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11-07 スコップ一つではどうにもならない聞き分けの無いお偉方

 仕方ないので少し解説しよう……。

 ライトエルフの国ニル・フレイニアがア・ジールに加わるにあたって、いくつかの手続きが必要になった。

 それが今回の騒動であり原因だ。


 つまりだ。2つの種族をもう1度結び繋ぐために、より具体的で、象徴となる何かが必要になったのだ。

 だからフレイニアの老王ヴィトは決断した。ハイエルフにして大事な娘、パルフェヴィアをア・ジール地下帝国に嫁がせると。


 ……ここまでは良い、よくある政略結婚だ。

 しかしア・ジールはまだ国とは名ばかりの、広大な土地付きレジスタンスといった状態だ。

 もちろんそこに王族なんているわけがない。権力や指揮系統で言えば、グフェンというカリスマによって運営されてるに等しい。


「ならばこれは政略結婚なのだ。そこは年の差を割り切って、彼女はグフェンに嫁げばいい。よりにもよって俺である必要など無いぞ……」


 だからこれが俺の言い分だ。

 凱旋するなり俺はグフェンの政務所に押し掛けて抗議してやった。


「すまないなアウサル殿。……フィンブル王家の末裔はエルキアに狩り尽くされ、残された王族に男子はいないのだ」

「……そのことと俺に何の関係がある。話がまるでかみ合ってないぞグフェン、俺はアンタがパルフェヴィア姫をめとれば良いと言っているのだ」


 見た目はまだ中年だが1000年を生きる年寄りだ。年寄りが人の話を聞くはずもない。

 グフェンは穏やかな微笑みを浮かべて、今のこの状況も想定内だと余裕そのものだった。


「それは無理だ、俺は王族ではない。俺ごときがヴィト王の娘、それもハイエルフを嫁にするなど許されんよ」

「俺は呪われた地の怪物だ。サウスの民には忌み嫌われている、ハッキリ言って奴隷以下の存在だぞ」


 理屈がまるで通じない。

 同族にヒューマンとして認められることもなく、かといってダークエルフですらない俺と、パルフェヴィア姫を結ぶ必要がどこにある……。むしろこれは1番まずい選択なのだ……。


「もう決めたことだ、ニブルヘルのリーダーとしてその構成員アウサルに命じる、我らの独立の為に、パルフェヴィア姫と婚姻を結べ」

「グフェン、つくづくアンタも人の話を聞かないな! そんなことをして何の得があるっ!」


 書斎机に両腕を置き、俺はイスの上で落ち着き払う彼に詰め寄った。

 いくらなんでもこればっかりは納得いかない。


「得か……。ならばアウサル殿が納得出来るまで順番に説明していこう。……実はな、エッダのお母上はフィンブル王国王家の出なのだ。つまりその娘エッダは、いずれ我らが国を取り戻した時、女王として立つことになる」

「フェンリエッダが……? だが、そこになぜ俺ごとき穴掘り男の出番が回ってくるのだ……彼女には、パルフェヴィア姫にはもっとふさわしい相手が……」


 フェンリエッダの事情はわかった。

 女と女で婚姻を結ぶことが出来ないこともわかった。

 ならば縁戚の男をあちらがこちらによこせばいいではないか……。


「それは裸を……うちの裸を見た責任ですっ! シッカリ、見ましたわよね、うちの、うちの裸を……っっ!!」

「これは姫様、ようこそおいで下さいました。ちょうど今アウサル殿を説得中です、今しばしのお時間を……」


 そこに青髪のライトエルフ、パルフェヴィアが押し掛けてきた。

 俺1人だけ抜けて来たのに追いつかれしまったようだ……。


「いいや見ていない、仮に見ていたとしてもそれごときが結婚の理由になどならん」

「嘘はダメですわアウサルくん! あの時、バッチリ! 目と目が合いました! これはもう男女が結ばれるに十分過ぎる出会いです!」


 知っているぞ……これは押し掛け女房だとか、おかしな風習でなぜか結婚が決まるというお約束展開ってやつだ。

 だがここは物語ではなく現実世界、そんな滅茶苦茶なご都合主義あってたまるか、シュール過ぎるぞっ。


「悪いが湯気で何も見えなかった、だから安心して自由な恋愛をすると良い。……おおそうだ、ここのアベルハムという男がオススメだぞ、真面目で誠実で顔も性格も良い、かなりの良物件だ」

「えっ?! えっちょっ、なっ、なにいきなりこっちに振ってるんですかっ、ええええっアウサル様ッッ!?」


 グフェンの直属、要するに秘書ポジションに収まっていたので当然そこにアベルハムの姿もあった。


「ダメです、この人には裸を見られてはいません。シッカリ、責任とって下さいアウサルくん!」

「なら今から見せればいいだろう……アベルもきっと喜ぶ」

「そんな勝手にッ自分の言葉を代弁しないで下さいよっ?!」


 純情だ、アベルハムは困り果てて自分の顔を覆った。

 ああ、まるで乙女だ。


「無理ですわ。それにうちはハイエルフ、ユラン様の巫女として務めを果たすよう父上に申しつけられておりますの。これなら何重にもお得な話ですわ」


 よし、今こそ異界の言葉を借りよう……。

 わからん、文化が違う……。

 なんなんだその理屈は、世話をするだけならルイゼだけで十分だ、そんなの困るぞ……!


「アウサル殿、まあ考えてもみたまえ。……ここ、ア・ジールを最初に見つけたのは誰だろうか?」


 パルフェヴィア姫の扱いに困り果てていると、グフェンのやさしい声が響いた。

 ただし俺には少し答えにくい問いかけだった。


「それは一応、俺だが……」

「そうだ。さらにその身を敵になげうってまで、ここを守ろうとしたのは……誰だ?」


「グフェン……それは違う、あれは作戦だった。ここの存在をやつらに悟られるわけにはいかなかったのだ」

「同じことだよアウサル殿。ア・ジールは、君が我らに与えてくれた楽園だ。ダークエルフはこの恩を末代まで忘れないだろう。これは大げさでもなんでもない、ここの者なら誰もが思っていることだ。俺は君に叫んだ、この世のどこにダークエルフの逃げ場があるのかと。アウサル殿は我々にそれを与えてくれたのだ」


 つい一昨日のことをふと思い出す。

 農園の奴隷として生まれたダークエルフたちは、今も心ない農園主にこき使われている。

 そんな立場の者からすれば楽園ア・ジールは奇跡の地なのだ。


「それはライトエルフもですわ。貴方があの日あのお風呂場に現れなければ、フレイニアは滅びていました。その後は容赦ないエルキアの蹂躙を受けていたでしょう」

「そして、君は反逆の救世主ユランの選んだたった1人の使徒でもある。いわばユラン様の代行者と言っても良いだろう。大げさなのは自覚しているが……それだけ我らにとって今の君は尊いのだ」


 なるほど言い分はわかった。

 王者のいないア・ジールからすれば、アウサルを英雄に仕立て上げれば体裁が整う。

 その英雄がこの先、1度も信用を失うようなヘマをしでかさなければ、の話だがな。


「1つ聞く。このことはユランにも話したのか……?」

「ああ、俺の申し出に応じられた後にすぐ寝なおされた。アウサル殿の自宅にいるだろう」

「そうでした! サマエルを裏切った伝説の竜ユラン様! ユラン様にもシッカリ、ご挨拶いたしませんと!」


 ついでに俺まで裏切ったなあの邪神め……。

 しかし俺が目の前で小言を言ったところで、かわいい鳴き声でごまかされそうだ……。


「諦めてくれアウサル殿。君はな、あの日ここへと我らを導き、長き虜囚(りょしゅう)の憂き目からこの地へ生きて凱旋したその日からもう――ア・ジールの王になっていたのだよ。エルフではない君が、我が身を犠牲にして我らを救った、そして奇跡を起こし再び帰って来た。その事実が、拷問で受けたその傷そのものが、姿無き王冠だ、我らの盟主は君以外にあり得ない」


 グフェン、俺にだって理屈はわかるのだ。

 アンタたちが俺に恩義を覚えているのも肌で感じない時などない。

 しかしこれは俺の予定にない、俺は呪われた地に生きるアウサルなのだ。


「ア・ジールの王はエッダではダメだ。エッダはフィンブル王国を継ぎ、そのエッダとフィンブルがア・ジールの帝王アウサルに従う。これもユラン様の願いを叶えるためだ、あらゆる種族が争うことなく平和に暮らす、かつての楽園を取り戻すための最良の人事だよ。……アウサル殿、今すぐでなくとも良い、だがいずれエッダと、このパルフェヴィア姫と手を携えア・ジールの帝王となってくれ」


 普段のグフェンらしくもない熱意こもった言葉だった。

 それがようやく収まると誰もが口をつむぐ。

 当然だ、大事なのだ、これはグフェンの世継ぎとして指名されたにも等しい。


「それはまた勝手な計画だな……しかし完璧なようで穴があるぞ。それはな、俺が応じなければ永久に達成不可能な世迷い事だということだ、もちろん断る。俺は人から蔑まれる蛇眼の男、呪われた地に住む疫病神アウサルだ。視点を変えれば怪物に国を売る狂信者にも映るぞ」


 問題はサウスのヒューマンだけじゃない。

 つまるところ俺を王者に祭り上げてしまうと、その他種族たちの信用をも俺が勝ち取りに行かなければならなくなる。

 ……でなければやはり俺はただの怪物にしか映らない。


「フッ……まあ急がなくともいい。姫様、どうかアウサルをその気にさせてやってくれ。彼も若いからな、ジックリと……」

「シッカリと! ですわねっ!」


「うむ、ヴィズ殿に似て利発な子だ、頼もしい」

「任せて下さい、裸を見られた以上はうちに退路なんてありませんわっ、常時背水の陣ですのっ!」


 自分が政治の道具にされているというのに、パルフェヴィア姫はそれでいいんだろうか。

 いや……考えようによってはもしかしたら、彼女は心のどこかでそう自分に言い聞かせてるのかもしれない。


 裸を見られたのだからしょうがないのだと。

 ……いや、いやいや? 思い返してみれば向こうでも常時この調子だった気もするな……?


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