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玉虫色の結婚  作者: 葛葉
3/11

銀色の姫君

予約投稿できたかな?

 

「まぁ、とてもおいしいわ。ありがとう。」


 ほぅ、と息を吐きながらかすかに頬を染めて言い、侍女の方を見て微笑む。銀のストレートの髪に紫の瞳。

 濃い色味の多い隣国において、王族のみに受け継がれる色である。



 隣国の第二王女であるベアトリーチェはその王族の色がはっきりと出ている上、その容貌も際立っていた。

 こぼれ落ちそうな大きな瞳、薔薇色の頬、小作りな鼻に唇。それらが小さな顔に絶妙なバランスで配置され、スッと通った首筋を伝って華奢な肩に続く。

 豊満な方ではないが胸、ウエスト、腰は黄金比率で形成され、現在着ている略式のドレスから見える足首はキュッとくびれている。



 王位継承権は低いが、その美貌は「妖精姫」として他国に知れ渡り、隣国王室との縁と、何より本人を求めて縁談の要請は国内外からひっきりなしだという。

 その姫は「自分の伴侶は自分の目で見て決めます」と国内から始まり現在は国外の相手とお見合いをすることすでに十数ヶ国である。


 大きな国、美しい国、裕福な国、勢いのある国、美麗な王子、頑健な肉体を誇る王子、王太子も第2、3王子も、年上から年下まで…そんな婚約者候補達をちぎっては投げちぎっては投げ…ではないが全て断りつつである。

 果たして姫の求める条件とは如何様なものなのか?



 我が国は豊かで平和でお見合い相手も王太子であり、愛人を囲う者はいても側室の様な制度はないため結婚後の地位としては安泰である。

 本人も見目よく賢く、外面もいいが…他国の並居る婚約者候補達を押し退けてとなるとセールスポイントが弱い。

 隣国との関係もここ数十年という単位で安定している。


 まぁお互いお相手もおらず年の頃もあっており、ここらでまた国同士の絆を強くするのもいいかも?的なもはやダメ元以外の何者でもない周囲のお膳立てにより実現したこのお見合いであるが…周囲と当人である王子の予想を裏切り姫の滞在期間は早3週間にも及んでいた。


 それは姫がこのお見合いに大変乗り気であることを示していた。



 姫は見切るのは早い。


 最短では3時間でお断りの返事をして次国に赴いたこともあるそうだ。

 何か非礼を働いたのかと理由を問われても「条件が合いませんでしたので」の一言であった。


 姫君の条件とは何なのか?それはこのお見合い相手に絵姿と共に必ず届けられる冊子が全てであるとのことであるが…


 この姫の行動的過ぎるお見合い旅こそ常識的ではないものの、姫君自身は噂以上の美しさに奢ることなく淑やかかつ朗らかな人柄で王宮中の人心を鷲掴みにしていた。

 最初は晩餐会やお茶会や庭園の散歩など多少の無理をして相手に時間を割いていたが、流石に3週間ともなるとそうもいかない。

 恐る恐るその旨を伝えると、


「ご無理を言ってお邪魔しておりますので」


 と言ってレオンハルトの執務の休憩時間に合わせて話をしに来るのみで、本当に気を悪くする事なく空いた時間は図書室でこの国の歴史を学んだり、王妃や高位貴族の娘達と昼食会やお茶会などの交流をしている。



 執務室のソファに向かい合って座り、他の3人も交えお茶とお菓子を食べながら会話をする。

 姫と目が合うと媚びるでもなく気取らない柔らかい微笑みを返され、こちらも自然と笑みがこぼれる。

 王族たるにふさわしい凛とした雰囲気も持ち合わせながら、その繊細な美貌と華奢な体躯からは庇護欲をそそられる。


 会話も上品かつウィットに富み楽しいものである。

 また徐々にお互いの幼少時の事や趣味や好物についての話題に移ってきているが、その距離感も詰め過ぎず引き過ぎず、純粋にお互いのことを知ろうという気持ちが伝わってくるものであった。


 だからこそわからない。何故今までの国ではダメだったのか?



「ではそろそろ失礼致します。お邪魔致しました。」


 最後に執務を労う言葉を付け加え、本日も姫は完璧なタイミングで去っていく。

 人形のように無表情で整った顔の闇色の騎士を従えて。

 隣国のほとんどの者達は暗い髪色と瞳をしている。

 だがこの騎士は同じ黒と言えども漆黒といった髪色をしており、対して瞳は夕焼けを煮詰めたような赤色をしていた。

 どちらもこの国には中々ない色で、大柄の体格と無口・無表情で近寄りがたい印象を与えているが、その整った顔立ちのおかげで威圧感がないのかもしれない。


 滞在国に負担をかけるとのことで、姫の付き添いはこの護衛の騎士のみであった。

 姫の続き部屋を与えられ24時間体制で付き従う。

 王族としてはめずらしく着替えなど身の回りの事を自分でやり、一人では着られない正装が必要なときなどのみこの国の侍女の手を借りる。

 自立心が旺盛なのだろうが、それで周囲に迷惑をかけるわけでもない。

  どこまでも完璧な姫であった。


 姫の姿が消えてから、外面のいい笑顔を消してひとりごちる。


「この冊子に書いてあることが守れない国なんてなさそうだが」


 内容は姫の心身の安全の保障など基本的すぎること、持参金や個人的な財産の取り決めや国から連れて行く供の者などについてが書かれている。

 離縁になる理由やその際の条件などが書かれている点に関しては王族同士の結婚において些か不穏ではあるが、それらにしても至極まともな事由や条件しか書かれていない。


 何一つ欠点のない、こちらにとってこれ以上ない見合い相手。



 だからこそ訝しく思ってしまうという自分の事を、きっと人間不信と言うのだろう。


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