1-6 長い1日の終わり、邪竜とモグラの悪巧み
その後あれこれどうでもいいことがあったが、グフェンは俺をニブルヘルの一員として迎え入れてくれた。
「もうこんな時間であるし、アウサルは我々の同志となった。……ここに泊まってゆくといい」
「そういえば後のことを考えていなかった。ぜひそうさせてもらおう」
誘いに応じるとフェンリエッダが客室に案内してくれた。
まだ他の連中は俺を警戒していたが、彼女だけはアウサルに親切だ。
「足りない物があれば若い子に言え。私の名前を出せば従ってくれるはずだ」
「ありがとう、アンタ良いヤツだ」
「バカを言うな、善良ならレジスタンスになど加わらん。……ではな、アウサル」
ただし相変わらずのぶっきら棒っぷりだった。
まあそういう性格なのだろう。
奴隷として侯爵の下にいたというのが本当なら……いや、余計なことは考えまい。
ともかくその日の眠りはやすらかだった。
多くのことがあったというのに、やさしい安眠が俺を包み込んでいた。
・
……しかしふと気づけばあの楽園にいた。
夢の中と呼ぶには急展開もなく穏やかで、俺は赤き竜ユランを見つけてからはその寝顔をただ眺め続けた。
巨竜は湖水より首から先だけを草地に下ろし、俺の目の前で無防備そのものをさらしていたのだ。
「ユラン、起きろ」
よくわからんがまた会えたなら報告だけでもしておこう。
俺が言葉を投げかけると邪神が浅き眠りより目覚めた。
「アウサルではないか」
「半日ぶりだな。じゃあ早速だが報告を聞いてもらおう」
「何だと……?」
今日の一部始終をヤツに伝えた。
「何という行動力だ……」
「半分は成り行きだが、まあそういうことだ。今さらだがダークエルフに味方しても良いんだよな?」
ダメと言われてももう見捨てる気などないが。
「フッ、もちろんだともアウサル。しかし良かった、全く戦闘に向かぬ力というわけでもないようだ……良かった。これはこれで悪くないかもしれぬな」
俺の報告を聞くなりユランが機嫌を良くした。
やはりどうしようもない男を100倍強化してしまったと落ち込んでいたのだろう。
「切り口は常識外れになるかもしれんが、アンタの期待に応えてみせるよ。……で、いいんだよな、アイツらに協力しても」
「もちろんだアウサル、我が輩からも頼む。彼らを救ってやってくれ。あんな境遇はあまりに理不尽だ」
ユランが同意するとそこで一通りの報告事項が片付いた。
話すこともないのでヤツから目を外し、やたらに平和なこの楽園をぼんやりと眺める。
「ここがどこなのかは知らんが、こうして眠ればまた会えるのだな。ならばまた報告に来よう」
「……ああ、我が輩は貴殿と会える時を心待ちにしよう。ところでだが、切り口と言っていたな、何か算段があるのであるな?」
要するにお前の相談に乗ってやると言ってるのだろう。
ユランのでかい竜眼が俺を見つめていた。
「そうだ、いくつか考えてみた。この穴掘りスキルを有効活用する方法をだ。……まずはそれを試してみるつもりだ」
「ふふ……そうか、それは頼もしいことだアウサルよ」
表情は読みとれないがやはり嬉しそうだ。
俺も少しだけワクワクと子供っぽい態度をしていたかもしれない。
「我が輩は質問に答えていなかったな。ここは我が輩を封じる結界の中よ、貴殿の成長と世界への干渉が増えるたびに、我が輩も本来の力を取り戻してゆくことだろう」
もっと俺が活躍すればそれだけユランがパワーアップするってことだろうか。
理屈がムチャクチャな気もするが、突っ込んでも話が長くなりそうなので止めておこう。
「ああそうだった、それだ。それよりあの巨大なサファイアはどこに消えた? あれだけのブツなら全世界の王族が欲しがる。莫大な軍資金が手に入るということだ」
金で全てが解決するわけではないが、金で動くヤツは山ほどいる。
金で小国を買うヤツすらいるのだ。
「あの石ならばもう貴殿は手に入れただろう」
「……なに?」
「貴殿の中だ、我が輩は貴殿の中で眠っている。……そういうわけだ、売ることは不可能だ諦めろ」
宝石が消えたからくりが判明した。
つまりあの石がユランで、俺はユランに取り憑かれているということだな……。
「……なるほど。知りたくもない話をありがとうユラン。俺のプライバシーの為にも、そのままずっと眠っていてくれても良い」
「フ……今のところのぞき見する余裕も無いから安心しろ。それよりさっきの算段というやつを話してみろ、お前はどこか世間知らずだからな、賢き我が輩が特別に答え合わせしてやろう」
使徒任せではなく邪神様じきじきに知恵を絞ってくれるそうだ。
断る理由は無い。
ユランの言葉尻は悪巧みを楽しむようにも聞こえた。
「いいぞユラン。実はな……」
・
ユランにいくつかのプランを提案した。
「おお、なるほどそれは面白いな……うん、悪くないと思うぞ! あっ、ならばこういうのはどうだアウサルっ?!」
すると……これが本当に楽しそうだった。
邪竜様なのに子供みたいにはしゃいで、俺の計画にうんうんと言葉でうなづく。
コイツもしかして、いやもしかしなくともコレが素なのではないか?
俺があのとき感じた可愛げはこういった部分にあったのかもしれない。
「いいねぇ、それは良い、悪くないぞ。アンタ悪いやつだな、ハハハッ!」
「そ、そうだろうか……フッ、我が輩は世界をひっくり返しかけた反逆の邪竜であるからな! この程度のこと灼熱の炎を吐きながらでも出来るぞっ!」
さらにおだてたら調子に乗り始めた。
おいおいユランよ。出会ったあのとき俺に見せつけた威厳を、アンタはどこに忘れてきてしまったのだ?
「いや火は吐くな、今吐かれると俺が死ぬ」
「おお。……やれやれ貴殿は小さいなアウサル」
「アンタが桁違いにでかいんだ。……ん、んん? う……なんだ、なぜか急に、眠くなってきたな……」
せっかく盛り上がってたのに眠い……。
眠気のあまり俺はしゃがみ込む。ダメだ、とにかく横になろう……そうすれば楽だ……。
「そろそろ時間のようだな……。アウサル、また会いに来てくれ、貴殿は楽しいやつだ、使徒にして良かったぞ」
「ああいいぞ……。みやげ話くらいは用意して戻って来てやるよ……さっきのアンタのプラン、いただきだ……」
コイツの案は面白い。
忘れないようにしないといけない、出来れば最優先で……ああ、ダメだもう寝る……。
「アウサル、貴殿は善良だ。それでいて型破りでどうしようもなく行動が偏っている……。だがもしかしたら……お前で良かったと喜ぶべきだったのかもしれん……」
何を言ってるのかわからないぞ、自己完結するな……。
とにかく……。
おやすみユラン……また会おう。
短いものですが夜にもう1度更新いたします。
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