青い血、赤い血
よろしくお願いします。
先代の王弟殿下はいつの頃からか野心を持ってしまったらしい。
初めは臣籍降下しないのは領地経営などしなくとも王位継承権が4位以上である限り、生活費に国家予算が充てられる為というだけであったのだろう。
しかし陛下が即位した際に現王弟殿下はすぐに臣籍降下し公爵位を賜った。
この国では一度臣籍降下などして王位継承権がなくなると、継承権保持者が誰もいなくなるなどのよっぽどの非常事態以外には継承権の復活はない。
レオンハルトが産まれても自身の王位継承権は2位、息子は3位である。
そしてレオンハルトは中々結婚せず、遂には男色の噂まで出てきた。
いつの頃からかはわからない。
しかし先代の王弟殿下は野心を持ってしまったらしい。
自分の血筋が王になるのだと。
平和的な解決は孫娘が王太子妃になる事であった。
だがこの度ベアトリーチェとの縁談が整うと、もう自分の血筋を引く王の誕生はない。
しかし、もしも現時点でレオンハルトに何かあったら?
継承権2位は自分である。
現王の退位よりも早く自分の寿命が尽きるとしても、息子の継承権が繰り上がるだけである。
先代の王弟殿下はいつの頃からか野心を持ってしまったらしい。
「姫!来るな!」
昨日の泥水の件に関して、確実に先代の王弟殿下の関与まで証拠を押さえ、ディアネイラ含め謹慎処分とする手筈を整えていた。
その間に彼女の婚約を整えればいかな義父に頭の上がらない侯爵であろうとも、さすがに娘のわがままで破断にはしないだろう。
このような醜聞を起こした令嬢のこと、何より王家の差配である縁談を反故にしては嫁ぎ先はどこにも無くなってしまう事くらいはわかるだろうから。
しかし朝一でその通達をしたにも関わらず、ディアネイラはまた仕掛けてきた。
いや、仕掛けて来たと思われた。
王宮内の騎士の制服を着ているが、見た顔のない集団を引き連れていた。
聞き分けのない彼女が騒いだ時のために数人の近衛騎士を増員して配置していたが、それが彼女の仕掛けた『運命の出会い捏造』ではないと気付いたのは騎士服の集団が剣を抜いた時であった。
城内での無用な抜刀はご法度である。
況や流血沙汰ともなれば本人のみならず一族全てが厳罰に処される事態である。
斬りつけられた近衛騎士の姿にディアネイラは本気の悲鳴を上げていた。
これは彼女のわがままを隠れ蓑にしてすすめられた反逆であると、彼女は利用されたのだと知れた。
しかし今はそれに構っている暇はない。
また合わせて来ていたのだ、ベアトリーチェの訪問時間に。
「姫!来るな!」
敵に姫の存在を知らせてしまうことにはなれど、危険を知らせるために叫んだ。
このタイミングからみても、国際問題となるデメリットからみても、おそらく狙いはレオンハルトのみで姫には危害は加えないだろう。
それにカインと共にこの場を離れてくれさえすれば王宮内のこと、騒ぎを聞きつけた増援がすぐに到着するため姫君の方に回している手数はない。
人数差は大きいが、増援到着までの間レオンハルトは執務室内に閉じこもり、扉をリフ含め手勢で死守する形にできれば勝算はあった。
しかし一瞬動きを止めたベアトリーチェはカインをちらと振り返る。
次の瞬間にはカインの腕に抱かれたベアトリーチェは扉の前に現れ、レオンハルトと共に室内に押し込められていた。