11-06 義賊ア・ジールの凱旋、スコップが招いた急報 2/2
荷物をサウス南西郊外の農園に運んだ。
ここの主人はダークエルフ寄りだ。なぜかと言えば、要するにあの要塞で出会ったロッソと似たような境遇が背景にある。
この国ではそう珍しくない不幸が、特権階級のはずのヒューマンを裏切りに駆り立てるのだ。
「お待ちしていました。さ、どうぞこちらに……」
「いつもすまないな、危険を冒す頼みばかりしてしまって……」
真夜中だ。その農園主による出迎えを受けて、俺たちはある納屋に案内された。
そこにあるわら山をどかし、大きな木板をめくり上げれば地下室への道が現れる。この地下室もまた偽装で、実は迷いの森へと隠し通路が続いているのだ。
「いいやフェンリエッダさん、私どもも正義を望んでいるのです。スコルピオ侯爵やエルキアにはその器が無い。そう思い見限っただけのこと……お気なさらず。さ、お早く」
馬車から荷物を下ろし納屋に集積した。
荷馬車は念のためここで1度解体し、農場で保管してもらう。
農場所有の荷台に黄金の延べ棒や宝石箱を乗せて、俺たちは地下道を進んだ。
もうここまで来たらこっちものだ。
後はニブルヘル砦まで宝を持って凱旋するのみだ。
「さすがに重いな……アウサル、こっちを手伝ってくれ」
「わかった」
しかしこれがなかなかに重労働だった。
物が物だけあってとんでもなく重い。人を何人も乗せているかのように。
俺はフェンリエッダと並んで荷台を引いて、長いトンネルを1歩1歩踏みしめていった。
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そうしてようやく迷いの森に到着した。
「すみませんがゼファーさん、先に砦から人手を呼んできてくれませんか」
「おお名案でござるな、しからばひとっ走りしてまいろう」
元々は全て埋めて手ぶらで戻るつもりだったのだ。
エッダに賛同してゼファーがすぐさま森の奥へと消えてゆく。
「ああそうだった、ダレスとジョッシュ、アンタらは極力皆から離れないようにな。ここは迷いの森だ、ヒューマンを惑わす」
「そういうことですか、了解です」
「つくづく上手く出来てるもんだなぁ……こんな森、誰が作ったんだか」
人手が来るまでは自分たちで引き続き運んでゆくしかない。
腰が変になりそうなほど重い荷馬車、それをひたすらフェンリエッダと一緒に引く。
彼女の長いブロンドが汗ばんだ俺の肌をくすぐり、彼女もまた汗を流してこちらに肩をぶつける。
「何だアウサル……?」
「いや……。だがもう少しゆっくり進んでもいいかもしれないな。人を呼んだのだ、もうサボってしまったって良い」
他は宝石類などなどだが、荷台には黄金の延べ棒が6本も乗ってるのだ。
見れば車輪が深いワダチを作って大地に食い込んでいる。がんばり過ぎだ、2人で運ぶ物量ではない。
「ダメだ、ここまで来たら最後までやり切らなければ気が済まない。休むならお前1人で休め」
「そうか……」
そう言われて降りるわけにもいかなかった。
黙々と荷物を引き、それからしばらく進むと先行したゼファーが戻ってきた。
「お疲れ様です皆さん、まさか財宝と一緒に戻って来るだなんて……さすがアウサル様です!」
その後ろにニブルヘル砦の兵たちを引き連れて。
見れば指揮しているのはあの新人幹部アベルハムだったとくる。
「ふぅ……これでやっと解放か……」
当然のように兵たちが我先と役回りを代わってくれた。
俺たち強奪部隊はようやく一息ついて、それぞれ足を休ませる。
「あっ、それはそうとおめでとうございますアウサル様!」
「ん……? ああ、まあ思った以上に上手く行ってしまった、ありがとう」
ところで思い出したようにアベルハムが俺を祝った。
しかし……しかしどうも言葉のニュアンスが……それとは違う気がしてきた。
「いえそうではありません、ご結婚の方です」
「……結婚? 誰がだ?」
空を見上げれば夜明けが近い。
もう少し進めば砦、けれどまだここは森の中だ。
そこに銀髪のゼファーまでやって来た。なぜか場違いにもやさしい気づかいを顔に浮かべて。
「アウサル殿、その……落ち着いて聞くでござるよ? 実は昨日、そなたが不在の間に……勝手にどんどん話が進んでいったようでござって、な……うぅむ……」
「それはどういうことですか? 私は何も聞いていませんが」
するとそこにフェンリエッダまで混ざる。
そんな話は知らないと、機嫌の悪いいぶかしみも俺に向けてきた。
「エッダ殿も知らなかったとなると……やれやれ、グフェン殿も人が悪いでござるな……」
「なーんだぁー?! アウサール、貴様結婚するのかっ?! ならばついでに我もめとっておくと良いぞ!」
状況に頭が追いつかずつい黙り込んでしまった。
たった2日の不在のうちに何が起きた……何が起きている……。
グフェン、どういうことだこれは……?
ついでにラジール、アンタまで混じると余計こじれるから止めろ止めてくれ……。
「アベル、つまり何がどうなってるんだ?」
「え、ええ……ですからそれは……アウサル様、貴方が――」
俺に結婚する予定など無いのに、そんな話が浮上するわけが無いだろう。
これは何かの間違いだ。伝言上のミスがあったに違いない。
「はい、それはうちとアウサル様の結婚ですわ。シッカリ、筋道を通した結果こうなりましたの」
そこに声、聞き覚えのある高い声が響いた。
音程のシッカリとしたその発音、忘れようにも忘れられるはずもない……彼女だ……。
「あ、アンタ……なぜここにいる……」
目を向ければ彼女、あの青髪のライトエルフ・パルフェヴィア姫がシッカリ背筋を伸ばして胸を張っていた。
どういうことだ……今日という今日は納得できんぞグフェン、これはどういうことだ……!!
「もちろん、責任取っていただきに来ました」
「そうか……」
人は困り果てた時に、頭を抱えるようだ……。
どういうつもりだグフェン……。
一国の姫君と、死の荒野の怪物を夫婦にするなど暴挙もいいところだぞ……。




