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12-06 穴には穴を、スコップ1つで始める害虫駆除

 ヤシュの一派は正門側のアリ討伐に向かった。

 そこならば後続の仲間と合流しやすいからだ。


 一方の俺とゼファーは地下へと下った。

 そうだ、発生源を潰さなければ地底よりの神出鬼没の奇襲は終わらない。

 狙いはアリどもの女王。これを討ち滅ぼせばやつらの繁殖能力は失われ、指揮系統全てを狂わせることが出来る。

 ちなみに王宮の守備兵たちを連れてゆく案も考えられたそうだが、2人だけの隠密行動の方が都合が良いとの結論が出たそうだ。


 巣の中心座標も俺たちの到着前に絞ってある。城の地下だと。

 異界の言葉を使うならば、灯台下暗し。アリどもはまるで己の居場所を隠すように、都の中心部からドーナツ状に地上への道を作っていた。


「ゼファーは博識だな。まさか正体不明の巨大アリのことまで知っていたとは……ついついずっと我慢していた言葉を口にしてしまいそうだ。……アンタ、歳はいくつだ」

「それは企業秘密でござるよ、アウサル殿よりは年上とだけ言っておくでござる」


 背中で彼女と言葉を交わしながらトンネルを掘り続けた。

 今は安全な王宮地下を起点にして螺旋状の地下道を作っている。

 とにかくグルグルと回りながらと下っていけば、そのうちやつらの巣とぶつかるだろう。ゼファーの推測が正しければきっと、という単純明快な作戦だ。


「どうした?」


 ところがそのうちゼファーがいつの間にか押し黙ってしまった。

 どうもおかしな気がして慎重に後ろをうかがえば、病的なまでに鋭く怖ろしい顔が足下を見つめている。さらにはギリリと歯ぎしりまで立てるのだから尋常ではない。


「セイクリットベル……。ケルヴィムアーマー……。禁断の大釜……」


 それからぼそりと、この場には似つかわしくない3つの名詞をつぶやいた。

 どれも危険で邪悪極まりないものだ。


「人喰いアリ……アビスアント」


 その単語だけで怒りの理由がなんとなくわかった。

 今回のこれも前者の3つと同じものなのだと。あまり詳しくない俺にも憶測出来た。


「出所はどれも同じところでござる……。1000年前に、無差別に生物を食らうアリ、アビスアントと呼ばれる者どもが世界にばらまかれたと聞いたでござる……」

「なるほど、これも神世の時代の遺物か」


 ゼファーはうなづきもせず下ばかりを見つめていた。

 だから俺も工事を続けながら話を聞く。


「アリはその一帯を食らい尽くし……あらゆる食べ物が無くなるとそこで共食いと餓死を迎えるでござる……。そうやって……外部に被害を出すことなく、その地の全てが滅びるように設計されているのでござるよ……」

「……ゼファー、異界の言葉にこんなものがある。生物兵器。都合良く改変した生物を、無差別殺戮の道具に変えたものだ」


 しかしおかしいな……。

 アーティファクトという遺物ならまだしも、生物だなんてどうやって1000年前からこの時代まで保管したのだ。


「生物、兵器……たぶんその見解であってるでござる……。きっと何者かがアビスアントの女王をここにまいた。もうそうとしか思えないでござる……自分たちにはけして被害を出さず、そのエリアを丸ごと滅ぼそうとしているとしか、拙者には……」

「ならばその計画を俺たちがご破算にしてやろう。……見てくれ、ちょうど開通したようだぞ。これが第2のア・ジール地下帝国でないならば、この先がアビスアントの巣だ」


 ちょうど良いタイミングで俺の螺旋トンネルが巣穴にぶち当たった。

 かなり深いところまで来てしまっていたので、掘り当て逃したかと正直不安だったのだ。

 だがかえって良い結果になった。この深さなら一気にアビスアントの巣深層まで入り込めたことになる。


「お喋りは終わりだ、行くぞゼファー。獣人を守り、悪人どもの計画をぶち壊しにしてやろう」

「アウサル殿……。ならば、最後にこれだけ言わせて欲しいでござる」


 開通部を完全に広げようとするとゼファーが真隣にやってきた。

 なんだろうかと振り返ると、またあの物騒な角を突きつけて人を凝視する。


「お、おいっ、角……ッ」

「わかってるであります」


 その角が密談のために俺の頬の横をかすめた。危ない、心臓に悪い、もう少しその凶器を自覚しろ……。


「犯人は十中八九エルキアでござる……。やつらは北にあるヒューマンの国ごと滅ぼすつもりで、ここにアレをまいた……拙者にはそうとしか思えぬのでござる! やつらは……やつらは完全に狂ってるでござる!!」


 同族のヒューマンを滅ぼしてまで異種族を消さなければならない理由がある――わけがない。

 だからやつらは狂っているのだとゼファーが断言した。


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