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12-09 再びア・ジールへ ある有角種のささやかなる心変わり

 王宮にて昼までの仮眠を取ると、俺はゼファーの姿を探した。

 彼女は重臣たちと王の会議に加わっていた。ア・ジール臨時代表として。

 その彼女を謁見の間から外の回廊へと連れ出した。


「昨日はお疲れ様でござる。それで急になんでござるか?」

「ああ、面倒ごとはアンタや後の連中に任せて帰ろうと思う。この先の段取りに俺は要らん」


「なんと……もう帰るのでござるか? ああ、それで貴殿は朝までかけて巣を埋めて回っていたのでござるか」

「ああ。ゼファーは復興を手伝うんだな」


 俺も手伝ってやりたいところだがもうやることがない。

 適材適所で俺はア・ジールに戻るべきだ。


「そうでござる。獣人のことはよそ事ではござらんからな……彼らはいまだに有角種を慕ってくれてるでござる。とっくの昔に見捨てられているとも知らずに……。すまぬが、だから拙者は一緒には帰れないのでござる」

「そうか。……そのうち使者としてグフェンかフェンリエッダが来るだろう、出来ればほどほどで誰かに引き継がせて戻って来てくれ。次の計画のこともあるからな」


 獣の地下隧道は仕上がった。

 ならば新しい道を考えたい。味方をもっともっと増やすのだ。

 そしていつかチャンスが訪れたその日、彼らの力を借りてサウスを取り戻す。それからエルキアの狂気を止めよう。


「……手伝えなくて悪いな」

「構わないでござる。アウサル殿にはアウサル殿にしか出来ないことがあるでござるゆえ。……して、ふふふっ、次はどこへとモグラ仕事を進める気でござりますかな?」


「ああ、それなら考えてあるんだ。次は東のニル・フレイニアから掘り進める」

「ほう。まあ確かに北と西には手を出しようがないでござるからな。北はヒューマンの勢力圏、西は白き死の広野、どちらも我らにとって不毛でござる」


 フレイニアは徐々に復興している。

 ここから新しい道を繋げれば、これを多少なりとも支援することになるだろう。


「3つあるライトエルフの国の1つでな、山奥の小国らしい。こことフレイニアを繋げておけばいざというときに有用だ。何よりエルフは長寿だ、年寄りはユランという伝説をその身で知っている、比較的仲間にしやすい」

「悪くないでござる、手軽で確実でござろう。新しい同士が増えるその日を拙者、心待ちにしているでござる。……ん、ところでアウサル殿、最後に1つだけいいでござるか?」


 そこでゼファーの態度が変わった。

 彼女は唇に指を当てて、真面目に戦略の話を聞いていたのだが、どうしてか1歩こちらに歩み寄って来たのだ。

 ああ、角か? だいぶ近いぞ。警戒が要る。


「なんだ、何の話だ」

「……ふぅ」


 有角種ゼファーがうつむくと角という槍がやって来る。

 だがもう慣れた、首を横にずらして次の言葉を待つ。


「拙者、これでも人見知りでござる。だからこれはでござるな、拙者の個人的な話というやつでござるが……その……。んん、あのでござるな……」


 人見知り? これだけ自分から顔を近付けておいてよく言えたものだ。

 いや、あるいはそれがヒューマン嫌いという表現ならば十分過ぎるほど理解しているし納得できる。

 あのスコルピオ邸の地下牢で出会ったあの日、嫌というほどそれを見せられることになったのだから。


「かたじけないでござる」


 そのゼファーが一歩引き下がり、長い髪をたらして深々と礼をした。

 王宮の床に膝をついて、まるで……いや、やっぱり家臣だなんて例えは止めよう。


「……何がだ?」

「ヤシュ殿のことでござる。アウサル殿に投げっぱなしに任せてしまうのではなく、拙者があそこでちゃんと彼を説得しておけば……都の被害はもっと少なかったやもしれないでござらんか」


 言葉を返すようだがあのヤシュは、ただ説得を試みただけで従うたまではないだろう。

 有角種に支配された先祖にもふがいなさも覚えていた。それもあって迷いを抱えたゼファーにはきっと無理だったはずだ。

 あれは正論では納得しないタイプだ。


「ああ、だがヤツはアンタには従わなかっただろう。ヤシュには信念があった、理屈など通じない」

「そうかもしれんでござるな……。でも……でも拙者は……拙者は、出来なかったのでござる……」


 ところがそれも理屈の話じゃない。あのゼファーがいきなり泣き言をいうだなんて、驚きだった。

 半ばくじけるような、すがるような声色を使うだなんて……俺の知る剣豪らしくなかったのだ。


「拙者は……故郷の有角種のことを、少なからず恨んでるでござる……。ヤシュ殿と同じく、とんでもない分からず屋だと、平和ボケのバカどもだと思っているでござる……。そんな拙者には……無理でござった……」


 その銀髪の美しい女が涙を浮かべうつむく。

 あんなにも勇敢な戦士が弱音を吐き、絞り出すように言葉を続けた。


「ヤシュ殿に……和解しろだなんて……。仲間を助けに行けだなんて……言えなかった……。拙者は……有事であるのに己の感情を優先したバカ者でござる!! かたじけないでござるアウサル殿!! ヤシュ殿とその一派を救っていただき、拙者、自分まで救われた心地でござる!!」


 それから吐き出せるもの全部を吐き出し叫んだ。

 どうも俺とは精神の構造が違うらしい。真面目だ……バカ誠実だ……。


「……そうか。ゼファー、アンタはあまりに堅苦しくて真面目過ぎるな。そうだな、異界の言葉にこんなものがある。……仲間に感謝など要らない、助けるのが当たり前だ、ありがとうなんて言うな、とな」


 彼女の望む返答ではないのかもしれない。

 しかしゼファーの角が俺に向けられた。続いてアウサルがその手を引き立ち上がらせる。


「だからどうかまた、トンネルの先の水先案内を頼む。旅慣れたアンタが頼りだ。今回だってアンタに頼んで正解だったじゃないか、謝ることなんて無い。頼りにしている、って、うぉっっ?!!」


 その一角の剣豪が見事な踏み込みで胸元に迫ってきた。

 だがこれは攻撃ではない。……やわらかき抱擁だ。


「任せるでござる!! …………は、はれぇ? せ、拙者なぜ、なぜかような……ふしだらなことを……ぁぁぁぁ……、かっかたじけない……かたじけないでござるぅぅ~……」


 ただし鼻先に鋭い角があった。

 なるほど、ならば再び異界の言葉を借りよう。

 このフラグは本当に必要なのか……?


 俺の問いかけに答える者などいなかった。

 取り急ぎ、うっかり角の1撃を食らわないようまた顔を横へとそらして、彼女をなだめるのにつとめた。


「ゼファー」

「何でござるか、アウサル殿……」


「ヤシュが見ている」

「……へ、やしゅ? はっ、はわわぁぁぁーっっ?!!」


 しばらくして、王にでも要件が出来たのかヤシュがここに姿を現した。

 そりゃそうだ、ここは謁見の間のすぐ外なのだから。人が通るに決まっている。


「わ、わりっ、おら何も見てねぇべぇ……? あ~~だけど、そこは通してほしいべ、悪ぃべな、ゼファーさん。お、お邪魔しちまったみてぇで……」

「ち、違うでござるっ! これはそういうのではござらんっ、全部気の迷いでござるぅぅーっ!!」


 それはそうとヤシュにも話しておくつもりだったのでちょうど良い。


「ヤシュ、アンタにも伝えておこう。俺はもう帰る、こっちの問題が片付いたらア・ジールに来い。サウス奪還にはアンタの力が要る」

「おお! おうっ任してくんろっ、こっち片付いたら飛んでくからよっ、わりぃがちっとだけ待っててくれ! おいらたちはアウサル様の下で戦いてぇ、ヤシュの一派を、正義と戦いの世界に連れてってくれよっ!!」


「待っている」


 これでこっちの用件全てが終わった。

 スコップを背負い、俺は昨日来た道を引き返した。

 ……あの密林を歩いて渡るのが面倒だったが。

 いや、下手したらたどり着けないのではないか……?


「……………………」


 俺はヤシュとゼファーの前に引き返し、忙しい時にすまないがガイドを付けてくれと頼んだ。

 そうしたら、またあの元気な御輿みこしでアウサルが担ぎ運ばれていったそうだ。


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