表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第03話

「さてと、それじゃあ異世界へ行く準備をしようか」

「あの…ちょっと待って」

「ん? どうかしたのか?」

「いやいや、なんか増えているんですが……この人達…いや神達か…誰ですか?」


 というのも、俺が異世界行きを決めたと同時にウェシルが瞬間移動をして、それで連れてこられた場所には知らない人がぞろぞろといるわけでして……。


「おっとすまないな、たしかに紹介するのを忘れていた、取り合えず手短に自己紹介を頼む」


 ウェシルがそういうと一人が自己紹介をしようと一歩前に出る、たくさんいる中で俗にいうドワーフみたいなおじさんや気高く素人目にも動きの一つ一つが洗練されている女性がいるが、最初に前に出たのは生地の薄いトーガを着崩して纏っている何とも扇情的な格好の女性だ。


「私の名前はカンヘル、慈愛の女神と呼ばれているわ、よろしくね。ここにいるのは異世界に行くことになったあなたに、力を授けるために集まった者たちよ、だから気軽に名前で呼んでくれていいわ。それにしても、そこのじいさんなんてどういう風の吹き回しなんだか」

「うるさいわい、そこの坊主であれば儂の武器を授けてやってもいいとおもっただけじゃ。何のために、そして誰のために己が力をふるうべきかそれを弁えておるからな。儂の名はランデール、技巧の神と呼ばれている」

「あたしもランデール爺さんには賛成だな、湊はこいつなら力を与えても大丈夫だって思える奴だ。あたしはダーリシラ、戦いの女神だ、よろしくな」

「よろしくお願いします。俺なんかのためにわざわざ集まっていただいて、本当にありがとうございます」


 ここにいる彼女らからしたら俺なんて塵芥のようにたくさんいる魂うちの一人に過ぎない、ウェシルは魂管理の一環としているわけだから仕方ないとしても他の神は別でわざわざ来てくれたのだから本当にありがたい。


「硬い、硬いよ湊。さっきカンヘルが言ったように、あたしらのことなんて呼び捨てでいいし敬語なんて使わなくていいんだよ」

「えっと……じゃあ、あ、ありがとう。よろしくな?」

「ああ、もう駄目っ我慢出来ない!」


 そんな呟きと同時に俺の視界は一瞬にして閉ざされた、視覚が遮られるとほかの感覚が敏感になると言うがまさにそれを身をもって知ることになった。

 この場合は触覚だ、とてつもなく柔らかいそれによって前方が塞がれてしまっている、しかも手を頭の方に回されていて全く身動きが取れない。


「ああ、何この子可愛すぎない? ウェシルもなんて子連れてくるのよ、素直で一途で両思いがわかっただけで幸せなんて無垢というかなんというか……もう、なんなのよ!」

「はあ……カンヘルの悪い所がでおったわい、これでは話が進まん」

「まあ、でも湊にとっては天国かもな、女神のあたし達からしてもカンヘルのアレは素晴らしいモノだし」

「確かにそうだ、しかし不思議だよ。アレだけのものだと言うのに垂れることなく、かといって筋肉のせいで硬いわけでもないあの柔らかさだからな、一体何がどうなって……」


 おっと神様達は傍観に回ったようだ、助ける気も止める気も無いなんて、こんな時は誰かが黄色い声を上げながら俺からカンヘルを引き剥がすものじゃないか?

 神にとって人間は被造物だ、なんてことも言うし、母が子を愛でているようにでも見えているのだろうか。

 それにしてもすごい、身動きも取れないくらいに拘束されているというのに、息ができない苦しさ以外に何の苦もないのだ。

 そして何とも言えない安心感が体を包み込んでくる、この場所こそが自分が本当にあるべき所だとでもいうようなそんな感覚だ……。

 はからずも大きい方が好きな人たちの気持ちの一端を理解できてしまった、確かにこれはいいものだ――っとこんなことを考えている余裕はない、そろそろ息が限界だ…すでに死んでいるというのにまた死ぬ……また死ぬのか?


「カ、カンヘル、息がっ…苦しっ……」


 もがくことができないために何とか声を上げて放してもらおうとするも全く聞こえていないようだ。


「カンヘル…その辺にしておけ、そろそろ不味い、魂の状態で死なれたら今度こそ完全に消滅してしまう……」


 魂のままもう一度死ぬと消滅するって……えっ、なにそれ怖い。


「あっそうだったわね、ごめんなさい私としたことがつい」

「いや…別に悪気があったわけじゃないみたいだし……キニシナイデクダサイ」

「よかったなー湊、あたしらですらすごいと思うカンヘルのアレを体験できて得したな!」


 揶揄うように笑いながらダーリシラが俺にそう言ってくる、まあ確かにあれが嫌だったと言えば完全に嘘になるし、得したというのも理解できるけどなんかやるせない。


「さて、そろそろいいかのう。さっきも言ったように儂が坊主の武器を作ってやる、だが坊主がどんな武器を使いたいかを決めてもらわないことには儂も作りようがない。かといって坊主のいた世界では身近に武器があるという環境は普通ではないしの、だから坊主に武器の知識はあっても武器の扱い対する理解があるとは思えない。そこでなんじゃが、今回それぞれ武器を司っている天使たちを呼んでおいた、彼らの話を聞いて一番使ってみたい武器を選ぶといい」


 ランデールがそういうと後ろに控えていた者たちが俺の周りに集まってくる。


「俺がファマエルだ、俺が司るは“片手剣”!誰もが知るシンプルで隙がなく取り回しがいい武器だ!他の奇を衒った様な武器に頼る必要はない!」

「私はトゥマエル、“双剣”を司っているわ。スピードを生かした戦闘に向いていて、二対の剣による連撃が魅力の一つだわ」

「俺はアキベエル、司るは“大剣”だ。その大きさからくる重く鋭い一撃は何者にも阻むことはできない!手数で勝負なんて情けない武器とは一味違う」

「うちはエゼケエル、“槍”を司ってる。長物は取り回しが難しいというけどその射程の長さこそが槍の強みよ、相手の武器なんて絡めとって鋭い突きでとどめよ!ほかの射程の短い武器なんか目じゃないね」

「おいらは……」

「わしが……」


 そう言って次々に自分の司る武器を説明し自己主張をしてくる、しかし一人?の天使によってそれがさえぎられる。


「黙れ雑魚共が!我こそがフュジエル、我が司るは“銃”よ!地球出身のお前ならば、大人しく我が司る銃を選んでいればよいのだ」


 しかし、まあなんとも濃い奴がいるものだ、確かに銃は強い、地球においてもその登場からどれだけの命を奪ってきたのかわからないほどだ。

 ただ今は何となくだが威張り散らす彼ではなく、自分から自分の司るものを言いに来ないで隅の方で大人しくしている彼女の方が気になっている。


「なんだ貴様何をみている? ふっ…なんだ、雑魚の中でも塵のような奴に目を付けたな」


 そんなフュジエルの言葉にどっと笑い声が響き渡る。


「我の登場から築いてきた己の立場を失い、決して選ばれることのなくなった能無しよ」


 む…気に入らないな、何もそこまで言う必要はないんじゃないだろう、不愉快だ。

 たとえそれが真実だったとしてもそれが彼女を蔑み馬鹿にしていい理由にはならないだろう、そう思って彼女のもとへと歩み寄る。


「君は何を司っているのかな? よかったら俺に教えてくれると嬉しいんだけど」

「わっ、わたしの名前はアポリエルです、わたしが司っているのは弓…です。フュジエルさんの司る銃と比べられたらどうしても弱くなってしまいます、近接戦になればそれも一入です。ですが、その分ローコストで生産できてほぼ無音で攻撃できます、弾道も弧を描くようなものなので技量次第では色んな攻撃が出来るのでその点はおすすめです」


 さっきのヤツがあまりに貶すものだから、よほどマイナーで使い勝手の悪いものなのだろうと勝手に思っていたけれど良い意味でそれを裏切ってくれた。

 個人的に弓は好きだ、弓道なんてものがある国で生活していたというのもあるけれど、弓をぐっと引き絞って遠くの的に当てる姿には漠然と憧れる。


「そっか、弓か…いいね、なら君の提案に乗ろうかな、無知な俺に力を貸してくれると嬉しい」


 そう口にした瞬間、彼女の説明すらも馬鹿にしていた野次馬共の騒ぎ声がやんだ。


「貴様…今何と言ったのだ? 我の聞き間違いだろう? そのような無能の司るガラクタを扱うと、そういったのか?」

「そうだよ、というかお前らちょっとうるさいな…それに非常に不快だ。天使――つまりは天の使いだろ? それがこんなに醜悪な奴らだとは思わなかったよ。自分の武器の長所しか見ず、自分より下だと思った武器の劣っている部分しか見えないくせに、やれ自分の武器が強いだなんだってお前ちょっと傲慢すぎるんじゃないか? 神にでもなったつもりか、身の程を知れ。それにお前フュジエルとか言ったか? お前なんかもっとひどい、碌に自分の武器の長所を語りもせずに他の武器を貶してばかり、ただ威張り散らしているだけじゃないか」

「うっ…うるさいぞ貴様、そうは言っても銃が弓より強いのは自明である、そして何より貴様自身が銃の強さを認めているではないか」

「当たり前だ! 人類が試行錯誤の上で開発した武器が弱いわけがないだろ、それぞれの武器ごとの性能差はあれども弱いということはない。他人を見下すことでしか自分の武器の魅力を伝えられないというのに、よく司っているとも恥ずかしげもなく言えるな」


 そんな俺の言葉に天使たちが目をそらす、アポリエルはどこか申し訳なさそうな表情で俺をみる。


「ランデール、俺は弓を選ぶ」

「ふむ、本当にそれでよいのか? アポリエルの言う通り弓はだいぶ癖があるぞ」

「それでも俺は弓を使う」

「そうか、わかっておるならそれでよい」


 状況に流されているだけじゃないのか、それを確認したかったのだろう。俺の返答を聞いて満足そうにランデールが頷く。


「ま、待ってください。わたしの司る武器を選んでいただけたのは本当に光栄ですけど、湊様はもっと強い武器を選ぶべきです。どれだけ言葉を尽くしても、わたしの弓とフュジエルさんの銃とじゃ性能差が段違いです、銃と違って弓は弦を引き絞る過程があるからどうしても攻撃までの動作にラグが出来てしまいますし、さっきも言ったように距離を詰められれば他の武器よりも圧倒的に不利です! それに――」


 まくしたてるようにアポリエルが短所を挙げる、他の天使たちとは真逆の言動だ。

 そんな天使の姿に何を思ったのか、アポリエルの言葉にかぶせるようにランデールが口を開いた。


「アポリエル、お前の司る武器には悪いところしかないのか?」

「え……」

「湊が何を思ってお前の司る“弓”を選んだのかは儂にはわからん。だがな、単なる同情心や一時の感情だけで自分の今後を左右する選択を選んでしまうような愚か者ではないことはわかっておる」

「ですがっ、それならばなおさらわたしの“弓”以上にふさわしい武器があるはずです」

「そうじゃな、だから儂は湊に問うた『本当にそれでよいのか?』とな。それでも湊は弓を使うと言ったんじゃ。だったらお主がすべきことはなんじゃ? 人の決意を踏み躙り、それを曲げさせるように努力することか?」

「…………」

「違うだろう、選んでくれたことに感謝の気持ちがあるのならば、それ以上に湊に酬いる努力をするべきじゃないのか?」


 ランデールの声音は怒気を孕んだ声ではなく、どこまでも優しく間違いを犯した子供を諭すような、窘めるようなそんな声だった。


「わたしが…わたしが間違っておりました。わたしのしたことは礼を欠き、己の役目から、その責任から逃げるような行いでした。己の武器の長所を伝え好印象を持っていただく努力を怠り、(あまつさ)え、その行動原理さえも周囲のせいにしておりました」

「わかればよいのだ、武器というものにはどうしても優劣というものが決まってしまう。それは人の子が既存のものよりも優れたものを生み出そうと試行錯誤しているのだから当然のことだ、たださっき湊が言っていたように優劣はあれどもその武器が弱いということは無い。その武器にはその武器特有の良さが必ずある、そしてそれはほかの武器にはない大きな強みとなる。お前が少々卑屈になってしまうようなそんな環境を放っておいた儂にも責任はある」

「そんな! 決して、決してランデール様の責任などではございません、これはわたしの弱さが招いたことなのです。そもそも、一介の天使に過ぎないわたし如きに先程のようなお言葉をおかけいただけるだけでわたしには十分すぎるのです」

「そうか、だがそこまで卑屈になるでない。儂はお前たち一人一人を大切な子たちだと思っておる、決して自分を貶めるようなことは言うな」

「はいっ、このアポリエル、しかとこの身に刻みました」


 そんなこんなで、ランデールのお説教?は終わった。

 とはいえ、アポリエルの抱える問題が解決したわけではなく、アポリエルが頭を抱えたまま時間だけが過ぎる。

 そんな中、思いもよらなかった者から一つの提案が出される。


「ランデール様、僭越ながら私に提案がございます。どうか私の双剣も一緒に製作してはもらえないでしょうか」


 確か、アポリエルを除く天使の中で唯一ほかの武器を貶すことなく、シンプルに自分の武器のいいところを推してきたやつだ。


「私の“双剣”であれば、取り回しがよいため弓のような武器との相性も良くサブ武器としての役割を果たせるかと思います」

「トゥマエル、それはどういうつもりじゃ。儂の作る武器をそういくつも渡すことができないのは知っておろう」

「友人の恩を私が返したいのです、無力な私にはどうすることもできなかったところ。」

「気持ちはわからないこともないんじゃが…そうもいかんのだ」


 一人に力を与えすぎるのはいけないことだというのは理解できる、ランデールが簡単に頷けないのも当然の事だろう。

 正直なところ俺としては自分の持てる戦力が増えるというのなら万々歳ではあるんだけど。


「ランデール、下界で出回っている物よりは強いと言える程度の武器を与えればいいのではないか?」

「ウェシル、それはこの儂に手抜きの武器を作れということか?」

「そうは言っていない、お前ならばランクを落としたとしても優秀な武器が作れるのではないかと思っただけだ」

「ふん、まあいいじゃろう。他ならぬお前がそう言うのなら作ってやらんでもない、坊主何か希望はあるか?」


 双剣か……日本人としては日本刀を使いたい、でも漠然とだけどファルシオンみたいな西洋の刀にも憧れるんだよな……。


「ファルシオンみたいな形状の刀がいいかな」

「わかった、少々時間がかかる、坊主はウェシル達と話をすすめているといいじゃろう。アポリエル、トゥマエル、お前たちは儂と一緒に来て作業を手伝え」

「「はい!」」

2019/2/4

早速、修正です。

今後、『柳葉刀』→『ファルシオン』とさせていただきます。

敵に持たせる武器を考えているときに湊に持たせる武器の形状の理想としてよりふさわしいものを見つけました。

構想段階でも同じサイト見てたはずなんだけどなあ…。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ