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主人公は仲間想い

「オイ、どうしたんだよ?」


 手が止まった俺を見かねて、道星がゆっくりと近づいて来た。


「今までの蜥蜴だって、殺して来たじゃないか。まさか、今更怖気付いたとか言わないよな?」

「触るな」

「な……!?」


 さりげなく道星が俺の額に手を伸ばす。指先が肌に触れる前に、俺はその手を乱暴に払いのけた。道星は目を丸くした。その場の空気が、急に険悪になる。山の斜面で、俺たちは向かい合った。道星を……いや、知らない少年を睨みつけて、俺は唸った。


「誰だ、お前!?」

「勇者様……まさか……」


 ()()()()()

 裏切り者の河童の、思い出したくもない記憶だったが、何とか記憶を掘り起こせた。この世の記憶ではなく、あの世の記憶だからだろうか。とにかく蕃茄のおかげで……というと、何だか癪だが……俺はギリギリのところで記憶を取り戻した。


 同時に、様々な記憶が芋づる式に思い出される。

転生者の襲撃を受けたこと。

社のこと。通行料のこと。

パンダのこと、ラーマのこと。


 そして、家族を殺したのは蜥蜴ではなく……この惨劇は、彼らが仕組んだものだったということ。


 恐らく再びこの世界に戻ってくる時、俺は『記憶』の一部を『通行料』として支払ったのだろう。そこに付け込まれた。偽の記憶を植え付けられ、操られていたのだった。


 風が凪ぐ。ふと気がつくと、眼下でアルクが気絶していた。

 俺は立ち上がり、改めて道星勇気と名乗った少年を見据えた。


 背の低い、浅黒いこの少年を、俺は知らない。クラウンの仲間、転生者の一人に違いない。恐らく『能力(チート)』か何かで、記憶を捏造されていたのだ。記憶操作か、催眠術の類だろう。そう思うと、急に腹が立って来た。


 少年は驚いたような顔をしたが、やがてその場に膝をつき、掌を地面に押し付け始めた。ちょうど、土下座をするような形だった。一瞬面食らったが、彼が謝っている訳ではないことはすぐに分かった。


「記憶が戻ったのか……」

「……!」


 少年の喉元から、低い、地底から響いてくるような暗い声が聞こえて来た。まだあどけなさの残る顔に、邪悪な影が差す。それからボコッ、ズズズ……と、何かがせり上がってくる音がして、彼の掌から、突如蜥蜴の頭部が現れた。


「なんだ……!?」


 まるで地面から蜥蜴が生えて来ているような感じだった。墓から這い出てくるゾンビさながらに、彼の両手の先から、蜥兵が二体現れた。


「俺はロードスター」

 少年が……ロードスターが改めて名乗った。やはりこいつは俺の昔からの親友なんかじゃない。クラウンの仲間、転生者だったのだ!

「俺の能力をすり抜けるなんて、一体どんな方法で……」


 ロードスターは少し興味深げに俺を見上げた。話しているうちに、蜥兵が全身を地上に出現した。俺は「あっ」と声を出しそうになった。その蜥兵たちに見覚えがあった。ここに帰って来てから、今まで殺してきた、駆除で始末して来た蜥蜴たちだ。転生。ロードスターが死の淵にあった彼らを再び呼び起こし、転生させ、兵士として召喚したのだ。


「こいつらは……!?」


 俺は目を見張った。現れたのは普通の蜥兵とはまた違う。異形だった。片方は、目が三つある。もう片方は、腹から腕が二本生えていた。何かしらの『通行料』を支払った彼らは、何というか今までよりさらに醜悪に、化け物じみた姿に変わり果てていた。思わず息を飲んだ。何もかも異常な光景。だけど足に根が生えたかのようにその場から動けず、視線は異形から離せなかった。ロードスターは、さらにもう二体の蜥兵を地面から召喚しようとしていた。


「……原住民同士で殺し合いをさせるんだ」

 ロードスターはまるで昼にラーメンを食うんだ、といった調子で淡々と告げた。


「片方は姿を変え、記憶を奪い、敵として仲違いさせる。その争いで死んでいった彼らの『通行料』を、魂の一部を俺たちがいただき、さらに余った体はもう一度転生させて、無限に戦わせる……」

 ジリジリと、這い出て来た蜥兵たちが俺を取り囲む。

「みんな喜んで戦うよ。ちょっとでも『力』を手に入れたらさ。『力』を鼓舞したくてしょうがないんだろうなぁ。勇者だとか英雄だとか煽てられてさぁ! 偽の憎しみの『記憶』を植え付けられて、自分たちが誰と戦ってるかも知らないでさぁ! アハハハハハ!」

「テメェ……!」

「何も見せつけるだけが『力』じゃないのさ」

 彼は得意げに、トントン、と自分のこめかみを指で叩いた。


「俺の『記憶操作(チート能力)』で、現地はあっという間に死体の山の出来上がり。俺たちは大量の『通行料』と、多くの私兵を得る。いいシステムだろ?」

「……ッざっけんな……そんな……!」


 顔中に血が昇り、カッと熱くなるのが分かった。怒りで言葉尻がわなわなと震える。何が”平和なスローライフ”だ。何が”みなさんを救いに来た”だ。蜥兵はやはりパンダの言った通り、元々同じ人間、同じS市民だったのだ。俺や『対抗勢力(レジスタンス)』が野放しにされていた理由。

同士討ちを企てられていた。

その間にこいつらは高みの見物を決め込んでいたと言うことか。自らは手を汚さず、家族や友人同士で殺し合いさせるよう仕組んで……許せなかった。こいつらのやっていることは、どんな侵略者よりも残酷な破壊行為だ。


「石動くん!」


 その時だった。

 騒ぎを聞きつけた流水と心が、俺たちの方へと駆けて来た。状況を見、二人とも固まってしまったかのようにその場に立ち尽くした。

「何、これ……?」

「一体何が……」

 答えるものはいなかった。

 ロードスターが素早く身を翻し、流水と心に近づくと、彼らの額に指を押し付けた。


「あ……」

「おっと。動くなよ」


 催眠術。その瞬間、二人の顔はトロンと弛緩し、能面のように表情を失った。間近で見るロードスターの『能力(チート)』に、俺は目を見開いた。しまった。一瞬の隙をついて、二人を人質に取られた。


「石動くん……」

「進……」


 だらん、と両手を前に垂らした二人が、無表情のまま、ゆっくりとこちらに顔を向ける。その目は虚空を彷徨い、口元はだらしなく半開きになっていた。


「早く……早くヤク早く……殺し殺殺ころコロしましょう、よ……ねえ」

「そうだ……よ。とと蜥蜴はぼぼぼ僕らの敵敵テキテ敵じゃないか。そうだ……そうだそうだうだそうだそうだうだだ……」

「う……!」


 ゾッとした。完全に敵に操られている。ロードスターがこちらを振り返り、ニヤリと笑った。


「俺を攻撃すれば、この二人がどうなるか、分かるよな?」

「テメェ……!」


 怒りは頂点に達していた。弓を構える。だが、心と流水の二人が、ロードスターを庇うようにその前に立ちふさがった。


「オイッ……下がっててくれ!」

 ロードスターの盾になった二人が、舌ったらずな声で呻いた。

「石動くん……どうしてどうしてどうどうどどうして友達を攻撃するの……? ひど非道いヒドイよ」

「そそうだよ。道星くん道星くんは僕らの僕らの大切大切大切ななな仲間じゃないかじゃないか」

「だから、操られてるんだって」

「そうかよ……!」


 だったら。俺は迷いなく矢を放った。


「な……!?」

 ロードスターが目を見張った。まさか人質を、味方を攻撃してくるとは思わなかったらしい。放たれた二本の矢は、違うことなく二人の脛のあたりに命中し、その場に崩れ落ちた。


「正気か!? お前の友達だぞ……」


 相手が唸った。俺は正気だった。少なくともそう思う。いくら操られていようが、動きを封じてしまえば価値は半減する。周りの蜥兵が怒りの咆哮を上げた。二人が倒れた瞬間、蜥兵に捕まってしまう前に、迷いなくロードスターに突っ込んでいく。ロードスターの目が一瞬泳いだ。どちらに刃先を向けるべきか。自分の支配下にある二人の人質か? それとも武器を手に突っ込んでくる俺か? それで、彼の動きが一拍遅れた。


「友達を攻撃するなんて……非道い奴だ!」

「お前らにだきゃ言われたかねえんだよッ!」


 別に俺はどこぞのスーパーヒーローでも、聖人君子でもないし。


「どっかのお偉い主人公様じゃねえんだからよォッ!」


 俺が選ばれた。ロードスターが切っ先を俺に向け、刀を突き出して来た。


 だが俺はその動きを読んでいた。

 理由がある。


 未来が見えるから? 

 心が読めるから?


 違う。俺にそんな『能力(チート)』はない。


 そうじゃなくて、単純に、

 ()()()()()()()()


 心臓を突き刺すにはみぞおちの辺りから、上に向かって突き上げるのがいい、と。


 バスの中で三人に話した。だからロードスターが腰をかがめ、下段に剣を構えた時、俺は次に彼が何をしてくるか予想がついていた。当然急所を狙う。だから咄嗟に避けることができた。今まで『能力(チート)』とやらに頼っていた分、ロードスターの武器の扱いも、所詮素人と大差なかった。初動の差。読み勝ちだった。


 後は飛び込む勇気だ!


 彼が刀を突き上げる前に、七尺の弓を乱暴に、横殴りに振り回す。相手の間合いの外から、彼の側頭部を強かに打ち付けた。よろめきつつも、切っ先が俺の胸元に突き出されて来たが、速度はあまりない。これを避ける。大きく一歩踏み込んだ。


「このッ……!」

「ォォォおおおッ!!」


 そのまま体重を乗せ、相手の肩口に、思いっきり矢の先を突き刺した。

 

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