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13-05 なんでーなんでー? 無限の好奇心からの旅立ち 2/2

「ねーねー、エッダママー」

「なんだフィン。よしよし、ママがそこの朴念仁に代わってフィンに答えてやろう」


「……ぼくねんじん? ママー、ぼくねんじんって、なにー?」

「不器用で察しが悪くどうしようもないやつのことだ」


「へーー……。アウサルパパは、ぼくねんじん」

「そうだ、フィンは賢いな、よしよし……いい子いい子……ぁぁ、かわいい子だ……」


 すまないが文句を言いたい。

 こういった育児スタイルというのはいくらか問題がないだろうか?

 父親役に対しての敬いというものをもう少し……察してくれないかフェンリエッダよ。


「ママ好き、フィンね、ママが大好き!」

「ああ、私もだよフィン。フィンだけはママが絶対に幸せにしてやるからな」


 またフィンとエッダが抱き合った。

 これを表現するにあたって異界の言葉を借りよう、これこそ、キャッキャウフフと叙述される光景だ。

 多少の文句はあるがしかし微笑ましいものだった。あのフェンリエッダにこれほどに母性あふれる一面があったとは。

 フィンの存在はエッダに良い影響を与えている、そう俺が断言しよう。


「あ! ねぇねぇパパー、ママー! エッダママは、胸が大きくなってるからー、女だ!」


 ところがエッダの母性がそこで吹き飛んでいた。

 否、それもまた母性の二面性なのやもしれん。フィンを胸元から背中の後ろにわざわざ移動させて、俺をひどく神経質に睨んだ。


「おい、アウサル……これはどういうことだ。フィンに……なんて妙なことを教えているんだッ!!」

「待てフェンリエッダ、これは誤解だ。俺はただ、フィンに聞かれたから……素直にそう答えただけだ」


 よくよく考えればまあ、多少まずかったか……?

 だが仕方ないではないか。ならどう答えれば良かったというのだ。俺は朴念仁だ。


「ん~~~……えーーっと……。あ、そうだったっ! 男は、こかんにふくろがある。あと……胸が、大きくならない女もいる。ってパパ言ってたー!」

「ま、待てフィン! それはママの怒りに油を……クッ?!」


 フェンリエッダの顔を見るのが恐ろしい。

 意を決してチラリとのぞいて見たが、これはまずい……邪険どころではない。敵意にも等しい威圧感を放っているぞ……。

 これが母性の側面か、恐ろしいものに触れてしまったな、フィンよ……。


「アウサル、2度は言わん。出ていけ……」

「落ち着いてくれフェンリエッダ、出ていけと言われてもここは俺の……」


「しばらく帰ってくるなこの不良親父!! お前はッ、フィンの育児に良くないッ、害だッ!!」


 まさかこの若さで親父扱いを受けるとは思わなかった。

 文句を言いたいが反論しようもない。だからって出ていけというのはいささか乱暴ではないか。


「まあそうかもしれんな、俺は子供とろくに付き合ったことがない。……難しいものだな、育児というものは」

「ねえねえパパー、パパー、何でママに怒られてるの~?」


 何でってそれは、お前が最悪のタイミングでエッダという潔癖性の女性に言っちゃならんことを漏らしたからだ……。

 まあ……俺のせいか……。


「それはな……」

「フィンッ、そのパパと話しちゃいけません!! これ以上変なこと吹き込んだら絶対に許さないぞアウサル!!」

「えーー? なんでー、なんでー?」


 フェンリエッダは意外に過保護だった。

 俺の前に飛び出してきたフィンを引っ張り戻して、アウサルには接触させないとまた後ろに隠してしまう。


「フェンリエッダ、落ち着け……」

「お前が余計なことを教えたからだろっ!」


 ならどうするのだ、離婚でもするか? まあ結婚などしていないがな。

 とにかくアンタはフィンに入れ込み過ぎだ。


「あのねパパー、女の胸はねー、わかったの。でもー、男のふくろがよくわかんない……ねえパパー、ふくろ見せてー?」

「グッッ?! ふぃ、フィンッ、お前何をッ!?」


 俺がまずいと青ざめたのと反対に、フェンリエッダの浅黒い顔に赤い血色が加わった。

 そうか、子供にうかつな回答をしてしまうとこうなるのか……。

 フィン、悪いがそのふくろは見せられない。秘密のやつなのだ。


「あ、エッダさんだ、こんにちは~。アウサル様ただいまです。ところで、ふくろって聞こえたんですけど、何のことなんですか皆さん?」


 そこにルイゼが帰ってきた。

 仕事上がりにしてはだいぶ早い、フィンかわいさに早めに切り上げて来たなこれは。


「ルイゼママだ! あのね~っ、男はねっ、こかんにふくろがあるんだって! ねえそうだよねパパーっ、フィンにふくろ見せてってばー!」

「ふぃ、フィン……その話はもう止めよう」

「ふくろ……? はっはわっ、あああアウサル様ッッ?! ふぃ、フィンに何てこと教えるんですかーッッ!!」


 ルイゼには調停役になってくれることを期待したんだが、ああもうダメか……。

 完全に俺は悪者になってしまっていた……。


「すまない……軽率だった……そこは認める。フィンよ、すまないがそのふくろは見せられないものなんだ……」


 ルイゼが笑っていない。

 怒ってるように見えないが実のところこれは怒ってるやつなのだ。

 その証拠に無表情でエッダの隣に合流して、一緒になってフィンをかばうのだから……。


「アウサル様、また遠征されたらどうでしょうか。ボク、しばらく帰って来なくとも別にいいと思います。だってフィンが心配です。アウサル様は、ド天然なところがあるのでまた軽率な発言を繰り返すと思います」

「おお、それは良い考えだぞルイゼ。アウサル、東のニル・フレイニアにはもう連絡を送ってある。今すぐ例の国に出立するがいい」


 意外だ、ルイゼもまた正気を失うほど過保護になっていた。それほどまでにフィンの愛らしさは人を狂わせるというのか。

 だがいきなり遠征しろと言われても……育児事情ただ1つのために、もののついでに世界を動かしてこいと言うのかコイツらは……。


「だがまだガイド役のゼファーが獣人の国から戻っていないぞ。彼女という旅慣れた者がいるからこそ俺は……」

「今回はお前1人で行け!」


「いきなり穴底から俺みたいな怪物が現れたらもめないか? 最悪殺されてしまいかねないぞ」

「ならフレイニアにラジールさんがいる。それを連れていけばいい、彼女が本国に戻っていたのは幸いだな、もしこちらにいたらどんな悪影響をこの子に与えていたか……」


 あの女と地底の旅暮らしか。

 それこそ不安でしかない……というよりもだ、さすがの俺も具体的にどこにあるかもわからない異国に向けてトンネルを開通させるなど無理だ。


「そういえばエッダさん、ブロンゾさんと、あとダレスさんも何だか心配じゃないですか……? だってあの2人もアウサル様みたいに、フィンに余計なこと言いそうですし……。ブロンゾさんなんてフィンのこと気に入っちゃって、地上からはるばる会いに来ようとするんですよ……っ! しかも下品だし……」


 インテリジェンス鍛冶ハンマーのブロンゾ、ルイゼの鍛冶の師匠にしてかなり口の悪いおっさんだ。

 昨日も鍛冶場のライトエルフを乗り物代わりにしてうちを訪ねて来た。


「なら決まりだな……」

「いや待て、勝手に決めるな、気持ちは何となくわかるが……。ブロンゾか、ああ、あのべらんめぇ口調がフィンに移るのは、むぅ、困るな……」


 ああいう口調は得てして真似したくなるものだ。

 将来大きくなったフィンが、ガハハハッとか笑うような子になったら俺も……俺も嫌だ、確かに一大事かもしれん。

 フィンの人格形成を考えるとはアレだけは遠ざけておかなければならんか……。


あちら(・・・)との接続が出来れば、互いに各個撃破を避けられる。急ぐにこしたことはないか。……ならエッダはダレスとブロンゾを説得してくれ。俺はグフェンに事情を話して計画を早めてもらう。というわけだ、またな、フィン」


 家を出る前にフィンの頭と翼を撫でたかったのだが、どうもそれは無理そうだ。

 難しい話はわからないと、フィンは会話に加わらず聞き耳だけを立てていた。理解出来ているとは思えないが。


「パパ……どこかいっちゃうの……?」

「フィンのパパはモグラさんだから、そのモグラさんしか出来ない仕事をしに行くんですよフィン。アウサル様、これもフィンちゃんのためです、ごめんなさい!」

「アウサル、向こうの連中はかなり頑固だと聞いている。大変かもしれんががんばってくれ、ルイゼと同じ言葉を繰り返すが、これもフィンのためだ」


 どちらにしろ頃合いだ。

 呪われた地での仕事もおおむね片付いていた。

 地上サウスの方はどうもきな臭いが、まだ一応の秩序が保たれている。

 ……獣人の国ダ・カーハを滅ぼそうとアビスアントを放った連中が、いつまでもサウスのダークエルフに手を出さないとも限らなかったのだが。


 ならば予定を早めて今すぐ向こうに行くのもいいだろう。

 ライトエルフ3国のうちもう1つ、封印の国エルフィンシルに。


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