11-01 復活の怪盗アウサル・ラジール 2/2
「いらっしゃい……えっ、あ、貴方っ、ご自分で来たんですかっ?! それにそちらは……げっ、ラジールッ?!」
酒場に入ると昼間の戒厳令下ということもあって客の姿がない。
そこは好都合だ、俺たち2人はマスターの目の前カウンター席に座り込んだ。
歓迎の言葉と共にラジールの姿に嫌な顔をする。ああ、俺もアンタの気持ちが良くわかるよ。
「久しぶりだなマスター! 元気してたかっ、寂しがってると思ってなっ、来てやったぞっ!」
「…………はぁっ。今日は物を壊さないで下さいよ……」
でっかい胸を張るラジール、ため息を吐いてうんざりするマスター。彼もうちの協力者だ。
「それより情報だっ、それと酒をくれ! ア・ジールではまだ酒も仕込めてないからなっ!」
「例の隠し宝物庫の話ですか。……ええまあ、所在の方がようやくわかりかけて来たところですが……。ほら、あの悪徳商人ポコイコーナンを付け回してようやく見つけだしたんですよ」
マスターが酒の代わりにミルクをラジールの前に差し出す。
意外と素直にラジールがそれを飲み始めると、その間に彼は奥から地図を持ってきてくれた。
「ここです、ここの地下ですよ」
「ぷぁぁーっ、美味いっ、この一杯のために我は生きているっ!」
……ミルクだよな今の?
ちょっとした疑問とツッコミどころにモヤモヤとしてしまったが、マスターの指先が地図のある部分を指さすと余計なことを気にする余裕も無くなった。
「また性こりもなく地下かっ、うかつな連中よっ!」
「いえ……よーーく見て下さいよラジール。ここです、ここですよ……」
サウスの町を中心にして南の荒野の反対側、つまり北西の……ローズベル要塞。
マスターの指先はその1点を指し示していた。
「む……っ」
「サウス国境ギリギリ、軍事拠点の地下に隠すとはな……これは厄介だ。仮に盗んだところで退路が長過ぎる、ア・ジールまで移動してる間にやつらの網に引っかかるな」
一応だがサウスに直接繋がる地下道も掘ってある。
だがこれは発覚するとかなりまずいものだ、グフェンの諜報部隊がたまに利用するくらいで普段使いは出来ない。
何より財宝を持ってサウスまで逃げれば、秘蔵の隠し通路とア・ジールを発覚させるようなものだった。
「さすがに道中で見つかるとまずいな……うむっ援軍を呼ばれて孤立が落ちだっ、これは無理かもしれんなっ」
ラジールも軍人だ、そのくらいわかる。
軍事拠点に進入して、財宝を盗み上げて、敵本拠サウスの町の真横を素通りして、軍による包囲を受けるア・ジールまで財宝を運ぶ。リスクと利益が釣り合っていない。
「今回は諦めてはどうでしょうか。情勢が変わればまたチャンスがあります」
「……ちなみにだが、財宝は要塞内部のどこに隠されているんだ? 悟られず上手く盗み出せれば追っ手を気にしなくとも済む」
「いえそこまではちょっとハッキリとは……。なにせ隠し宝物庫ですからね、要塞の中に隠されてはなかなか探りようがありません」
「そうか、なら無理だな。今回は諦めるか」
一度まんまと盗んでやったのだ、向こうだって当然警戒している。
そんな警備の分厚い要塞にわざわざ泥棒しに行くやつがどこにいるのだ。
「いいやこれは逆だっ! これはチャンスだぞアウサールッ!」
「ラジール、アンタ何を言ってるんだ……罠に飛び込むようなものだぞこれは……」
ミルクが無くなったらしい。
空になったコップをすすってマスターに追加を督促しつつ、ラジールはこちらに体の正面を向けて熱弁する。
「要塞という軍門と、侯爵を離間してやるチャンスだ! 一度盗んでしまえば両者の関係は完全に冷め切るっ、互いに疑心暗鬼を始めるだろうっ!」
「意外と考えてますね……とてもうちの店で乱闘ばかり起こす方とは思えない……」
常識的にとても盗めるとは思えない状況だからこそ、あえて盗んでやる価値があるということか。
「悪くない。軍部がスコルピオ侯爵らの財宝を着服したように見せかけるのだな」
「まあそーいうことだっ! 我ら怪盗ア・ジールが宝と心を盗んでやるのだっ!」
思いの外に良い。
スコルピオから財宝を盗めばその分だけ税として領民が搾り取られることになる。
この計画ならば領民だけではなく、軍人の人心も奪い取れるということだ。
「わかった、ならアンタはもう帰れ。ローズベル要塞は俺1人で偵察してこよう」
「な、なんだとぅーっ?!!」
ラジールが木製コップでカウンターを叩く。
今のマスターの顔色を言葉で代弁すればこうだ。店のコップを壊すな。
「何をするにも段取りがいる。だから強奪計画の準備をアンタに任せるって言ってるんだ」
「む、むぅ……そう言われると……だがだがーっ、貴様は心配なのだアウサールッ!」
過保護にラジールが詰め寄ってきた。
ニブルヘル砦陥落当時のことを思い返せば、俺は彼女とグフェンを騙してスコルピオに降ったのだ。
それがア・ジールを隠し通すための策略だったとしても、その先にある感想は1つだ。
アウサルは危なっかしい。目を離さない方が良い。といったところだろう。
「大丈夫だ、グフェンが俺に魔法の力をくれてな、正直軍ごときには負ける気がしない。俺はもう2度と敵に捕まらん、だから1人で行かせてくれ、それが1番効率的だ」
そのことについては聞き及んでいたのか、ラジールの納得も早かった。
サッパリとした切り替えの良い豪傑娘なので、説得不可能と割り切ると明るい笑顔を浮かべた。
「……よしわかったっ、戻って編成を進めておこうっ! 貴様の偵察を待っているぞ! しかし場所がわかっても次は退路だ、どうするつもりだっ?!」
「退路か、そうだな。……ならば穴を掘って、いっそそこに宝を捨ててしまうか」
財宝そのままこちらの資金にしてしまいたいところだが、やはり退路に無理がある。
追っ手が付けば絶対に捕まってしまうだろう。だから捨ててしまえばいいのだ、誰の手にも届かない場所に。
「読めたぞっ、つまりヘソクリだなっ! 掘り返すのはサウスを取り戻したその後だ!」
「今日のラジールは察しが良いな。まあそんなところだ」
付け足すならやはりこれは、俺というモグラを釣るための罠でもあるのかもしれない。
「うむうむそうかそうかっいいではないかっ! 貯金は嫌いだがヘソクリというのは悪くないっ♪」
「ならラジール、今すぐツケの方を払ってくれませんかね」
物を壊しただけでなくツケまであったのか……。
嫌みを込めた言葉だがラジールには効かない、爽やかに言い返した。
「すまん、今は手持ちの金がないっ!」
「知ってましたよ……。そのミルクもサービスしておきます」
しかし話が横道にそれている、俺は地図を指さして話を進めた。
「ここだ。馬が嫌がらないであろうギリギリのポイント。呪われた地へと続く、サウス西南西の荒野、ここに縦穴を用意しておこう。要塞地下の隠し宝物庫を破ったらここまで馬車で運び、全てをほおり捨てる。荷馬車はサウスの協力者の元に返し、その後は緊急用の地下道を使って俺たち実行部隊がア・ジールに帰還する」
万一追っ手が付けば全て台無しだ。
当然サウスからア・ジール直通の隠し通路も使えない。この計画を実現するならば絶対に見つかってはならないのが絶対条件だ。
「うむっ、後はグフェンの諜報部隊から愉快な報告が来るのを待つだけだなっ! スコルピオや悪徳商人の絶叫が今からでも聞こえてくるようだっ!」
「引き続き標的にされるとなれば、商人たちは侯爵から距離を取るでしょうしね。危険はありますが……やる価値はあるでしょう」
マスターも最終的に賛同してくれた。
ヒューマンや有力者たちにも反乱の芽を広げてゆくのだ。
補足すればエルキア本国との関係も険悪になる。
ローズベル要塞は本国からの派遣兵が5割を占めているからだ。
「なら決行は明日だっ! 偵察が終わったらさっさとここに戻ってこいアウサールっ! 同じく全ての準備を整えて我もここに戻ろうではないか」




