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ゲームを始めたから意気揚々とフィールドに行ってみた

よろしくお願いします。


「これが、例の……」


 私は今、自分の部屋に置かれた一台の大きな椅子の前に立っていた。

 ダイブチェアと呼ばれるその椅子は、一人用のソファとVR空間に入るための装置が組み合わさったものであるらしい。

 らしい、と言うのも実はこの機械はついさっき部屋に運び込まれた新品で、とある理由により今日からサービス開始されるゲームをプレイするために設置されたものだからだ。

 World Effect Fantasia

 通称でWEFとコミュニティでは呼ばれているらしいそのゲームについて私にはほとんど知識はなかった。

 名前は聞いたことがあったし興味がないと言えば嘘になるが、私は基本的にソロのゲームばかりやっていたので詳しく情報を調べたりはしていなかった。

 サービス開始の十五時は設置や他のことをやっている間に過ぎてしまい、既に十七時を回っている。

 結果的に開始直後の一番混んでいる時間を避けることができたので逆によかったのかもしれない。

 これまで使用していたヘルム型のVRマシンに比べると大型だが、なにやらダイブ中の体の負担などが軽減されるようにデザインされているらしい、私には詳しいことはわからないのだけれども……


「負担軽減をうたっているだけあって座り心地がすごくいいのね」


 座ってみれば柔らかな感触が体を包む。

 テーブルも引き出せるし、これは普段からここで色々してもいいかもしれない。

 普通の椅子としても十二分に使うことができそうだ。


「後はヘルムを用意してっと」


 チェア型のVRマシンと言ってもダイブする際には付属のヘルムが必要と知った時には何とも言えない気持ちになったものだ。


「これで準備OKね」


 一通り説明書の類は読んでおいたので基本的な操作については問題なさそうだ。

 ヘルムをかぶり、両腕をひじ掛けに置く。

 両手の親指でひじ掛けの内側にあるボタンを押すとヘルムの内側から待機音声が流れてきた。

 呼吸を一つ置き、目を閉じる。


『ダイブ準備が完了しました』

「ダイブ開始」

『ダイブ開始します』


 ダイブする、という意思を持ちながら起動ワードを告げると、閉じた目に映る視界が白く染まっていく。

 完全に視界が白くなり、体に浮遊感が伝わる。

 先ほどまで感じていたチェアの柔らかな感触は消え、空を落ちるような、海に潜るような、何とも言えない独特な感覚に世界が変わったことを知覚する。


「よいしょ」


 浮遊感が消え去り、再び柔らかい感触を背中に感じる。

 目を開ければそこは電子の空間、VRホームと呼ばれるVR空間における自室である。

 その電子の自室に私は椅子に座った状態で出現していた。

 前のVRマシンでのホームデータを移植してあるので、新品のダイブチェアを使っても新鮮味は薄い。

 実感できるほどの感覚の違いもなく、若干拍子抜けかもしれない。

 とりあえずやることをやるべく椅子から立ち上がり姿見の前に立つ。

 データ移植しているので大丈夫だとは思うが念のためにアバターの確認をしておく。


「アバターも問題ないね」


 目の前に映るのはこれも見慣れた私の姿だ。

 とは言うものの、もちろんリアルの姿そのままではない。

 大まかな見た目はスキャンシステムによってリアルの姿をもとにしているが、個人特定を避けるためにいくらかの調整を施してある。

 昨今ではこのホームアバターを再利用してVR空間におけるキャラクリエイトを行うことが便利で速いので大切な作業なのだ。


 メニュー画面を開きお目当てのゲームアイコンがきちんと表示されていることを確認して選択する。

 するとダイブした時と同じような浮遊感が再び私に伝わり、視界が切り替わるとそこは白い部屋だった。

 そこは小さめの立方体の部屋で中心にはテーブルが一つ置かれていた。



 ≫World Effect Fantasiaへようこそ

 ≫テーブルまで進み、指示に従って初期設定を完了してください


 目の前にインフォメーションのウィンドウが投影される。

 チュートリアル用のガイダンスなのだろう。

 表記に従いテーブルに近づくと新しいウィンドウが投影された。


「とりあえず基礎アバターはホーム流用にして、名前はカルム」


 アバター設定と名前を決めると多くの項目が現れた。

 やると決めたからにはこのゲームを楽しむつもりはあるが、成り行きで急に始めることになったので前知識などはほとんどない。

 種族を決めたり、アビリティというよくあるスキルのようなものを取得してキャラを決めるオーソドックスなものに見えるけれど、正直言ってよくわからないのが現状だ……


「ランダム……そういうのもあるのね」


 いっそのこと運に任せてみるというのも悪くはない気がする。

 そう思ってランダムを押すと新しいウィンドウが表示された。

 それまでのウィンドウとは違う、赤色のいかにも危険を示唆しているものだ。


「なになに……『ランダム決定ではプレイに際し重大な障害が起こる組み合わせがあります、ご注意ください』と」


 その下には更にいくらかの注意事項が書き記されていた。

 曰く、ランダムで決定されるものは初期では選択できないものもあるが、多少の難度はあれどある程度は手に入れやすいものである。

 曰く、キャラクリエイトのやり直しは前回キャラクリエイトから二十四時間以上経過しなければ行うことができない。

 などなど、他にもいくらか細かい事項はあったもののこの三点が大きなところだった。


「ふむ……」


 こうまで書かれてしまっては一度冷静になって考えてみる方がいいかな。

 この機能のメリットとデメリット、そして使うべきか否か。

 メリットは特殊な状態で始められる可能性があること、ただしそこまでレアではない。

 デメリットはなにやらプレイに支障が出る可能性があるかもしれないこと、その場合でも24時間経たないとリメイクできないこと。


 他の人の場合は知らないが、私にとってデメリットはまぁあってないようなものかな。

 楽しむつもりはあっても、別に最前線で活躍して目立ちたいとかの欲があるわけではないのだ。

 変なものを引き当てても楽しめればいいし、別に次の日にリメイクしてもいい。

 あるいは変なものを引いた方が逆に楽しめる可能性すらある気もしてくる。


「というわけでランダム実行、と」


 御丁寧にも確認するウィンドウが二回も表示されたが構わず許可を押すと、また視界が白く染まり思わず目を閉じる。

 そして次に目を開ければそこは既に街の中だった。


 辺りを一通り見渡すとそこはまるで中世ヨーロッパの街並みのようだった。

 本物の中世ヨーロッパのことはあまり詳しくないのであくまで『っぽい』っというものだけれども。

 VRMMOとしては標準すぎるほどの光景である。

 巨大な円形の噴水広場と言う初期位置はこの御時世ではもはや一種のテンプレのようなものなのだ。

 動き出す前にまずはランダムで決定されたデータを確認しておこう。


 ≫ステータス

 ≫冒険者名:カルム

 ≫性別:女

 ≫種族:吸血鬼

 ≫Lv:1


 種族はどうやら吸血鬼らしい。

 体を見下ろしてみればなるほど、確かに元のアバターよりも若干肌が白いかもしれない。

 髪色も銀に変わっているようだ。

 今は確認するすべはないが、おそらく目の色も吸血鬼らしく赤か何かに変わっているだろう。

 このゲームはHPやMP、他にもステータスの様々な数値すらマスクデータらしく確認できるのは種族とレベル、アビリティくらいしかないようだ。

 装備欄は確認できなかったがアイテムボックスに装備と思わしきものが入っていた。


 ≫【A:異人の剣】

 ≫異人が世界を渡ってきた時に持っている剣。

 ≫材料、製作者、品質、すべてが不明であるが特殊な能力は持っていない。


 アイテムには数値的な情報は記されておらず、簡単な説明が書かれているだけだった。

 他にも【異人のハンマー】【A:異人の服】【A:異人のズボン】【A:異人の靴】の四つの装備があったが説明の内容は似たか寄ったかのものしかなかった。

 どうやらAがついているものはアイテムボックスから出している装備品らしく、試しにハンマーを出し入れしてみるとAの表記がついたり消えたりした。

 おそらくアイテムとしての装備品を実体化させて身につけることが『装備している』状態なのだろう。

 つまり今、着ているこの簡素な服や腰に佩いている剣がこの【異人の服】などの装備ということだろう。

 ともあれわかることはそのくらいなのでハンマーをもう一度しまい、そのままアビリティの確認をしておく。


 ≫アビリティ

 ≫<武器>

 ≫〔剣:1〕〔ハンマー:1〕

 ≫<魔法>

 ≫〔闇魔法:1〕〔風魔法:1〕

 ≫<生産>

 ≫〔鍛冶:1〕〔刻印:1〕

 ≫<汎用>

 ≫〔気配感知:1〕〔汎用語:1〕

 ≫<種族>

 ≫〔再生:1〕〔吸血:1〕〔闇属性親和:1〕〔光属性弱点:10〕〔聖属性弱点:10〕

 ≫<加護>

 ≫〔光輝の加護〕


 アビリティには大枠が設定されており、武器、魔法、生産、汎用、種族、加護のカテゴリがあるようだ。

 武器や魔法、生産はその名の通りで汎用はそれ以外に分類されるアビリティ。

 種族は種族に基づいたアビリティが設定されているらしい、私で言えば吸血鬼っぽいアビリティがここに分類されるのかな。

 そして加護アビリティ、これはさらに特殊なものらしくヘルプを呼んでも大した情報は得ることができなかった。

 その辺りはゲームを進めていけば明らかになると思うので、とりあえず確認作業を進めていく。

 なにやら不吉な文字が見えなくもないが焦らず上から確認していこう。


 ≫〔剣〕<武器アビリティ>

 ≫剣を用いた行動時に行動補助を行う。

 ≫行動補助は非戦闘時にオンオフの切り替えが可能。

 ≫また、剣を用いたスキルを使用可能となる。

 ≫<スキル>

 ≫スラッシュ:剣を振りぬき速度と威力が高い攻撃を行う。


 剣とハンマーはオーソドックスなものだ。

 これらの武器アビリティは動作補助の他に、スキルと呼ばれるものが設定されているようだ。

 ちなみにハンマーのスキルはインパクトと言う打ち下ろし攻撃だった。


 ≫〔闇魔法〕<魔法アビリティ>

 ≫周囲に存在する闇のマナを用いて魔法を発動させる。

 ≫<スペル>

 ≫ダークボール:闇の力を収束させた玉を射出する。


 魔法の方もこういったゲームではスタンダードなものだ。

 まだレベルが1なので風属性の方も属性が違うボールを撃てるだけだった。


 ≫〔鍛冶〕〈生産アビリティ〉

 ≫加工を必要とする一部の道具作成が可能となる。

 ≫作成を行う際は設備が別途必要となる。

 ≫アビリティレベルによっては素材の加工を失敗することがある。


 ≫〔刻印〕<生産アビリティ>

 ≫道具を用いて特殊な印を対象に刻印することにより様々な効果を得ることができる。

 ≫同系統の刻印であれば低レベルのものから高レベルのものへと上書きが可能だが別系統のものでは上書きすることはできない。

 ≫また、刻印を消す際には特殊な道具が別途必要となる。


 生産アビリティは鍛冶と刻印。

 鍛冶で作った装備に刻印を入れたりしろってことなのだろうか。

 実際にやってみるまでわからないので先に進む。


 ≫〔気配感知〕〈汎用アビリティ〉

 ≫自身の周囲の気配を感知するアビリティ。

 ≫隠れ潜む対象を感知することができる。

 ≫気配の存在しないものには効果がない。

 ≫アビリティレベルによって感知できないこともある。


 ≫〔汎用語〕〈汎用アビリティ〉

 ≫この世界において汎用的に使用される文字を読むためのアビリティ。

 ≫アビリティレベルによって文字が読めない場合がある。

 ≫また、専門用語や別の言語の文字を読むには別途アビリティが必要となる場合がある。


 気配感知は思った通りのものだが汎用語と言うのは気になる。

 この説明文によれば汎用語以外の文字が存在しているらしい。

 エルフで始めていたらエルフ語みたいなアビリティが生えたりしたのかなもしかして……


 ≫〔再生〕〈種族アビリティ〉

 ≫時間経過と共にHPが自動的に回復する。

 ≫アビリティレベルにより回復速度が上昇する。

 ≫また周囲の属性力により回復速度が変化する。


 ≫〔吸血〕〈種族アビリティ〉

 ≫対象に自身の体を用いて攻撃を行い、出血させることにより相手のHPとMPにダメージを与えるのと同時に自身のHPとMPを回復させる。

 ≫無機物など血が流れていないものは対象にならない。

 ≫吸血する対象により回復効率が異なり人型に近づくほど回復効率が上がる。

 ≫パーティを組んでいる相手でも同意があれば対象にすることができる。

 ≫また、同意がある相手に対する吸血は攻撃とみなされない。

 ≫アビリティレベルにより回復効率が上がる。


 ≫〔闇属性親和〕〈種族アビリティ〉

 ≫闇属性に対する耐性を得ると同時に闇属性魔法を使用する際のMP消費を軽減する。

 ≫また闇属性攻撃の威力を上げる。

 ≫アビリティレベルによりその補正はより強くなる。


 そして本命の種族アビリティ。

 再生は吸血鬼らしいシンプルな回復能力。

 吸血は色々と書いてあるけれど、どうやら相手を直接攻撃して出血させると回復できるアビリティのようなので武器攻撃は適応されないんだろうか。

 そしておそらく噛みつきではないのは色々とセンシティブな面を考慮してのことだろう……

 闇属性親和は闇属性に対する攻防が強化される上に消費MPまで減るというなかなかに強いアビリティのように見える。


 吸血鬼という種族の種族アビリティは強いと思う。

 が往々にして強い力にはデメリットがあり、そして吸血鬼はネームバリューの高さゆえに定番の弱点ももちろんあった。

 

 ≫〔光属性弱点〕〈種族アビリティ〉

 ≫光属性が付与された武具、光属性が含まれる魔法を受けた時のダメージが増加する。

 ≫光属性が含まれる支援魔法の効果を受けることができず、回復魔法では逆にダメージを受ける。

 ≫周囲の属性力に応じて継続ダメージを受ける。

 ≫アビリティレベルは10から始まり、特殊な行程を経てレベルを下げることにより効果が軽減される。

 ≫様々な要因によりアビリティレベルを下げられる限界値が徐々に解放される。


 聖属性弱点の方も光属性の部分が聖属性に変わっているだけで他は同じ説明だった。

 光属性や聖属性で受けるダメージが増加し、それらの属性魔法からは回復や支援を受けることができないというのはなかなかに重いデメリットに思える。

 再生や吸血を使ってうまくリソース管理する必要が出てくるだろう。

 それから気になるのは、周囲の属性力に応じてダメージを受けるというもの。

 吸血鬼の設定の鉄板としてこれは昼間はフィールドに出れないということになる気がする。

 それならそれで夜の時間に行動すればいいのでそこまで苦ではないけれど。

 このゲームは四倍速進行が設定されており、リアルでの一日がこちらでは四日、つまりリアル六時間ごとに一日経つのでそこまで時間帯の制約は重い方ではあるがまったく進行できないほどではないと思うのだ。

 もちろん思い立った時に行動できないというのはストレスかもしれないが、それも条件を満たせば緩和されるようだしあまり気にしないようにしよう。


 そして最後に、ある意味で最も気になる加護アビリティ。


 ≫〔光輝の加護〕〈加護アビリティ〉

 ≫光属性力の影響が一定値上昇する。


 他のものよりもかなりシンプルに効果が書かれているようだ。

 しかしシンプルに書かれているからこそ読み解きにくいところもなくはない。

 例えば光属性力に弱いらしい吸血鬼という種族にとっては特に。

 闇属性親和と光輝の加護が合わさり最強、というような代物ではない気がする。

 ことによれば通常の吸血鬼よりも更に光に弱い吸血鬼になるのでは、という考えが頭に浮かぶ。

 そして思い出すのはランダムを選ぶ前に表示された警告ウィンドウ。

 『プレイに際し重大な支障が出る場合がある』

 つまりよっぽどのことになる可能性もあるのだ。



 メニューウィンドウを閉じて空を見上げる。

 ゲーム内時刻は二十時過ぎ、中心の大噴水は照明に照らされている。

 色々考える前にまずは夜の時間帯なら外で活動できるか確認する必要があるかな。

 もし危なそうならすぐに街に戻ればいい。

 そう思って私は広場を出て門を抜け、街からフィールドへと踏み出し――私の視界は白く包まれた。



「なるほど、なるほど……そう、来るのね……」


 視界が戻ればそこは先ほどまでいた噴水広場だった。

 一応確認のためにメニューを開く。


 ≫ステータス

 ≫冒険者名:カルム

 ≫性別:女

 ≫種族:吸血鬼

 ≫Lv:1

 ≫※ペナルティ中:残り時間55分


 ステータスに記されたペナルティとはつまりそういうことなのだろう。

 そう、つまるところ私は、夜でさえ即死するほど光に弱い吸血鬼になったのである。

頑張ってアウトプットしていけたらいいなと思います……

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