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女子でも三日会わざれば刮目してみてほしい


 あれからリアルで三日、ゲーム内では十一日が経過した。

 もちろん睡眠や他の事をしているうちにも時間は進んでいくのでそのすべてをWEFに費やした訳でもない。

 それでもゲーム内にいる時間のほとんどを作業して過ごしていたお陰で成長を実感することができた。

 リアルで本物の技術を獲得するには到底短い期間ではあるけれど、ここはゲームの世界なのだ。

 猫に餌をくれてやり、鉄を打ち、アーセルにおやつをくれてやり、鉄を打ち、工房の二人にアドバイスをもらい、鉄を打ち……

 その繰り返しである。



「おやつくださいです」

「はいはい、どうぞ」


 作業机の上で私にアピールしてくるアーセルにおやつをくれてやる。

 当初は深夜にしか出てこなかったアーセルたちは、今やどの時間帯でも湧いて出て私におやつをねだってくるようになった。

 毎回毎回くれてやってるので完全におやつをくれる人として見られているのだろう。

 まぁ作業中に邪魔をしてくることは無いし、友好的な関係を結ぶのは悪いことではないので私にとってもプラスである。

 休憩時間に小動物のような彼らを構うのは私のささやかな癒しの一つでもあるのだ。

 最近は作業自体が失敗して廃材を生み出すことが少なくなってきているため、こうしてストレージのこやしになりそうな納得いかない出来で生み出された刀身をおやつとしてあげているのだ。

 再利用もできるらしいけれど、手間がかかるので簡単に取れる素材で生み出されたものならあげちゃっていいとはレフルスさんの言葉だ。

 刃のついたものを与えるのはどうかと最初は思ったけれど彼らからしたら関係ないらしく、細かく砕いてモシャモシャと小動物然としながらむさぼっていた。

 考えてみれば金属やらを食べて居る時点で鋭いとか危ないとかそういうのとは無縁だったかと思う。

 廃材よりもおいしいらしく不満の声も出ていないのでいいだろう。


 そんなまだまだ駆け出しの私だけれども、ついに前回アルカさんから合格点をもらえるレベルの刀身をようやく作り上げることに成功した。


 ≫【壱番目の刀身】

 ≫製作者:カルム

 ≫鉄でできた刀身

 ≫比較的強い強度と標準的な切れ味を持つ


 一番最初に作ったものに【零番目の刀身】と名付けたため、一番最初に合格点をもらったこれには【壱番目の刀身】という名前を付けた。

 正真正銘、私がここで作った壱番目の実用に耐えうるものだ。

 そしてこれが出来上がったということは、作業が次の段階へと進むことを意味している。



「それじゃあ、今日は木工をやっていこうか」

「よろしく頼むわ」


 というわけで木工作業である。

 今日は鍛冶ではなく木工になるため、教えてくれるのはアルカさんではなくレフルスさんだ。

 金属製の鞘や柄を作る場合もあるらしいけれど、多くは木製であり彼の担当になるらしい。


「柄も鞘も、素材によって色々と変わってくるものがあるにはあるんだけど、今回は特に必要ないから刀身と同じで安価な素材を使うよ」

「雑木、だったかしら」


 雑木はアイテム区分としては、ちゃんとした名前のつけられた樹木以外の樹木のことである。

 簡単に用意することができるから初心者にもやさしい素材、なのだとか。

 私は相変わらずここの素材を使わせてもらっているからよくわからないのだけれども。


「そうそうそれ、とりあえず適当にそこに置いてあるのを持ってくる」


 工房の端の資材置き場には、薪のように雑木が積み重ねられている。

 ちなみに素材の補充もどこからかアーセルが行っているらしい。


「鞘も柄も基本的に役割は似たようなものなんだ」

「そうなの?」

「鞘は刀身を納める役割で、柄は(なかご)を納める役割、とまぁ雑に大雑把に言ってしまえばいうことができる」

「なるほど、だから似たようなものなのね」

「色々言いだすと違いは山ほどあるんだけど、まぁとりあえずは二人で並んで作業してこうか」


 持ってきた雑木を四角くブロック状に形成していく。

 二つのブロックでナイフの刀身を挟み込むようにしてサイズを確認する。

 極端な話、刃が収まるように二つの木材を削って、それを接着してしまえば鞘としての最低限の機能は果たすことになるらしい。

 もっともそれでは実用性が皆無なため、そこから外形を整えるのだけれど。


「まずは鉛筆でナイフの外形を木材にマーキングしていくんだ」

「わかったわ」

「マーキングするのは片方だけでいいよ、そっちだけ削るからね」

「それでいいの?」

「両方を削る方法もあるけど、そうすると二つのブロックを合わせるのが難しくなるからね」

「削るのが片方なら合わせる必要がないってことね」

「最初は簡単な方がいいからね」


 マーキングに合わせて木材を削っていく。

 刃の厚みよりも深く、刃の幅よりも広く、だけれど深く広くし過ぎてもいけない。

 鞘が緩くなると少しばかり抜けやすくなってしまうけれど、あんまりギチギチでも今度は抜き差しがしにくくなってしまう。

 もっとも、ゲーム的に一つのアイテムになったらそういう問題はないらしいけれど。


「気持ち緩いけどこんなものかしらね」

「そんなに気にしなくて大丈夫だよ」


 二つの木材を接着した状態でナイフを抜き差ししながら具合を確かめる。

 居合のようなアビリティがあればまた話は変わってくるのかもしれないが今のとこはこれでいいだろう。

 そうしたら後はひたすらに外形を削っていくだけだ。

 大まかな形はノミを使って成形して、後はカンナとヤスリを使って整える。

 刃を研ぐ作業でもヤスリを使ってはいるけれど、金属と木材というのは感覚も感触も全く違う。


 削り過ぎなどで失敗したりを数回繰り返ししてようやく、それっぽいものが出来上がった。

 ちなみに木工が失敗した時にも廃材になってしまうけれど、どうやら金属と木材では廃材も違うアイテムのようでアーセルたちも食べないようだ。


「このくらいでいいかしら」

「十分だね」

「後はなにか加工するのかしら」

「そうだね、仕上げの方法も色々あるけど今回はニスを塗って終わりにしよう」


 ニスを塗った後は乾燥させておき、その間に柄の方の作業を進める。

 柄の方も大体の工程は似たようなものだ。

 (なかご)に合わせて二つの木材ブロック削り、茎を挟み込んでマーキング。

 それに合わせて削ってその後に外形を整える。

 柄にはもう一つ、持ち手という大事な役割があるから握りを確かめながら削っていく。

 削り過ぎないように気をつけながら作業を進める。

 そうしてこちらにもニスを塗って乾かしておく。

 鞘の方で何回か失敗して経験を積んだおかげか、同じような構造のこっちは失敗せずに一度で作り上げることができた。


「こっちも本来なら色々できることがあるんだけど、今回は最低限のことだけってことで」

「皮や糸を巻いたりするのだったかしら」

「そそ、でもまぁナイフくらいのものならこのままで十分だからね」


 乾かした後に茎を柄をはめ込み、刀身を鞘に納める。

 柄を固定したりしていないのだが、どうやらこちらもシステム的に一つのアイテムになってしまえば問題ないらしい。

 もっともこちらもアビリティなどによっては影響を受けるのかもしれないけれど……

 そうしてついにナイフの完成品が出来上がった。



「そういえば、刀身の方は合格点もらうのに随分時間がかかったものだけどこっちは案外早かったわね」


 正直なところ、リアルで数日くらいのことは覚悟していたのだけれど、思った以上に手早く終わってしまい少し表紙抜けしてしまったという思いもある。


「あぁ、こういうのはベースによるからね」

「ベース?」

「ナイフの場合、ベースは刀身でしょ?仮に鞘や柄が不完全でも者としては成り立つ」

「あぁなるほど、刀身が不完全だとそもそもナイフとして成立しないってことなのね」

「そういうことさ、ベースが出来上がってればある程度の体裁を持っていれば問題ないのさ、極論で言えば鞘や柄がブロックのままでもね」

「さすがにそれはどうなのよ……」

「あくまで成立するってだけさ、まともに扱うならやっぱりある程度の加工は必要になるよ」


 つまり、アイテムとしては認められるけど売り物や実用としては全くということだろう、納得できる話である。


「逆に、木工がベースのものになる場合はそっちが厳しくなるから今後そういうのをやる時は気を付けた方がいいよ」

「なるほどね」


 そこまで言うと彼はなにかを思い出すように手をパチンと鳴らした。


「そうだ、もう一つやるべきことが残ってたね」

「なにかしら?」

「銘を刻むのさ」

「銘?」

「君は幸いにも刻印のアビリティを持ってるみたいだからね」

「使ったことは無いけどね」

「それでも持ってるだけでも大事さ、いずれは必要になってくるものだからね」

「そういうものなのね」

「刻印ってアビリティは色々使い道があってね、魔法を込めたりもできるんだけど今日はそういうはなしじゃなくて君が作ったものって言う証明をそこに刻むのさ」


 刀剣の茎には製作者の名前やその刀剣の名前を刻みいれることが往々にしてあるという。

 それこそが銘を刻むということであるらしい。

 それにしても刻印は魔法を武器に込めたりだとかそんなことにも使えるのね……


「それで、とりあえず茎を外すのかしら」

「刀身の腹に掘ってもいいけど、拡張性を考えるとそれがいいかな」

「よいしょっと」


 鞘と柄と刀身が合わさり一つのアイテムとして成立してしまっているものの、ちゃんと工程を踏めばばらすことができるらしい。

 そうすることで特定の部位だけを作り替えたり、今のように後付けで刻印を入れたりできるらしい。

 アイテムとしては制作者が説明文に書かれているので不要な要素にも思えるけれど、やはりそれをやるということが大事なのだろう。


「それでどうするの?」

「銘を入れるだけなら簡単さ、まず自分のシンボルを考えるんだ」

「どうやって?」

「アビリティの初期機能みたいなものさ、使うのを意識してみて」


 〔刻印〕を使うことを意識すると、目の前にウィンドウが表示された。

 メニューウィンドウやメッセージウィンドウとは違うものだ。

 まるでお絵かきソフトのような見た目をしている。


「なるほど、これでデザインすればいいのね?」

「そうそう」


 しかしこれはリアル技能が多分に要求されるアビリティのようだ。

 アビリティのレベルによって幾分かは緩和されるのかもしれないけれど少なくとも今はほとんどリアル技能でデザインしていかなければならない。


 書いては消し、書いては消しを繰り返す。

 出来たら呼んでくれと言い残してレフルスさんも自分の作業へと戻っていった。



「お悩みです?」

「お悩み中よ」

「それは大変です」

「自分のシンボルとも言えるマークねぇ」

「頑張るです」

「ありがとね」


 わっせわっせと工房を片付けるアーセルと戯れながらペンを動かす。

 名前から取るならばやはりKになるだろうけれど、さすがに捻りを加えておきたい。

 そうして考えて、考えて、頭の中がごちゃごちゃになって、私がたどり着いた結論は一周まわって何の捻りもないシンプルなものだった。

 最終的に私がシンボルとして決めたマークは少し崩した字体でKSと書かれたものだ。

 カルムのKと工房(Stadio)のSというシンプル極まりないものである。



「これでいいのかい?」

「えぇ」

「一周まわってシンプルに戻ってきたって感じかな」

「ほんとにね……」

「そしたらそれをスタンプとして記憶させて、それを茎に刻めばオッケー」


 刻印というアビリティには、いくらかのパターンを記憶させる機能とそれを物に対して刻む機能が付いているらしい。

 もっともこれは装飾用に限られるらしく、刻印することによって特殊な力を持つようにするには自分の手で掘っていかなければいけないらしいけれど。


「これで全部終わったね」

「ようやくね」

「おめでとう!」

「ありがとう」


 銘を刻むことでついに今度こそ完成したのがこれである。


 ≫【壱番目のナイフ】

 ≫製作者:カルム

 ≫標準的なナイフ

 ≫鉄でできた刀身と雑木の鞘と柄で構成されている

 ≫比較的強い強度と標準的な切れ味を持つ


 【壱番目の刀身】を使用したからか説明文はそれ準拠のようだ。


「いい出来じゃないか」

「そう?自分ではまだ判断がつかないのよね」

「うんうん、簡単な依頼ならこれで十分達成できると思うよ」

「そうなのね」

「そろそろ依頼で稼ぎたいでしょ?」

「え?」

「なんだか事情もありそうだしね、これだけできれば小遣い稼ぎくらいはできると思うよ」

「どうしてわかったの?」

「そりゃまぁ、言ってしまえば初めからだよ」

「初めから……」

「あの彼女の紹介だからね、何か事情がありますよって最初からアピールしてるようなもんさ、彼女とつながりがあるっていうのはそういうことなんだよ」

「ということは、貴方たちも?」

「おっと、しゃべり過ぎたかな、まぁこんなとこでこんなことをやってる時点でそこは察してくれ」


 何とも言えないことではあるけれど、私に事情があるように彼らにも事情があるようだ。

 ともあれ、ある意味で太鼓判をもらったのでギルドに行って早速依頼でも受けてこようか。

 簡単な依頼でお小遣いを稼ぎつつ、作れるものの幅を広げていくという方針でいいだろう。

 例えば剣を作るとなれば、刀身が長くなるだけその分、素材も時間も腕も必要になっていくだろうしまだまだ腕を磨いていく必要はあるのだ。


以下現在のステータス


 ≫ステータス

 ≫冒険者名:カルム

 ≫性別:女

 ≫種族:吸血鬼

 ≫Lv:1


 ≫アビリティ

 ≫<武器>

 ≫〔剣:1〕〔ハンマー:1〕

 ≫<魔法>

 ≫〔闇魔法:1〕〔風魔法:1〕

 ≫<生産>

 ≫〔鍛冶:4〕〔刻印:1〕〔木工:2〕

 ≫<汎用>

 ≫〔気配感知:1〕〔汎用語:1〕

 ≫<種族>

 ≫〔再生:1〕〔吸血:1〕〔闇属性親和:1〕〔光属性弱点:10〕〔聖属性弱点:10〕

 ≫<加護>

 ≫〔光輝の加護〕

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