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14-02 豪傑ラジールと幼き姫君

 そこから先は男3人での地下道の旅だ、これといった話は特にない。

 ときおり交易商とすれ違いながらもライトエルフの国ニル・フレイニアを目指した。


「待ってくれ、もののついでだ、ここにも作っておこう」

「旦那のスコップはつくづくまか不思議だな。おいブロンゾ、いつまでメソメソしてんだよ……」

「だってよぉぉ……しばらくフィンちゃんに会えねぇって思ったらおいらよぉ……1番かわいい時期を見逃しちまうようで胸が張り裂けちまうよっ!」


 ついでに休憩所や荷物置き場となる空間を増設していきながら。

 なにせ長い長い地下の旅だ、せめてこういう場所を増やしてくれとグフェンのところに要望が来ていた。


「女々しいこと言うなよっ、そんなふうに言われると俺だって……ああくそっ、早いところ仕事片付けて戻りてぇ!」

「よしいくぞ」


 この先に魔霊銀の鉱床がある、採掘しやすいよう切り目を入れておいて欲しいとついでのミッションが下りていた。ルイゼのスコップなら何のことはない。

 ……しかし先祖のスコップは、今頃どこの倉庫で眠っているのだろう。

 スコルピオを倒せば取り戻せるのだろうか。……それは何とも遠く果てしない話だ。

 大国エルキアにに対抗できる力を得なければ、地上サウスでの決起など到底出来ないのだから。



 ・



 ニル・フレイニアに到着した。

 風呂場に繋げた道は既に封鎖され、秘密を共有する商人と軍属だけが通れるように城の倉庫へと繋ぎ直されていた。


 そこから俺は案内人にしてライトエルフの代表役、ラジールを迎えに城内へ上った。

 しかしダレスはここじゃ立場が悪い。

 そこであの老王に謁見させてこちらの動向を伝え直すと同時に、今はアウサルの配下であることを強調させることにした。


「おおおーっっ、よく来てくれたなアウサーールッッ!! 会いたかったぞーっ、どれほど第2の故郷ア・ジールの大地とお前の顔が恋しかったことかっ!! 皆まで言うなっ、話は聞かせてもらったもちろん協力しようとも!!」

「そういうアンタは相変わらずだな、そう言ってくれると助かる」


 とある客室に案内された。

 調度品の整えられた、白くきらびやかな部屋だ。

 そこに騎士の正装をしたラジールがいたのだからどうもちょっとした違和感だったが……相変わらずの性格で安心した。


「エルフィンシルの田舎者が引きこもれないようにするとはっ、何とも素晴らしき名案だな同志アウサールッ! 怪盗アジールの片割れとしてっ、今こそやつらの(かたく)なさを盗んで見せようぞっ!!」


 それと、懐かしい顔がもう1つあった。

 あのパルフェヴィア姫の幼き妹君、バロルバルロア姫だ。今はついついフィンの姿をその幼さに重ねて見てしまう……。


「よくきたなー、アウサルー。なあなあ、バロアもいくかー? バロアはこれでもー、おうぞくのはしくれだぞぉ~。あ! お姉ちゃ元気かー!?」

「これはバロア姫、ごぶさたしているな。ああ、こちらが困るくらいに元気だ。バロア姫も今度ぜひア・ジールに遊びに来てくれ」


 姉が恋しいのだろう。

 俺の誘いに幼き姫君が嬉しそうにイスを足場に立ち上がった。


「おおーっ、いいのかーっ? わかったー! ぜったい、ぜったいいく! やくそくだからなー! ちちが、だめ、いっちゃだめ、いっても、お姉ちゃにあいにいくぞー!」

「わーはっはっはっ、あんなもうろくエロジジィの言うことなんて聞かんでいいぞバロア! むしろここよりアジール地下帝国の方がよっぽど安全だ! よーしっ、我がこちらの練兵が終わったらエロジジィにもの申してやるっ! 我がバロアを守ってやるから、バロアをア・ジールに行かせろクソジジィッ、となっ!」


 そこまで会っていなかったわけでもないのだが、なかなか懐かしい言い回しだ。

 ラジールが旅に同行してくれるならそれだけで頼もしい、この女は、性格はともかく武勇最強のヒーローなのだ。


「相変わらずの豪傑っぷりだな。ではラジール、封印の国エルフィンシルへの案内を頼む。きっとエルフがいないと話を聞いてはくれないだろうからな。バロア姫、向こうの用事が片付いたら必ず戻って来る、そのときにまた会おう」

「きをつけてな。バロアのちからー、ほしかったらゆーんだぞー。ラジール、バロアはたのしみにしてるぞ。バロアは、お姉ちゃにあいたい!」


 俺たちはババルバロア姫と別れてその足で謁見の間に向かった。

 ところがヴィト王は不在だという。


「あのジジィは接待が好きだからなっ、大方こっちだアウサール、ついてこい!」

「忙しない」


 王とダレス、それに運ばれたブロンゾはあるプライベートルームにいた。

 そこに敗将らしく恐縮するダレスの姿と、傍若無人に王へとタメ口を吐く困った男ブロンゾ、元敵総大将に鉄板焼を振る舞うヴィト王の姿があった。


「おおよく来たな、お前たちも食うか? まあそこに座れ」

「やっぱりここかジジィ! クンクンッ……食うか食わぬかと言えば食うに決まっておろうぞ! 同志アウサール、出発前に腹ごしらえといくぞ! 炎の出陣だ!」

「ただの腹ごしらえをまた大げさに言い換えたものだな……」


 ラジール、アンタはただ腹が減ってるだけだろう。

 まあここまで携帯食ばかりで、ちゃんとした食べ物に飢えていたのは事実だが……。


「やっと来てくれたかよ旦那……。俺ぁ気が気がじゃなかったぜ……最初は毒でも盛られるのかと……はぁぁぁ……」

「やはりそんなことを気にしておったか。恨みがあるかと言えばあるが、味方に毒を盛るほどもうろくしておらんわい。さあ食え、救国の英雄、その直臣よ」

「久しぶりだなヴィト王。俺たちは盟友だ、遠慮なんてしない、もちろんいただこう」


 王その人の手作りを断るわけにもいかない。それに何度食べてもヴィト老王の鉄板焼は美味だった。

 ……早くもラジールのペースに乗せられているような気がしてきたが。

 ところがそれもまた懐かしい感覚で悪い気ががしない。

 ラジールのメチャクチャに付き合いながら俺たちは今日までやってきたのだ。それは今さらのことだった。


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