金色の王子
よろしくお願いします。
「仕事をしろ、ボケ」
お伽話風の語りは仕事中の独り言だったらしい。
「あははは!僕に向かって仕事をしろとかってウケる」
麗らかな陽が差し込む午後のひととき。
不機嫌さを隠さず睨むのは金の髪と瞳を持つこの国の王子、レオンハルトだった。
少しクセをもった髪は長めに整えられ、前髪は秀でた額に斜めに流されている。
そこから高い鼻、薄めの大きな口と続き、パーツ一つ一つは繊細さをもって作られつつも全体的に男らしさを与える印象である。
そして最も印象的な輝く瞳は普段は柔和に細められることもしばしだが、今は鋭い眼光を放っている。
対して射抜くような視線を物ともせずニコニコ笑って更に睨まれているのは、王子の従兄弟でありこの国の公爵子息である。
同じ色味の髪色を持ち、その容貌も同じ血筋を色濃く感じさせる。
一見無邪気で毒気のない笑顔だが、王太子に睨まれても崩さぬ笑みは中身を推して知るべしだ。
室内は上質感はあるものの、家具類は執務机が3つにそれぞれの補助机、休憩にも使用する応接セットと本棚、侍女がお茶などを用意するためのバーテーブルのみ。
王子の執務室としてはこじんまりとしている。
執務机同士も距離が近く、公爵子息の手元が口元以上に動いているのが見えて王子はチッと舌打ちをした。
「レオ、行儀悪いよ〜。てゆーか仕事してるのに舌打ちってフツーにあり得ないからね〜」
公爵子息はそう言いながらも気にはしていないらしく、変わらない調子で書類を仕上げていく。
「むしろさっきから捗っていないのはレオの方だな。
おっと、だから八つ当たりすんなって」
もう一方の執務机の方からも声が聞こえ、王子は今度はそちらの方を睨む。
筋肉質な身体を騎士服に包んだ茶色の短髪の美青年がいる。
「もう。ケンカするくらいなら早めに休憩にしない?
今日のオヤツは城下で話題のチェリーパイよ」
そう声をかけるのはミルクティー色の髪に榛色の瞳をした侍女である。
伯爵家の長女であるがこんなにも気安いのは性格だけではなく、母親が王妃と幼馴染であり、小さい時から王宮に出入りしていたからであろう。
短髪の騎士リフは侯爵子息であると同時に王子と剣の師匠を共にする兄弟子でもある。
この4人は小さい頃から顔を合わせ続けた幼馴染の間柄から、成人した今もそれぞれの立場をとりながらも一緒にに居続けるようになった王子とその側近である。
王子は他に兄弟もなく、成人と同時に立太子してから数年経っている。
その見目の良さに加え、自ら騎士団に属し磨かれた剣の腕はこの国で10指には入り、政務を執るにつけても優秀で徐々に王から政の比重が移行してきている。
幼馴染が相手とあり口が悪いが、その外面は完璧に近い紳士である。
弛まぬ努力も加わり、周囲からのプレッシャーにも負けずに堂々たる王太子ぶりであるが、ただ一方向のみ極端に防御力が低い部分がある。
「はいはい机の上の極秘書類を一旦片付けてー。
お見合い相手のお姫様が来ちゃうわよ」
言い終わるか終わらぬかの内に扉からノックの音が響いた。