思い込みは時として重大な事故の原因となりえる
「ふぅ……」
敵に突き立てられていたナイフが敵の消滅により支えを失い床へと落ちて音を立てる。
それを回収して床に座り込み息を吐く。
「にゃああ」
「助かったわセレーネ、ありがとう」
「にゃう!」
近寄ってきたセレーネの頭を撫でてやる。
最後の一撃、彼女のMPが魔法を撃てるほどに回復していなければ危なかっただろう。
よほど攻撃力の高い一撃だったのか、装備破壊効果のようなものがついた攻撃だったのか、今確かめるすべはないものの実際にメインウェポンが破壊されてしまったのには変わりがない。
あそこまで使ってこなかったのであれがあのネズミの奥の手だったのだろう。
念のために動くのに邪魔にならないサブウェポンとしてナイフをあらかじめ出しておいて正解だった。
奥の手、と言えばセレーネが最後に使った影のトゲにも気になるところがある。
あの魔法はセレーネ自身の影からでしか発生させられないことが修練場の時点では確認できていたのだ。
それがさきほどは確かに私の影からあの魔法が発動していたのだ。
ドロップ品なども気になるところだし、一度全体的な確認をしておくことにしよう。
「……グレイラット、ねぇ」
最初に確認したドロップ品は【グレイラットの皮】【グレイラットの牙】【グレイラットの赤眼】【グレイラットの骨】の四つだった。
それにしても灰鼠の大型版というか強化版というか、とにかくそういう個体だったあのネズミの名前はグレイラットというなんともやっつけ感のある名前であるらしい……
これらの素材の使い道に関してはやはり工房に戻ってから考えるということにして次はステータスを確かめる。
≫ステータス
≫冒険者名:カルム
≫性別:女
≫種族:吸血鬼
≫Lv:2
≫アビリティ
≫<武器>
≫〔剣:3〕〔ハンマー:1〕
≫<魔法>
≫〔闇魔法:3〕〔風魔法:1〕
≫<生産>
≫〔鍛冶:4〕〔刻印:1〕〔木工:2〕
≫<汎用>
≫〔気配感知:1〕〔汎用語:1〕〔テイム:1〕
≫<種族>
≫〔再生:2〕〔吸血:1〕〔闇属性親和:2〕〔光属性弱点:10〕〔聖属性弱点:10〕
≫<加護>
≫〔光輝の加護〕
まず気になる点はレベルが上がっていることだ。
あれだけやっても一つしか上がっていないということは置いておいて、今までの生産しかしていない状態ではレベルが上がることはなかった。
アビリティ習得の仕組みからして、戦闘を行わないとレベルが上がらないということはないと思うのだけれど、単純に必要な経験の量が多いだけなのだろうか……
とりあえずレベルが上がったことによる変化は今のところ見受けられないのでこれも後回しにする。
他は戦闘中に多用していた技能などがそこそこ成長しているようだ。
そして本題である。
さて、そもそも私たちがこの地下迷宮へと足を踏み入れた最大の理由とは何だったのか。
それはセレーネと共闘経験を積むことによって、俗に使役やテイムと言われる系統のアビリティを習得することである。
無論、イアサさんとの約束もあるのでこの地下迷宮を攻略することはその点でもやるべきことなのであるが……
なぜ今そのことを思い返していたかと言えば、アビリティ欄に新しいアビリティが生えていたからだ。
〔テイム〕というそのものずばりなアビリティが先ほどまでの戦闘を経て習得していたらしい。
≫〔テイム〕〈汎用スキル〉
≫動物や魔物を使役するためのアビリティ。
≫契約を交わした動物・魔物はパーティメンバーとして扱う。
≫契約した相手のステータスを閲覧することができる。
≫契約した相手が死亡した場合は一時間後に蘇生することができる。
≫自身が死亡した際には自動的に契約していた相手も同じ位置に転送される。
≫非戦闘地域であればパーティメンバーから外すことも可能であるが、その状態では蘇生以外のこのアビリティの効果を受けることができない。
≫アビリティレベルによって契約可能数が変化する。
≫〈スキル〉
≫契約:合意のある動物・魔物を対象に契約を行う。
≫〈契約済〉
≫セレーネ:シャドウキャット:Lv2
一時間かかるものの蘇生可能、自分が死に戻りした時には一緒についてくる辺りが基本機能だろうか。
それと契約相手のステータスを見ることができる。
そしてなぜか既に契約欄に表れているセレーネ……
別に文句があるわけではないのだけれど、契約に関して儀式やらなにやらした記憶はないので気にならないと言えば嘘だ。
……まぁそこを考えるよりも先にセレーネのステータスを見させてもらおう。
プレイヤーと同じでステータスなどはマスクデータだらけだおるけれど、少なくてもアビリティの確認くらいはできるはずだ。
「セレーネ、ステータス見せてもらうわよ」
「にゃにゃにゃにゃ」
一応声を掛けてみるも我関せずといった感じで、適当に鳴きながら毛づくろいをしていた。
まったく……
さて当人?の許可ももらったことだし見させてもらうとしよう。
≫ステータス
≫名称:セレーネ
≫性別:女
≫種族:シャドウキャット
≫Lv:2
≫アビリティ
≫<武器>
≫〔爪:1〕〔牙:1〕
≫<魔法>
≫〔闇魔法:3〕
≫<生産>
≫<汎用>
≫〔気配察知:3〕〔忍び足:2〕
≫<種族>
≫〔影魔法:1〕〔潜影:3〕〔光属性弱点:3〕
≫<加護>
生産と加護はなし、まぁこれは納得である。
爪と牙のような物理的なものは武器スキルに分類されるらしい。
これらに関しては今回は意図的に使わせなかったこともあってレベルは最低値のまま。
魔法は私も持ってる闇魔法に、種族特有のものとして影魔法……
もしかしなくても、そのものズバリな名前である。
おそらくこれがあの影のトゲの魔法なのだろう。
とりあえず詳細画面に飛んでみる。
≫〔影魔法〕<種族アビリティ>
≫周囲に存在する闇のマナを用いて魔法を発動させる。
≫<スペル>
≫シャドウスパイク:闇の力を収束させた棘を自身、もしくはパーティメンバーの影から発生させる。
なるほど、闇魔法の派生というかなんというかそういうもののようだ。
影の属性値と言ったものはなくどうやらこの魔法も闇の属性値を参照しているらしい。
そしてパーティメンバーの影からも発動できるという一文。
私がテイムのアビリティを入手してセレーネと契約を結ぶことによって、シャドウスパイクを私の影からも撃てるようになったということらしい……
つまりあの最後の一撃の時には既に私とセレーネはパーティとして処理されていたらしい。
戦闘前にはそのようなことはなかったから、あの戦闘中に条件を満たしたということだろう。
どうにも今回は運が良かったという面が大きかったように思える。
まぁ勝ったからいいのだ、勝てば正義である。
そして何気にセレーネも光属性弱点を持つらしい。
もっとも私が最大値の10であるのに対して半分以下の3なのでそこまで重い弱点ではないようだけれども。
他の初めて見るアビリティもついでだから確認しておく。
≫〔気配察知〕〈汎用アビリティ〉
≫自身の周囲を察知するアビリティ。
≫敵対者の出現を先読みして察知する。
≫アビリティレベルによって察知できないこともある。
≫〔忍び足〕〈汎用アビリティ〉
≫足音を消し、気配を抑えるアビリティ。
≫敵対者からの感知に見つかりにくくなる。
≫アビリティレベルによって見つかることもある。
≫〔潜影〕<種族アビリティ>
≫周囲の闇のマナを利用して影に潜る。
≫潜っている影が消滅した場合、強制的にその場に排出される。
≫闇の属性力が低い場合、失敗することがある。
≫自身と敵対している生物の影に潜る場合、失敗することがある。
≫成功率はアビリティレベルにより上昇する。
最初に見た時に私と同じだと思っていた気配察知というアビリティ、よく見ると私の持っているのは気配感知であり、気配察知はまた違うアビリティであるらしい。
すでにそこにいるものに対する感知能力である気配感知と、転移やポップによりそこに新たに表れるものに対する気配察知。
似て非なるものということらしい。
忍び足は猫らしい気配遮断系アビリティ、潜影はシャドウキャット特有の影にもぐるいつものあれのようだ。
詳しい内容は初めて見たけれどそこまでめぼしい情報ではなさそうだ。
何気に私と初めて会った時、私の影に潜れたのは私に敵対意志がなかったからだろうか……
まぁ街中でじゃれてきた猫に対して敵対感情を持てというのが無理な話である……
さて、色々な情報の確認も済んだことだしそろそろ移動しよう。
と言っても、メインウェポンであるアイアンソードが壊されたので撤退ということになるのだけれど。
初期装備の剣があるのでまだ進むことはできると言えばできるのだが、既に相当な時間このダンジョンに潜っているのでそろそろ切り上げたいというのも正直なところである。
なにせもうすぐゲーム内時間で十時である、相当な長丁場になってしまった。
「セレーネ、出発するわよ」
「にゃー!」
肩まで上がってきたセレーネを一つ撫で上げて私は改めて部屋の中を見回す。
この部屋には入ってきた扉と、その反対側に先に進むもう一つの扉がある。
帰るには入口の扉からとドっていけばいいのだろうけれど、もしかしたらファストトラベルに使えるものがあるかもしれな。
なのでとりあえず先へ向かう扉を開き、一度向こう側を確認することにする。
「ビンゴね」
「んにゃ?」
「これからここまでは簡単に来れるってことよ」
「にゃにゃ」
扉の先には今まで見てきた小部屋より一回り大きな部屋に繋がっていた。
中には円形の装置が一つだけ置かれていた。
説明はないものの、こういう場合のセオリーとしてわかる。
これはファストトラベル用の装置なのだろう。
装置に近づくと自動的に装置に青い光のラインが流れる。
この装置の中に入ればダンジョンの外に出られるという仕組みなのだろう。
「よしそれじゃあ今日のところは帰りましょうか」
「にゃあ!」
初めてのダンジョンということで精神的には高揚してはいるものの、長時間の探索は確実に疲労をため込んでいる。
無理をせずに一旦帰還してまた日を改めて先を進むべきだ。
そうして私は装置に向かって歩き始めて、そして次の瞬間に視界が白く染まった。
「あら、ここは」
「んにゃ?」
視界が戻ってきて私の目に入ってきたのはユーノンの街の大広場、セレーネと出会ったあの噴水だった。
肩に乗ったセレーネも困惑したような顔をしている。
入口があった教会ではなく噴水まで戻されてしまったようだ。
まぁ昼間の教会に地下から上がってくるというのは別の問題があるような気がしなくもないけれど。
その以前に、まだ装置に触ってはいなかったはずなのだけれど、近づくだけで発動するのだろうか?
いや、この現象、私には覚えがある……
そっと私は微かに震える手でステータス画面を開く。
≫ステータス
≫冒険者名:カルム
≫性別:女
≫種族:吸血鬼
≫Lv:2
≫※ペナルティ中:残り時間59分
「はー」
「にゃー」
ため息を吐く、これまでにないほど深く、静かに……
ステータスに記されたのは、もはや見慣れたペナルティ。
そう、つまるところ私は、地下でさえ即死するほど光に弱い吸血鬼だったのである。




