第05話
私の人生はある日突然、大きな転機を迎えた。
運命とは残酷なもので私から大切な人を奪っていった、それも私のせいで…彼はその人生の幕を下ろしたのだ。
彼は私の幼馴染の内の一人で、いつもそばにいて私の事を助けてくれた。
身勝手にそばにい続けた訳ではなく、私の気分を察して私が不快に感じない程度の距離感でそばに居てくれた。
賢く優しい、我儘な私には勿体ないんじゃないかと思うほどの彼は実際に色んなことを損して来たと思う。
高校は別々になってしまうかもしれないというのは残念ではあってもそれほど落ち込みはしなかった、ずっと一緒だったといっても離れ離れになってしまう時は必ず来るのが分かっていたから、それでも私の成績でもギリギリ狙うことの出来る彼の第二希望の高校を選んだのはどうしても諦めることができなかったからだ。
もう1人の幼馴染もそれは同じようで、3人が一緒にいられるかもしれないという理由で同じ高校に進学を決めた、努力の甲斐あって三人一緒だって知った時は嬉しかった。
さっきも言ったように最初は三人一緒だって分かって本当に嬉しかった、でも彼は私達と一緒に高校生活を送るためにこの国で名を知らぬものがいないほどの屈指の名門校の合格を蹴ったという。
馬鹿だと思った、折角のチャンスを私達と過ごしたいからって無下にするなんて本当に馬鹿だと思った。
そして、私達はすでに彼と対等ではなく彼の将来の可能性を狭めるだけの枷になっていたことに気づいて、そんな自分に余計腹が立った。
ただそれでもどんな言葉を並べても結局は彼と一緒である事に喜んでいる自分を抑えることは出来なかった。
いつからだっただろうか、彼は私から距離を置くようになっていた。
いつもそばにいた大好きな彼が私から距離を置いているというのはとても耐え難いことだった、別に避けられているとかそういった事じゃないのだけれど彼と私の間には確かな距離があった……。
すれ違い、たった一つのすれ違いは取り返しのつかない現実を生み出した。
ただ別々の道に進むのならばまだ良かった、理解もできたしそれはしかたのないことだったから。
でも彼の言葉は私達から離れたいと、一緒にいるのが辛いとそう取れるものだった。
誤解だと訴えるももう聞き入れては貰えなかった、どうしてこうなったのだろう、そんな現実が受け入れられなくてその場から駆け出した。
そんな軽はずみな行動が、現実を受け入れることの出来なかった私の弱さが彼を殺した。
彼の葬式にはたくさんの人が参列していた、そのほとんどが女の子だったのは少し驚いた。
拓海曰く「あいつはすげーモテてた癖にお前一筋だったからさ、他の子の好意に全然気づいてなかったんだよな。まあそれは亜由美も一緒だけどな」……そんな盲目的だったかな。
彼のことを好きだった子がこんなにもいたことに私は気づきもしなかった、彼の死を悲しみ涙を流す彼女たちを前に何とも言えない感情がわく。
私の身勝手な行動が彼を死なせたことは知っているだろうに誰一人わたしを責める人はいなかった、大勢で私を責め立ててくれればどれほど楽だったか…。
☆
彼はもうこの世界にいないというのに私の日常は驚く程に普段通りに過ぎていく、彼を失った事実を十分に受け入れる時間はなかった。
学校へ行くとクラスメイトは口々に「残念だったね」とか「大丈夫?」とか、私に声をかけてくる、その質問の答えは聞くまでもなく彼らの頭の中に出ているだろうに。
拓海が言っていた通り、私が気付いていなかっただけで私に好意を抱いていた男子は結構いた、傷心につけこんで来ようとしているのが見え見えで告白されても気持ちが悪いだけだった。
彼らに悪気がないのも分かっている、彼の死を偲ぶ時間が十分にあたえられないというのもわかっている。
彼が今の私を、この状況を見たら何を思うだろう。
「しっかりしろ」と叱るだろうか、「しょうがないな」と呆れるだろうか。
彼の気持ちを知る術はもうどこにもない。
『あーちゃん…大好きだった……よ』
告白、それが彼が最後に私に向けてかけた言葉だった。
それは本来、私が何よりも望んでいた言葉だったのにこれがどうしようもなく私の胸を締め付ける。
気持ちが通い合ったという歓喜と知らなければ私はこんなにも苦しくはならなかったという愛憎が私の中で鬩ぎ合うのだ。
愛の反対は憎しみではなく無関心だというのがよくわかる、感情の種類は違えども私の心は今もなお彼へと向いている。
彼を失った私が、これから先どんな人生を歩むのかはわからない。
……ただ1つ言えるのは私の心の中から彼という存在が、彼への想いが消えることは無いだろう。
「なっくん、私も大好きだよ」
初回連続投稿の五話目でしたが、ここまでいかがだったでしょうか。
リアルの方も忙しく執筆に時間が取れない状況になることが容易に推測されますので、どうか温かい目で見守ってやってください。
言い訳じみた文章をしてしまって大変恐縮ではございますが、文才ゼロの癖に先立ちの投稿者様に大きく憧れ、なぜか自分も執筆してみたくなってしまった未熟者をよろしくお願いいたします。