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10-04 魔・改造完了 その名もマテリアル・スコップ

「持ってきました、どうぞグフェン様。自分は代わりに応対をしておきますので、何かあれば呼んで下さい」


 小さいがずっしりとした袋だ。

 受け取るなりグフェンは中身を書斎に並べて、どうも無邪気というか嬉しそうに口元を緩める。


「手回しの良いことだなアウサル。しかし一見は普通の宝石とそう変わらないように見えるぞ。サイズも不揃いだ」

「確かにそうですね……あ、でもでもアウサル様のそばにいると感覚が麻痺しちゃうだけで、これだって普通にすごいです、これなんてお金持ちが持つような大粒ですよっ」


 言葉では見栄を張りながらも真っ先にエッダが書斎へと飛びつく。

 同じく少女ルイゼもそれにならい、しゃがみ込んで目線を宝石の高さまで落としていた。

 輝く石には古来より女性を引きつける魔性というものがある。……とされている。


「フフ……装飾品としてだけ見ればそうかもしれないな。だが大事なのは石たちのポテンシャルだ。高い魔力を含む物、有用な属性を持つ物、強度を含めて安定している物。宝石とは悠久の時間をかけて大地の力を蓄えた結晶だ、見た目では判断など出来ないのだよ」


 グフェンの青くたくましい腕が石たちをより分けてゆく。

 そこに一つだけブローチが混じっていたのだが、さりげない職人技がすぐさま9つの宝石に分解した。

 合計31個の石が書斎机の上で4カ所に分けられる。


「あの、なにしてるんですかグフェン様?」

「ルイゼくんも覚えておくと良い。炎と氷は仲が悪い、他の連中にも多少の相性があるのだよ。……よし、ではアウサル殿。貴殿はどんな魔法剣――いや、魔法スコップが欲しい」


 素人目には赤、青、緑、その他といった分類に見える。

 それぞれにカラーを含まない石が混じっているので、細かい分類基準となるとどうも判らない。


「急にそう言われてもな。何がどうなるやらまるで想像が付かない。いっそアンタのおすすめでいい」

「ふむ――ならば定番の炎、氷、風のマテリアルを作るとしよう」


 炎のスコップに、氷のスコップ、風のスコップといったところだろうか。

 スコップに属性を付与しようという発想からして突飛過ぎて何がどうなるのやらだ。


「エッダよ」

「え……あ、はい何でしょうかグフェン様」


 ところでフェンリエッダなのだが、どうもルイゼの真似を始めていたらしい。

 しゃがみ込んで机にかじり付いていたところで声をかけられ飛び上がった。


「よく見ておくように。エッダならすぐに覚えられる」

「はい……ですが……。いえ、わかりました……」


 どこか元気がない。

 反論をすぐに引っ込めて子供のように素直になった。

 ……これは推測だが、ここ最近のグフェンは後継者育成に熱心過ぎる。それがエッダを不安にさせたのかもしれない。


「残りはアウサル殿の直感に任せよう」


 その様子を知りながらも青い手がテキパキと石を選別していった。

 すぐに作業が片付き、残りの石たちがガラガラと俺の前に押し転がされる。


「仲の悪い氷と炎は抜いた。さあ運だめしといこうではないか、この中から5つほど選んでくれ」

「まるで占いだな。わかった」


 お互いこの後の予定もある。

 ユランが100倍化した遺物鑑定能力を有効活用して、魔力の高いもの順に5つ抜いていった。


「トパーズ、ダイヤモンド、ジルコン、エメラルド……いやしかし、最後のこれはなんですかグフェン?」

「さてな……俺も気になっていたがよくわからない。アメジストとも違う……まあこういった不思議なものが混じった方が面白いだろう。エッダ、重ねて言うがよく見ておくようにな」


 宝石の大半は光を屈折させる。だから輝く。

 だがその黒いアメジストもどきはどうしたことか、まるで光を歪ませない。

 まあどちらにしろグフェンの手によって加工されてしまうのだ、そんな特性どうでも良いだろう。


「……わかりました」

「良い子だ。……さて、今から見せる技は古い古いダークエルフしか使えない。使えたところで武器が壊れてしまっては意味がないからな、廃れてしまったのだ」

「わっ……見て下さいアウサル様っ、石が……っ!」


 2人の事情はともかくグフェンの手がルビーを中心とした赤い宝石を握る。

 するとその手のひらの上で石たちが宙を飛び、クルクルと意思を持って踊り出す。

 ルビーたちの生み出す赤い軌跡に1つだけダイヤモンドが混じり込み、キラキラとルイゼの目線の高さで踊り回っている。


「石たちもアウサル殿の力になりたいと答えている。呪われた地から己を発掘してくれたアウサル殿にな」

「あっ……!」


 すると不思議なことが起こった。ルイゼがうっかり声を上げてしまうくらいにだ。

 6つの宝石たちが回りながらも互いに中央へと収束し、1つに解け合った。

 そんな不可思議な光景に思わずまばたきしていると、そこに大粒になった新しい宝石が2つ現れていた。


「フレアマテリアルの出来上がりだ。まさか2つも仕上がるとはさすがはアウサル殿の発掘品、といったところか」

「グフェン……こんな技術、見ただけで盗めるわけがないです……。だが、これはすごいな……」


 グフェンは言った、ダークエルフの宝石合成術と。

 複数の宝石を1つに加工して、スロットぴったりの形状を作り上げてしまう。ただこの1点だけ見ても既に手品の域を越えている。


「わぁぁ……綺麗ですねアウサル様。こんな宝石、ボク初めて見ました、グフェン様すごいです」

「なに大したことではない。エッダが覚えたら好きなだけ見せてもらうといい」


 ただ見ればわかるのだが通常のルビーではなかった。

 血のように濃い色合いを持っていたのだ。


「グフェン! 私にはこんなこと出来ない!」

「出来るさ。お前は優秀だ、今出来なくともいずれ自然と体が覚える。エッダ、これはお前向きだ」


 グフェンのその言葉はやさしい響きを持っていた。

 けれども後継者を求める彼の挙動はエッダを苦しめる。2人は長い付き合いだ、俺たちが余計なことを言っても仕方ない。


「あの……アウサル様……。最近のグフェン様って何だか……変じゃありませんか……?」

「そうか?」


「え、気づいてなかったんですか……? そうですよっ、絶対変です、まるで……まるで死ぬ準備、してるみたいです……」

「言われてみればそうかもな」


 きっとそれはニブルヘル砦陥落時のことが原因だろう。

 そこで己の首を差し出す覚悟をしたのだ、世継ぎのことくらい考え始めるに決まっている。

 しかしエッダには悪いが関わる気はない、1000年戦い続けた男の願いなのだ、俺ごときがあれこれ言えることじゃない。


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