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玉虫色の結婚  作者: 葛葉
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桃色の夫婦

王子の運命の出会い嫌いの理由

 

「レオはホント人間不信だよねー。

 なんであのお姫様をそんな風に思うかなぁ?

 レオの嫌いな『運命的な出会い』なんてない、常識的で礼儀正しく、最良の条件を提示してくれてるお見合い相手だよー?」


 そう、レオンハルトは周囲の勘違いを訂正していないというか、訂正しきれないだけだが、『運命の伴侶』というようなものが嫌いだった。


 別に両親が嫌いなわけではない。


 しかし二人揃うと周囲にピンク色の空気を振り撒く中年バカップル。

 王は燻し銀のシブさを纏いつつも物腰が柔らかく、王妃はいつまでも美しくどこか可愛らしさがある。

 しかしいくら美形でも実際はいい年である両親が未だに食事の席でお膝抱っこの上の『あ〜ん』と給餌行動、


「そなたはいつまでも愛らしいな」


「あなたは昨日までにも増して素敵におなりです」


 と言った砂を吐く様な会話。

 王は王妃に王弟でもある中年の宰相すら近づけるのを嫌がり、王妃は周囲の王の視界に入るかもしれない侍女を古参の数人の他は12.3歳の行儀見習いの少女で固め、結婚適齢期に差し掛かる頃には縁談をまとめて下がらせている。


 そして二人とも異口同音に「運命は掴み取るもの、日々の努力なくして有り得ない」と言う。


 間違った事は言っていないが、その言葉で傍迷惑でイタイ言動を全て正当化されるのはたまったものではない。

 それどころかデビュッタント前の王妃を王が見初めてからの一途な愛は吟遊詩人の人気の歌の題材であり王族の国民人気を高めたとして、さらに図に乗って行動が大胆になる始末である。

 その様な恋愛脳の生き物は、長じるにつれ不可解さに不快さを重ね、若干の恐怖さえ与える存在となった。



 そしてその二人の一人息子であり王太子の地位にいるレオンハルトには決まった婚約者や恋人がいない。すわ運命の出会いを!と勘違いした令嬢たちが押し寄せてくる。


 ハンカチを落としたり、曲がり角でぶつかったり、私室のある廊下に迷い込んだり、チンピラに絡まれてみたり…面倒で関わりたくないレオンハルトは完璧な紳士の仮面をつけてそれら全てをスルーするのだが、そうするとさらなる運命的な出会いを画策する者が出てくる。


「こないだのホップ・ステップ・ジャンプ系令嬢はちょっと跳躍力が足りなかったねー。助走が長すぎてバテちゃったからかなー」


 公爵子息ことジュードの周囲では鉄壁のスルー力を持つ王子に興味を持ってもらうべく、まずは視界に入るために独身文官に近づく令嬢が後を絶たない。

 大概がジュードにステップアップしようとしたところで力尽きるのだが、最初に籠絡された者にとってはたまったものではない。


「それにショックを受けて、文官がまた異動願いを出した。腑抜けちまったし受理はしたが…クソ」


 おかげで年若い者が多い王子の政務部は焼け野原である。



「理解者系令嬢も来てたわよね。

『私も寂しい時はついこちらに足が向いてしまいますの。殿下をお慰めしたいわ』

 って。

 休憩場所の情報流してたメイドも解雇したわ」


「わざわざ王宮の中庭まで入り込んで言う事がそれかって。また一つ避難場所が減った。」


 四六時中運命の出会いを画策されて疲れている時に一息つける場所、追いかけてくる集団をやり過ごす場所をいくつかピックアップしているが、徐々に侵食されてきている。

 くれぐれも寂しいから行くのではない、一人になりたくていくのだ!



「最近ではその亜系も多いな。

『殿下が男色である事のカモフラージュに』

 って男とペアで来るんだ」


「はあああ!?」


「あはははっ!面白いけど、もはや舞台並みに奇を衒いすぎて何がしたいかわからないねー。

 いや王太子妃になりたいんだろうけど、なれる気がしないよねー」


「その男の方は何者なの?」


「だいたいガチホモ。たまにその女も食ってる両刀。

 こっちはこっちでワンチャンあればってお近づきになりたい系。」


「ワンチャンなんてあるわけねーだろ!」


 騎士達は男所帯であるためそこそこいるとは聞いていた。

 だが子孫を残すことも求められている王太子には無縁のことだと思っていたし、権力を求め擦り寄って来られてもハニトラ以上に見極めが難しい状況になんてなりよりがないから男には幾分気安く接していたが…もうそれもダメなのか…。

 第一俺はストレートだ!



「あと単純に私に取って代わろうって令嬢。髪や瞳の色が同じで、化粧で顔も寄せてるの。私には男を宛てがって寿退職させようって算段よね〜」


「幼馴染がいつのまにか入れ替わってるとかホラーか!」



 日常的にこのようなテロに晒されているので、もしや普通の令嬢はこの国にはいないのか?と疑うばかりだ。


 天に二物以上を与えられた王子に、同時に与えられたのがこの恋愛面における不憫さであった。



「こんなんだから『運命の出会い』なんてクソ喰らえなんだ。

 王族なんだから、普通に政略結婚とかないのか!?」


「あはははーあっても相手はその令嬢達の誰かになる確率高いしねー」


「それにさ、レオ気づいてる?

 色んな攻撃仕掛けられるけど、実際晒されてるのだいたい私らじゃない?」


「ああ、それに関しては感謝して…」


「違くて!直接色々されていたとしても、レオ以外私達はみんな自分で恋愛して相手を見つけているのよ。」


「……」



 神はいない。いや、たった今殺された気がする。



「だから話を戻すと、もうベアトリーチェ殿下しかいなくない?」


 侍女エスターの後をリフが引き継ぐ。


「たかが3週間と言えど見ていて本人に問題はなさそうだし、条件としても最上級だし、国同士もメリットこそあれ探っても裏は出てこない。」


 幼馴染たちは連携して畳み掛け、最後を締めるのはジュードである。


「普通に真っ当にお見合いをしてくれるのなんて、しかもあちら側が乗り気だなんて、もうこれを逃したら二度とないよー。

 ここで決めちゃったらレオの人間不信もこれ以上酷くはならないんじゃないー?」


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