12-04 地中を這う、アウサルに近くて遠い呪われし者ども
「聞いていいか。1匹だけ妙にでかいぞ……」
「ありゃ兵アリだべ。見た通りとんでもなく硬くてめんどくせぇ、気を付けてくんろアウサル」
誰もそう命じてなどいない。
しかしそれがヤシュの一派の中では当たり前ことと推測できる。
次の瞬間には御輿ごとそのアリの軍勢に突撃をしかけていた。
数は8、背丈は人の腰ほどもないが体長は人をゆうに超えている。
「ならばその兵アリとやらは俺がどうにかしてみよう。上手くいくかどうかは半々といったところだがな」
「お手並み拝見といくべ、おめぇらもやっちめぇ!」
スコップを兵アリに身構えた。
通常個体より2周り大きなソイツは鈍色の装甲を持っている。
あれがもし、土や金属由来の無機物に近ければ……。
そこで前衛が働きアリを押さえてくれた。
ならばその隙間をぬってアウサルと御輿は兵アリに突撃する。
「そんじゃお先だべ! ドゥゥゥオリャァァァッ!!」
だがヤシュが宣言を破って先手を取った。
己の御輿より一直線に飛び込んで俺を追い抜き、爪の付いた鉄甲を滞空中に身に付けた。
さらには兵アリの鎌腕を低く身を落として減速無しで回避、またたく間に比較的やわらかい腹部を斬り上げる。
「チィッ……やっぱくっそ硬てぇッぞッ!」
だが致命傷には遠い、黒く汚らしい不気味な体液が流れ落ちるも兵アリの戦闘力を奪うものではなかった。
地に下りたヤシュは一撃離脱で敵の真横を抜けて背後に回り込む。アリは怒りの叫びを上げながらヤシュを追った。
……そこでやっと俺の出番が来た。
「恨むならその鎧の肉体を恨めっ、斬れろっっ!!」
目前に兵アリの腹があったがあえてそれを攻撃対象から外した。
代わりに右後ろ足を狙って自慢のルイゼのスコップを振り上げる。
……鎧に覆われた外見に反して、脆い筋肉を断ち斬るやわらかい手応えばかりが返ってきた。
「す、すげぇっ!!」
アウサルはいともあっさりと鈍色の装甲を貫き、右後ろ足の一刀両断に成功した。
立て続けに中足も真っ2つに斬り落とす。
ところで今さらだが兵アリに限っては足が4対あった。
身体を支える3対と、1対の鎌腕だ。要するにこの化け物はまだ十分な機動力を残していた。
「アウサル! おいらっ、感動っ、したべッ! やるじゃねぇかよぉ!」
足を失ったことにより敵の体勢が崩れた。そこでヤシュがそのチャンスに食らいついた。
銀狼は兵アリの背上に飛び移り、装甲と装甲の隙間2カ所にクローを突き刺してまた離脱する。
そこが神経の集まる部分だったのか、急激に兵アリの動きが鈍くなった。
「アリよ、それは無駄なあがきだ」
しかしその異形の怪物は諦めない。最後の悪あがきに巨体が旋回し、俺を狙って倒れかかりながらも鎌腕を振り下ろしてきた。
ならばこちらは敵胸元の安全地帯に滑り込みつつ、襲い来る鎌腕にスコップを向けて断ち斬る。さらには脆く細いその首を高々と斬り上げて死闘に片を付けた。
アリの首が宙を舞いドサリと落ちる。中枢と足を失った肉体は土の上でただただ怒り狂うようにもがき続けた。
「何だこの生き物は……とんでもない生命力だ……」
「おっとあっちの働きアリどもも片付いたみてぇだ、よーしっおいらたちの勝利だべ」
もがく肉体に警戒していると、ヤシュの一派が残りの雑魚7匹を片付けていた。
再びヤシュが御輿に立って自分を持ち上げさせ、周囲を目ざとく見渡す。
「おっし、討ち漏らしも他にねぇべ。おめぇら勝ちどきを上げろぉ!」
「ウォォォォォーッッ!」
それはあっという間の電撃戦だった。
最短時間による完全なる勝利だ、ヤシュたち獣人が興奮と勝利に空気を震わせる。
「アウサルさすがア・ジールの皇太子! すげぇっ、槍も跳ね返す兵アリの装甲を……1撃でぶった斬るたぁド肝抜かれたべ! そんなの最強じゃねぇかよ!」
「……ご期待にそえてなによりだ。だが勘違いするな、俺はただの発掘屋だ、俺のスコップは地を貫く為にある」
賞賛のむずかゆさもあって俺は集団から後方へと離れた。
やらなければならないことを思い出したからだ。
「おい、どこさいくんだべ。もしかしてよぉ~、恥ずかしがってんべかぁ~、ワハハハッ!」
「それもあるが違う。あの穴を埋めておこうと思ってな。……このアリどもはあそこから来たのだろう?」
巣穴の前に立った。
あのでかい兵アリがどうやって抜けてきたのか少し疑問だが、小さく引っ込めれば意外と通れそうにも見える。
それより早いところ埋めておかねば。
「いやそうした方が良いけどよぉ、そんなの時間がいくらあっても足らねぇべ。それよかさっさと都に突っ込もうぜ」
「大丈夫だヤシュ、時間はかからない。1分ほどで終わるからそこで休んでいろ」
その先は俺の最も得意とする仕事だ。
盛り上がった周囲の土を穴にかぶせては削り込み、大きなアリの穴を深くしっかりと完璧に塞いでやった。
後は入念に、スコップの背でポンポンと地盤を強固に固めてしまおう。
「これで簡単に上がってこれまい」
こっちの作業の方がやはり俺向きだ、落ち着く。
風音だけの荒涼とした大地が恋しい。
「こ、皇子様スゲェェェェェーッッ?!! なんだべさそりゃっ、ぶったまげの連続だべよーっ?!!」
「これがあのアウサル……ゼファーさんより強いって、やっぱホントだったんだなヤシュ様!」
「この兵アリがとにかく邪魔だからなぁ……でもアウサル様がいれば俺ら余裕なんじゃねぇか?!」
ところがヤシュを筆頭にまた賞賛が行き交うことになった。
確かに正攻法でやるとなると兵アリの装甲と大鎌、並外れた生命力が命がけの驚異だ。
「だから俺は皇太子ではない、ただのモグラだ。サウスのヒューマンには呪われた地の怪物扱いだ」
「細けぇこたぁいいべ! やっとおいらぁ納得した! その力がありゃぁ本当に、北のサウスからここまでを地下道で繋げられるかもしんねぇ!」
ふと思う、ア・ジールの欠点といえばそこだろう。
最初は誰も信じない。地底に国があり、地底から自分たちの国に道が造られただなんて。
「そこは、かもしれないではない、現実にもう道は繋がっている。数日中にその獣の地下隧道を通ってア・ジールの使者と護衛がこちらに現れる。……その前にアリどもを片付けておくぞ」
「ヒハハッ、よーするに援軍を待つ気0だべかッ! おらぁなんかますますおめぇが気に入ったべ! ……さあいくべいくべ、フ抜けどもを、ヤシュの一派とア・ジールのアウサルが救ってやろうじゃねぇべさ! さ、御輿さ乗れっ、兵アリがいたら首叩き落としながら都に入ろうぜ!」
優先順位は都の安全だ。
過激なお神輿もあったものだが、考えるより進んで敵を倒してゆくのが正解だ。
素直に動く足場に飛び乗り、景気の良い進軍に身を任せた。
「……ところでヤシュ、今さらだが質問がある」
「なんだ皇太子!」
「だから俺は……まあいい……。それで。いつからだ?」
「あ、何がだべ?」
やはりおかしくないだろうか。
いやおかしい、これは異常だ。土地柄という常識を飛び抜けている……。
「俺はこんな連中が生息しているだなんて聞いていないぞ。……いいや言い直そう。こんなものが生息している場所に、人が住めるはずがないだろう。……だから、いつからだ?」
いつからコイツら巨大アリどもは現れたのだ。
「ああ……そのことだべか。目撃されたのは1ヶ月前くらいだったべ。コイツらはいきなり現れて、わけのわからねぇ速度で増えていった。そんでこの有様だべ、どこから来たかだなんておいらにゃわかんねぇべよ」
1ヶ月で都を襲うほどに増えた。しかもいまだ対処し切れていない。これはヤバいなんてもんじゃない。
下手したら世界中全てが滅びかねない、とんでもない怪物どもだ。




