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第01話

緋兎と申します。

文才ゼロ、前作品思考停止中の投稿初心者による文章ですのでどうかお手柔らかにお願いします。

『なあ、そんなんで本当に幸せか?』

――うるさいなぁ。

『お前頭いいんだからもっとやりようがあるだろ』

――俺は兄貴とは違うんだよ

『へぇ……、そっか言うようになったじゃん、あのお利口さんが』

――なんだよ。

『まあお前が後悔しないっていうならいいよ、いつ何が起こるかわからない人生ちょっとくらい我が儘になったって神様は怒らないだろうよ』

――なにいってんだか……。

『ほら朝だぜ、高校生活最後の一年なんだ。一分一秒だって惜しいもんさ』




 桜は散り葉桜へとその姿を変え、春の陽気というにはいささか厳しい気温になりつつある。

 高校三年生の五月、遅くとも誰もが近づく受験のその日に向けて本格的に勉強し始める頃だ。

 親の世代では高卒なんて肩書も珍しくはなかったはずなのに、今では大学卒業なんていうのは当たり前の肩書である、一流企業では大学のレベルによっては面接前の選考で落とされてしまうと言う話だって聞く、まぁ本当かどうかは知らないけど……。

 ともあれ、そんな厳しい現実に季節にそぐわないこの暑さ、それに加えてあんな夢を見ればとくれば寝起きの機嫌が悪くなったとしても不思議はないだろう。


「はぁ……」


 いつものように和室で手を合わせ今日も元気であるという報告と無事で居られるようにという祈りを込め手を合わせる。

 音のないこの家にも慣れたもので現状になにか特別な感情を抱くようなことはない。

 朝食を摂り、身支度を済ませ、返事のない挨拶をして家を出る、これが俺の日常だ。


  〇


「おはよー湊っ!」

「おはよう亜由美、また外で待ってたのかよ。外で待つくらいなら中で待ってろって言っただろ、最近暑いし熱中症とか洒落にならないぞ」

「べ、別にずっと待ってたとかじゃないよ! 今来たところだし、ちょうど湊がドアからでてきたってだけだし!」

「嘘つけ、ちょっと汗かいてるじゃねえか。家隣なんだから、いま来たところなわけないだろ、幼馴染みなんだから変に遠慮すんなよ」

「……遠慮って言うなら湊の方じゃん」

「え?」


 なんか言ったみたいだけど、小声過ぎて聞き取れないかった。


「もういいよ。ていう何かね、そんなに早く“愛しのあーちゃん”に会いたかったのかね?」

「いや別にそうじゃねえよ、てか“あーちゃん”ってまた懐かしい呼び方を」

「あーあ、あの頃の湊は『あーちゃん、あーちゃん』って可愛かったのになぁ」

「何だその年上みたいな言い方、俺らタメじゃん」

「私の方がお姉さんだからね! あ、そういえば結婚の約束もしたっけ、ほれほれ恥ずかしがらずに昔みたいに呼んでくれてもいいんだよ? ほら恥ずかしがらずに、りぴーとあふたーみー、“あーちゃん!”」

「……いや、いいから」

「むむむ……」

「いやほら亜由美だって、俺の呼び方昔と違うだろ?」

「私は別にいいんだよっ」

「いや、なんでだよ」


 もう何度繰り返したかわからないこの会話も、来年からはもうなくなってしまうのだろう。


「朝から何騒いでんだよー? お二人は相変わらず仲いいですね」

「なんでそんなに他人行儀なんだよ、おはよう拓海」

「おはよー拓海、今日も時間ばっちりだね」

「おはようさん、二人とも」


 家が近所だったのもあって昔からずっと一緒だった幼馴染の二人、小鳥遊亜由美(たかなしあゆみ)是枝拓海(これえだたくみ)だ。

 幼馴染を巡った三角関係!ってことはない、明言はしていないものの二人が付き合っていることは知っているからだ。

 まあ……亜由美のことは好きだけど拓海だって大切な親友だ、二人の幼馴染としてひそかに応援してやるのだ。


「それはそうと湊、古文の課題やってきたか?」

「当たり前だろ、今回はそんなに量も多くなかったしな」

「おお! さすがは湊だ、頼りになるっ!」

「いやちょっと待て、やってきたとは言ったけど見せるとは言ってないぞ?」

「ええっ、意地悪すんなよ湊! 俺とお前の仲だろー?」

「いや、自分でやらないと意味ないだろ。それに今年はもう受験生なんだから少なくとも課題くらいは自分でやれよ」

「そんな……俺にあんな難しいのが出来るはずが……」

「お前本当にどうやってうちの高校受かったんだよ……」


 拓海はあまり頭がいい方ではない、頭の回転は方は悪くなくてむしろ早い方なんだけど勉強になると全然だめだ、うちの高校に受かったのだからやれば出来るのは間違いないのだろうがそこまでのやる気が出ないみたいだ。


「拓海には私が代わりに見せてあげるよ」

「いや、亜由美に見せてもらってもな。……基本的にいつも間違ってるし」

「やってない人に言われたくないよ、そんなこと言うなら私も見せないからね」

「なっ!?」

「まあ、自業自得だな」

「湊、私たちは課題やってきたんだしお互いに見せっこしようね」

「ちょっと待て亜由美、本当はお前も湊の答え写したいだけだろ!」

「違うもん、私はお互いに確認した方がより確実だと思って」

「あーもう、二人とも落ち着けちゃんと見せてやるから」

「「さっすが湊!」」

「拓海…今回だけだからな?」

「も、もも、もちろんわかってるって、それにやってこなかったんじゃなくて分からなかったんだよ」

「大して変わんないよ……わかんなくても自分なりに答えを出して、それで初めてやってきたってことなんだから」

「湊は厳しいな」

「普通だよ……」


 あきれたように俺が言うと亜由美が笑い、堰を切ったように皆で笑いあう。

 そんな他愛ない話を繰り返していると学校につく、教室に入るとクラスメイト達から挨拶が飛び交う。


「拓海君おはよう!」

「おはよう亜由美ちゃん」

「おはよう湊君」

「おうっ、おはよう」

「おはよー!」

「おはよう」


 俺は自分の席に着いて授業の準備をする、あっという間に拓海と亜由美の席の周りに人だかりができる。

 この分だと課題を見せる余裕はなさそうだな、まあやってこなかったのが悪いんだし気にしなくてもいいか。

 思った通り課題を写せないまま授業が始まり、すぐに課題の答え合わせの時間になる。

 案の定、拓海が指名され悲鳴を上げていたが気にしなくてもいいだろう、うんやってこなかったアイツが悪い。



   ☆


「課題やってなかったぐらいであんなに怒るかなー」

「私も当てられたけどちゃんとやってたから怒られなかったもんね」

「間違ってたくせによく言うよ」

「朝も言ったけど俺達は今年受験生なんだから、教える側の先生も責任とか感じるだろうしピリピリしてるんだろ」

「それは俺だってわかってるけどさ、いまいち自覚がわかないんだよな」

「いつまでも一緒にいられるわけじゃないんだからしっかりしてくれよ」

「え?」


 俺の言ったなんでもないその一言に空気が一変する。


「なんでそんなこと言うの? これからも仲良く一緒にいればいいじゃん」

「いやだって、俺も拓海も亜由美だってそれぞれやりたいことが違うだろ? 当然、大学を違うところになるだろうし、いままで通りにはいかないことだってこれから先たくさんあるだろ」

「それは…そうだけど……」

「それに(付き合ってる)お前たちはともかく、俺は…な」


 そうだ、拓海と亜由美は付き合っているんだし、そのうち結婚もするだろうから一緒にいられる。

 でも俺は違う、俺がどんなに亜由美のことが好きだったとしても、もうその想いは決して届くことはないのだから。

 二人の幸せを願っているのは嘘じゃない、それでも心のどこかで亜由美の隣にいるのが自分じゃないことを妬んでいる自分がいる。

 こんな状態がいつまでも続いたらどうなるのか自分でもわからない。……ただ大好きな二人を嫌いになってしまいそうで嫌だった。


「湊、お前はなんか勘違いしてるみたいだけど――」

「やめてくれっ!!」


 自分でもびっくりするくらい大きな声出た、当然それを聞いた二人も驚いている。


「二人のことは好きだよ、大切な友達だ。でもな、友達はどこまで行っても友達で家族みたいに一蓮托生ってわけじゃない、だからずっと一緒にはいられない」

「私はっ……私は!」

「亜由美、変に気を使わなくていいよ」

「湊のバカっ!!」


 そう言って前も見ずに駆け出した亜由美の先では赤く灯された歩行者用信号機が煌々としていた。


「止まれっ、亜由美!!」


 拓海が叫けぶと同時に俺は駆け出していた、飛び出た亜由美に対してトラックのクラクションが鳴り響く。


「えっ……」

「湊っ!!」


 呆然とする亜由美をなんとか歩道へ突き飛ばす事に成功する、しかし自分の安全まで気を配る余裕はなくそのままトラックに跳ね飛ばされ俺の体は宙を舞う。


「――っくん!?」


 あまりの痛みに朦朧とする意識の中で亜由美の泣きけぶ様な声が耳に届く。


「なっくん! しっかりしてよぉ! 死んじゃやだよっ」


 拓海のことはずっと名前よびなのに俺のことはなぜか“なっくん”だったよな……、変じゃないかって言っても頑なに変えようとしなかった。

 さすがに高校生になってもその呼び方は恥ずかしくて入学前に何とかやめさせた。……あれはたいへんだったなぁ。


「しっかりしろ湊っ!! 今救―車呼んだ――な、絶―死なせ――ぞ!!」


 あれ…何言ってんだ拓海、ちゃんと聞こえないぞ。そんなに泣かないでよ、亜由美(あーちゃん)のそんな顔は見たくない。


「あーちゃん泣かないでよ、大丈夫だから……ね?」

「今はしゃべらないでっ、後で……後で聞くからっ」


 自分のシャツの袖を破いて出血している俺の頭に当て、大粒の涙を流しながら亜由美が言う。


「俺さ、あーちゃんの事……大好きだった……んだ。でも……二人が幸せなら……って、……でも……どうしても、あーちゃんの事諦め…られなくて……それが…辛くて……」

「違うっ違うんだよ、私が好きなのはなっくんだよ」

「え…だってあの時……拓海に…」


 そんなはずはない、半年前に放課後の教室で亜由美を抱きしめる拓海を…それを受け入れる亜由美をたしかにこの目で見たのだから。


「違うんだよ湊、俺は亜由美に振られたんだよ。告って、調子乗って抱きしめたはいいものの、泣いてひっぱたかれた」

「はは…なんだよ……俺の勘違いだったのか」

「そうだ、お前達は両思いだったんだよ、カップル成立したくせに死んだら恨むぞ。だから諦めんなよ、あと少しだからな」

「そう…だな……」


 俺の言葉とは裏腹に出血は止まらず当てられた亜由美のシャツは赤く染まり、体に力が入らなくなっていく。

 胸が痛い…のども焼けるように熱い、まともに呼吸もままならず、口から大量に吐血してしまう。


「「なっくんっ(湊っ)!?」」


 体が焼けるように熱いのに寒い……それに覗き込んでくる亜由美の顔もぼやけてちゃんと見えない。

 ああ……これはもう駄目だ、多分俺は助からない。


「拓海っ…あーちゃんの事……頼んだぞ!」

「何言ってんだよ湊!」

「あーちゃんは強がりだけど……泣き虫だからなぁ……代わりに支えてやってくれ」

「それはお前の仕事だろうが、これからもお前が支えていくんだよ!!」

「もう…無理だ……分かるだろ? 頼むよ……」

「……わかった、もしもの時は任せろ。 でもまだ諦めんじゃねぇぞ、こんなところで死にやがったら絶対に許さないからな、俺の大学受験はお前にかかってるんだからな!!」

「はっ…馬鹿……野郎、そんなの…俺が……しるかよ」


 拓海の軽口に思わず笑みがこぼれる、頼んだぞ馬鹿野郎が。


「あーちゃん…さっきは……ごめんね?」

「今謝んないでよっ! あとでっ…あとで聞くからっ……ね?」

「もう…無理だよ、……どうしてこうなっちゃったかなぁ。あーちゃん…大好きだった……よ」

「嫌ああああああ!」


 亜由美の劈くような悲痛な叫びを最後に俺の人生は幕を下ろした、気持ちが通じ合ったことの幸福感とは裏腹に突き刺さる何かが確かにあった。

初回投稿は異世界入り直前までの五話投稿になります。

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