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13-05 なんでーなんでー? 無限の好奇心からの旅立ち 1/2

 脱走事件は数知れない。

 特に夜間が厄介だ。眠らぬ幼児というものが、いかに人の手に余るものであるか俺たちは思い知らされた。

 1人あたり1日3時間交代でフィンの面倒を見るとして、最低で8人が必要になる。

 たかが3時間、されど3時間、アベルハムは事情を知らず代役を受け持ったが、朝方ボロボロの泥まみれになって帰ってきた。


「こんにちは、こちらに天使のフィンちゃんはいらっしゃいますか?」


 知らぬ人間がフィンを訪ねてうちにやって来ることも1度や2度ではない。

 どうもこれが脱走中に出来たフィンの知り合いたちだったらしく、子供の喜びそうな菓子や果実などなどをうちに置き去ってゆくのだった。


 それから3日が経った。

 そうだ、その3日間が天使フィンをようやく落ち着かせてくれたのだ……。

 外見年齢は7歳前後、もう1人で飛べるようになっていた。



 ・



「パパ、グフェンがお勉強教えてくれた。あと、お芋の作り方も」

「それは良かったな、次に会ったら仕事しろと言っておいてくれ」


 フィンの面倒を見るために、俺は地上練兵所での訓練をしばらくの生活スケジュールに組み込んだ。

 呪われた地はさすがに距離があり、何度も行き来していてはそれだけフィンのかわいいこの時期を見逃してしまうからだ。

 今日は朝方から昼過ぎまでの訓練に加わり、夕方前に自宅に戻って今日の育児(シフト)を受け持った。


「うん、それでねパパー」


 純白の翼を羽ばたかせてフィンが俺の周囲をうろうろと飛び回る。

 うちの軒先なのでご近所の目もあるのだが、さすがにこの頃になると俺も慣れた。


「グフェンは男?」

「……まあ、そうだな、男だな」


 騒がしいがご近所のウケは良い、子供の声は嫌いだと言う者もいるはずなのだが……フィンだけはどうも特別だそうだ。


「パパも、男?」

「ああ、俺も男だ。モグラさんだから雄ともいう」


 フィンの丸い瞳が好奇心に輝いていた。

 パパという名のアウサルの全身を不思議そうに眺めるのだ。周囲をクルリクルリと飛び回りながら、本人もクルリクルリと。


「エッダママは女、じゃあママは?」

「……どのママのことだ。ああ、もしかしてそれはユランのことか?」


「うん、ユランママは女?」

「……。さてな、わからん。お前がママと呼ぶならば、ユランは女なのではないか?」


 これは盲点だ、アレの性別など1度も考えたことがなかった。

 だが竜は竜だろう、男でも女でもない。あれは俺たちの旗印にして反逆の邪神ユランだ。


「うん、ママは女! じゃあ……んんー……じゃあジョッシュ! ジョッシュは……女?」

「あれは男だ」


「え~~、でも、ジョッシュ、女だよ?」

「ああ、綺麗な顔をしているからな。女にも見えるが、あれは男だ」


 当然ながらフィンは混乱した。

 わからないと首をかしげて、心の中で笑ってしまうほどに7歳児にしてはとても険しい顔をしていた。


「えーー、えーえー、えー……? んん……わかんない……ジョッシュ、女だよ……?」

「フィン、ならばこう覚えるといい。股間に袋がついているのが男で、胸が大きいのが女だ」


 その険しいフィンの表情が俺の返答によりただの疑問モードに戻った。

 ちなみに先ほどから旋回を止めて、低く浮遊したまま俺の顔ばかりを見て悩んでいる。


「じゃあルイゼママは、男?」

「いや、あれは女だ」


「……え、なんでー?」

「すまない説明の仕方が悪かった。そうだな……」


 ヤンチャっぷりが落ち着いてくれたのは良かったが、最近はコレなのだ。

 なんでー? なんでー? の質問漬けの時期が訪れていた。

 まあア・ジール中引っ張り回されたり、人知れず脱走されるよりは遥かにましなのだが……。


「女は大人になると胸が大きくなるのだ。……ただし、よく聞けフィン。大きくならない女もいる。だから難しいかもしれないが、少しずつフィンも男と女の判別が出来るようになるはずだ」


 しばらくの間フィンが静かになった。

 言葉を噛み砕いて、俺の回答に納得したようにも見える。だがまたその表情が無垢な疑問に変わっていった。


「ふーん……。なんでー?」

「それが成長するということだ」


「へー……。でもでもパパー、なんでー?」

「なんででもだ」


「えー、なんでー?」


 これはそういう時期なのだから仕方がないらしい。

 今のフィンから疑問という疑問が絶えることはないのだ。

 成長の理由に何で? と聞かれてもそこから先は答えても哲学になってしまう。答えようがない。


「とにかくそういうものなのだ」

「ふーん……。ねえねえ、パパー、じゃあなんでパパは――あっ、ママだー!」


 そこにフェンリエッダがやって来た。

 そのダークエルフのママが現れるなりフィンが彼女の胸に飛びつく。やさしくエッダもそれを抱擁で受け止めていた。

 頭と翼をやさしく撫でて、ゆっくりとフィンを解放するといつものクールビューティな瞳がこちらを見つめてくる。


「偉いぞフィン、約束通りパパの面倒を見てくれていたのだな。……手伝いに来てやったぞアウサル。実は時間が少し空いてな、私が見ている間だけでも休むといい」

「助かる。だが以前ほど手間はかからん、平気だ、アンタこそ少しうちで休んでいったらどうだ」


 するとフェンリエッダが俺を睨んだ。

 なぜだ、俺は何も悪いことを言っていないはずだぞ。


「独り占めはずるいぞ、いいからフィンを私に貸せ!」

「……ああ、そういうことか。こちらは気づかいのつもりだったのだがな……なら少し任せるとするか」


 フィンのような幼児に見せてはならないものがある。それは挿絵の無い本だ。

 幼児にとって書物は知識を授けてくれる賜り物などではない。ただの、破って遊ぶオモチャなのだ……。

 おかげで俺は自宅の本を全て避難させるはめになっていた……。


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