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12-01 獣の地下隧道と、忘却されし亡者の寝床 2/2

「全てラジールが悪いことにしよう。さて、トンネル工事が見たいならついて来てくれ」

「あらそうっ、ならお言葉に甘えるわ。さあ早く早くっ、あの不思議なスコップさばきをうちに見せて下さいなっ」

「姫様はあれでござるな、こっちに来て妙に明るくなったでござる」


 またトンネルの奥に戻った。

 彼女らの前で壁を掘り、掘った土砂を圧縮して床や壁材に変える。

 その1突き1突きがア・ジールのさらなる発展、ユランの成長の糧になるのだ。


「そうかもしれないわね。だってここは……本当に綺麗な国だもの。地底にあるのが不思議で、でもそれが余計に素敵だわ。うちはそんなア・ジールが好きよ」

「そこは拙者も同意でござる。我ら追いつめられた種族にとって、もはやここは奇跡そのものゆえ。……それにこのトンネルが完成すれば、さらに街が賑わうこと間違いなしでござる。一介の商人として携われることが誇らしいでござるよ」


 要約するとゼファーはこう言っているのだ。

 2つの国を繋げば流通の中継地点になれる。それがそのままア・ジールを豊かにすると。

 それはこれまでずっと恵まれることのなかったダークエルフという種族に、さらなる希望を与えることになる。


「そうだな、コイツを作る意味は大きい。俺たちにとっても、向こうの連中にとっても同じくらいな」

「あら、でもどうやって獣人の国――確かダ・カーハって名前だったわね、そこまで繋げるのかしら?」


 それはゼファーの役目だ。

 背中をちらりとのぞくと、銀の有角種が俺の期待通りの物を取り出してくれる。


「これでござる。これは共鳴(レゾナンス)オーブ、アウサル殿には悪いでござるが不便なのでそう名前を付けさせてもらったでござる」

「そうか、なかなかわかりやすくて良いかもしれないな。つまりはこういうことだ、パフェ姫」


 俺もその片割れを持っている。

 懐からオーブを取り出して、ゼファーのものに近付けた。すると……。


「きゃっ?! ま、まぶしい……っ!」

「くぅぅぅ……このはた迷惑な性質だけはどうにも不便でござるな……。目に残像が焼き付いてしまったござる……」


 激しい発光が暗いトンネルの中を照らした。

 すぐに適切な距離まで引っ込める。


「すまん、距離感を間違えた。まあつまりはそういうことだ、引かれ合う2つのオーブが互いの位置を教えてくれる、ということだな」


 それから左右にオーブを動かす。

 するとオーブの中の光が軌跡を作り、互いを求めるように揺れ動いた。


「あら不思議ね……。ふふふっ……ユラン様といい、ここは不思議なものだらけだわ。……うち、その筆頭はアウサルくんだと思ってるけど」

「ハッハッハッ、違いないでござるな。これまでの経緯を振り返ると、全くもってその通りでござる。何度でも頷けるでござるよ」


 ゼファーがオーブをしまったので俺もそれにならった。

 妙なレッテルから背を向けて、俺は再びトンネル工事を再開する。


「ゼファーには陸路で獣人の国ダ・カーハに向かってもらう。……そこで交渉の下準備を整え、双方の同意する好立地にこの目印を置いてもらう計画だ。……もう2度と風呂場になんて繋げたくないからな」

「フフフッ、事故なのはよくわかったわ。でもねアウサルくん、アウサルくんがうちの裸を見た現実は変わらないの。シッカリ、乙女の裸の責任は取ってもらうわ」


 はぁ……粘っこい……。あんな出会い方さえしなければ違ったのだろうか……。

 ラジールめ、最強の軍神にして疫病神め……全部アンタのせいだ、どうしてこうなったんだ……。


「すまんでござるアウサル殿……。しかし将来のことを考えればあながち悪い話でもないでござるよ。パフェ姫様は美しいでござろう。おとなしく素直に結婚してしまうのも、思いの外悪くないでござらんかな。姫をアウサル殿の好きに出来るのでござるよ?」

「止めてくれ、そんなこと言われたら気の迷いを起こしそうだ……。確かにパフェ姫は綺麗な人だからな……。少し粘っこいが」


 最後の部分を小声にして、俺は頭を振り払い作業に没頭した。

 戦略的にそれが正しかろうと結婚だなんてメチャクチャな話だ。

 正直にグチを漏らせば、俺にはパルファヴィア姫が何を考えているのかまるでわからなかった。



 ・



 工事2日目、ゼファーが南に旅立った。

 今回はトリックスターことラジールが噛んでいない、ただそれだけで多大な安心感と期待が胸を安らがせた。


「ん……?」

「あらどうなされましたのアウサルくん? お水にしますか、干し肉にしますか? それとも……あら?」


 もう地上では昼過ぎだろうか。

 ユランが昼寝ばかりしていて暇だからと言って、その日もパフェ姫に張り付かれてしまっていた。

 いいや訂正しよう、土埃まみれになっても人の世話をしてくれるその姿に、内心感謝とか尊敬の情を覚えかけていた。意外とタフだ……。


「何ですかこの白いの?」

「わからん。どれ、もっと掘り起こしてみるか」


 俺たちは白い地層にぶち当たった。

 スコップで地層をトンネルに変えてゆくと、その白い岩壁がどこまでもどこまでも広がってゆく。

 気づけば上下左右正面全てが真っ白になったいた。


「白くて少しだけ赤っぽくて……何だか綺麗ですわ。土ではなさそうですけど……何でしょうかこれ……」


 質感は硬いがややもろい。

 赤白いそれをスコップですくい取ると、小さな欠片がさらさらと崩れていった。

 どこかで見覚えがある。試しにその粒になったものを口に運んでみると――正解だった。


「ちょっとっ、それ口に入れて平気なのアウサルくん?!」

「まあ元が丈夫だからな。それよりこれの正体がわかったぞ」


 ガリガリとその粒を噛み砕いて飲み込む。

 俺の体で試して、何か問題があるようならここは封鎖してしまおう。


「そんな飲み込んで……あっ! うちわかったわっ、これってお塩ね!」

「多分な、どうもここは岩塩の地層みたいだ。つまりこれから塩のトンネルが続いてゆくわけだ」


 正体がわかったからにはもういい。

 壁をスコップで貫き、これまで通りそれを圧縮してトンネルを広げてゆく。

 ……ところがまた妙なものにぶち当たった。なぜかルイゼのスコップが軽く弾かれたのだ。


「あら今度はどうしたんですか? お塩のせいで喉が乾いたならこちらに美味しいお水が……ん、それは何ですか?」

「さてな……少し待て、掘り起こす」


 魔霊銀すら貫くルイゼの白銀のスコップが跳ね返された。

 あり得ない、一体これはなんだ?

 発掘家の好奇心が刺激され、塩に埋まったそれを掘り出してゆく。


「……これは、骨だな。掘れぬわけだ」

「これが骨ですの? でもそれにしては……大き過ぎますよアウサルくん。塩漬けの骨だなんてうち聞いたことありません」


 俺のスコップ100倍の力は、土、岩、金属、自然物に限定される。肉や骨は断てなくもないが加護はない。

 どうもそういったルールがあるらしかった。


「それは俺もだ。んん、気になるな……もっと掘り返してみよう」

「はいっ、よくわかりませんけどきっとこれは大発見ですよアウサルくん!」


「ああ。俺は元々、遺跡や化石には興味無かったのだがな。だが最近は少し気が変わってきた。……しかし、これは、思った以上に途方もないものだな」

「そんな……え、な、何なんですかこれ……!? だって、これがもし骨だとするなら……こんなのあまりに大き過ぎます!」


 骨を壁から脱落させないよう注意しながら、一帯の岩塩を削り取っていった。

 その結果、部屋と呼べるほど広がったこの場所に、俺たちの予想を越えるものが現れていた。


「竜だ」

「ド、ドラゴンの骨ですのっ?!」


 しかし、これは何だ……。

 こんな巨大な生き物が地上を闊歩していた時代があったというのか……。

 頭骨だけで俺たちの頭をゆうに越えるほどの生物、竜が、なぜこんな地底に眠っている……。


「姫、ここがかつての地上だったとするとだ。この巨竜は果てしなく古い時代の生物ということになる。つまりだ、場合によっては創造神サマエルが最初の種族巨人を――」


 これは俺たちやユラン知る神話よりも、さらに古い時代の――!


「でもこれだけお塩があれば美味しい料理が作れそうですわね。この骨も煮ればだしが出るかしら……?」

「……何の話だ? 料理、だし……? いやそうではなくてだな、これの意味するところは、パルフェヴィア姫が思う以上に重大……。ああ、もういい……」


 興味の無い者からすればそんなものだろう……。

 発掘家の悪い側面を引っ込めて、俺は竜から青髪麗しきライトエルフ、パルファヴィア姫を見つめた。


「古代竜の化石で料理か……。パフェ姫、さすがにこれは鍋に入らんと思うぞ。ユランの本体にはやや劣るが、桁違いの巨大生物だ、化石化してるので恐らくは食えん」

「そんなっ?! ユラン様がこんな大きくなってしまったらっ、可愛くなくなってしまいますわっ! アウサルくんっ、完全復活はやっぱりダメです!」


 そうじゃない姫……。

 そっちの方がアンタには重要問題なんだな……。

 次に結婚をせがまれたらこれを言い訳に使わせてもらおう。


 パフェ姫、俺と結婚なんかしたらユランがさらにでかくなるぞ。


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