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前回のあらすじ:メートを取り戻すべく、クロウ族の長、グヤツと叩かくアナ。その二人の前に一人の若いクロウ族が現れた。

 

 真っ黒な羽を持つ若いクロウ族だった。


 ただ普通のクロウ族とは違っていた。真っ赤というよりは暗闇の混ざったような濁った瞳、羽は一対ではなく二対の四枚羽である。嘴は大きく曲がっており異形だ。上半身裸で羽毛はなく、胸には魔を象徴する魔法陣が浮き出している。


「魔の伝令者……」


 アナはすぐに意識を戻し、本来の役目を思い出す。お嬢様の救出が第一優先。よくわからないが内輪もめをしている今ならば、助けだせるかもしれない。お嬢様のいる篭へとそっと向かう。


「はははは、親父殿! ざまあないな。強さを誇っても『祖』の能力の前には無力だ! ここからは俺が指揮をする。あのハーピーどもを根絶やしにしてやるから、安心して逝ってくれ」


 異形のクロウ族はクヤツの息子のグラムだった。グヤツに頭を冷やすように言われて自分の巣へ戻ったはずの彼がなぜここにいるのか。そして自分の父親を今までなかった能力でこんなことに。


「こ……この……馬鹿もの……が……」


 ギリギリといった状態だったが、グヤツはかろうじて息があった。あれだけの稲妻の直撃を受けても、まだ息があるのは流石というところだろう。グヤツはふと、自分の後ろの篭を見る。このままではあの娘も、あのアナという戦士もこの馬鹿者に……。元々ギリギリまで戦って、見逃して娘は返すつもりだった。ある程度の形をとれればそれでよかったのだ。グラムの愚行、汚名は自分がかぶればいい、そう考えていたのだから。だが、このままではそうはならない。最悪の結果を避けるためには、あの者たちを逃がさねばならない。


「ふん! 馬鹿息子が!! お前の攻撃などいくらも効かぬわ!」

「はぁ? 息も絶え絶えで何を言っているんだ親父殿よ!」


 グヤツは可能限りグラムを挑発する。後ろの篭に意識を向けられないように、そしてこの後の策に気づかれないようにするために。グラムの考えている策とはあの篭を一定のところまで吹き飛ばすということ。そのためには強い風が必要となる。


 あの戦士は既に疲れ切っており、いくらなんでも、そこまでの風は使えまい。グラムの本気の風に自分の風をのせれば戦闘区域外へ吹き飛ばせるだろう。さすがに身の安全までは保障しかねるが、区域から外れさえすればまだ活路も見いだせよう。


「来るのであれば戦力で来い! クロウの風も混ぜて撃たねば、皮一枚効かぬわ!!」


 グヤツは、魔に魅入られた愚かな息子を煽る。


「親父殿……あんたはいつもそうだ! 俺を認めない! そうやって見下す! いいさわかったよ、全力で殺してやるよ! 親父殿ぉおおお!!!」


 グラムの周りに特大の風の渦が現れる。それと共に強い稲妻も落ち始める。あの稲妻は自分で何とかせねばならない。風だけをあの篭にぶつけ吹き飛ばせばいい。稲妻は自分が受けてそのまま、それを利用してグラムを落とす。父親らしいことは何もしてやれなかったが、せめて最後は道を外した息子くらいは、連れて行こう。連れて行って神々の下で躾をし直そう……。親ばかにもほどがある、神々がそれを許してくれるだろうか……、そんなことを考えていると自然と口元が緩む。


「まだ笑うかああああ!!!」


 激昂するグラムから暴風と稲妻がグヤツに向かって放たれる。


「ふんぬ!」


 グヤツは、全身に隠し玉であった能力を纏い暴風を加護に向けて放つ。


「アナとやら! すまぬがあとは自分で何とかしてくれ!」


 その声とともに暴風が篭にぶつかる。声をかけられたアナは慌てて篭につかまり、風の女神の加護を唱える。そして篭は暴風に乗せられてハーピーたちの山、その奥、頂上の先へと飛んで行った。


「な……」

「馬鹿息子よ……その稲妻で己が身を焼け! 一人では逝かせぬ私も一緒に逝ってやろう」


 残った稲妻を黒い羽根全てに受け、飛ぶギリギリの力を残して、大技を放ったあとの硬直により動けないグラムへと近寄る。稲妻はグヤツの能力を受けてより強く鮮やかに発光する。


「さらばだ息子よ……」


 戦場区域であったその場に、大魔法にも匹敵するのではないかと思われるほどの、強い光が放たれた。光に遅れて直ぐにこのあたり一帯全てに轟く程の雷鳴が響いた。この戦いのあと、クロウ一族とハーピー一族の戦いは終わりへと向かっていった。


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