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13-04 2日後、天駆ける翼は成長期(挿絵ありしかも幼女

 翌日は家に戻らなかった。

 あの子が気になったがその程度の欲望に負けるわけにもいかないのだ。

 それにだ、そんなことは普通あり得ないのだが、生まれたばかりの子に呪われた地の毒を移しそうで多少ためらいが生まれたのもある。


 それに天使フィンより大切なことがあった。

 この先も反抗を続けてゆくにはマテリアルの備蓄を安定させる必要があったのだ。

 そこで再び例のエリアにおもむき、宝石の多いその辺りを1日中掘り回って夜を明かした。


「これだけあれば十分か……後はフェンリエッダの頑張り次第だな」


 それからいつものように台車へと財宝とガラクタ、宝石を乗せてア・ジールに帰還した。

 グフェンの元に宝石を届け、金になりそうなガラクタは商館へ、溶かせば使えそうな金属塊は人に頼んで地上の鍛冶場へと運んでもらった。


 それから例の遺跡で湯を浴びて呪われた地の砂ぼこりを念のため払い、ようやく昼過ぎに自宅へと戻れることになった。

 そして、そこで俺は驚くべき光景を見ることになった。



 ・



「おやお帰りなさいアウサル様、ああよかった、助かりましたよ」

「じょ、ジョッシュゥゥ~ッ、そんなことより早く代わってくれよっ!? この天使ちゃんの体力はマジでなんなんなんだよっ、グギャッ?! 待てっ、ヒゲッ、ヒゲは頼むからもう引っ張らないでくれよフィンちゃんっ、止めっ、アダダダダダッッ?!!」


 軒先にジョッシュとダレスがいた。

 例の元エルキア侵攻軍総大将にして王族と、その副官、現在は俺の直属のあの連中だ。

 ダレスどころか美声年ジョッシュの髪までボサボサにはねていた。


「何をやってるんだアンタら」

「見てわかりませんか、育児ですよ育児、フィンちゃん、やっとパパが帰りましたよ~」


 フィンの姿を探してしまった。

 まさかあそこでダレスに引っ付いてヒゲ引っ張ってるのがフィン……なのか……?


「パパッ?! あっパパ帰ってきたーっ! おかえりーパパーッ!!」

「フィン、お前……」


挿絵(By みてみん)


 大柄なダレスを踏み台にして、天使の翼を持つ少女がこっちに突っ込んできた。

 それがおかしな光景だ、翼のもたらす浮力が彼女をグライダーにして、数度のステップだけで俺の胸元に飛びつくのだから。

 だがそれがあの天使フィンだと言われても、俺は心のどこかでまだ信じ切ることが出来ない。


「パパ~ッ、おかえり~!」

「あ、ああ、ただいま……」


 小さな天使の羽根、それは天使という特別な種族の証明そのものだ。少し脱線するが……1000年前の戦いで天使はユランの敵だったそうだ。

 いやとにかくだ、3歳児ほどだったフィンの姿は、たった2日の間に2年ほども加齢していた。常識外れの速度で成長していたのだ。


「パパーっ、無視しないでー、遊んでよパパーッ!」

「無視などしていない。ただ少し戸惑っていただけだ」


 小さな羽根がパタパタと風をあおぐ。

 胸元に愛らしい天使がくっついたまま離れず、幼児特有の匂いと、暑苦しさを放っているのだ。

 本の中では知っていたが、我が身でそれを味わうことになろうとは……。

 なるほど、俺はとんでもないものを拾ってしまったらしい。


「大きくなったな」

「うんっ! もっと大きくなるよ! あのねあのねパパ! ママが遊んでくれないのー!」


 フィンからは無限大の元気が発散されていた。

 栗毛の天使は笑顔をいっぱいに花咲かせて、己の思いをパパとやらに叩きつけている。


「そういうことか。だからあのおじちゃんたちに遊んでもらっていたんだな」

「うん! みんな疲れたんだって! だらしないだらしない!」

「おじちゃんは止めろよなアウサルっ、俺ぁまだお兄さんだってばよ!」


 ダレスは見た目より若いらしい。

 パッと見は渋みのある中年ヒゲおじさんなのだが、そういえば具体的な年齢を聞いたことがない。


「ルイゼさんもパルフェヴィア姫も、ユラン様も今は奥で寝ておられます。いたく彼女、フィンちゃんを気に入っていたようなのですが……疲れ果てたそうで……」

「ああ、俺らが言わずともすぐにわかるぜアウサルの旦那……。天使はよ、どうも寝ないそうだ……」


 天使は寝ない。異界の本ではそう珍しくもない設定だ。

 それがまた神々しさなのかもしれないが……なるほど。


「寝ない幼児ということか……。それはまた、さぞや手を焼いたことだろうな。見たところフィンが疲労しているようにも見えん。……フィン、どころで人の頭で、何をしているんだ……?」

「あのねあのねっ、えーとっうーんとっ、あっ、飛ぶ練習! フィン飛べるんだよ!」


 天使フィンがその両手で俺の登頂部にしがみついていた。

 それから翼を羽ばたかせてその身を浮かせている。

 しかし飛翔能力はというとこれがまだ不十分で、なかなかこれは首への負荷がバカにならない。


「それは凄い。けど重いから頭でやるのは頼む止めてくれ。ほら……」

「むぅー……。えへへー、パパの手あったかいねー! 手、離しちゃだめだよパパー!」


 フィンの両手を握ると、俺の手の上で翼を羽ばたかせてじたばたと浮遊した。

 高く浮き上がったり落ちたりと、まだまだ不安定だ。


「ふふ……本当にかわいい子ですよね。誰かにじゃれているのを横から眺めている限りでは」

「アウサルの旦那、楽しいのは最初だけだぜ……。その元気が睡眠も休憩も無しで丸一日中続く……。天使の子供ってのは、恐ろしい……」


 フィンは終始笑顔で俺を見つめて空を飛ぼうとしている。

 まああの連中が疲労に負けてダレスとジョッシュに押しつけるくらいだ、よっぽどのことだろう。


「ユラン様によるともう少し成長すれば落ち着くそうです。それまでは……ええ、もう耐えるしかないそうで……。ここまで元気なのはかなりのレアケースだそうですよ……」

「邪神ユランの魔力を吸って孵化した子だからな。相場より活きが良いのは必然なのだろう」


 要領を得たのかフィンは浮きっぱなしになった。

 むしろ飛んでいかないように俺が押さえつけておかないと、風船のように遠くへ消えてしまいそうだ。


「見て見てパパ! フィン飛べるよ、凄いでしょ! もっとがんばったらパパも空に連れてけるかなっ?!」

「……いや、それは勘弁してくれ、危ないし、ママたちにきっと俺が叱られる」


「旦那、俺ら少し寝ていいよな……? もう疲れちまってよ……それまででいいからフィンを代わりに頼むよ……」

「ええすみませんが……ダレス様も私ももう心が折れそうです。よもやこれほどまでに元気な子供がいるとは……将来末恐ろしいです……。ええ、いつもの皮肉を言う元気すら無くなりますよ」


 いつから世話をしているのかは定かではないが、まあかかなり2人からも疲れが見えた。

 俺の次の交代を用意しておかないと危険だな。


「わかった、ではフィンと散歩に行ってこよう」

「お散歩っ?! どこ行くパパ!? あのねっ、フィンはねっ、グフェンのところとっ、あそこの高いところっ! あとあとあっちのお湯が降るところでーっ、ジャバァァァーッ、したい!!」


 それは俺がいないうちに何があったんだと問いたい。

 これはなかなかもって厄介だ、油断すればリードを引きちぎったワンコのごとく、麦畑の中やら傾斜地帯の奥、人んちなどなどに突撃しかねない。


「帰ったかアウサルよ……」

「あっ、ママー!!」


 するとそこに赤き子竜ユランが現れた。

 ヘロッヘロの羽ばたきで姿を現して、何かを俺に手渡してくれた。

 それがすむなりフィンは俺をパージして、ユランママに抱きつくという先日どこかで見た光景を繰り返した。


「グェッッ?! い、いいか……それを、使え……」

「これは……ヒモか?」

「あーフィンちゃん、ちょっとおとなしくしてくれよ。よーしよしよし、はいよしと、フィンちゃんは偉いな~」


 それをダレスが横取りして、フィンの体に結びつけたようだ。なるほどそういうことか。


「絶対に……そのひもを離すな……。この天使は糸の切れたたこだ……1度逃がすとその後は大変な困難を味わうと思え……」

「なるほどそれは厄介だ、覚悟しておこう」


 フィンのリードを受け取って、俺は天使フィンを肩に乗せて散歩に出かけた。

 あどけない笑顔には無限大の元気、少し気になるものを見つけるとリードがビンビンと引っ張られる。


「パーパーァッ! こっちこっち、こっち行こうよー!」

「おいフィン、そっちはグフェンの屋敷ではない。というより畑の真ん中を土足で横断するのは迷惑だからダメだ」


「じゃああっちからいこー! あっち! あっち楽しいよー!」

「そっちもダメだ……そっちは傾斜が厳しい、パパが谷底に真っ逆様だぞ」


 フィンの元気が無限であるのに対して俺の体力は有限だった。おまけにただでさえ仕事明けだ。

 散歩というよりそれはもはや大冒険、ア・ジールにはこんな場所が存在していたのかと、1日にして無数の大発見を打ち立てることとなった。


「パパとお散歩楽しいな~♪ 今度はあっちいこあっち! あそこの1番奥まで行ったら1等賞ー!」 

「フィン、それはア・ジール最北端の壁を指して言っているのか……?」


「うんっ、行こうよパパーっ、パパと一緒ならフィン、飛んでるだけで楽しいよ! 早く早くっ、こっちこっちーっ!」

「ならもし……それは無理だ、と言ったら……?」


「ぇ……やだ……そんなのやだ……やだぁ……フィン、泣いちゃうよ……ふぇぇ……」

「ぅ……わかった、わかったから……泣くな……」


 これは危険だ……。

 どうか少しでも早く育ってくれよフィン……。

 でなければ俺たちが過労死してしまうからな……。


「パパとお散歩! パパとお散歩楽しいな~~、わーーいっ♪」

「クッ……。そ、そうだな、楽しいな……」


 幼児……おそるべし……。

 フィンはその後もア・ジール中の関係者をその元気で泣かせることになった。


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