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11-01 復活の怪盗アウサル・ラジール 1/2


前章のあらすじ


 エルキアの敗将ダレスと副官ジョッシュを連れて、アウサルはア・ジール地下帝国に帰還した。

 その2人にルイゼの手伝いを命じて、アウサル本人は呪われた地へと戻る。

 そこで財宝と本を発掘し、翌日にア・ジールの各所へと運んで回った。


 しばらくしてグフェンがア・ジールに戻る。

 戻るなりアウサルとルイゼは政務所に呼びつけられ、ダークエルフの宝石加工技術を使ってルイゼのスコップを魔改造することになった。


 古代の遺産ラウリルの輪をルイゼのスコップに装着する。

 呪われた地の宝石をグフェンが魔法の力で1つに合成し、火、風、氷、正体不明のマテリアルが完成した。


 ラウリルの輪のスロットにマテリアルを装着して効果を確認したところ、制御に問題無し、アウサルは魔法のスコップという強力な力を得る。

 またたまたま出来上がった正体不明のマテリアルには、土そのものを回復させる力があった。


 こうしてアウサルはコストのかかる消耗品ながら、強力な切り札を手に入れるのだった。


 ・


――――――――――――――――――

 強奪の応酬 唯一絶対正義の行き先

――――――――――――――――――


11-01 復活の怪盗アウサル・ラジール 1/2


 地上ではいまだ長い包囲が続いていた。

 白の地下隧道と肥沃な土地により、もはや無意味どころか包囲を続ければ続けるほどスコルピオ侯爵が勝手に弱ってゆくという、俺たちに得ばかりの状況が出来上がっている。


「だが全く手を出さないというのもおかしな話ではないかっ! ということでアウサールッ、一緒にこれからあの陰険オカマ野郎をさらに苦しめに行こうではないかっ!」

「ラジール、異界の言葉にこんなものがある。ヤブからスネーク、下手にちょっかいをかけるとろくなことにならないという話だ」


 ところがこの提案、少し落ち着いてとらえ直してみると必ずしも悪くない。

 物事には後手と先手というものがあり、この先手側に立ち続けるのが大事なんだそうだ。……と、これも異界の本、戦記モノとされるジャンルに載っていた。


「ならばその蛇すら噛み殺してしまえば良いっ! 実のところ我はなっ、フレイニアでのあの激闘の興奮がまだ収まっておらんっ! 要するに我という狼は新たな獲物を欲しているのだっ!」

「……わかった。では久々に義賊ごっこといくか」


「そっ……それだぁぁぁーっっ!! その話乗ったぞアウサールッ!!」 


 ならどうするかという話だが、軍の方を突っつけばせっかくの美味しい状況が崩れてしまいかねない。

 ならば戦わずして敵を苦しめよう。バカの一つ覚えではあるが、悪人や領主を相手にする上では義賊これそのものが最高のカードだった。



 ・



 その2日後、俺とラジールは久々に地上サウスの町を歩いていた。

 戒厳令こそ解かれていたが町はギスギスとした重苦しい雰囲気に包まれ、要らぬ災難を避けてか人通りもずいぶん少ない。


「離れるなよ」

「ふっ……わかっている。我らは駆け落ちの巡礼者、新天地での愛を誓った仲だな」


 これから俺たちはある酒場へと向かう。

 侯爵への裏切りを決めたあの日、フェンリエッダと出会ったあの酒場だ。


「む……あれは……」

「おいラジール、立ち止まるな……ここは敵地だぞ」


 カップルを装った方が都合が良い。

 俺たちはフードローブをかぶりピッタリと寄り添い、すっかりしけ込んだサウスの町を歩んでいた、はずだった。


 ところがラジールの足が止まった。

 その目線を追えばダークエルフの農夫たちが小麦袋を背負い、長い行列を作ってこちらに進んでくるではないか。


「ラジール、怪しまれる。見なかったことにして素通りしろ」

「わかっている、だがアレを見ろ」


 彼女の目線を追うとそこにダークエルフの奴隷娘がいた。

 小麦袋を落として穴を明けてしまい、何とか漏れたものを戻そうとしていた。


「またお前かこの無能! ああこんなに麦を土で汚して……貴様のせいで値切られたらどうしてくれる! 早く袋に戻してそれを運べ!」

「ご、ごめんなさいご主人様……でも、こんなに大きな荷物、私なんかじゃ……アウッ?!」


 ここじゃそう珍しいことではない。

 彼らは長寿を保つ便利な家畜、それを管理して食物を生産する農場主はこの国に必要な存在だった。


「止めるなアウサル……っ、我らは義賊、悪を正さずして何の正義か……っ」

「やかましい、俺たちが介入したところであの子がもっと酷い目に遭うだけだ」


「この薄情者ーっ!」


 腕を組み直してラジールを引っ張っる。

 素通りが正解だ。特別狭いわけでもなかったが、俺たちはその少女とご主人様の真となりを通り過ぎた。


「おいアンタ」


 それから背中越しに声をかける。


「何だ、部外者は引っ込んでろ!」


 神経質な中年男がこちらに振り返る――なんてことはなかったようだ。


「ウッウグァッッ?!!」


 急に足を滑らせて、石畳の汚い地面に熱くて痛いキスをしていたからだ。言い換えれば顔面から受け身も取れず無惨にぶっ倒れた、と表現しよう。


「そこ、でっぱりがあるから気を付けた方が良いぞ。すまん、遅かったみたいだ」

「は、鼻がっ、ち、血が……あああああ……なんてついてねぇんだ俺はッ!」

「確かについていないな農場主! しかし仕方あるまいっ、若い者に辛く当たったバチが当たったのではないかっ、はははっそう気を落とすなっ」


 真っ先にラジールがからくりを見破って軽口と笑いを漏らした。

 腕を組んだまま俺の腹を嬉しそうにこっそりと小突き、爽やかで歪み無い笑顔を浮かべてくれる。


「ちくしょぅ……そりゃないぜ……俺たちだって好きで食い物運んでるじゃねぇってのに……ああくそっ! いくぞお前らっ!」

「あっ……ぁ、ぁぁ……アナタは……ぁ……っ」


 鼻を押さえながら悪徳農場主が立ち上がった。

 その間に少女は何とか麦を袋に詰め終えることが出来たようだ。

 ……それで俺と目が合った。

 つまり俺の蛇眼に気づいてしまったということでもある。


「俺たちもいくぞ」

「うむっ、ではまたな少女よっ」


 ちなみに石畳の舗装路にそう都合良く張り出た部分があるわけがない。

 そこはちょっとした細工だ。皆まで言うこともない。


「アウサル……様……」


 去り際、奴隷少女から呼ばれたような気がした。

 しかし振り返ってはいけない、俺たちは目当ての酒場を目指して進んでいった。


「くふふふふっ……やるではないかアウサールっ、やるではないかっやるではないかっ、あーーっスッとしたぞーっ♪ おりゃおりゃー偉いぞ偉いぞーっ!」

「その名前を呼ぶな……そのでかい乳を、押しつけるな……暑苦しい……」


 こんな小さな事件などどうでもいいのだ。

 俺たちの狙いは場当たり的な勧善懲悪ではない、隠し宝物庫だ。

 サウスの悪人どもは考えた、アウサルこそが怪盗ア・ジールの正体であると。

 よって俺は戦争犯罪にして脱獄囚、さらには窃盗のとがで絶賛指名手配中だ。まあそこは顔の割れてるニブルヘル構成員ともなれば誰も彼もが似たような罪状になるのだが。


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