9-04 迎撃! ユーミル要塞防衛戦
「ち、地下道ですか……?!」
ユーミル要塞に到着してその後、俺は宣言通りのモグラに戻った。
今はやるべきことを片付けてその要塞に帰還し、ラジールに仲介を頼んでお手製の地下道を軍に紹介してもらったところだ。
「ああ。まずはこちら側から敵西側面に続く地下道を掘らせてもらった。入り口はここ、要塞の内郭。出口は敵軍の西側にある小山だ」
「ニブチンの貴様らに我が説明してやろうっ! このルートを使えば神出鬼没の夜襲し放題っ、ありとあらゆる楽しぃぃ~嫌がらせに使えるぞっ!」
だてにこれまで俺に付き合ってはいない。
ラジールが残りのほぼ全てを代弁してくれた。むしろ俺より使い方を心得ている。
ん? 見ればそこにパルフェヴィア姫までいるではないか……。ああどうも彼女は苦手だ……あのファーストコンタクトが最悪過ぎた……。
「アンタ、援軍要請に行ったんじゃないのか?」
「半ばあれはダメで元々の疎開みたいなものよ。そういうことは妹と大臣に任せることにしたの。……それにうちは、まだ責任取ってもらってないもの……逃げられたら困るわ」
よし、今回も聞かなかったことにしよう。
「だからうちがアウサルくんの助手になるわ」
「……いや、待て、それはダメだ」
……というわけにはいかなそうだ。
意味をわかっているのだろうか、このお姫様は……。
「手が空いてるのはうちくらいなものだもの。お姫様が前線に立とうとするとみんなうるさいし……だからアウサルくんの助手になってあげるわ」
「わははっ、そう来たかパフェ! なるほどなぁ~、良かったなっアウサールッ!」
ラジールが楽天的に笑う。
一方の青髪のハイエルフにしてお姫様は真剣そのものだ。だからなおさらたちが悪い。
「アンタらな……」
「大丈夫だ、パフェ姫は弓こそからっきしだが治癒術と幻惑能力はちょとしたものだっ!」
「うんそうよっ、足は引っ張らないから安心して!」
それこそ後ろでこそこそやってれば良いではないか。
お姫様じきじきに癒してくれるなら負傷兵も喜ぶ。士気だって上がる。
「……よし、なら後方支援を頼む」
「あっ、同志よ逃げるとは卑怯だぞっ?!」
「アウサルくん! 責任取って下さいっ、シッカリと!」
バカらしいので地下道の中に逃げ込んだ。
戦いで負傷されては今後のア・ジールとの関係に傷が付く。仮に戦死でもされたら……ああ、絶対にそんなのお断りだ。
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さて戦況について補足する。
エルキアの兵力だが1万が後退して今は4万ほどに落ちていた。
どうやら隣国のサンクランドが国境ギリギリまで展開して、援軍1歩手前の動きを見せくれたおかげらしい。
その間にライトエルフの全軍が要塞に到着し、40000対7000の戦場が整った。
そうして必死の防戦で敵攻撃第一陣を跳ね返し、ユーミル要塞防衛戦1日目が終わった。
ゼファーとラジールという超戦力がいたとはいえ、規模の大きな戦いだ。
こちらに1200、強行突破を選んだ向こうに6000弱の損害が出ていた。
そこは計算違いでもある。
初日から無謀な突撃をしかけて来るとは思わなかった。
場合によってはニブルヘルからの援軍が間に合わないかもしれない。
まさか俺たちア・ジールの援軍すらも予想して……いるはずもないか……。
過酷な戦いにライトエルフの将兵たちは疲れ果てて、そんな彼らの前にこうしていきなり俺の作り出した地下奇襲路が提供される次第になった。という次第だ。
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さてそれからさらに1日飛んで翌日の夜中、俺という戦わぬモグラがユーミル要塞に再び舞い戻った。
「わははっ暗躍から帰ってきたな! ならば早速今から夜襲といこう! アウサールは我と一緒に来いっ、やつらから安眠を奪い取ってやろうではないかっ!」
そしたら穴の出口でラジールの部隊が準備を整えていた。
「今から行くのか。だが悪い、俺は身のほどをわきまえている、そういったことはプロのラジールに任せる」
「なんだそんなのつまらんぞ! たまには良いではないかっ、貴様のスコップさばきは見ていて痛快だぞ! 同志は優秀な戦士だっ、我が保証する!」
そう言われるとつい乗せられてしまいそうになる。
行き先が全滅の死地かもしれんというのに、何か楽しい気分にさせてくれるのだから……ラジールは根っからの斬り込み隊長というわけだ。
「ならばもっと面白いものを見せてやるから、今回のところは我慢してくれ」
「おおそうかわかったっ、約束だぞ! ではひと騒ぎぶちかまして来るっ!」
そう言ってラジールとその配下が地下道に消えた。
ここまで生き生きと有効活用してもらえると作ったかいがある。
俺のスコップ能力に、ラジールという勇者が必要不可欠なのだとふと実感してしまった。するとそれを失うのが怖いという感情も芽生える。
彼女がいなければ俺たちはここまで来れなかった。それも1つの真実なのだ。
「やれやれ……頼もしいやつだよアンタは……。死ぬなよラジール……」
「アウサルくん! いきなり姿を消すだなんて酷いじゃない! 責任、シッカリ、取って貰わなきゃ困るわ!」
ところがどこから嗅ぎつけたのやら、そこにまたあの青髪の姫君パルフェヴィアまで現れた。
「アンタまで現れたか……。悪いが責任なんて取れん、あれはただの事故だ。忘れるのがお互いのためだ」
「ダメだわ、うちそんなに割り切り良くないの! 物事は筋道を通して、シッカリ、してないとダメなの!」
一見美しくしとやかだが……この女も女でめんどくさい人だ……。
なぜそこまで筋道にこだわる……理解できん。こんなの逆に不健全だ……。
「その理屈なら姫君に危険を冒させるわけにはいかん、すまん、引っ込んでいてくれ」
「ふんっ、そんな言葉でうちが納得すると思ってるなら……甘いわアウサルくん!」
やはりライトエルフとは人の話を聞かない種族なのか……?
いやあるいは……ああ、ラジール王族説が俺の中で再浮上だ……。似ているなこの2人……。
「じゃあ伝言を頼む……」
「あら、何かしら伝言って……?」
穴堀り中はとにかく暇だ、彼女について考えることもあった。
パルフェヴィア姫のあしらい方だが――何か役割を与えれば納得する、かもしれない。そう信じたい。
「ラジールが帰ったら伝えてくれ。明日の夜までに俺は戻ってくる、それまでに体力を回復させておけ、と頼む」
「それはかまわないけど……貴方は何をする気なのかしら? ずっと穴底に潜ったままアウサルくんは姿を現さない。謎だわ」
確かに。便利な地下道を作って見せて、それっきり姿を現さないスコップ男……それだけで興味は絶えないだろう。不安で監視もしたくなる。
「掘ってる最中は暇でな、それで考えたのだ。この先もこの調子で突撃を繰り返されたらたまらん。このままでは無惨に削り殺されるのが見えている」
「あら、ならアウサルくんはどうしてくれるのかしら?」
もうニブルヘルからの援軍を待っている暇など無いということだ。
間に合ったところで、その援軍すらも強行突破の前に擦り切れてゆく。そんな展開は許されない、ならばこのスコップで流れに大穴を開けるのみ。
「兵糧庫は見つけ出した。あとは明日までに敵本陣を探し出し、その双方へと繋がる地下道を完成させて来よう。……後は簡単だ、ラジールの精鋭と俺で、敵総大将と兵糧全てを、まとめて叩き潰す」
とにもかくにも急がなくてはならない。
ユーミル要塞が潰される前にスコップで戦況を覆すのだ。
理不尽な侵略戦争に、俺たちは今度こそ勝つ。
こんなところで戦力を失ってはならないのだ。辛勝ではなく快勝しなければ先など無い。




