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12-01 獣の地下隧道と、忘却されし亡者の寝床 1/2


前章のあらすじ


 義賊アジールとして再び悪党の財宝を盗み出すことになる。

 ところが侯爵含む悪徳商人らは、北方ローズベル要塞へと財宝を隠し込んでしまっていた。

 アウサルらは無理を承知で強奪を決める。


 単身でローズベル要塞に潜入すると、グフェンの諜報部隊に属するロッソという男に声をかけられた。

 彼の調査により隠し宝物庫の場所が絞り込まれる。だが同時に妙な噂があることを語る。派遣されて来た老兵が消える。


 ロッソと分かれてアウサルは隠し宝物庫に潜入した。

 そこに正体不明の大釜と、鎧、悪党の財宝を発見する。


 偵察を終えて仲間と合流し、アウサルらは財宝を盗み出す。

 その際に大釜が意志を持ち、アウサルとゼファーを襲ったが何とか撃退した。

 その大釜はかつて天より運ばれ、人間を溶かして最悪の鎧を作る古代異物だった。


 全てを盗み出し、最悪の鎧を荒野に埋める。

 追っ手が付かなかったこともあり予定を変更し、地下道からア・ジールへと帰還した。

 ところがアウサルが不在の間に余計な取り決めがなされていた。

 ライトエルフの国の第一王女パルフェヴィアが現れ、彼女とアウサルの縁談が進んでいた。

 グフェンらはアウサルという英雄を、ア・ジール地下帝国の王者に仕立てようとしていたのだ。


 そんな勝手な要求を拒み、アウサルは獣人の国を目指しての獣の地下隧道作りに手をつけるのだった。



 ・



――――――――――――――――――――――――

 獣の国ダ・カーハへ 悪意の軍勢と争いを望む狼

――――――――――――――――――――――――


12-01 獣の地下隧道と、忘却されし亡者の寝床 1/2


 気高き竜の願いを叶えてやろう。

 全ての種族が争わず平和に暮らす世界、それはこの時代の価値観からみればただの理想家の妄想に過ぎない。

 しかしユランは言う、それはかつて当たり前に存在していたものなのだと。

 そんな嘘みたいな話を現実に変えるためにも、これから生み出す【獣の地下隧道】は絶対に欠かせないものだった。


「さて、やるとするか」

「やるって、一体何を始める気なのアウサルくん?」

「それは見ていればわかるでござるよ、パフェ姫様」


 準備を整えて若草生い茂る傾斜面に立った。

 それから手頃なポイントを探して斜いた地面をうろうろと歩き回る。


「もうっ、うちに様付けは止めてって言ったでしょゼファーさん!」

「そうは言うでござるがな、立場が違い過ぎてそうもいかぬのでござるよ。こちらはただでさえ、戦うことを止めた裏切り者の種族ゆえ」


 こっちはトンネルの起点が決まったので背後を振り返った。

 坂の下ではゼファーとライトエルフの姫君が他愛ないやり取りをしている。

 ここから眺めるア・ジールの姿は絶景だった。

 麦畑と育ちかけの下町、白の地下隧道付近にも市場が生まれている。


「何をやってるんだアンタたちは。こっちはもう始めるからな」

「だから何を、って聞いてるじゃないっ、ハッキリ、説明して下さいアウサルくんっ」

「そこでござるか。……うむ、なかなかに良いポイントでござるな。しからば工事の方は頼んだでござるよ」


 パルフェヴィア姫が事情も知らずについて来た。

 ユランが昼寝――ではなく朝の2度寝を始めたのでやることが無くなったからだそうだ。

 ゼファーの方は俺の見送りだ。いやこれからの予定を最終確認する意味合いもかねていた。


「そっちもな、今回も頼りにしている」

「大船に乗ったつもりで拙者に任せるでありますよ。ユラン様とアウサル殿のためなら、何の苦もないことでござるゆえ」


 スコップを傾斜面に突き刺す。

 入り口の土砂は使い道があるので左右へと払い、トンネルの外壁だけしっかりと固めてゆく。


「ご覧くだされ、つまりはこういうことでござりますよ姫。アウサル殿はこの力で我らの楽園ア・ジールを掘り当て、貴殿の国までの道を造っていったのでござる」

「べ、別に驚いてないわ……っ、だってうちだってアウサルくんの地下道でここに来たんだもの……! で、でも……でも驚きだわ。こんなことが……あっもう姿が……ねぇアウサルくんそれって平気なのっ?!」


 パフェ姫につられてゼファーまでが斜面を登って来た。

 工事の邪魔だ、とは言い難い。何せ相手は貴人だ。……多少奇人ともまた言えてしまうかもしれんが。


「ああ、落盤の経験は無い。俺は歴代の中で1番の天才だ、なので安心して見送ってくれ」

「あら不思議……! まるで岩みたいに堅い壁になってしまうのね。わっ……ねぇ見てゼファーさんっ、床も全部スベスベに変わってるわ、白の地下隧道と同じなの!」


 正直背後に立たれると困る……。

 ここから発生した土砂を外の傾斜面の平坦化に使うのだ、つまりこのままじゃ後ろに土を払えない。


「むむ、もしかして作業の邪魔でござるか?」

「あらそうなの? ごめんなさいアウサルくん、うちったら興奮しちゃって……でもっ! ここって何もかもが凄いのねっ!」

「少しだけ作業に集中させてくれ。出口から土砂の雨を降らせることになるので、しばらく離れていてくれると助かる。人に土をぶっかけると酷く恨まれるのでな、これが軽くトラウマなのだ」


 ゼファーのフォローに感謝だ。

 後で呼ぶからと約束すると2人は足早にトンネル前から立ち去ってくれた。

 さあ邪魔者はいない、一気に進めてしまおう。

 俺は目前の土壁に意識を集中させて銀色の相棒でそれを崩し続けた。


 しかしこんなものを解説したところでただのつまらない単純作業に過ぎない、少し別の話をしよう。

 ……そうだな、他の連中の話題が良いか。

 ラジールは母国フレイニアに一時帰国している。あの戦いであちらの軍が疲弊してしまったので、新兵を集めて1から育て直す必要がでた。


 そこで猛将ラジールが教官となり、直々に若いライトエルフをしごき倒すことになった。

 きっと鬼教官というより、ナチュラルに狂戦士な修羅教官と呼べる活躍っぷりを見せていることだろう。……ああ、新兵たちには同情する。


 一方ヒューマンのダレスとジョッシュはこの前の財宝強奪劇の働きにより、無事ア・ジールの仲間として認められた。

 俺の部下であるのだが工事に付き合わせても才能の無駄使い、そこでグフェンに貸し出した。

 今は正規軍士官の経験を生かして新兵の育成や、ヒューマンの動向についてのアドバイザー役を担ってくれている。

 何せ元エルキア侵攻軍大将にして王族だ、ダレスは誰よりもその辺りに詳しかった。


 ルイゼとブロンゾは招聘おさそいしたライトエルフの鍛冶師たちと共に鋼と炎の仕事にいそしんでいる。

 ダークエルフが鍛冶下手ならライトエルフはその逆だ。

 ……ただ不思議なことにルイゼと鍛冶ハンマー・ブロンゾのコンビを超える実力者が現れない点が、俺最大の不満であり疑問だった。

 やはり恩人の妹をいつまでも鍛冶場に立たせておくのは……ああ、俺としてはどうも納得しがたい……。


 未来の女王フェンリエッダは、その役回りをいずれ押し付けられるとも知らずにグフェンの代役をしている。

 頭領グフェンが仕事場を抜け出すので、相変わらず彼女含む上層部は忙しいみたいだ。


「おっと……こんなものか。ふっ、今日はなかなかに快調だな」


 この辺りからトンネルの外に土砂を投げ飛ばすのが難しくなる。

 それでも力技とコントロールで遙か入り口の向こう側に飛ばし続けていたが、ついに狙いがずれてトンネルが暗く埋まりかかった。

 そこで出来たての道を整備しながら1度外へと戻り、待機していた2人へと声をかけた。


「はっはっはっ、穴からどんどん土が吹き出てくる姿は、なかなかもって珍妙でござったな」

「アウサルくん! うちやっと理解できたわっ、こうやってうちとバロルのお風呂をのぞいたのね!」


 傾斜の上から見物していたらしい、2人がこっちに下りてきた。

 今さらだがここはア・ジール南部の高台に位置する。

 今回は都市計画というやつを意識して、その中腹の未開拓地区をトンネルの起点にした。

 40度ほどの険しい斜面が続いているため、開発が後回しになっていたエリアだ。


 ここではなく都市部にトンネル入り口を築いてしまう案もあった。

 しかし人の流れが1カ所に集まり過ぎるのは良くない。西南西にある白の地下隧道へと道を繋ぎやすく、都市の側面部に位置するここが理想的だとグフェンと話し合って決めた。


「とぼけてないで返事してっアウサルくんっ!」

「……もう過ぎた話だ、いつまでも引きずる気はない」


「そういうのはのぞかれた側が言う言葉よっ、もう! アウサルくんって! アウサルくんって本当にマイペースだわ……」

「まあまあパフェ姫様。そこは拙者に責任がないこともない話でござってな……。ああ、すまなかったでござるアウサル殿」


 ゼファーからすればラジールの他に預ける相手がいなかったのだから仕方ない。すまんが多少恨んではいるが……それも水に流そう。


「全てラジールが悪いことにしよう。さて、トンネル工事が見たいならついて来てくれ」


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