1-7 ニブルヘルの夜明け
呪われた地の外で眠ると、俺はどうしてか必ず寝坊してしまう。
泥のように深い眠りからいざ目覚めると――いや物音が急にして、ふと目を開ければ……。
そこにあのフェンリエッダがいた。
「寝坊したな……。それで何か用か?」
まぶしい朝日がフェンリエッダの金髪をキラキラと透かしていた。どうもそのせいで褐色の肌が昨日よりも薄暗く見える。
逆光にチカチカするのを堪えて相手の顔色を確認すれば、少なくとも彼女は笑ってなどいなかった。
「お前を見張っていた」
言葉も表情も無感動そのものだったのだ。
「見張ってたって……別に裏切ったりしないぞ。そもそも裏切る理由がない」
「だがお前は元々侯爵側だっただろう。寝て起きて、やはりおかしいと思った。だから気になって、お前を監視していた」
まだ信用されてなかったらしい。
ベッドより身を起こし、することもないのでそのまま彼女に目を向ける。
「元々復讐心など無かったのだがな。昨晩聞いただろう、俺は親父をヤツらに殺されたのだ」
「……ああ、そういえば、そうだったな。言っていた」
仇討ちなら納得できる部分があるらしい。
フェンリエッダは急に俺から背を向けた。
「親父も俺なんて子供こさえなければ、用済みになることもなかった。……侯爵は親父より、若い俺の方が利用しやすいと考えたのだ」
続く俺の言葉を聞くと、理由はわからないがギュッとその手のひらが握り締められていた。
「すまない……やはり気の迷いだった……」
「……急にどうしたんだ?」
鼻をすするような音が聞こえた気がする。
フェンリエッダはいまだ背中を向けたまま、こちらに目を向けようとはしなかった。
「何でもない」
「そうか」
何でもあるように見えたが突っ込まないでおこう。
彼女にも色々と事情があるのだ。無駄な詮索は良くない、きっと惑わせるだけだ。
「……アウサル、一緒に侯爵を倒そう。この国を開放しよう。それが片付くまで、もうしばらくだけ信用してやる……」
「もちろんだ」
さて目も醒めてきた。
いつまでも惰眠をむさぼってもしょうがない、行動しよう。
「それよりフェンリエッダ、俺はもう帰る」
「え……。帰るのか?」
そう切り出すと意外そうだった。
「ああ、3日ほど仕事に打ち込もうと思う。それで掘り当てた財宝を金に換えよう。軍資金が足りてないんだろ?」
「それは事実だが……我々はお前にたかる気はない!」
「遠慮するな、俺たちはもう仲間だろ。いやそれより、6日経ったら俺はここに戻ってくる」
3日仕事して6日後に戻る。
なんだそれは計算が合わないという顔をされた。
いいやそれで正しい、問題ないのだフェンリエッダよ。
「そうしたらアンタも手伝ってくれ。実は、とんでもなく面白い作戦があるんだ。……ネタ元は、邪神だがな」
そう俺がまくしたてると、フェンリエッダはやっとこちらに振り向いてくれた。
目元が少しだけ赤い気もする。
不器用で真面目で無表情がちなその顔色が、あきれ顔を作って微笑を浮かべていた。
「ふふ……変な男だな。わかった、6日後にここで待っているよ」