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1-8 地下帝国への第一歩

 かくして6日が経ってちょうど今。

 俺は洞窟の最深部で目前の岩肌を確認していた。

 全く予定外のものにぶち当たって、さてこれはどうしたものかと困惑していたのだ。


 いやさきほど[岩肌]と言ったが正確ではない、これは壁だ。

 さらに言うならばここは洞窟ではなく、俺が掘ったトンネルなのだとも訂正しよう。


「……頑丈だな。ん? これは、絵か」


 スコップで周囲の地層を削り落とす。

 するとカンテラのぼんやりと心許ない明かりが奇妙キテレツな壁画を照らし出した。


「わからん、遺跡は俺の専門外だ……」


 そこには竜に従う軍勢と、それを空から迎え撃つ天使たちが描かれていた。

 さらに天使たちの背後には光放つ太陽が置かれ、その中央に人型の何かがいる。


「興味無いんだが、これ壊したら子孫から文句を言われそうだな……。ああしょうがない迂回するか」


 だから何だというのだ、俺の興味はどちらかというと異界にある。

 壁画を避けて岩盤をスコップで砕く。

 上へのスロープを作りながら横へ横へとそれてゆくと、やっとこさ厄介な壁が姿を消してくれた。


 つまりアレはちょっとした大型遺跡だったわけだ。


「……ん、そういや」


 しかしふと思い返して壁画の場所に戻った。

 赤い竜につき従う軍勢と、天使たちの軍勢を見比べる。


「これは邪竜ユランか? ……だがどういうことだ。その軍勢にヒューマンらしき者が混じっているな……」


 さらに巨人とおぼしき種族までいた。……滅びたと聞いたが。


「というより天使の軍勢の方には、エルフも有角種も獣人も、肝心のヒューマンもいないな……」


 特にそこがおかしいのだ。

 ヒューマンは邪神ではなく創造主の陣営にいたはずで、これがユランと共闘していただなんておかしい。


 少なくとも彼らの知る歴史を真っ向から否定する行為だった。

 今や言葉にすれば異端尋問を受けかねない、危険極まりない歴史遺物だ。


「……まあいいか」


 今度ユランに聞いてみればいい。

 俺は再び穴掘りアウサルに戻り、岩盤をスコップで削って上へ上へと目指していった。

 次第に地層が岩盤から赤土へと変わり、少しずつそれがやわらかくなってゆく。



 ・



「最近、少し明るくなった気がします」

「ん、何がだ?」


「貴方ですよ、フェンリエッダさん。もしかして、あのアウサルが気に入ったのではないですか?」


 さああと1スコップで地上だ、開通だ。

 ……というところまで来て聞き覚えのある声がした。


「バカを言え、まだ半日も共に過ごしていない。アレは、アレは何というか……まあ、悪い人間ではないよ、そこは保証する。変人で間違いないが」


 そりゃどんな評価だ、フェンリエッダ。

 聞き耳を立てて損をした。よしここは仕返しに脅かしてやろう。


「なら年頃も近そうですし親しくしてみてはどうでしょう」

「はぁ……何を言うかと思えば……。余計な気づかいは結構だ、それよりここの資金繰りの方を気にしてくれ!」


 土を崩してフェンリエッダの正面真下に移動した。

 で、これから6日ぶりのご対面となるわけだ。

 俺は頭上を崩して一気に地上へ飛び出した。


「いよぉ!!」


 でかい声の方が良い、ドーンと現れてやった。



「わあああああーっっ?!!」



 さすがはニブルヘルの重要戦力だ。

 彼女は叫び声を上げながらも後ろに飛び退き、逆向きにでんぐり返って素早く身を起こした。


「あ、アウサルさん……?!」

「おお、アンタもいたか宝石商。ごぶさただな」


 スコップを地に刺して泥と砂埃まみれの身体を払った。

 うっすらと粉塵があたりに飛び散る。


「アウサルお前っ、今どこから現れ……ば、バカなっ?!」

「ええどこからどう見ても……。地下から現れたようにしか見えませんね……」


 フェンリエッダは相変わらずのローブに細剣姿だった。

 きっとメチャクチャにびっくりしてくれたんだろう、その胸を今も片手で苦しげに押さえ込んでいる。


「正解だ。迷いの森をいちいち経由するのも不便だからな、うちの家から掘って来た。ああ、安心しろ、呪われた地には誰も来れん、ここを使えるのは俺ただ1人だけだ」


 人の敷地に穴を開けておいてなんだが、その穴を彼女らの前でさらに広げてやった。

 ポッカリとそこに現れた地下空洞が、俺たちの当たり前の常識に風穴を空けてゆく。


「あり得ない……何だお前はっ! お前は……お前は……お前はモグラかっっ!!」

「モグラのアウサルか、悪くないな。呪われた地の何とやら、とかよりはずっとな」


 ともかく約束通りの6日目に間に合った。

 3日発掘して、もう3日をこのトンネル作りに費やすから6日の約束にしたのだ。


「いや、嘘だろ……?」

「嘘? いいや嘘じゃない、うちの家から掘ってきた」


 フェンリエッダに疑われた。

 宝石商の方も同意見だと顔がそう答えている。


「嘘をつくな! そんなわけあるわけないだろっ、どれだけ距離があると思ってる!!」

「なまじそれが出来る力があったとして、どうやって間違えずにここまで来れたのですか、アウサルさん」


 ヒゲの宝石商の意見には少し納得するところがあった。

 俺も最初はそう考えた。

 地下道を作るにしても、どうやってここまでたどり着いたものだろうと。


「違うな。確かに俺は地下道を作ったが目的はソレではない」

「ならもっと分かりやすく説明してみろ、お前のせいでこっちはっまだ心臓がドキドキいってるんだからなっ、本当にビックリしたんだっ!!」


 ニヤリと口元をほくそ笑ませてしまった。

 するとそれがフェンリエッダの怒りを買ったのか、彼女の口元が不機嫌にむくれる。

 ……なんだ、こいつもかわいいところがあるのだな。


「俺はただ、ダークエルフの隠し砦を発掘してやろうという一念で掘り進めただけだ。言わば、アウサルの勘と、それを100倍化した邪神ユランの力が俺をここに導いたのだ」


 俺は胸を張ってスコップを担ぎ直し、理屈が通じないことを承知でそう言い張った。


「そんなメチャクチャな話があるかッッ!! いいだろう、ならこの目でトンネルの奥を確かめてやるぞ!」

「ちょ、ちょっとフェンリエッダさんっ、呪われた地に近付き過ぎると貴方死にますよっ!」


 ……確かに。

 誰かが間違って入らないよう、頑丈な扉でも用意しないと後で責任を追及されそうだ。


「じゃあ手伝ってくれよ。宝石商、アンタもな」

「ええっ、ちょ、ちょっとアウサルさんっ、嫌ですよ死にますよ! 私、妻と子供がいるんですから!」


「途中までで良い、このトンネルは小さな台車くらいまでなら引いて入れる。中間地点に目印を付けておくから、二人は台車と一緒にそこで待っていてくれ」


 トンネルの前に立って彼らに用件を述べた。

 別に無計画に穴を掘ったんじゃない。


「良いだろう、それでお前は私たちに何をさせるつもりだ?」

「ええっ?! 私まだ良いとは言ってないんですけど……ひぇぇ……っ、呪われた地に近づくだなんてそんな……」


 宝石商の感覚が正常だろう。

 こんな正体不明かつ生まれたばかりの長距離トンネルに入るだなんて、よっぽど性根が命知らずでもなければ了承するわけがない。


 そうだ、フェンリエッダは英雄だ。やはり彼女は俺にとって、本の中の登場人物のようだった。


「大小の財宝16点を掘り当てた。アンタたちにはその運搬を手伝ってもらう」

「アウサルの財宝……!」


 だが商売柄か宝石商の目の色が変わる。

 先ほどのやり取りを思い返せば、やはり金に困っているようでもあった。


「アンタたちに全部やる。いや、その代わりに食料を恵んでくれ」

「施しは受けないと言ったはずだっ!」


 そういや6日前にそんなこと言ってたな。

 彼女は相変わらずの気高さで、その腕を横に大きく払って自己主張した。

 ついさっきまで資金繰りに悩んでたくせにな……。


「いえフェンリエッダさん、これは甘んじて受け取るべきです。恩は後で返せば良いのですから」

「そういうことだ。ここに横流しすれば親父も喜ぶだろう、ちょっとした仇討ちの一環だとでも思ってくれ。それでいいだろフェンリエッダ」


 この名目で使うならもちろん先祖も許す。


「はぁ……。私は……私は、お前みたいな前向きな復讐者を初めて見るよ……。ああもうわかった、待っているからさっさと財宝を運んで来い!」

「よし決まった。……宝石商、一応言うが金に焦って一気に流し過ぎるなよ。ああいうものは希少性やら出所がある、1つ1つゆっくり換金するといい」


 ヒゲの宝石商がうなづく。

 これで用件も終わったので、俺は再びカンテラ照らしてトンネルの中に戻った。


「ああ、そうだった。それでフェンリエッダ」

「……何だ、行くならさっさと行け。こっちはまだ胸の動悸が治まっていないのだ、全く……」


 よっぽど驚いてくれていたらしい。

 ついついまた笑ってしまって今度も反感を買っていた。


「ここからは別の相談なんだが……今夜、俺と一緒に……」


 これはユランのプランだ。

 竜のくせになかなかセコいことを考える、だが最高に面白い。ならもうやるしかない。


「泥棒をしないか?」


 名付けて、スコップ一つで始める大泥棒。……だそうだ。


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