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12-03 ヤシュの一派と地中をはう者ども

 一体誰が言いだしたのだ、馬鹿げている。

 それはヤシュの拡大解釈か、あるいはゼファーがそう吹き込んだのか。

 どちらにしろアウサルがア・ジールの皇太子だなんて、これほど悪趣味な冗談はなかった。


 しかしヤシュの願いはそれとは別だ。

 ア・ジールに加わりたい。自分たちも戦いたい。その気高き願いを断る理由などない。

 現金に言えばこちらからしたって絶対に引き入れたい頼もしい戦力だった。


「いいだろう。だが俺はただの穴掘りアウサル、皇太子などではない。それでも構わないならアンタたちは俺について来い」

「お……おおっ、ウオオオオオオーッッ!!」

「やったっ、これで俺たちは……都の連中を見返せる!!」

「アジール地下帝国万歳!! あんた最高だよアウサル様!!」


 こちらがさっと応じると彼らヤシュの一派は歓声を上げた。

 大げさだ、人数分のその声量は祭りでも始めかねないほどに大きい。その後もざわめきがとどまらず、全てに熱い希望が満ちていた。


「これが終わったらア・ジール地下帝国をアンタたちに見せてやる。……だがな」


 そんな彼らの歓喜感激に水をさすのも悪いのだが、言葉の最後を強調させてもらった。

 だが条件がある。その強い言霊がヤシュの一派を一斉に沈黙させた。


「アンタたちが戦いを望むというなら……」


 ア・ジールは虐げられし種族たちの希望だ。

 ユランの使徒としてヤシュの一派にも希望を示したい。ただしそれはダ・カーハの獣人全てに対してだ。


「それは他でもないこの地でその力を示すべきだ。戦いと活躍の機会がそこに転がっているというのに、アンタたちはただ指をくわえて眺めているというのか? 力を示せ、仲間を救え、それが俺の条件だ」


 それは彼らにとって少し難しい要求だったようだ。

 猫の獣人も、狐も、犬も戸惑い押し黙っていた。ただし狼だけは少し違った。

 誠実で真剣な眼差しでアウサルを見つめ続けている。


「……わかったべ」


 銀狼のヤシュが条件に応じた。

 一派は驚きのままに彼を注視する、よほどアッチとやらとそりが悪いのだろう。


「今回はアウサル、お前の為に動くべ。アッチの臆病者の為じゃねぇ……。おいらたちはおめぇに、ヤシュの一派の実力を証立てる為に動く。断じてアッチの連中の為じゃねぇからな、わかったかてめぇら!!」


 少し評価を改めたい。

 ヤシュの判断に文句を言う者などいなかった。

 それがヤシュの統率力なのか、一派の気高さなのかは判断が付かない。

 誰もが張りのある声で銀狼に従っていた。


「これは期待できそうだ。さあ急ごう、早くしないと有角種のゼファーに手柄を全て奪われるぞ」

「そいつはいけねぇべ、おめぇらいくぞ御輿みこしさ担げ! あとこん中じゃポンが1番足が速かったな、おめぇはこのまま町に戻ってありったけの援軍連れて来い! いいかっ、ありったけだかんなっ!」



 ・



 ヤシュの一派を連れて南に向かった。

 いや厳密に言うとそれは正確ではないので言い直そう。ヤシュの一派に担がれて、アッチの都に向かった。

 こちらの兵数は俺とヤシュを含めて23名だ。そこからポンという名の小柄な犬人いぬびとが部族を呼ぶため離脱した。


 デコボコとした密林を抜けると、一変して爽やかな草原が広がる。

 風が俺たちを招き入れるように包み込んでいた。


「見えるかアウサル、アレが都だべ」

「アンタたちは目が良いな。ああ、かろうじて見えてきた」


 草原の先に大きな町が見えた。

 思ったよりも発展している。つまりそれだけアリと呼ばれる敵が厄介なのだとも推測できた。


「しかし……そろそろ下りた方が良いか?」

「なんでだぁ? この方が絶対速ぇぇべよ、遠慮するこたねぇ、おいらたちはもうアンタの配下だろぉ~」


 それはなんてパワフルな理屈もあったものだろうか。まあ確かにそうだった。

 今御輿を降りれば、俺だけペースに付いていけず脱落するのが見えていた。


「獣人は凄いな。これはとんでもない戦力がア・ジールに加わってくれたものだ」

「おいおいそんなこと言われたらこいつら余計張り切っちまうべぇ~! わははっ、よっしゃっ行け行けっ、皇太子様のお通りだべさ!!」


「いや、だから……。止めてくれヤシュ……俺は王族でも何でもないし、それに戦闘前に部下をバテさせてやるな」


 頼もしい連中だった。

 俺の願いなど聞かず行軍速度をさらに加速させる。御輿はさながら飛ぶように都への道無き道を進んでゆくのだった。



 ・



「おっ、あれ見てくれよアウサル。おいおめぇら、あっちだ、あっちに向かえ!」

「どうしたヤシュ、なにか見つけたのか? む……あれは……」


 もう都の城壁がはっきりと見える、あとほんの少しで到着というところで進路が斜めに変わった。

 ヤシュがその奥に奇妙な大穴を見つけたからだ。


「……ヤシュ」

「なんだべさアウサル」


 御輿の上から静かにその大穴を見下ろす。

 草原にぽっかりと開いた、ロバくらいなら問題なく通れそうなほど大きなもの。

 さすがに人が通るには苦しいが、どちらにしろこんなものは異常としか言いようのない光景だった。


「まさか、これが例のアリの穴か……?」

「そうだべ。それに見たところこりゃ新しい、そのへんにもしかしたら……って、早速来なすったべよ」


 ヤシュが御輿の上で立ち上がり腕を組む。

 そこでこちらもヤシュと同じように立ち上がってその目線を追うと、いた。

 この巣穴にふさわしい巨体を持った、アリに似た怪物の軍勢が……。


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