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11-03 悪の財宝と消えた老兵の在処

 地下道に戻り新たなルートを作った。

 ロッソが教えてくれた北西2層下のポイントを目指してローズベル要塞地下を掘り進める。

 すると1本の石壁、床下、これも水避けの砂利を見つけることになった。


 それは緩やかに下を目指す地下道だ。

 周囲を石で丁寧に補強してあり、床部分が地下目指して傾いている。よくもまあこんな隠し通路を造ったものだ。


「俺が言っても説得力が無いか。さて……」


 確証は無いがこれがくだんの隠し通路だとして、問題は内部の状態だ。

 その石壁に耳を張り付けて内の様子をうかがってみたものの……はて、いくら待ったところで物音1つ無い。


「中の警備はしていないのか……」


 入り口さえ完全封鎖してしまえば隠し通路内部の警備は必要ない、とでも考えたのだろうか。

 どちらにしろ好都合だ。さっきの潜入と同じ要領で床を切り抜き中へと入り込む。


 そこは真っ暗闇の世界だった。

 左手のカンテラの明かりが苔むした白壁を照らしだし、間違いなくそこが正規ではない秘密のルートであることを証明していた。


「……なるほど」


 次に膝を落として石造りの床を確認した。

 もし誰もここを通っていなければ、それだけ足元も苔に浸食されていたことだろう。

 ところがその苔が踏み荒らされている。


 それもかなりの人数が行き来したのかすっかりボロボロだ。

 それは秘密ゆえに管理されていないはずの隠し通路に、最近大勢の人間が行き来した証拠だった。


「消えた老兵か……。噂が真実ならこの痕跡も妥当なところだが……」


 まあ行けばわかる。そのゆるいゆるい下り道を慎重に進む。

 カンテラの明かりは頼りなく、足下はところどころ苔で滑ったり水たまりがあったりと不安きわまり無い悪路だ。


 ちなみに炎のマテリアルを使えばカンテラ無しで明かりを自発出来る。

 ただしスコップから炎を放つ男など、それこそ進入者通り越して悪霊としか見えないので却下、あまりに目立ちすぎるというものだった。


 そこで代わりに風のマテリアルを装着した。

 遭遇戦になりかけたら風で相手を吹き飛ばしてしまおう。

 敵のカンテラから明かりを奪い、その隙にやり過ごしてやるのだ。


「やはり中は警備していないのか……。どうも妙だ……」


 歩き方に慣れてくると隠し通路が四角い部屋に行き付いた。

 警戒しながらも室内に入り込んだのだが、警備どころか明かりすら無い無人そのものだ。

 カンテラを使って部屋の構造を確認すれば、さらに奥へと繋がる直進ルートが1つ、それから4つの扉が確認できた。


「ふぅ……ここも無人か、ムダな気を張ったな……。しかし、不気味なところだ……」


 扉にはそれぞれ大げさな鍵がかけられていた。

 けれどよく見れば1つだけ施錠されていないものがある。

 もしかしたらと手をかけてみれば、木造の分厚い扉がギィギィと軋みながらも開いてゆく。


何だ(・・)……アレは(・・・)……。それに、この臭い……」


 内部をのぞくと部屋の中心に大きな釜が1つ。それと鼻をツンとさせる生臭い臭いが立ち込めている。


「これは……これは何だ(・・・・・)……スコルピオ、アンタは何をしている……」


 それだけではない。

 嫌な予感がチリチリと首筋をくすぐっていたが、それを見るなりに電撃に変わった。

 背筋がヒンヤリと凍る。指先が軽く震えて、それを抑えるために拳を強く握りしめた。なぜなら……。


「ッッ……ヤツめ……ッ!」


 大釜の周囲におかしなものが散乱していたのだ。

 それは衣服と、軽金属鎧だ。それが無数に、無数にあちこちに散らばって釜をまるで墓標に仕立てていた……。


「それに……あれは、鎧なのか……?」


 部屋の奥に赤い輝きがあった。

 だがそれはカンテラの明かりが、銀と白の鎧に反射したせいだ。

 それは白く神々しく輝く全身鎧だった。

 5つのそれが大釜と衣類の墓標の向こうに飾りたてられ、今にも動き出しそうな存在感をかもし出していた。


「ロッソ……これはヤバいなんてもんじゃない……。よくわからんが最悪だ……スコルピオ貴様……貴様狂ったか……!」


 次に俺は釜内部を確認していた。

 何が入っていたかと思えば黒い粘液だ。

 それが火も無いというのにグツグツと煮立ち、粘っこい泡を弾けさせては悪臭を周囲に放っていたのだ……。


「何だ、これは……」


 俺はとんでもないものを見てしまったのかもしれない。

 老兵はどこに消えたのだろうか。

 散乱する衣服、鎧、独りでに煮立つ大釜と、白き全身鎧。これを仮に物語の世界にあてはめれば……結論は1つ。老兵の行き先は……。


「エルキアは何を考えている……」


 釜の沸騰を無心に見つめてしまう。

 すると泡が人の苦悶顔にすら見えてきてしまい、俺は釜ではなく奥の鎧に歩み寄った。


「重装甲だな。いかにも神聖な見た目で美しいが……」


 持ち運ぶとなるとなかなか難しい。

 だが盗んでみる価値のあるものだと思う。侯爵とエルキアが邪悪な魔道に手を染めた。そうとしか見えない光景だったのだ。


「どうもおかしい……。やつらは何を始めるつもりなのだ……何を考えている……」


 ただ1つわかっていることがあった。

 なおさらこの潜入がバレてはまずくなった。

 鎧の1パーツでも持って帰ってやりたいところだが我慢して、元のトンネルへと引き返す。


 大釜と鎧のことは1度忘れて、俺はあの鍵付きの部屋へとトンネルを繋いだ。

 当たりだ。見覚えのある金銀財宝がカンテラの明かりに怪しく輝く。


「クククッ……見覚えのある宝だ。悪いなスコルピオ、財産を奪われる苦しみを、お前は2度味わうことになりそうだ」


 黄金の延べ棒に金貨の箱。由緒正しき宝剣、壷、美術品。宝石の山、拳より大きなエメラルド。よくわからない聖典の類もある。

 もちろん根こそぎ奪おう。金貨1枚すら残さず空にして、ダークエルフたちの心を慰めようではないか。


 続いて残りの3部屋にもトンネルを繋いだ。

 それらはポコイコーナンら侯爵の取り巻きどもの財宝だ。中には後ろ暗い帳簿も混じっていたので、ソイツが自己紹介してくれたのだ。

 回収すれば義賊ア・ジールの標的を絞りやすくなることうけ合いだった。


「……やれやれだ。隠さなければならないものがこうも多いと……さぞや不便だろうな。さぞや、義賊ア・ジールの復活に震えるに違いない」


 そこまで調べれば偵察は十分だ。

 俺はこれまで掘り繋いだトンネルを大人数で通行出来るよう整備しつつ、ローズベル要塞から撤退した。


 ……しかしあの部屋、あの大釜は一体何だったのだろう。

 ドロドロに溶けた黒い液体、それとは真逆の色合いをした白き鎧。無造作に散らばる衣服と軽鎧。消えた老兵。


 まさか、あの釜の中には……。


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