって、大体が、隣でのんびり茶を啜ってるポンコツ吸血鬼と、お空から見守ってるらしい勘違い女神の所為なんだが。


「……いろいろ、あってな……」

「そ、そう……」


 気の毒そうな目で俺を見るレイリィ。

 やめてくれ、同情しないでくれ。俺もなんとなく俺自身が不憫に思えてくるから。


「それと、もう一つ気づいたことがあるのだけれど」

腕を組んで、少し首をかしげるレイリィ。


「貴方――『平和』って言葉の意味、わかるわよね」


「――あぁ」


 ――今度は、俺が驚きに目を見開き、頷いた。


「貴方、女神の加護を受けているってことは、魂魄情報ステータスを見られるってことよね?」

「あ、あぁ、うん、見られる」


 驚き冷めやらぬまま、素直に頷く。


「じゃあ、私を"視"てもらえる?」

「え? なんでだ?」

「いいから」

「わかった。じゃあ……」


 レイリィの目の奥を見つめ、内側をのぞき込むイメージを浮かべる。

 すると、以前自分の魂魄情報ステータスを見た時のような半透明のウィンドウが現れた。


レイシア・ジゼル・ヘイムガルド

Lv74 人間

【魔法】Lv3★

   【火魔法】Lv3

   【水魔法】Lv3

   【風魔法】Lv3

   【土魔法】Lv3

   【闇魔法】Lv2

   【■■■】■■■


(えぇ……)


 思わずドン引きした。


 才能レベルがとんでもないことになってる。

Lv3って伝説級なんだよな……? バーゲンセールみたいになってるぞ……?


「す、すごい才能だな……」

「いや、そっちじゃなくて」

「わかってる。びっくりしたからつい……。この文字化けしてるところのことだよな」

「あぁ……やっぱり見れないのね。貴方にも同じ才能があるのでしょう?」


 三度、驚く。


「よく、わかったな」

「『平和』の意味が分かる人はみんな持ってる才能なのよ。……それにしても、やっぱり貴方にもこの才能のことはわからないのね」


 ――つまるところ、平和の意味が分かる存在は他にもいる、ってことか。

 逆に言えば、この謎の才能を持たない人間には、平和の意味は分からない。

 アリスのように。

 アレックスを見つめ、内側を探るように意識を集中する。

「ははは……そんなに大した魂魄情報ステータスじゃあないから、恥ずかしいね」


 苦笑いするアレックス。バレた。

 ウィンドウが表示される。


アレックス・エイリウス

Lv252 勇者

【剣】 Lv2

【魔法】Lv2

   【聖魔法】Lv2

   【風魔法】Lv1

【冒険】Lv2


 のけぞった。


「なぁアリス」

「ん? なんじゃ?」

「この世界の人間のレベルの平均ってどのくらいだ」

「わしは魂魄情報ステータスは覗けんから、平均値がわかるわけじゃないのじゃが、大体40あれば強者と呼ばれるレベルじゃろうな」


 アレックスのレベルは252……あまりにもインフレーションが過ぎるだろ……。

 いや、じゃあそのアレックスに完勝したアリスのレベルは……?


 俄然興味が湧いてアリスに意識を集中する。


(内側を探るように……)


「ん?わしのも見るのか? よいよい、好きに見るが良いのじゃ」


 ウィンドウが表示される。


アリシア・フォン・ブラッドシュタインフェルト

Lv25 吸血鬼

【魔法】Lv3

   【影魔法】Lv3

   【火魔法】Lv2

   【空間魔法】Lv2

【槍】 Lv2


「……あれ?」


 思ったよりレベルが高くない。

 いや、才能はとんでもないことになってるけど。


「どうじゃ。我がすていたすは!」

「いや、思ったよりレベル高くないなって……」


 てっきり1000とかあるのかと。


「人間基準ではかるでないわ! 吸血鬼はそもそも存在としての格が人間なんぞとは違うのじゃー!」

「そうなの?」


 アレックスに水を向ける。


「あぁ……うん、そうだね。まぁ魂魄情報ステータスでみられるレベルっていうのはあくまで強さの指標でしかないから、実戦になったらレベルの低いものにレベルの高いものが打倒されたりもするよ、もちろん」

「そうなんだ」


 俺の好奇心は満たされた。


「さて……」


(二人の魂魄情報ステータスにあの変な才能はなかったな……)


「もちろん、アレックスにも平和について聞いてみたことはあるわよ。パーティの他のメンバーにも」

「……他にこの才能を持ってる人に出会ったことは?」

「一人だけね」

「そ……っか」


 ――つまりその程度には珍しい才能ってことだ。


(この世界を平和にする使命――。難しいと思ってはいたが、これは、想像してる何倍も難しそうだぞ……)

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